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第四章 中等部

第66話 この世界、実にいい加減。

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「うん?」
 彼は、生まれてからずっと、この世界の森羅万象を司っていた。

 世界樹の根元、そこに座り込みずっと見ていた。
 周囲には、世話をしている精霊族達。

 そう見た目は、人のようだが耳が少し違う。
 生殖により増えるが、その寿命は人のそれよりも十倍ほど長い。

 そして、小さな植物の精霊達。
 ドリュアス達は、世界中で繋がり、情報を王へと伝えていた。

 そう、十年ほど前。
 彼にとっては刹那の時間、世界が振動をした。
 そして何か、大きくバランスが崩れた。
 だが、それにより大きく何かが起こったわけでもなく、彼はまあ良いかと放置をした。

 だが、また何かが変わった。


 フォン・クルバトフの町の中。
 幼馴染みの探索者達がいた。
「おい何か、状況が変わったようだ」
 壁の外で大歓声が上がる。

「お前達はここに居ろ」
 アレンは妻であるスティナに声をかける。
 一緒に隠れていたダニエルとソリーを連れて、塀の外まで様子を見に行く。

「これはすごいな」
 手の打ちようがなかったモンスター。
 オルトロス達が全滅をしていた。

 完全に、状況が変わった。
「こりゃ。行かなきゃ駄目だろ」
「アレン。お前は家族がいるんだ」
「だからなんだ。あれを見ろ。他国の人達まで俺達のために来てくれて、命をかけて戦ってくれているんだ。俺達が尻尾を丸めて隠れているなんて出来ないだろ」
 アレンは半泣き状態。

 状況を見て、感極まっているようだ。
 コイツは昔から熱くなると、周りが見えなくなる奴だったが。

「判ったよ。だが、お前だけは絶対死ぬな。家族がいるんだからな」
「なんだよそれ。俺達は同じだ。スティナは俺がいなくても、立派に子ども達を育てるさ」
 アレンの言い分に、それはお前のエゴだよ。そう言いそうになったが、昔の彼女。自分たちが幼き日々、毎日のように『特訓だー』と叫びながら棒きれを持って追いかけ回されたあの日々、昔のおてんばだったスティナを思い出す。

「かもな。まあ…… それでも生きて帰れ」
「判ったよ」
 そう言うと、彼らはモンスターの群れの中へ突っ込んでいった。国のために、町のためにでは無く、もっと身近な者達を守るために。

 そんな馬鹿な奴らは、彼ら意外にも大勢いた。

「今が好機だ。ユリアーナ。生きて帰ってきたら結婚しようぜ」
 そんな奴も。
 彼は彼女に対して、ニコッと笑いかけると、走っていった。

「えー……」
 だが…… 小さく答えるユリアーナ。
 そして困惑。
 彼は単なる客。
 今だってどさくさに紛れ、金を払っていない。

 流石に店を閉めていたのに、無理矢理開けさせ「最後に君の料理が食べたいんだ」そんな事を言ってがっつき。
 あげく訳の分からない事を言って走って行った。
 

 彼は果たして幸せになったのか?
 なんとか命を繋ぎ、戻ってきたとき。彼女が他の男と抱き合っていたのを見たのかは不明だ。だが店には来なくなり、代金は踏み倒された。

「デルったらばかね」
 そんな彼を、気にする子が別にいることも。

 とにかく、隠れていた町の探索者達にも火が付き、状態は大幅に改善された。

 そう人は、身近な物を者達を、誰かを守るために戦う。
 それが結果的に、町を守り国を守る。

 無論自分だけが助かれば良いという奴もいる。
「けっ。やっと援軍か。その辺りの家から金でも盗んで飲み代を」

「おおっと、火事場泥棒がいるぞ」
「今は、憲兵も忙しいだろう。切っちまえ」
「そうだな」
 どさくさ紛れに、嫌われ者達も一掃される。

 無論刀傷が残るが、この騒ぎ。
 問題にはならなかった。
 自身が日々積み上げた評判のために。



「ふーむ。これはいかん」
 珍しく、シンがふらつく。
 取り込んだエネルギーが強力すぎたようだ。

 付いてきた者達、その中で反応が起こる。
「お兄様」
 ヘルミーナが駆け出す。

 それはもう。
 お兄様のお役に立てる。
「肩を、私にください」
「うん? 肩に掴まれ? まあ良いありがとう」
 長年の関係。
 あくまでも、シンの中ではお嬢様なのだが、ずっと後ろを付き周りかわいい妹のような存在。
 多少ニュアンスに違和感はあったが、少し肩を借りる。

 そして、それを羨ましそうに眺める者達。

 まあまあ、そんな状態だが問題なく地上へと帰っていく。
 ローラさえいれば、大抵問題ない。
 そう彼女は強化され、エネルギーに対しても、速やかに己の物とした。
 体にあふれる全能感。
 気をぬけば、周囲は何もなくなるほどのパワー。
 水系統に特化をしていなければ、シンでも今の彼女と対峙をするのは辛かっただろう。

 シンのマネをしているのか、モンスター達の体内にある水。
 それが、自身の敵となり内部から破壊される。
 それはかなり、エグいものだった。

 そう、水とはありふれているが、やっかいで謎に満ちた存在。
 凍れば固くなり、体積が増える。
 そして、気化すれば、その容積は一七七〇倍へと膨れ上がる。
 それが、体内で起こるとどうなるのか……

 出てきた瞬間、動かなくなるもの。
 出てきた瞬間、いなくなるもの。
 その変化を、ローラは観察をする。

 フフッそうか、生き物とはかくも弱いものだったのか。
 少しだけ、ブラックローラが、心の中で湧く。
 ダンジョンの底に居たかの女が、そこでそんな力と心を持てば、シンとて少し苦労をしたかもしれない。

 だが今、彼女の周りにいる仲間。
 みんながいる限り、その危険は無いだろう。

 たぶん……
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