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第五章 人は生き残れるのか?

第85話 王族

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 その頃、システムはもう切れていた。
 はびこる人共は、全滅させる気で行かなければならない。
 そう、中途半端にコントロールをしようと思うのが、すべての間違いだったのだ。

 そして彼は、準備を始めた。
 『人類殲滅計画』
 開始まで、あと、三百日。


「やあ、ステキだね。この快適な温度も魔導具かな?」
「ええ、そうです。各部屋でも効いています」
 デリック王子は嬉しそうにキョロキョロと建物を見回している。現在二七歳だが、王妃マティルデのおかげで、かなり冷や飯を食わされている。

 第一王子アルベルと、歳が同じというのが大きく、第一王子を優先せねばならないという空気感が、王城にはあり非常にストレスを感じていた。

 王から今回の話を聞いたときに、とうとう追放かと思ったが、そのつらさを超えれば、実は城から離れるにつれ非常に気楽になれた。

 出発前に父親から聞かされた事実。
 シンと呼ばれる新侯爵が、実は前世ラファエル=デルクセンであり、現在でもその記憶を有していることを、こそっと聞かされた。
「デルクセン殿の持ついにしえの知識、彼は失われていた技術で魔導具を作り、自領を発展させておるようだ。勉強をしてくるが良い」

 その言葉を聞いて、現在ドキワク状態である。

 そしてそれは、第三王女アドリアーノも同じ。王族で二三歳となるのに婚約すら話が無く、そもそも女性の地位は低いのだが、王妃のせいで、さらに低く扱われていた。

 部屋に籠もる日々、今回の話が来たときに、兄様と共に追放と考えた。
 でも、王城から出たことが無い彼女は、やはりドキワクであった。

 それは、この城へ来て驚きと共に、達成されることになる。

「良いですか、自分のことはある程度、自分でやっていただきます」
「えっ、侍女達もおりますし」
「だめです。何も出来ない女など、自らの価値を下げるだけでございます。日々の暮らし、最低限は五歳の子どもにだってできます」
 モニカが腰に手を置き、胸を張りつつ王女に命令をする。

 四年前より、実におとなしく貴族らしい振る舞いが出来るようになったモニカ。
 シンの妻として、母として、日々充実をしていた。

 そうは言っても、自分の着替えや入浴、トイレくらいのこと。
 後は洗顔くらいだろうか。

 この屋敷には、王城より優れたものが沢山あった。
 何より、伝染病対策として、上下水道の完全分離。
 空調、そして水洗トイレ。
 各階で独自の浄化魔法が二四時間動き、感染症の撲滅を行っている。

 衣服などは、一見シルクに見えるが、デススパイダーが密かに養殖をされ、その糸が使われた服は、薄くて軽いが鎖帷子よりも優れた防刃性を持つ。

 そう王城で着ている服より軽く美しく、デザインでも優れている。
 特に、下着の着心地は、もうこれ無しでは生きていけないくらいであった。

 食事も優雅で洗練。
 絵画のような料理。
 煮るか焼くかが一般的な食事が、蒸し料理や揚げ料理まで存在をしていた。

 そして一般に貴族が食べることのない根菜類まで、実にバランスがよく供される。

 キジ科のレグホーンやコーチン種などの鳥も養殖をされ、安定した肉を安価で流通もさせていた。

 もちろん卵も浄化され、生でも食べられる位であった。

 さらに、ここに来てから習うことになった、シン殿直伝の魔力循環。
 この屋敷にいる全員が、食事の後に武道場へと集合する。

 そう実は、この屋敷の人員だけで、数千人を相手にできる強者であった。
 外にいる私兵集団もあわせれば、この大陸すらその手に収めるくらい簡単な武力組織ができていた。

 王が言っていた強国、その考えは今まさに熟成をされていた。

 王妃の先導する古い集団。
 そして、シンが主導をする新しい集団。
 そうすでに、水面下で王国は新しく変わろうとしていた。
 その最先端へと送られた事を、王子達が理解するのは、もう少し先である。
 だけど、それは一年もの月日は必要が無かった。

「最初はどうなるかと思ったが、暗闇の中、気配察知と身体強化による暗視。これは良いな」
「王子サボらずに、基礎の筋力は最終的な力の差となります」
 そう今現在、五歳の子どもにまで負ける王子。

 子どもの頃から、王国の師団に混ざり訓練を行っていたのに、何の役にもたたないくらい弱かった。
 アドリアーノはもっと悲惨。
 王女として、何もさせてもらえず、自身もそれが普通だった。

 余所へ嫁に出されたときに、火種となるため最低限の教育しかさせてもらえなかった。
 無論国内でも、旦那様の言うことに反論するなとかまあ、この世界は基本的に、男尊女卑。そのため、女性の教育は礼儀作法やダンスが主となる。後は、夜とぎの儀礼だろうか。儀礼といっても、ご挨拶と性技だが。

 シュワード伯爵家の奥方である、アウロラなどは、かなり特殊なタイプである。

 そのため、アドリアーノは二三歳にして、お勉強と武道。
 毎日体と脳を限界まで酷使する事になった。

 だけどそれは、非常に楽しく、王城にいたときのアンニュイさが欺瞞であったことを理解する。

「アドリアーノ様、あなたはなぜそんなにお馬鹿なのです。それでは王妃を倒せませんよ」
 なぜか打倒王妃が、スローガンとなっていた。

「もう無理、許してぇ」
「その苦しみの向こうに、真の快楽があるのです、深淵を覗きましょ」
 恍惚とした表情で、ヘルミーナはアドリアーノを凶育教育する。

 そうして、アドリアーノは、一歩アウロラから続くシュワード伯爵家の女性に近付いていく……
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