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第五章 人は生き残れるのか?

第77話 王都の闇

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 『大規模総合商社 スリーハードシップ・エスクード』
 王都でも目立つ所に、その店は存在をする。
 大門から、王城へと向かう道の脇。
 そこに、ドドンと大きな姿を見せている。

 その大きな店舗の最奥に、従業員も一部しか知らない秘密の部屋があり、エチューギャと後ろ盾の貴族が数人集まっていた。
 エチューギャが、幾ら悪党だと言っても、単なる商人という身分。好き勝手は基本出来ない。

 彼の周りには、近隣の領地を預かる代官達が、絡んできていた。

「いやあ、伯爵様様のご機嫌を取るのも楽ではないのだよ」
 そう言って、器に酒を注がせるのは、コモーノ男爵。
 左手には、おびえる若い女の子を抱え、色々なところをまさぐっている。
 そう、羽目技により、借金を背負わされた親に、売られてしまったかわいそうな娘。

「そうじゃな、あの流行病はやりのおかげで走り回る羽目になった」
 そうぼやくコイツは、また別の伯爵に仕えている。
 かれは、ザコーノ男爵。
 同じく嫌がる娘を、背後から抱えている。

 いま、店では丁度、月に一度の定例会と言うものが繰り広げられている。
 エチューギャ達のいる部屋とは別の隣室、そちらには準男爵級や、手下達が数人遊んでいる。

 そう、あくどく稼いだ金の一部を使い、月に一度開催される酒池肉林。
 此処に集められた者達は、全員計画に絡んでいる。

 そう、普通の捜査では、どこかでこいつらが出てきて、追跡ができなかった。
 
 だが、すでに周囲にはシン達がいて、それを追いかけていた王の密偵達もあわてて王へ報告に向かう。

「マーカーはこの中だな」
 そう定例会のため、金を持ち、手下達が集まってきていた。


「―― それは、ご苦労様でしたなぁ」
 そう言って、エチューギャは最近王都で流行の木箱を出す。
 その蓋には、『銘菓 スライムの雫』と焼き印が入っていた。
 デンプンを使い、少し甘みがつけられた透明な衣の中に、核の代わりとして、甘く煮られた木イチゴが埋め込まれている。
 その甘酸っぱい菓子は、一口サイズで子どもでも食べやすい逸品である。
 店主が長年の苦労の末、シロップ煮を開発したことにより、年中出せるようになった。

「ほほう。これはこれは、最近流行の。めったに手に入らんと聞くが……」
「ええ苦労しましたよ。得意先が優先だと抜かしおって、なかなか首を縦に振らず。あそこは、息子がやんちゃでしてなぁ。それを少し……」
「おぬしも悪よのう……」
「いいえ、お代官様ほどではありませぬ。ささどうぞ」
 箱が男爵達の前に押し出される。

 ザコーノ男爵は、箱をたぐり寄せ、その重さに満足をする。
 蓋を開け、蝋でコートされた紙を捲り下を覗く。
 木箱の底では、積まれた大金貨が、室内の弱い光を反射する。

 そう、秘密の部屋は、ようやっと顔が見える程度の明かりしか無い。
 広さはこちらが八畳ほどだが、奥には廊下が続き両側にベッドルームがある。
 ベッドルームはあまり広くは無いが、床には毛足の長いラグが敷かれている。
 そしてさらに奥があり、その場所は他とは違い、壁や床に拘束具が付いた無機質な部屋となっている。

 そう、借金の形だと納得をしていても、嫌がるものは居る。
 その場合は強引に……
 人の心の闇といえるだろう。弱きものを屈服させるのは、日々鬱屈うっくつしている小物達にとって、最高の快楽を与えるようだ。


 そんないつもの光景が繰り広げられ、楽しくしていたが、先ほど酒の追加をしに行った手の者が帰ってこない。

 余っていた女に、手を出すようなバカでは無いはずだが……
「すこし、席を外します」

 ドアの鍵を開け廊下へと出る。
 いくつかの部屋から、怒鳴り声や泣き叫ぶ声が何時いつもの様に聞こえる。

「楽しんで居るようだな」
 少し呆れた顔をしながら、エチューギャは下の階へと降りていく。

 階段下のドアを解錠し、外に出る。
 このドアも、知っているものしか解錠できない特殊鍵。

 出て閉めると、そこは普通の壁にか見えなくなる。

 厨房の方へと進むが、こちらは逆に静まりかえっている。
「うん? おかしいな」
 ドスドスと廊下を歩きながら声をかける。

「だれか、誰かおらぬか」
「いるよ」
 背後から声が聞こえた瞬間、エチューギャは意識が落ち世界は暗転した。

「あんな所に扉か」
「困ったものね。下に幽閉されていた女の子達は解放をしたわ」
 地下に牢が有り、閉じ込められていた娘が居たようだ。

 しばらく、上に上がる道が判らず、マッテイスはうろうろしていた。

 シンは、ヘルミーナと一緒に女の子を助けて浄化中。
 モニカが連絡に上がってきた。

 ローラとカミラは、台所その他を制圧。

 シン達が、王兵に娘達を預けた後、王国兵団の隊長と共に上がってきたので、突入を開始する。


「なに? 王が、こんなお時間に」
 王国兵団の隊長ボリス=マクレーン伯爵は、今まさに帰ろうとしていたところだった。
 大きな王都、日々細々な問題が発生する。
 やっと、書類に目を通し、帰ろうと……

 だが、相手が王なら無視など出来ない。
「なんて腰の軽いお人だ」
 そう言いつつ応接間へと向かう。

 応接間の上座に、どっかりと座っている王。
「夜間にすまんな」
 あやまられたぁー。

「いっ、いいえ問題ありません。どのようなご用件でございましょうか?」
「ああ。王国を襲った流行病。あれを悪用し私腹を肥やした馬鹿者共を捕まえに行って欲しい。おい」
 脇に控えていた者が一歩前に出る。

「はっ。王様直属の情報局です。案内いたしますので早急に準備を」
「承知しました。おい、皆ども手入れだぁ。じゅんびぃー」
 彼は王に碌な挨拶もせず、部屋を飛び出した。

「たのんだぞ」
 そう言って、王はかご…… いや馬車に乗り、帰っていった。
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