はい。ちゅうもーく。これから異世界に向かいます。 - 私立徳井天世高校の修学旅行 -

久遠 れんり

文字の大きさ
上 下
69 / 95
第五章 本当の戦い

第69話 幼馴染みという最強さ

しおりを挟む
「その通り、陽愛は…… 稲田 陽愛。うちの隣に住んでいて、陽愛は賢いからなぁ。まあ高校は別々の学校へ行ったから、そこからあまり会っていないが、そのなんだ…… いわゆる幼馴染みだな」
 そう説明をすると、澪が睨んでくる。

「その子のこと好きなの?」
 両拳を、ぷるぷるさせながら聞いてくる。
 他の姫達は、当然訳が分からず。


 だが実際、陽愛は状況を見ながら高速で考えていた。
 高校で離れて、家は横なのになかなか会えなくなった。
 全寮制って何よ。

 高校で新しい環境、最初は楽しかったしワクワクもした。
 だけど、日が経つにつれて、龍一に会いたいという気持ちが大きくなる。
 そうは思ったが、毎日のように行っていた部屋。だけど部屋の主はいない。
 それでもいいやと、足を向けようとするが、なかなか進めない。

 夏休みとかに帰ってきたようだが、嬉しそうな顔をして会いに行くなんて……
 まるで待っていたみたいじゃない。
 そんなんじゃあ、気づかれてしまう……

 何よ、遊びに来たよぉそう言って、行けば良いじゃない。
 竜ちゃんは、鈍感なんだから。きっと大丈夫。

 そう思うのだが、中学校の時と変わった体、そして気持ち、距離感。
 それらが、歩みを止める。

 幾度か、家の前で会った時、彼はたくましくなり、その横顔はりりしくて、何かオーラを纏っていた。

 そして、その横に立つ友人。
 そう、楓真くんも何かオーラを纏っていた。

 思わず、どちらが受けなのとか邪推するくらいに。

 変わってしまった幼馴染み、人は同じなのに気後れをしてしまう。
 前なら、『初詣に行くの? 一緒に行こう』『ゲームをするの? 一緒にやろう』『買い物……』幾らでも言えたのに……

 それから後、姿が見えないと思ったら、就職をしていた。
 さみしい。
 それが判るのが嫌で、コミュニケーションツールからも、メッセージが減っていく。

 会いたい、告白をしたい、なのに…… そう思えば思うほど、どんどんと臆病になり一歩が遠くなる。
 私は、弱い。
 他の子みたいに、『とりあえず告っちゃってさあ、駄目なら元通りとか出来ないの?』彼女達はそう言って笑っていた。そんな事は出来ない。きっと口にすれば、気持ちを言葉として出してしまえば、きっと元と同じではいられなくなる。

 そんな事を思いながら、親の言うとおり公務員になって、忙しくて死にそうだった。
 そんな所へ、この天変地異……

 なぜか、仕事がすべて終わった。
 情報がない、すると何も出来ない。
 インフラも止まり、経済活動そのものが終わってしまった。

 情報がなく、移動手段がない中で、外務ってナニをすれば良いの?
「連絡を取り、各方面から情報を集めろ」
 なんとか出勤してきた者に対して、課長が叫ぶ。

「どうやってですか?」
「考えろ、アマ無線でも何でも良い。真空管なら使えるだろ」
 何か、大気圏外辺りで、電磁波がどうしたこうした。
 それにより、今現在半導体関係はすべて壊れている。

 そうどこかの国が無事なら部品を回して貰い、機械の修理が出来る。
 だけど、わずかに伝わる情報では、そんな所は今回ないようだ。
 今回の騒動では、ストックされていた部品まで、すべて焼けたようになって壊れていた。

 そう、電化したのがすべて裏目になった。
 重要インフラは分割が正解。

 そんな中、声が掛かる。
「色々なところに奇妙な…… 国が転移してきたようだ。外交だ行って来い。国交の樹立と調印条件の聞き取りと文書作成。新人のやる仕事じゃあないが今回便宜上全権委任だ。いけっ稲田」
 課長はそう言って、私の故郷がある方向を指さして宣言をした。
 そっと出てくる、全権委任の書類。
 全文手書きの文字が新鮮だ。

 私はそこに、実際には書かれていない文字が見える。
 『どこも大変なんだ、騒動が起こらないようにまとめてこい。お前の責任で……』

 そんな文字が。


 それでまあ、交通機関も全滅の中、なんとか来たら、市役所のお役所仕事。
 住人を特定をして、それからどうするの?

