上 下
89 / 97
第五章 人は生き残れるのか?

第89話 反撃? いや逮捕

しおりを挟む
「これを見てください」
 目の前には、水晶の板があり、それを見つめる王や第二王妃オルネラと王子達。

「セキュリティの関係上、近親者だと魔導パターンが似るため、困ると思い、第一王女セリア様、第一王子アルベル様、第二王女リリー様のパターンを採取したのですが。この通りです」

 そう、この屋敷を含めて、町の到る所に主要人物のパターンを読む、セキュリティ装置を配置してある。
 登録してあるユーザー以外だと、反応をして警告ランプが付く。

 王都のクーデター後、何かの加減でこちらに来られたとき、王子達がセキュリティをパスすると困るので、魔導パターンを採取して、要注意者で登録をする予定だった。
 必要ないが、王妃も一応取ってある。

「これが王妃マティルデ。この赤い部分が、すべての子供にあります」
「ああ、あるな」
 王がふむふむと納得をする。

 次に水晶板上に、王の名前が出る。
 その下にパターン。
 パターンは基本、王冠状の波形として表示される。

「これが王様のパターン。見てください。第一王女セリア様には、王様のパターンが入っています」
「ああ、この青の部分か?」
 その瞬間、わずかだがオルネラさんの眉間に皺が入る。
 
「ええ、そうです。色分けを行いました」
 第一王女セリアにあった、青い部分が、第一王子アルベルと第二王女リリーには存在しない。

「二人には無いな……」
「ええ、無いんですよ。ちなみに、これを」
 第二王子デリックと第三王女アドリアーノの名前が出る。
 すると、赤が消え、青の部分が出る。

「当然、オルネラ様の御子ですから、赤の部分は無く、青のみです」
 注目をしていた全員が、石板から視線を離し、ため息を付く。

「と言う事はあれだな」
 もう説明をしなくとも、皆理解ができている。
「そうですね。彼らは、単なる簒奪者。王妃マティルデは王様を裏切り、密通みっつうを行っていたようですね」
 シンが説明をすると、オルネラ様からぼやきが出る。

「セリア様も違っていれば良かったのに……」
「まあ、そう言うな」
 王が頭をなでる。

 女の嫉妬が漏れ出たようだ。

「さあてと、どうします? もう大抵狼藉者達のリストはできました」
 どさっと、綴られた紙がテーブルに置かれる。
 多少今の事実が、王に衝撃を与えたようだ。
 頭を抱えている。

「宰相を。ミシェルを呼んでくれ」

 センシティブな話のため、宰相は入ってきていなかったが、王は決断する。
「王子達は私の子では無い事が分かった。王妃も不義密通の罪。逆賊共を滅せよ」
「はっ。御意に…… と申しましても、シン殿にお願いせねば何ともできません。王都から抜け出した近衛達すら、今は、シン殿の私兵兵団所属となっております」
 王は思い出す。

「そうだった、シン殿。力を貸していただきたい」
 王がガバッと頭を下げる。

「良いですよ。兵達をお返しします。新型の装備も試してみたいし、王都は殲滅でよろしいのですか?」
「もう腹を決めた、旧王都だな。遷都の触れを周辺国に出して、それと同時に攻撃をしよう。中の奴らは罪人のみだな?」
 宰相が胸に手を当て、うやうやしくお辞儀をする。
「はい、選別をして、善良者はこの町に引っ越しております」

 王が計画を立て、わずか半年で殲滅が決定。
 移住をさせるのに多少時間がかかったが、移住者から評判は上々だという事だ。


「では、出発をしよう」

 王都周囲に設置された、転移用の魔道具。
 そこに、兵達が飛んでくる。

 いきなり数千の軍勢に囲まれた王都だが、気が付く者はいない。
 大門の所ですら兵が立っていない。

 店が引き上げ、流通が滞り、訪れる人すら、ほとんどいなくなっていた。
 そう町自体が死んでいた。

 中に居る者は、それすら気が付かない……
 いや気が付かない振りをして、やり過ごしている愚か者達。

「酒だ、酒を持ってこい」
 それを聞いて、走っていくのは、間者として残った者達、眉をひそめながらも仕事をする。
 真面目に働く者が居なくなり、間者達がいなくなれば、とっくに王城の機能は終わっていた。

「今日だな?」
「ええ仕事としても、もううんざり。ほっとするわ」
 そう過酷な潜入などを行っている、間者達でもうんざりする状態。
 王城の上部階では、酒と体液の匂いが充満。
 嬌声と、笑い声が響き渡る。

 王妃は隠す気が無くなり、媚びへつらう若い男に体を任せていた。
「そうねぇ、近衛でもする? 隊長を任せるわ」
「王妃様、ありがとうございます。頑張ります。こうでしょうか?」
「んっああっ。そうそこよぉ」

 とまあ、サバトと言えば分かりやすいだろうか?
 王妃という魔女が場をしきる、妖艶な現場。

 もう近衛の隊長は、十人を超えて存在するのではないだろうか?

