上 下
46 / 80
第5章 聖魔法を極めよう

第46話 思い色々

しおりを挟む
 とりあえず、エレオノールお姉様の、料理を頂きながら話し込む。

「その手紙には、母の悲願として記されておりましたが、私一人では、当然どうすることもできません。それに……」
「それに?」
「一つの王国を倒し、イルムヒルデ公爵家を復活と言っても、私にとって、育った家は孤児院ですし」
 まあ、そりゃそうだ。

「何か家に繋がるモノは、無いのでしょうか?」
「たぶん…… 残されていたのは、手紙のみのようです」
「孤児院だったら教会よねぇ。話を聞きに行って見る?」
 フィアに言われて、伝手の一つかと納得をする。

「そうだな、話が聞けるならそれも」
 そんな話をしていて、ティナさんがうつむき、何も言わないのに気が付く。
 この数日は、かなり打ち解けて、色々話をしていたのに。

「ティナさんは、どう思います?」
「へっ? 何も知りません。私は…… 本当に」
「えーと。何を?」
 そう聞いても俯くだけ。

「でもそうね。ずっと一人だと思っていたけれど…… 弟」
 そう言って、じっと見つめてくる。

「そうですね。知ったのは数日前で、実感はありませんが。村に弟がいますから、あってほしいし、うちの両親にも話を聞かないといけませんね」
「弟さん?」
「ええ、いま少し具合が悪く、それを何とかする為に旅をしているんです」
「そうですか。具合って、どんな?」
「えーと、自家性魔力中毒症で」
 そう言うと、知っているのだろう。
 表情がいきなり崩れた。

 意外と表情が出る。
「そうですか、それは大変ですね。さて、弟という事なら、今晩から一緒に寝ましょうか?」
「「「はっ?」」」
 皆の顔が驚く。

「いえ孤児院では、みんなそうでしたよ。姉弟と言えば家族。一緒に抱き合って眠るもの」
「イミティスさん。それは小さな頃だけで、この年なら別々に……」
 フィアがそう言うと、イミティスさんは悲しそうな顔になる。

「私は孤児院育ち。家族というモノを知りません。せっかく出会ったのですから、ぬくもりを知りたいというのは、おかしな事でしょうか?」
「ぐっ。いえ、おかしくはないと思いますが……」
「じゃあ、皆で寝よう」
 リーポスが、そう口にするが、皆考える。
 隣は二つ。
 一つを埋められると、残りは一つ。
 それでは意味が無い。

 だがフィアは、思い出す。
 私たちと違い、イミティスさんは本当に姉弟。言っているように本当の家族。それをじゃまするのは駄目だと。

「そうね。初めて会った姉弟。情報のすりあわせとか、お互いに話すことはあるし、今日のところは、私たち別の部屋で寝ましょう」

 リーポスは渋々納得。ティナは無反応。
「ティナさんも良い?」
「んっ。はい」

 その晩、一応生い立ちから、イミティスさんに説明をする。
 その中で語られる、メンバーとの楽しそうな思い出。非常識な訓練……

 だがその話を聞き、イミティスは自分には思い出が無いことが分かる。
 貴族とわかり、妙な行動を始めた事で、皆は近寄ってこなくなった。

「私って変でしょうか?」
「えっ?」
「アシュアスと違い、私には思い出といえる物が、ほとんどありません。この国では貴族ではありませんが、貴族であらねばと行動をしてきました。その為か友人といえる者もいません」
 そう聞かれても困る。

「貴族と言っても、イミティスさん」
「ねえさん」
「そう、姉さんのような動き方をする人は居ませんから、皆が怖がっているのでは? 普通に動いてみれば、周囲も随分変わるのでは?」
「ですが、貴族たるもの、いつも姿勢を崩さず。凜とした感じで行動するものだと」
「それは心構えとか、内面の話で、かくかく動くのとは違うのでは?」
 そう言うと、考え込んでしまった。
 そして、寝息が聞こえる……

「ねえさん?」
 返事がない…… ただの屍のように、微動だにせずに眠っている。


 イミティス様に打ち明け、王国を倒す行動をするべきか?
 母に言えば、すぐに動き始めるだろう。

 ―― はっ。そうね。イミティス様はアシュアスの姉。
 なら共に行動し、イルムヒルデ公爵家を復興するのに手伝ってもらえば。トバイアス家は、従者の家系。
 公爵家の方と、婚姻もおかしくはない。

 ―― これだわ。
 
 悩んでいたが、ティナの気持ちも固まったようだ。

 自分のお腹に、足を乗せてくるリーボスを少し蹴り出し、眠りに入る。

 そしてその横では、フィアが呪文を唱えていた。
「あの二人は姉弟。何もない。何も起こらない」
 呪文と言うより自己暗示。

 そんな時でも夜は明ける。

「イミティス様。お話があります」
 びしっとティナが、ご挨拶。

「話が家名はトバイアス。家はイルムヒルデ公爵家の従者でございます。母は、サーシャを逃すため、ヘルキニアの町で別れました。未だ存命のため、母に会っては頂けませんでしょうか?」
 当然、皆が驚く。

「じゃあ、目的ってイミティスさんを探していたの?」
「その様です。事が事ですので、情報を精査をしていて、お声がけが遅れました。申し訳ありませんでした」
「じゃあ、あなたのお母様は、私の母を知っていると」
「はい」

「あたしは、おば…… お姉さんに物は渡したし、帰っても良いよ」
「フェンリル達が元気か、気になってけれど、まあいいか」
 そうして、ヘルキニアの町へ帰ることになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい

のみかん
ファンタジー
高校進学のために地方から上京してきた少年、新庄玲央(しんじょう れお)は入学式の前夜、唐突に自分の前世が異世界で無双していた魔王だったことを思い出す。 記憶の復活と共に魔王時代のチートパワーも取り戻した玲央。 その力のせいで彼は学園の四天王と呼ばれる不良たち。 異世界帰りの元勇者。 地球を侵略するために潜伏していた宇宙人など。 様々な連中から目をつけられるハメになってしまうのだが……。 現代で最強の力はちょっぴり持て余す? それでもポジティブに生きていこう。 目指すは充実した青春だ! 無敵でマイペースな元魔王が、最強パワーでいろいろブッ飛ばしながら高校生活を謳歌しようとする話です。 ※この作品はカクヨムにて先行して公開しています

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

ある日仕事帰りに神様の手違いがあったが無事に転移させて貰いました。

いくみ
ファンタジー
寝てたら起こされて目を開けたら知らない場所で神様??が、君は死んだと告げられる。そして神様が、管理する世界(マジョル)に転生か転移しないかと提案され、キターファンタジーとガッツポーズする。 成宮暁彦は独身、サラリーマンだった アラサー間近パットしない容姿で、プチオタ、完全独り身爆走中。そんな暁彦が神様に願ったのは、あり得ない位のチートの数々、神様に無理難題を言い困らせ スキルやらetcを貰い転移し、冒険しながらスローライフを目指して楽しく暮らす場を探すお話になると?思います。 なにぶん、素人が書くお話なので 疑問やら、文章が読みにくいかも知れませんが、暖かい目でお読み頂けたらと思います。 あと、とりあえずR15指定にさせて頂きます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

処理中です...