 で、まあ、名前も気になるし、本人なら大義名分で竜ちゃんに会える。

 そして、何とか彼んとかなんとかかんとかお城へは入れた。
 部屋に通されて、まあ、書類とお茶は良いわよ。

 横の部屋……
 『此処で服を脱ぐべし』
 これって…… 何?
 狭い部屋とはいえ、六畳くらいで絨毯が引かれている。
 三方向にドア……

 それの内一つが開き、外国人が……
 若い女の子、それも美人。
 ぴらぴらしたドレスに前掛け。
 微妙に、どこかのカフェ臭がする。

 この制服は、一組有志の投票で決まった。
 龍一だけの責任ではない。

 いきなり捕まり、全部脱がされた。
「ちょっと待ってください、何がどうして」
 そう聞いても……

「大丈夫です、すぐになれますわ」
 そう言って人の話を聞かない。

 それで、体を洗われて……
 体を拭かれて、保湿の香油?
 そんな物を塗られてマッサージ……

 気がつけば、うっすいスケスケドレスで、隣の部屋へ……

 でっかい、ベッド。
 応接用のセット。
 あの奥はティセット?
 まーさーかーぁ、中世くらいで、女性が政治的によろしくしますって言って、王の所へ行く……
 それって、人質とか、政治的なお願いで、性的なプレゼントととして見られた?
 そう此処は、どう見ても近代国家ではない。

 娘をやるからよろしくね。
 そんな、時代もあったねと、記憶の端から情報が湧いてくる。

 思わず、生唾が。
 えっ確かに、生娘。
 献上品としては問題ない…… だけど、心の問題が、玉の輿と言えば言えるけれど、好きでもない人となんて……

 あの書類、竜ちゃん本人だったら……
 もう押し倒しても良いけど。
 昔の初心な私はいない。
 この先も仕事に忙殺されるなら、結婚子育てどんとこいよぉ。

 そうして、思考の底に沈んでいると廊下で話し声。
 思わず立ち上がるが、色々透けて見える。
 幾らこちらの風習とはいえ、これは辛い。

 王様への謁見、だとしても部屋がこれだし色々おかしいけれど……
 きっとセキュリティのために必要なんだ、王様の時間がなくて寝室でしか会えないんだ、ほら応接セットがあるし……
 出来る限りのことを、一瞬でシミレートをする。

 大事な所は隠しつつ、失礼にならないように手の位置を考える。
 右手を肘で折り、胸を隠す。
 そして左手は、自然な形で股間へ。

 言葉、答弁……

 だが、入ってきた人を見た瞬間、私は理解をする。
「あっ、やっぱり。竜ちゃん」
 その時、究極の緊張から解き放たれた私は、色々見えるのも気にせず、そう一〇年ぶりくらいで彼に抱きついた。

 そして抱きついてからも、変わらない態度、成長をしても竜ちゃんは竜ちゃんだ。
 そう思って決意をする。

 狙え…… 玉の輿。
 本物の王妃の座。

 相手が好きな相手なら、多少の障壁など、我が頭脳を使い、すべて壊してみせる。
 たとえ、いきなりエッチでも…… 大丈夫。
 私はもう大人…… 
 小娘の時とは違う。三十近いのよ……
 うふっ、うふうふふっ……

「お前どうして、いやその格好」
 そう言って、自分が着ていた、ガウンを掛けてくれた。
 だが相手が竜ちゃんで王様なら、前は閉じない。

「あれってお茶? 頂いていい?」
 頭をフル回転させる。
 会えなかった刻を、時間を埋めろ、昔との差異を感じてその隙間を埋めろ。
 しくじるな私。
 この空間を支配するのよ。

 相手の心情を読み取り、導く。
 大学の時、発表のために勉強をしたメンタリズム。
 それは、講演時に聞き手を導く、人心掌握の技。
 そこに紡がれるのは、私へと続く一本の糸。
 さあ、竜ちゃん。食らいつきなさい……
 きっと、美味しいわよ。
 自信はないけど……

 なぜか彼女は燃えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

新人聖騎士、新米聖女と救済の旅に出る~聖女の正体が魔王だなんて聞いてない~

福留しゅん
ファンタジー
「実は余は魔王なのです」「はい?」「さあ我が騎士、共に救済の旅に出ましょう!」「今何つった?」 聖パラティヌス教国、未来の聖女と聖女を守る聖騎士を育成する施設、学院を卒業した新人聖騎士ニッコロは、新米聖女ミカエラに共に救済の旅に行こうと誘われる。その過程でかつて人類に絶望を与えた古の魔王に関わる聖地を巡礼しようとも提案された。 しかし、ミカエラは自分が魔王であることを打ち明ける。魔王である彼女が聖女となった目的は? 聖地を巡礼するのはどうしてか? 古の魔王はどのような在り方だったか? そして、聖地で彼らを待ち受ける出会いとは? 普通の聖騎士と聖女魔王の旅が今始まる――。 「さあ我が騎士、もっと余を褒めるのです!」「はいはい凄い凄い」「むー、せめて頭を撫でてください!」 ※小説家になろう様にて先行公開中

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...