はい。ちゅうもーく。これから異世界に向かいます。 - 私立徳井天世高校の修学旅行 -

久遠 れんり

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第二章 冒険者時代

第26話 美味しそうなお肉

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「また来たぞ」
「っは、炎系の魔法は効かん、氷系か剣で叩け。矢も刺さらん」
「りょ」

 彼らは火山に到着後、言われたように硫黄の粉を採取していた。
 今回は、テスト用サンプルと、採掘拠点の確認と周囲の状態。
 活火山だと、多くは水蒸気だが、中には危険な成分が含まれる。

 そのため、高台に拠点が設置出来ること、そして風向き。

 飲み水の採取拠点も重要だ。
 できれば温泉も……

 
 そんなことを考えていたが、この火山。此処が好きという鳥形のモンスターが大量に繁殖をしていた。
 真っ赤なクジャクぽいが、火を噴く。

 大きさは一メートルくらい。
 鋭い爪が凶悪だ。

「うらぁ」
 伸すてき。
 つい武藤の勇姿を見て、ヴェスは周囲の索敵から、意識が離れてしまった。

「きゃあぁ」
「ふん」
 武藤が槍を投げる。

 その槍は、モンスターの羽毛を、突き抜いてしまう。
 剣すらはじくような強度を持っていたが、あっさりと撃ち抜いてしまった。
 それは武藤の投げ方と、彼の工夫、槍に気をのせた。
 それは、ヴェスが襲われたため、カッときて脳筋の彼らしくとっさの判断。

「大丈夫か?」
「余り痛みはないけれど、腕が動かない」
 大抵痛みがないほど症状がやばい。
「ちょっとじっとしていろ」
 その怪我は、痛みがないとの言葉通り、ごっそりとえぐられていた。
 これまた脳筋な彼は、超人的な能力を見せる。

 治療魔法の速度マシマシ全部乗せ。
 その時、ヴェスはめまいがしたが、血が流れたためだと思った。
 だが、非常識な治療により、不足分のタンパクなど必要な素材を他から奪って治療をされたためだった。

 その光景を、アカシアは見ていた。
 ヴェスが攻撃を受けて、その状態は冒険者の経験から判断すると、もうだめだと思っていた。
 頭のどこかで、伸を独り占め? でも体が持つかしらと彼女は考えた。

 だけど、伸は、普通じゃなかった。
 壊れていた、右の肩甲骨から肩に掛けて……
 逆回しのように、肉が生えてきた。
 骨ごと握りつぶされて、ぶら下がっていた右腕。
 あっという間に、元の形に作り治されていく。
 それは、最上級の教会関係者でも絶対に無理。

 そこに、また一匹モンスターがやって来た。
 だが、伸は振り返りもせずに、モンスターを剣で突き刺す。
「えっなんで、刺さるの?」
 思わず口にする。

 アカシアたちも何匹も相手にして、追い払うのは成功をしているが、まだ討伐ができていない。
 それを簡単に……

 好きになった彼は、とんだ非常識の塊だった。
 色々なことで、感極まり、アカシアはいつしか涙をこぼしていた。
 この人となら、きっとこの先、どんな事があっても大丈夫。
 もう昔のような、辛いことにはならない。
 きっと……

 ―― それは駆け出しの頃あった話、アカシアは友人とチームを組み、冒険者をしていた。
 見習いに毛が生えたような新人達、討伐にでたところを、運悪く盗賊達に捕まる。

 そこから始まった生活は、辛く悲惨な者だった。
 餌を貰うために奴隷以下の扱い。
 それを数ヶ月。
 友人達は、途中で精神的に壊れて…… 暴れて殺された。

 だが、アカシアも早々に諦めては居たが、当然の様に彼女の精神状態もまともではなく、救出された後もふいに起こるフラッシュバック。人が怖い…… 当然だが、仕事も出来ず、町の路地で座り込んでゴミあさりをしていた。
 そこを皆に救われた。

 だが、時間が経ち随分ましにはなったが、心のどこか、男に対する嫌悪、そして人に対しての恐怖がずっとあった。
 誰も、信じられない。
 皆の優しさも見せかけではないか…… そんな考えが頭に浮かぶ毎日だった。
 そう非常識軍団と出会う前は……

 マリーがたらし込まれ、仕方が無く近い距離で接する生活。
 だけど、伸はずっと優しく強く、非常識。
 そして、彼ら特有のにじみ出る育ちの良さ、そして暖かい。

 彼女は、向かい合って抱っこされるのが好き。
 そうしていると思い出す。そう昔の記憶。お父さんのよう。
 与えられる、無償の愛。

 人間のいいところ、それを思い出す。
 そう今まで、心の底で重く暗く溜まったもの、それが今、少しだけほぐれたようだ。
 だから、あの時から止まっていた涙が、流れだした。

「大丈夫か?」
「ええ何とか、あっ、手も動く」
 ヴェスが言ったその言葉に、アカシアは驚く。

 見ると、グーパーと指が動いている。

「そんな馬鹿な」
 ふらふらと、ヴェスの所へ行き、手を握る。

「きちんと感じる? 動くの?」
「ええ大丈夫。少し目眩がするくらいで…… ぐえっ」
 気がつけばぎゅっと抱きしめていた。

 もう完全に、死んだと思っていた。
 なのに……
 伸はなんて非常識なの……

 治ったから、さっきの状態を説明をする。
 右肩が無くなっていたこと。
 普通なら死んでいたことを。

「でもお肉が美味しそうに見えた」
 少しでもの励ましに、かなりブラックなことまで……
 アカシアは少し残念な子だった。
「食べないでよ」
 そう言って笑う。

 二人は、戦っている伸を見上げる。
 その目は、愛と信頼を湛えて。
「二人とも、動けるなら戦え」
「うん」
「はい」

「剣に気をのせろ、そうすれば切れるようだ」
「「ええっ?」」

 気って何? よく判らないが、魔力を剣へと流す。
「切れて、お願い」
 よく判らないが、思いが乗ったせいなのか、切れた……

 それは、福山達にも伝えられる。
 そして、その後彼らは、無敵状態で狩りまくった。

 その晩、鳥たちが体内に蓄えていた鶏油? を使い、小麦粉をまぶして唐揚げっぽくした物を作る。この頃はまだ、片栗がなかったのだよ。

 その鳥を食べてみる。
「うんまあぁ」
「美味しい。何これぇ」
 塩だけの味付けだが、ソテーにしても、唐揚げにしても、ものすごく美味かった。

 ―― だが、彼らは知らない。
 その鳥が神獣で有り、地球で言うところのフェニックスとか、火の鳥と同じ物だと……

 その姿から朱鳥しゅちょうと呼ばれて、信仰の対象であるとも……
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