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第五章 本当の戦い
第87話 安息の地
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勢いに任せて、彼はつかみかかる。
だが、ある点から先に進めない。
そこには、見えないが壁がある。
「デム、なんだこれは?」
「シールド、それにギルド内で面倒を起こすと、叱られるぞぉ」
彼は確かにそう言った。
だが、その時彼らは知らなかった。すでに背後には、死に神が立っていたことを。
「あなたたち、店の中で面倒起こすなら、ギルド直営店、ホール担当シェリー」
「そして、アジュールが許さないよ」
びしっとポーズを決めたときには、すでにダンとトールが気を失って倒れていた。
それを見て驚く。
トールはともかく、ダンは格闘術のプロ。
それが背後を取られて、一撃で昏倒。
「信じられん」
今彼らの中で、経験というデータが書き換えられた。
この王国、とてつもなくやばい。
向こうでの常識が通じねぇ。
各人が一斉に反応する。
「サー、申し訳ありません。撤収させていただきます」
びしっと二人に敬礼をして宣言、素直に二人を連れて出て行った。
戦略的撤退、その判断は速かった。
「ぬう、これは困った。常識が違う、彼らの標準が知りたいな」
バーニーがそうぼやくと、フレディがすぐに行動を起こす。
「はーい、そこのかわいい彼女達、どこへ行くの?」
武器を担ぐ女の子、二人組に声をかける。
「えっ。ギルドの訓練所だけど」
真顔で、普通に答が返ってきた。
「俺達、この町に来ばかりでね。他の町で見ないような可憐な君達にいきなり出会えるなんて、僕は幸せだ。君達の訓練を見学してもいいかな。いや、どうしてもいやだというなら遠慮するが」
荒事には強いが、まともにナンパされるのに慣れていない彼女達。
格好いい系の男に、じっと見つめられながら言われると、心に影響が。
「えっまあ、ギルドに登録をしていれば誰でも入れるし、別に駄目とか……」
アードラーはお姉さん気質、気の強い美人系なのだが、こういう状況には慣れていない。ドギマギしながら答える。
「うん、こっちよ。奥にあるの」
答えたのはチェルモ。妹気質でかわいい系。だけど、アードラーより三センチほど背が高く、実は胸もある。
ただ二人とも、男中心の農家で育ったために色気はなく、髪の毛もナイフで適当に切るような感じ。行動全体が、男っぽい。
彼女達は、ヘッドリー村出身で、幼馴染みでペアを組んでいる。
十六歳、冒険者歴一年。
最初は、一緒に村から出てきた男の子とチームを組んでいたが、野営の時に襲ってきたのでつい切った。
子どもの時から仲がよく、一緒に遊んだ幼馴染みだが…… そう、趣味じゃなかった。
それに、向こうは三人、こっちは二人。
ましてや、アードラーのほうに二人が襲いかかり、私には一人。
なんか気に食わなかった。
そう、いざとなれば、チェルモのほうが過激なのである。
ギルドの裏へ回り、動物搬入口の脇を抜けて、奥へ進む。
円形の闘技場形式で、施設が建っていた。
弓とかの練習場は、別棟となっている。
結構大きいが、訓練所の利用は、圧倒的に雨天が多いため、基本屋根がある。
「へー、こんな所があるんだな」
「そうだよ。大体は、皆雨天とかに使っているんだよ」
「君達はどうして?」
そう聞くと、二人は顔を見合わせて、少し照れた感じになる。
「今アードラーがあれでさあ、血の匂いでモンスターを呼び寄せちゃうのよ」
「ちょっと、いきなり他人に言わないでよ」
そう言って、パシパシとチェルモの肩が叩かれる。
「なんで? みんなあるじゃない?」
「そうだけど、なんかやだ」
そう、声をかけてきたフレディがもろに好みだった。
優男風、ちょい悪親父。
「変なの、まあやろう」
「うー。判ったわ」
彼女達は、空いているスペースへ向かう途中、訓練用木刀置き場から、自分たちの使っている剣と、似かよった重さの木剣を取っていく。
向き合った間合いは、十メートルほど。
かなり遠い。
剣同士なら、先が触れるか触れないか、二メートル五十センチくらいが普通だろう。
「行くよ」
チェルモがそう言った瞬間、間合いはゼロどころか鍔迫り合いで押し合いになっている。
「なっ、なんだあれ。人間の動きじゃねぇ」
チェルモはかけ声の後、少し倒れ込むように、移動を開始した。
縮地と呼ばれる技法。
そこから少し押し合い、離れ際に、アードラーが剣先で円を描くように切り上げる。
「うなっ、こなくそ」
チェルモははじかれそうになった剣を、そのまま回転させて袈裟懸けで切りに行く。
全ての動き、基本が全て円運動。
それは無駄の無い動き。
重みを使い威力を上げる。
腕力に頼らない剣術。
それは彼女達が、実践の中で培った技である。
そして、気合いが入ると、身体強化が使われて、その速度が上がっていく。
当然その速度と威力に彼らは黙り込む。
可憐な少女達、その動きは常識外れだった。
だがよく見れば、周り全部がそんな速度で動いていた。
彼らは彼女達に弟子入りし、冒険者活動を始めた。
適度な暴力と美味い酒。
それは彼らが望んでいた、世界その物だった。
幾人かのチームと交流も出来て、彼らにかわいい女性がくっ付く。
そう彼らにとってユートピア。
二ヶ月後には、大統領令など忘れていた。
