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第四章 中等部

第63話 ねえ一緒に……

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 そして彼らを含めて、ギルドと兵達は奪還を続けていく。
 その間に、救援の物資も届き、問題は無かった。

 そう、今相手にしているそれは、氾濫の端。拡散をしきったモンスターの群れだった。
 王国の奥へ進むにつれ、その厳しさは増していく。

「すっげえなあ」
 ロイス達の目の前。
 丘の下には、黒い絨毯となったモンスター達がいる。
 そして、それに混じり大きな個体。

「いけそうなら行け。左右から囲い込まれないように注意をしろ。スキル持ちは魔法。その後、矢を射る。作戦開始」
 そんな適当な作戦が開始される。

「やれやれ行くか」
 彼らは良いとしても、エミーリヤ達の戦闘力は低かった。
 この数日、仇に燃える彼女達に多少訓練はつけた。

 だがスキルも無く、力も鍛え上げたものとは違う。
 軽めの武器とスピードで対処をしてもらう。
 そして、一応矢も装備。

 その分、ロイスが大剣を使いなぎ払う。
 剣士であり盾としても働く。

 そんな変則なチーム。

 だが敵は多い。
 味方側は、入れ替わりながら休憩を入れる。

「だあ、ひでえ。もう腕が上がらん。お前達怪我は無いか」
「大丈夫だ」
「私たちも大丈夫」
「食い物を貰って休憩しよう」

 体中モンスターの血をかぶりドロドロだが、周りの連中も全部そうなので気になどならない。
 だが、かなり環境としては厳しい。

 なのに、討伐にやって来た探索者達。
 そして、兵達の目はギラギラと輝いていた。
 確実に、押し返している。
 それが、力となってみんな頑張っている。


「ひどい格好だな。ほらよ」
「ひどいとか言うなよ。働いた証拠だ」
「そうだな。ありがとうよ」
 ギルド管轄の配給所。
 作戦中には、無料で飯が配布される。

 あわただしく走り回る人達。
 だが、一般的な戦争とはちがい、少しだけ穏やかな顔。
 厳しさは同じでも、人相手だともう少し悲壮感がある。
 ベルナルトは戦争ではないが、大規模盗賊の討伐に参加をしたことがある。
 あれは、ひどかった……

 あの時の仲間は、今でもあの山に埋まっているはずだ。
 さっきまでしゃべっていた奴が、もうしゃべらず地面に転がっている。
 罠が発動し、怪我をして囲い込まれる。
 あの時の恐怖。
 今でも夢に出る。

 スキル持ち達がやってきて、周囲の掃討をするまでの地獄。
 気が付けば、臆病な俺は斥候を担当するようになった。
 罠を読み、解除又は回避。
 ものを知らなければ、読めない。
 だから、ベルナルトは罠のプロでもある。

「大丈夫だったか?」
「ええ。私たち勝っている。戦えてるわ」
 目に力はあるが、体力はどうかな…… ただ妙に色っぽい。
「判った。まあ少し力をぬけ」
 そう言って、スティーナの頭をなでる。

 数日は、そんな計画通りの討伐ができていた。
 だが人という生き物の限界。彼らは誰しも疲れ、効率は下がっていく。
 怪我をして引くもの、作戦中に命を落とすもの。
 奥から幾らでもやって来るモンスターは、昼夜関係が無い。

 そして人は、その思いを意外と持続し続けることが出来ない。

「まだ居るのか?」
「いい加減うんざりだ」
 そんな声が、探索者達から出始める。

 確かに討伐をしながら、かなりの距離を進んできた。
 だが、村や町は襲われ、生き残った人達はいない。
 それは、この国ならではの貧弱さ。
 ある程度大きな町でないと、城郭都市にはなっていない。
 この国は、畑や酪農が主であるため仕方が無い。

 やがて疲れを吹き飛ばすことに、城郭都市。
 フォン・クルバトフが見えてきた。
 ここは、交易の中心であり、クルバトフ侯爵が住んでいる。

 だが壁が壊され、町は大分破壊されていた。
 奥の城は、まだ持ちこたえていたようだが。

「掃討をしたら、侯爵を探しに行く」
 王国騎士団。隊長のエミル=スヴィナッシュが叫ぶ。

 そう先に一般の兵団は出してしまい。あげくモンスターにやられてしまった。
 今回、騎士団まで出してきた。
 エンフィールド王国の王城には、現在近衛しか残っていない。

 そして……
「ご無事でしたか」
 無事に侯爵と対面が出来た。

「おおっ。救援が…… ありがたい。じゃがあれは倒せたのか?」
 あった瞬間に、侯爵から不吉な言葉が投げかけられる。
「あれとは?」
「獣の王ともいえる魔物じゃ」
 周囲の者達から話を聞くと、全長七メートルほどで体高は四メートルほど。二つ首の犬。オルトロスのようだ。数字的にはアフリカ象クラス。
 周回でもする様に、やって来るらしい。
 人々をもてあそび、満足をすると、あざ笑うように去って行く。
「そんなまさか…… いかん。外の者達に警告を」

 そして、侯爵は知らなかった。
 オルトロスグループのバックには、一廻り大きいケルベロスが控えていることを。


「今度は…… もう、残されるのはいやなの」
「ばかだなぁ。逃げて幸せになってくれよ」
 ベルナルトはそう言ったのだが、スティーナはいやいやと首を振る。
「いやっ」
 そうして二人は、押し寄せるモンスターを余所に、抱き合い。
 ―― 静かにキスをする。
 
 それを脇で見ている、ロイス達。
 ちらっと見るが、エミーリヤは、サーロヴァと手を握り合って、やって来るモンスターを見つめていた。
「にげるか?」
 一応二人に聞いてみる。

「もう無理ね。ごめんなさいね」
 エミーリヤはロイスに謝る。

「ごめん? なんで?」
「まだ、ヴァリオのことを、整理が付かないの」
 そうこれは、自身に好意を寄せる彼への言い訳。
「そうなのか?」
「ええ」

 数日前のこと。
「ロイスさんてさあ、いい人なんだけど。顔が怖いのよね」
「まあ盗賊顔よね。最初だって、ベルナルトさんが居なければ断っていたし」
「そうね…… それは良いとして、ベルナルトさん。いつの間にスティーナと…… 胸だって私の方があるのに?」
「私だって…… ロイスさんかぁ……」
 などと言う、秘密の話し合いがあった。
 何時だって、世の中は不公平のようだ。

「ロイスさん…… いい人なんだけどね……」
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