はい。ちゅうもーく。これから異世界に向かいます。 - 私立徳井天世高校の修学旅行 -

久遠 れんり

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第四章 魔王と魔人

第64話 再戦

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「じゃあ行ってくる」
 龍一らしからぬ表情。
 準備はした、だが不安はある。
 悲しそうな笑顔を彼はしていた。

「付いて行く」
 澪達は食い下がる。

 死に戻り、若返った俺達。
 きっと、それが許せなかった。
 自分たちが老けている。
 それは、女性陣にとって許しがたい事実。
 随分、グチグチと言われた。

 実際死んだとき、それは一瞬で苦しみも何もなかった。
 何より、自身を見つめる恐ろしいほどの目力。
 それは、なんと言えば良いのだろう……

 鹿せんべいを見つけたときの、奈良公園の鹿達と同様な視線。
 真っ黒い瞳が、ただじっとこちらを見つめる。

 そう、澪達の目は瞳孔が広がり、まるで悪魔のような……

「まあ良いか、一緒に行こう」
 澪達はほっとする。

 この世界で命を落としても、また死に戻ることは聞いていた、それでも、もし……
 龍一達が帰ってこなければ、自分たちはこの世界に取り残されて、彼のいない世界で悲しく暮らす? そんな不安を感じて、前回遠征時には日が経つにつれて不安が募り、彼女達は祈り泣き暮らして過ごしていた。
 無論そんな事は彼らには言わない。

 そして、彼らは若返り帰ってきた。負けてしまったと悔しそうな顔をしていた。
 だけど……
「竜ちゃんだけ若返ってズルい」

 でも、システムにより生き返ってくれた。
 ありがとう。
 あなたがいなくなれば、私は……

 当然調子に乗せないために、龍一にはそんな事は言わない。
 だが、あんなに心配をして暮らすのはいやだ。

 それに、あの時に付いて行ったお師匠様。
 彼女に独り占めされていただろう数ヶ月。
 あのテクに溺れてしまうと、もう相手をしてくれなくなるかも……
 彼女達はそれについても、悶々として暮らしていた。

 彼らが死に戻り若返った、それは、同理屈をこねても一度死んだこと。
 もし死んじゃったら、不安は的中をしたと言う事。あの時、付いて行けば良かった。
 そんな思いが、彼女達の心で爆発をした。
 今度は、どう言われようと付いて行く、そんなことを彼女達は決めていた。



「なに? 若返り帰ってきた?」
 王国の人間達は、当然だが驚きながら彼らを迎えた。

 魔王との戦い。この大陸を襲っていた厄災が魔人族の起こしたものだと知り、その行為をやめさせるために彼らは行動を起こした。

 だが彼らは、負けて殺されたらしい。
 我らの知らぬことわりによりリセット? とやらをされたとのこと。
 なにやら、ハンセイブンと言われる苦しく辛い物を受けねばならぬようだが、目的を達成するまで死ぬことすら許されぬ。

「ぬうそれは、修羅の道じゃな」
「彼らは、まだ折れず、再び向かうそうです」
「そうか、我らはできることをして、彼らを助けよう」
「御意」


 その頃、魔人族の大陸では、魔王の町アンダワルドの復興が始まっていた。
 やっと魔王の癇癪が収まったらしい。

 行方不明になっていたソーロは帰ってきて、その様子を見て激怒したらしい。
「襲撃を受けたのか、なんとむごい」
 彼は様子を見て驚き、怒る。

「やったのは魔王様だ」
「なに? 魔王様だと?」
 その瞬間態度が変わる。

「これだけですんだのか、運が良かったな」
 そう言って彼は、それ以上何も言わず、復旧の手伝いを始める。


「奴らの正体を調べろ」
「奴ら? と言いますと?」
「我の眠りを妨げた、痴れ者達のことだ」
 魔王様は思い出したようだ。

「人間です」
「ぬっ?」
「人間です。我らがちょっかいを出した事を知ったようですね」
「ぬうう。殺せと言っておっただろう」
 魔王は怒りだす、確かに命令は受けていた。

「それが色々とあり、上手く行かず。色々と前向きに検討と精査を行っている最中ですし、あーまあ善処をしている所存です」
 文官はよく判らない回答をする。

「善処? 俺はすべて殺せと言ったはずだが、殺せというのは殺すことだぞ」
「はいそれは、十分理解しております。ですがなかなかしぶとくて」
「攻撃隊を出せ。明日にでも…… 明日というのは、今日の次の日だぞ」
「はっ、承知しております」
 当たり前のことを偉そうに言うのが魔王である。

 どこかの世界にも、似たような人は居る。
 『調査では増えているから、増えたかどうか調査する』
 なんてことを、言っていた人がいましたが……

 まあ……

 その頃、龍一達はすでに出発をしていた。

 魔王戦のお代わりをするために。
 魔導具を改良、そして強化。自動追尾タイプ中央突破君。
 今度は三十五ミリタイプ。
 ガス圧式、有効射程八キロ、毎分二百発程度連射できる。

「二十ミリでは効かなかった」
 その反省から造られた。
 荷車に二門搭載。
 砲の全長は五メートル近い。

 砲も長く大きくなり、重量も重くなったために、荷車はタイヤをやめて無限軌道を採用。
 爪は、未舗装路を完璧に耕すことが出来る。

 いや反動がすごくて、撃つ度に下がって行ったのだよ。
 その様子は、駄々っ子か、気の弱い不良。
 を投げながら、ドンドンと遠くなって行く。

 まあそんな物を造り、ホバークラフト型の船に乗せる。
 外輪船は遅いから、今回は根本からごっそり仕様変更。

 スカート部分は、モンスター蜘蛛の糸を編み込み、樹液を塗り込んで仕上げた。

 その船は、滑る様に陸地、そして海面を走っていく。
 そうホバークラフトだから当然だが、それを見た船大工達は目と口がしばらく閉まらなかった。


「―― 澪、あれが魔人族の大陸だ」
「あれが来た早々、問答無用で皆殺しにしたところなのね……」
 船旅の途中、前回のハナシを聞いた。

 それはひどく、むごい歴史。
 皆殺しに次ぐ皆殺し……

 流石に引いた……
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