はい。ちゅうもーく。これから異世界に向かいます。 - 私立徳井天世高校の修学旅行 -

久遠 れんり

文字の大きさ
上 下
81 / 95
第五章 本当の戦い

第81話 奇蹟の街

しおりを挟む
 成行は半信半疑で一度家へと帰る。
 無論、仕事など後回しだ。
 母親と父親を、バイクの後ろへと取り付けたリヤカーに乗せて、王国へと連れてくる。

 あの日以来、経済は回っていない。
 母親もパート先から、再開の目処が付いたら来てくれと言われたが、目処は立っていない。
 スーパーにも食料品はなく、冷凍物や生鮮品は買われたものもあったが、店主がどちらにしろ捨てることになると言って、皆に配布してくれた。
 そんな中で、冷凍だった根菜類やブロッコリーなどを、ハムとかそんなもので炒めて、調理をして食いつないできた。

 後は野菜類と、米だ。
 無論、地震用に長期保存のものはある程度ストックしてあったが、もうあまり在庫はなかった。
 政府も備蓄を出そうと考えたが、輸送と通信が死んでいるためお手上げだ。
 冷蔵保存の備蓄米もどうなっているのやら……
 温度が上がると、玄米でも虫が湧くんだよな。

「かあさん」
「おや意外と早かったね」
 のんきな感じで、キュウリのぬか漬けを持ったまま出てきた。

「ただいま。ちょっと旅行に行こう」
「とつぜんだねぇ。このご時世に旅行?」
 そう言って、怪訝そうな顔を見せる。

「大きな声じゃ言えないけれど…… 俺が今行っている王国には魔法があるらしくて、父さんが治るかもしれない」
「魔法ってあれかい? 『Expecto Patronum守護霊よ来たれ』だろ。そんな馬鹿な。変に希望を持つと、駄目だったときに辛くなるわよ。お父さん意識が戻って体が動かなかったとき、それはもう……」
 なぜか、杖を振るマネをしながら、見事な発音で呪文を唱える。
 あのシリーズを、繰り返し見ていたから覚えたのか?
 英語版の本も揃っているからなぁ。

 俺の前では、大丈夫な様子を見せていたが、その絶望はかなり大きかったそうだ。
「俺はもう生きていても、家族の荷物になるだけだ」
 そんなことをほざいて、絶対安静中なのに『そんな事を言うと殺すわよ』そう言い放つ母さんに殴られたらしい。

「まあいい。家に居ても生活は大変だし、向こうの方が快適そうだ。行こう」
 そう言って、半ば強引に俺達は出発をした。

 途中の世紀末映画に出てくるような光景には、母さん達も驚いていたが、気分転換にはなったようだ。

 いい加減父の介護は疲れるし、この状態になってからは、さらにしんどかっただろう。

 そうして、数日掛けて、街の城郭が見えてきた。
 街がいきなり切り取られて、未舗装となり、田舎に在るような畑が広がり始める。

 そうして巨大な壁。
「ふわあ、これ中には人が埋められているのかい?」
「漫画の見過ぎだよ」
 だが母さん達は、日本には存在しない風景に目が多少煌めいていた。

 門番に説明をして中に入るが、門番の兵装と本物の槍を持つ姿。
 石と木を組み合わせた、異国を感じられる町並みに喜んでいた。

「すごいわね。本当に異世界と入れ替わったんだね」
「ああ、まだ一部だけしか、この事実を知らないからね」
「そうなのかい? どうして皆に…… ああそうだね。テレビもラジオも止まっているし、不便だからねぇ」
 普段気にしなかったインフラ。
 それは意外と簡単に壊れる。

 なくなって初めて理解できる、恩恵。
 絶望だが、日本は地震からも幾度も立ち上がって来た。
 そして、この国に存在をする魔導具がもたらされれば、諸外国よりも一足先に復興できるかもしれない。
 それは、経済的福音となる。

 水道は必要なくなる。
 魔導具を買い、魔力を流せば水もお湯も出る。
 浄水設備、送水設備、コストのか掛かる維持管理費、全てが不要となる。
 道路の落盤など問題になっていた、送水管の老朽化も予算の捻出が必要なくなる。

 必要となれば、魔導具を家電感覚で買い換えるだけ。
 そしてコンロやオーブンも、実は魔導具で対応できる。
 そう魔法は、エコなのだ。

 
「よろしくお願いします」
「ああ、はい。これは、なんと…… お父上は頭に怪我をなさったのかね?」
「ええはい」
「うーむ。これは、私たちでは駄目ですな」
 今こんな酷なことを言っているのは、教会の司祭さん。ふざけているわけではなく、訳の分からない事に、訳の分かっていない上司命令で、ここにやって来た。
 双方にとって、災難な話しだ

 王様に頼むつもりだったのに、横槍が来た。
「なんとお父上が、私の所に良い術士が居ますので」
 そう言って、お偉いさんが、命令。呼ばれて来た人は、確かに素晴らしい人で、一目で症状を理解した。その結果が、こんなの治すの無理じゃん。
 今ここである。

「なぜだ」
「この症状は、戦争などで頭に怪我をして、脳に至る怪我で起こるもの。脳は修復が出来ません。そんな事が出来るのは、すでに神の領域でございます」

 そう言って、司祭さんは部屋から、下半身だけ高速で出て行き、父と母は当然ながら落胆をする。

「お連れいたしました」
「おう、成行さんご苦労様。道中は大丈夫だったかい?」
 気さくに応対をしてくれる。

「この方は?」
「この方が王様、いや、皇帝かな?」
「まあお若いし、日本人みたいだわ」
「日本人だから」
「まあまあまあ」
 母さんは、落胆から一転。
 王族衣装の神野様を見て大興奮。

 親父は、煌びやかな衣装を見て、目が見開いている。
「動かせるのはどっちだ?」
「右です。左は手足共に動きません」
「判った。じゃあ、右だな」
 右の頭部には、病院へかつぎ込まれたときの手術跡がある。
 そこにすっと手を当てると、そこから光が輝き始める。
 白かった光は、やがて金色となり、部屋の中を埋め尽くす。

 偉そうだった教皇さんも、目を見開いている。
 そう光と共に、天井からキラキラと羽のようなものが舞う。

 このエフェクトは、龍一のお茶目。
 どこかのゲームで見た。

 かくして、親父の頭の傷まで綺麗に治り、左手まで普通に動くというか、強化されていた。
「ついでだから、魔力への親和性を上げた」
 あっけらかんと言う。

「この前、国野さんに火傷をさせたから、練習をしたんだ」
 そう言って笑いながら。

 今、親父は、一〇〇メートルを七秒くらいで走る。
 時速換算で五十キロくらいとなり、ホモサピエンスの理論限界値となる。
「元気そうじゃないか。六十歳には見えないな」
 そう言って腕を組んだまま、うむうむと納得のようだ。王様の横で、きっと俺の顔は引きつっていたと思う。
「おかげさまで、親父が元気になりました。ありがとうございました」
 そんなレベルじゃねえと、突っ込みながら顔は和やかに御礼をする……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...