はい。ちゅうもーく。これから異世界に向かいます。 - 私立徳井天世高校の修学旅行 -

久遠 れんり

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第五章 本当の戦い

第70話 危険な情報

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 まず前提として、竜ちゃんに告白アンド…… 襲って貰う。
 いえ、むしろ襲う。

 そう守りじゃ駄目、人生を賭けてこの場を自分の物に…… する。

 その瞬間、彼女の優秀な脳に、方程式が導かれる。
 だが、その手順が見えない。
 そう彼女に圧倒的に足りていない、恋愛という経験。

 竜ちゃんを思い、鬱々と暮らした高校時代。

 ひたすら勉強をした大学時代。
 何よりも時間が欲しかった、公務員時代…… いや継続中。
 だが、世界が変化をして時間は出来た。
 
 選んだ言葉は……
「あれから、どうだったの?」
「あれから?」
「うん高校。中学校の時、私があれだけ勉強をしようよと言っても、あそびまくって変な高校へ行ったでしょ」
 失われていた時間を埋めようという第一歩。
 そこからきっと、何かが見えてくる。はず。

「変な高校は心外だな、それのおかげで俺は今ここに居るんだ。そうだな、お前なら信じてくれるか?」
 そう言って、じっと見つめられる。
 こっこれは何?
 心臓が跳ね上がり、ブレイクダンスを始める。
 ビートは十六。

「はぅぅっ」
「おい、大丈夫か。どうした」
 竜ちゃんが、顔が近い。
 あなたがステキすぎて、ドキドキしているなんて言えない。

 見ている者が居れば突っ込んだであろう。
 言えよと……
 なんなら手を取って胸に導き、ほらこんなにドキドキ、そんな台詞でも言えば完璧だ。

 そう男としても、龍一はチョロい。
 色々な状況判断よりも、本能を優先させる。
 男の、やりたい本能、そこを刺激すればきっと乗ってくるだろう。
 なのに……

 陽愛は賢いが、駄目駄目だ。
 圧倒的な恋愛経験不足。
 そこが致命的。

 龍一が好きで、意識をし始めた中学時代、そこから他者への意識を除外。
 高校生時代、何回か遠回しな告白を受けたが、陽愛はまっっったく気がつかず、脈なしだと諦めさせたことなど気がついていないだろう。

 例えば、学校の図書館。
「いつも一生懸命だね」
 夕暮れ、世界が赤く染まる時間。
 赤は情熱の色、人は訳も分からず心をかき乱される時刻。
 そこに割り込む声は、印象が強いとか強くないとか……

「うん、私バカだし、人一倍努力をしないとね」
「そうか努力家で頑張り屋さんだ。俺も付き合うなら君のような子が良いな」
 そう言って彼は、満面の笑みを彼女に向ける。
 この時のために、鏡の前で三時間ほど練習をした。
 顔の左半分を見せる角度で、口角を通常より四・二ミリ引き上げる。
 目は、少しだけ細める。
 これが、俺の完璧な笑顔。

「そう、ありがと。頑張ってね」
 そう言って、陽愛の視線は本から移動しない。

 彼はがっくりと肩を落とし、図書館から出て行った。

 例えば、文化祭の準備。
 彼は、ひたむきな彼女に惚れ、絵心もないのに看板描きに立候補をした。
 彼女と一緒に居たい。

「脇くん。そこ歪んでいる。以外と一部だけちょっとはみ出るのは目立つから、曲線のトレースを重要視してね。はみ出させるなら全体的に」
「判った済まない」
 そうは言ったものの、距離が近い。
 人気のない学校、夕暮れの教室で二人きり。
 どこかで運動部の声や、合奏部の声が聞こえる。

「パース」
「えっ?」
「奥に行くに従って、色を濃くして。遠近感が狂っている」
 よく見れば射線が引かれ、奥が消失点へ向かっているのが判る。
 最初のラフデザインでは、そこが省かれていた。

「あっ、気がつかなかった」
 そこからも、幾度となくダメ出しをされて彼はとうとう心が折れる。

「ぼくじゃ、君の横に立てない。美術部の奴に話しを付けてくるよ」
 彼の最後の言葉、それに対して、彼女は無意識に返してしまう。

「そう、ありがとう」
 彼女の目線は、カケアミへと向いたまま、神業のような陰影をそこに創り上げていた。

 立ち上がり、その看板を見たとき彼は愕然とした。
 近くで見れば、芸術のような技術が惜しみなく使われている。

 それなのに、少し離れれば、どう見ても普通の看板。
 彼は思う。カケアミ? ベタでいいじゃん。

 完全に彼は、彼女が判らなくなり、心がくじけた。

 出来上がったクラスの看板は、どこまでも普通だった。
 だがよく見れば、お札並みの技術が満載されてた。

 クラス全員の似顔絵や名前が書き込まれ、思い出としては最高の看板だろう。
 二年三組の黒い縁取りは、びっしりと書かれた皆の名前。
 内側の、肌色が主の部分は、似顔絵だ。

 彼女の奇妙なこだわり。
 それに触れたとき、彼は恐怖をした。
 好きから、怖いへとベクトルが反転。
 そう、告白をしなくてよかったと、心から安堵をした。

 それは丁度彼女が、行き詰まっていたとき……
 心の隙間を埋めるための、彼女なりの足掻きだった。
 それは他人には理解されない、独りよがりの心の叫び。

 その頃、龍一はすでに戻ってきていた。
 向こうでの経験を積み、一皮も二皮も剥けてずるむけで。
 大人になっていた。

 そんな頃、少女は彼への思慕を心の中でこじらせながら、はけ口を求めて葛藤をしていた。
 そんな思い。
 本当なら、看板に竜ちゃん会いたいと書き殴りたかった。
 だけどそんな事は出来ない。

 そんな行動が、周りを恐怖に陥れる。
「あの子ってさ、賢いけど怖いよね」
「そうそう、夜中に神社で釘打ってそう」
 そうして、女の子の友人まで少なくなり、対人スキルは失われていった。
 
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