 その頃すでに、王都の外縁から制圧が始まっていた。

「この魔導通信装置良いですね」
「離れている所の兵が、今どう動いているのか分かる」
 いくつかの魔導具を利用し、戦術情報システムが構築されていた。
 各隊長の魔導パターンを登録し、それが石板に表示される。
 魔導通信機を用いた直接命令。

 各人の特訓により、自身がバッテリーとなっている。
 体内魔力を、各魔道具が使う。
 シンが創り、試したとき。
「魔石は枯渇すると困るし、体内魔素で十分だろう」
「そりゃシンは平気だろうけど……」

 訓練をしていない人なら、五分で魔力枯渇が起こり、頭痛と吐き気コースだろう。
 彼らは訓練初期に、ひたすら繰り返しそれをされて、今は大分体内魔力が増えている。
 モニカとヘルミーナ達は、兵から最も恐れられる存在となっていた。

 彼女達は笑いながら言う。
「あなたたちの本気はそんな物なの? 男だし若いんだからもっと出しなさい」
 魔力枯渇、そして復活。また……
 
 上から下から色々な物を垂れ流しても、浄化一発。
 もうだめだと思うと、王が見学に来る……
「頑張っているかね」
「「「「「はい」」」」」
 兵達は、泣きながら頑張った。
 三ヶ月の速成強化。

「あの苦しみは今日のため。恨みも受け取って貰おう」
 兵達からとばっちりの恨みまで買って、王妃達は追い込まれていく……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜

k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」 そう婚約者のグレイに言われたエミリア。 はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。 「恋より友情よね!」 そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。 本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。

婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

さあ、お嬢様。断罪の時間です ~ある婚約破棄事件のその後~

オレンジ方解石
ファンタジー
 サングィス王国の王太子エルドレッドは、ソールズベリー公爵令嬢ベアトリスとの婚約を破棄。タリス男爵令嬢を王妃に迎えようとして、愚行をサングィス国王に断罪される。  ベアトリスは新しい王太子ウィルフレッドの妃となり、世間からは「物語のような婚約破棄事件」と称賛された。  しかし現実は物語のようには終わらず、三年後…………。 ※グロなどはありませんが、一応、死体や死亡展開があるので、R15 設定にしています。 ※ファンタジー要素は薄めですが、婚約破棄や悪役令嬢要素があるので、カテゴリを『ファンタジー』にしています。

結婚式で王子を溺愛する幼馴染が泣き叫んで婚約破棄「妊娠した。慰謝料を払え!」花嫁は王子の返答に衝撃を受けた。

window
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の結婚式に幼馴染が泣き叫んでかけ寄って来た。 式の大事な場面で何が起こったのか? 二人を祝福していた参列者たちは突然の出来事に会場は大きくどよめいた。 王子は公爵令嬢と幼馴染と二股交際をしていた。 「あなたの子供を妊娠してる。私を捨てて自分だけ幸せになるなんて許せない。慰謝料を払え!」 幼馴染は王子に詰め寄って主張すると王子は信じられない事を言って花嫁と参列者全員を驚かせた。

駆け落ちから四年後、元婚約者が戻ってきたんですが

影茸
恋愛
 私、マルシアの婚約者である伯爵令息シャルルは、結婚を前にして駆け落ちした。  それも、見知らぬ平民の女性と。  その結果、伯爵家は大いに混乱し、私は婚約者を失ったことを悲しむまもなく、動き回ることになる。  そして四年後、ようやく伯爵家を前以上に栄えさせることに成功する。  ……駆け落ちしたシャルルが、女性と共に現れたのはその時だった。

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

聖女追放ラノベの馬鹿王子に転生しましたが…あれ、問題ないんじゃね?

越路遼介
ファンタジー
産婦人科医、後藤茂一(54)は“気功”を生来備えていた。その気功を活用し、彼は苦痛を少なくして出産を成功させる稀代の名医であったが心不全で死去、生まれ変わってみれば、そこは前世で読んだ『聖女追放』のラノベの世界!しかも、よりによって聖女にざまぁされる馬鹿王子に!せめて聖女断罪の前に転生しろよ!と叫びたい馬鹿王子レンドル。もう聖女を追放したあとの詰んだ状態からのスタートだった。 ・全8話で無事に完結しました!『小説家になろう』にも掲載しています。

処理中です...