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第四章 中等部

第55話 ブーリッジ男爵家

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 シュワード伯爵家では、過去にシンを養子にしようとしたときに、スキルが無いからと反対をした者達がいた。

 それが数年経つと、王から直接の辞令。
 当然のように、見る目がない者達と蔑まれることになった。
 無論、声高に叫んでいるのは、奥方であるアウロラ。

 ほら見たことかと、事あるごとに言う。
 当然、領地の運営でも口を出す端から、それを理由に意見が潰され始める。

「うむむ。なんとかせねば。今我が家は、見る目が無いという言葉が枕詞となってしまった」
 そう、事あるごとに、アウロラが言うのだ。
「ご意見ありがとうございます。ですが皆様、よくお考えくださいませ。見る目の全くない男爵様のご意見。此処でしりごめば、余所に手柄を取られ、我が領は衰退の一途を辿るのでは?」

 今回領内の街道を補修をして、途中宿泊をメインのとした村を整備する計画が出た。だが配下であり親族。そう、あのときシンが養子となることを嫌がったクーラッシュ=B=ブーリッジ男爵が、戦時となった場合、敵にむざむざ整備をした道を使われると、王に対する敵を利することになるなどと言い始めた。

 だがすでに、周囲の領では湧き出た温泉を餌に旅人を集め、通行税に入浴税を取りウハウハ状態。
 それに対抗するために、街道の高速化と安くて安全な宿を前面に押し出した計画を出した。
『雨天でもぬかるまない安全な街道。そして安くて快適な宿泊所。お急ぎならシュワード伯爵領を利用しよう』
 いなくなった利用者を何とかしようと、そんな計画が出たとき、当初から、婦人はシンに知恵を貰い、大昔にあった駅馬車を教えて貰った。

 無論教えて貰っても、簡単にレールの敷設などは出来ないため、普通の道より一段高い、馬車専用道を造り、人はそこに入れない事にして、高速化を図る。
 道を極力平坦化をすることで、安全にしかも馬に負担を掛けずに運行出来るはず。

 宿場で馬を換え、今までかかっていた、半分の時間。つまり倍のスピードで移動が出来る。
 これは商人にとっては嬉しいことだ。
 流通における、余裕が出来ることになる。

 人が渡るところは、半地下の通路を造り、事故をなくす。
 そう、この時代の王国にとっては画期的な計画だ。

 シンのおかげだろうが、何かと目に付くらしく、寄親である侯爵も王城に呼ばれたときに王からお声掛かりが多くなったようだ。


 そして、気が付けば、シンが伯爵号を頂いていた。
 周りにいる、同列。
 つまり伯爵家の令嬢達がシンに目をつけ始めた。
 すでに誰も彼が、普通の掃除夫だとは見ていない。

 つまり、数年前まで超有利なところにいた娘、ヘルミーナの存在が埋もれてしまった。そしてその怒りは、シンの立場を作れなかった父親。
 シュワード伯爵家現当主、ロナルドへと向かったのである。

 奥方と、すっかり自信を取り戻した娘。
 その二人が、背後に何かを纏い、詰め寄ってきたときの恐怖。

「知っているかい。セバスディー。僕は…… 対峙したとき、二人に殺されると思ったんだ。本当だよ」
 そう言って彼は体を震わせ、家宰であるセバスディーに泣き付いたとか……

 武の名家シュワード伯爵家現当主、ロナルドがである。
 心胆を寒からしめる体験は、彼にとって初めてで、その相手が奥方と娘だったのは幸いだろうか……

 そしてその恨みは、クーラッシュ=B=ブーリッジ男爵へと向かう。
 彼は何かにつけ慎重で、橋を造ったとき壊れるまで攻撃をしたバカでもある。
 その時造った橋は木製で、当時石でそんな長い橋を造る技術が無かった。
 ああ無論、領内では、である。
 王都から職人を呼べば造れるが、それには莫大な費用がかかる。

 そして木造で造ったが、魔法を撃ち込みやがった。
「ほら燃えたじゃないか。どうせ木製は数年で駄目になるし。やはり橋は石じゃないと駄目だろう」
 嬉しそうに報告をしてきた。
 そのため伯爵は、当然だが男爵に費用を負担させたことがある。

 そう彼は、真面目なバカ。
 その一件で恨んでいたのか、スキル無しと強固に拘り、周囲の者達もそれに賛同をした。

「では卿は、それ以外に我が領発展の構想があると言われるのだな。それなら述べなさい」
 当然会議中。
 文句をつけるのなら、それに変わるものを言え。
 当然である。

「増税をすればよいこと」
 彼は偉そうに答える。

「どこへ? 何の名目で?」
「それは…… そうだ、通行をする商人から」
 それを聞いて、周りのものまで嘲笑をする。

「そんな事をすれば、噂が広がり、我が領を避けるだろう。先ほど言ったことを、もう忘れたのかね? 隣の領は温泉が出た強みを前面に押し出し、現在領内を通る商人が減ったと言ったはずだ。それで増税をすればどうなるのか分かるだろう。領内の基本的な流通まで潰すつもりかね」

 領内での地産地消が基本だが、それではまかなえない品物。例えば服や鉄製品など領外からの輸入に頼っているものもある。

 商人は、高い税を掛けるなら、うちに来なくとも良いのだ。
 良いものは、他でも売れる。
 古い考えを持つものは、売らしてやっていると考えているようだが、それは違う。

 そして、税というものは、大きく一つかけるのでは無く、広く薄く取らなければいけない。

 道路保全に盗賊対策。
 山林保護…… 最もらしい理由をつけて……
「伯爵。悪いお顔になっています」
「すまない」

 それから、男爵は発言をしたが、ことごとく潰されていく。
 気が付けば領内で、孤立が始まっていた。
「どうしてこうなった……」
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