僕は弟を救うため、無自覚最強の幼馴染み達と旅に出た。奇跡の実を求めて。そして……

久遠 れんり

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第3章 エルレラ大陸

第27話 さあ、やろうか。はっ、一体何が?

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 獣王アンティオコ=マンチー=ジョヴァンの元に連絡が来たのは、予想よりも早く一週間後であった。

「彼ら、本当に真っ直ぐ来た様です」

 王に言われ、様子を見に行った者達は出会った後、一気に振り切られる。

 まだ到着できていない。
 後に伝えられた報告では、彼らは生い茂る木々の中を、まるで鬼ごっこでも楽しむように、縦横無尽に走り回り。とてもでは無いが、追いつけなかった。

「そのような、報告が来ております」
「そうか。それで彼らは?」
 王がそう聞くと、宰相は言いにくそうな感じで、しゃべり始める。

「王城に逗留し、今は中庭。練兵場で。その…… 兵を鍛えております」
「何でそんな事になっておる?」
 言葉と裏腹に、嬉しそうな王の顔。

「彼らはヒト族でありますから、その…… 兵がちょっかいをかけ、一瞬で倒されまして」
「それで?」
「悪いところを、指摘されて、修正中だという事です」
 腕組みをしていたが、動き始める。

「見に行くぞ」
 尖塔の一つから、中庭を見下ろす。

「ちがう。ふっと切り下ろして、すっと止めるんだ」
「リーポス、それじゃ分からないよ」
「剣は、その重みで振るうんだ。最後だけ力を込めて引き絞る。左手に力を込め、右手は添えて軌道を安定させる」
 アシュアスが説明をする。

 すかさず言った、リーポスの言葉。
「一緒じゃないか」
 周りの皆から、突っ込まれる。
「どこがぁ」

「こんなものは、振っていれば気が付く瞬間があるんだよ。そんなに細かく言ったら、そればっかり考えるから。動きが制限されて良くないと、お母さんも言っていたし」
 シルティアさんも直感型のようだ。
 まあ、そうだろうなと、皆も納得をする。

 たまに、アシュアスのお父さん。ヴァレンに習って「そうだったんだ」と言っていたリーポスだったのに、本人は忘れているようだ。

 その横では、よい子の魔法学校が開かれていた。

「はい。皆さんは身体強化を使っています」
「そんなものは……」
「使っています。干渉を行いますから、動いてみなさい。それが肉体の強さですから」
 アミルが相手を焼かないように調節を行い、魔力を放出する。

「くっこんな。体が重いのは、お前が抑える魔法を使っているんだろうが」
「いまは、魔力循環を乱しているだけです。デバフならこうします」
 アミルが何かをすると、相手は這いつくばる。

「くっ、こんな。体が重い」
 先ほどまでは、体がだるく重かった。
 ところが今度は、何かがのし掛かったような重さに変わる。

 それも、相手にしているのは班単位。
 二単位、十人ほどが地面で転がり苦しんでいる。

 そしてその脇では、盾部隊が、クノープによりシールドバッシュで吹き飛ばされていく。
 体格では、熊系獣人の方が圧倒的に大きく重い。
 それなのに、平気で五メートルほど飛ばされ転がっていく。

 中庭の練兵場で訓練しているのは、エリート達。
 一般の兵達は、外の練兵場で訓練をしている。

「あれは…… ヒト族の国はそんなに強いのか?」
「あまり国交がありませんので」
「ああ。何代か前の王が、相手を馬鹿にして怒らせ、出禁になったのだったな」

 アンティオコは考える。
 非力なものは、考え、力を効率的に使う方法でも見つけたのではないかと。
 目の前で起こっているのは、あくまでも技術的な問題だ。
 そう理解をする。

 獣人特有の力。瞬発的な気による、身体能力の爆発的上昇。
 これは、生物的特性だったはず。

「どれ、顔を出そう」
 見てしまったために、うずうずが止まらず、獣王はさっきから尻が揺れていた。猫ではないが、獲物を狙う時に無意識に出る。

 虎系獣人の特性だ。

「ちょっといきなり」
 宰相は段取りするため、走る羽目になる。

 十五分後。
「それでは、獣王アンティオコ=マンチー=ジョヴァン様と、ヒト族アシュアスの模擬戦を行う」
 この時、アンティオコは余裕をぶっこいていた。

 上から覗いていたときの動き。
 たいしたものではない。

 先ほど問いかけたとき。
 強者は誰だと聞いたら、示されたのはこの男だが、本人は分かっていなかった様子。
 強者なら、おのれの強さを知っておるはず。

 獣人達は野良試合をよくする。
 それは、獣王の決定が、戦いの結果で決められる、国柄であるためだ。
 だから子供の時から、誰が強いと言うことが、人々の指標となっており、自他共にそれを認める。
 それは、獣人国での常識。

 一方、人の国では目だつと、ろくなことがない。
 その小さな違いが両者の反応の違い。

「それでは。はじめ」
 騎士のかけ声で、試合が始まる。
 たまたま、通りがかった彼。審判にさせられた。

 あそこで、王を見かけ礼を取ったのが間違いだった。

 僅差になった時判定が面倒。
 意外と審判は面倒なのだ。

 だがそんな心配は、無用なものだった。

 ゆっくり動き始めた二人だったが、次の瞬間には王が倒れていた。

「はっ? 一体何が…… きさま魔法を使ったな?」
「いえ、普通に怪我をさせないように、拳で殴っただけですが」
 布を巻いた拳を見せる。

「そんなはずは……」

 十五分後。
 諦めず、鼻水や涙をこぼしながら、アシュアスに立ち向かう王の姿があった。
 手加減のため、気も失うこともなく。恥という生き地獄を味わい続ける王であった。
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