いつかの日本で起こった出来事、行った者達が帰ってこないという不思議が、各国の間者に起こる。
「「「どうなっている?」」」
だが、ある点から先に進めない。
そこには、見えないが壁がある。
「デム、なんだこれは?」
「シールド、それにギルド内で面倒を起こすと、叱られるぞぉ」
彼は確かにそう言った。
だが、その時彼らは知らなかった。すでに背後には、死に神が立っていたことを。
「あなたたち、店の中で面倒起こすなら、ギルド直営店、ホール担当シェリー」
「そして、アジュールが許さないよ」
びしっとポーズを決めたときには、すでにダンとトールが気を失って倒れていた。
それを見て驚く。
トールはともかく、ダンは格闘術のプロ。
それが背後を取られて、一撃で昏倒。
「信じられん」
今彼らの中で、経験というデータが書き換えられた。
この王国、とてつもなくやばい。
向こうでの常識が通じねぇ。
各人が一斉に反応する。
「サー、申し訳ありません。撤収させていただきます」
びしっと二人に敬礼をして宣言、素直に二人を連れて出て行った。
戦略的撤退、その判断は速かった。
「ぬう、これは困った。常識が違う、彼らの標準が知りたいな」
バーニーがそうぼやくと、フレディがすぐに行動を起こす。
「はーい、そこのかわいい彼女達、どこへ行くの?」
武器を担ぐ女の子、二人組に声をかける。
「えっ。ギルドの訓練所だけど」
真顔で、普通に答が返ってきた。
「俺達、この町に来ばかりでね。他の町で見ないような可憐な君達にいきなり出会えるなんて、僕は幸せだ。君達の訓練を見学してもいいかな。いや、どうしてもいやだというなら遠慮するが」
荒事には強いが、まともにナンパされるのに慣れていない彼女達。
格好いい系の男に、じっと見つめられながら言われると、心に影響が。
「えっまあ、ギルドに登録をしていれば誰でも入れるし、別に駄目とか……」
アードラーはお姉さん気質、気の強い美人系なのだが、こういう状況には慣れていない。ドギマギしながら答える。
「うん、こっちよ。奥にあるの」
答えたのはチェルモ。妹気質でかわいい系。だけど、アードラーより三センチほど背が高く、実は胸もある。
ただ二人とも、男中心の農家で育ったために色気はなく、髪の毛もナイフで適当に切るような感じ。行動全体が、男っぽい。
彼女達は、ヘッドリー村出身で、幼馴染みでペアを組んでいる。
十六歳、冒険者歴一年。
最初は、一緒に村から出てきた男の子とチームを組んでいたが、野営の時に襲ってきたのでつい切った。
子どもの時から仲がよく、一緒に遊んだ幼馴染みだが…… そう、趣味じゃなかった。
それに、向こうは三人、こっちは二人。
ましてや、アードラーのほうに二人が襲いかかり、私には一人。
なんか気に食わなかった。
そう、いざとなれば、チェルモのほうが過激なのである。
ギルドの裏へ回り、動物搬入口の脇を抜けて、奥へ進む。
円形の闘技場形式で、施設が建っていた。
弓とかの練習場は、別棟となっている。
結構大きいが、訓練所の利用は、圧倒的に雨天が多いため、基本屋根がある。
「へー、こんな所があるんだな」
「そうだよ。大体は、皆雨天とかに使っているんだよ」
「君達はどうして?」
そう聞くと、二人は顔を見合わせて、少し照れた感じになる。
「今アードラーがあれでさあ、血の匂いでモンスターを呼び寄せちゃうのよ」
「ちょっと、いきなり他人に言わないでよ」
そう言って、パシパシとチェルモの肩が叩かれる。
「なんで? みんなあるじゃない?」
「そうだけど、なんかやだ」
そう、声をかけてきたフレディがもろに好みだった。
優男風、ちょい悪親父。
「変なの、まあやろう」
「うー。判ったわ」
彼女達は、空いているスペースへ向かう途中、訓練用木刀置き場から、自分たちの使っている剣と、似かよった重さの木剣を取っていく。
向き合った間合いは、十メートルほど。
かなり遠い。
剣同士なら、先が触れるか触れないか、二メートル五十センチくらいが普通だろう。
「行くよ」
チェルモがそう言った瞬間、間合いはゼロどころか鍔迫り合いで押し合いになっている。
「なっ、なんだあれ。人間の動きじゃねぇ」
チェルモはかけ声の後、少し倒れ込むように、移動を開始した。
縮地と呼ばれる技法。
そこから少し押し合い、離れ際に、アードラーが剣先で円を描くように切り上げる。
「うなっ、こなくそ」
チェルモははじかれそうになった剣を、そのまま回転させて袈裟懸けで切りに行く。
全ての動き、基本が全て円運動。
それは無駄の無い動き。
重みを使い威力を上げる。
腕力に頼らない剣術。
それは彼女達が、実践の中で培った技である。
そして、気合いが入ると、身体強化が使われて、その速度が上がっていく。
当然その速度と威力に彼らは黙り込む。
可憐な少女達、その動きは常識外れだった。
だがよく見れば、周り全部がそんな速度で動いていた。
彼らは彼女達に弟子入りし、冒険者活動を始めた。
適度な暴力と美味い酒。
それは彼らが望んでいた、世界その物だった。
幾人かのチームと交流も出来て、彼らにかわいい女性がくっ付く。
そう彼らにとってユートピア。
二ヶ月後には、大統領令など忘れていた。
いつかの日本で起こった出来事、行った者達が帰ってこないという不思議が、各国の間者に起こる。
「「「どうなっている?」」」
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