46 / 97
第三章 初等部
第46話 新年
しおりを挟む
地上へ出て、わらわらと残っているモンスター達を退治する。
探索者達や、駆けつけたのか兵達が掃討を行っていたため、大規模魔法では無く、普通に剣で倒していく。
それでも、小さな子どもが行うそれとは違い、十分に目立つことになる。
「おいあれ、何者だ?」
「さあ、探索者じゃ無いだろ。あの年じゃ見習いにもなれん」
こそこそと逃げていたが、もうモンスターよりも人の方が多い。
どうしたって、この地獄のような所で、子どもは目立つ。
一通り掃討して、剣を収納し、とぼとぼと歩く。
へたれなマッテイスが、追いついてこないからだ。
「おおい。チビ。どうしたこんな所で」
人の悪そうな探索者に見つかる。
「えっと、モンスターに追われて」
それだけ言うと勘違いをしてくれた。
どう見たって、普通の平民。
武装などしていない格好。
そして何より子どもだ。
「もう仕事は終わった。もうすぐ暗くなるから家へ来い」
「ええと。多分大丈夫だから」
「なんだよ。ガキが遠慮すんな」
そこへ女の人がやって来る。
「お兄ちゃん。その子どうしたの?」
お兄ちゃんだと。シンは衝撃を受ける。
「モンスターに追われて迷子のようだ」
「ふーん。平民ね。かわいい。家が近くなのおいで。暗くなるとモンスターも獣も出るわよ」
彼女はしゃがみ、目線を合わせて話しかけてくる。
しかし、お兄ちゃん?
こいつと、兄妹?
ああ、父親でも違うのか?
ひょっとすると母親も?
そんな失礼なことを考える。
兄の方は、どう見たってオークだ。
妹は、美人ではないが、かわいい感じで悪くない。
「おおい、シン。まってくれ」
ヘタレが来た。
「なんだあんた。この子の保護者か。もう暗くなる。あんたも来い」
疲れていたマッテイスは、あっさりと受け入れてしまう。
兄妹は近くの村。
入り口付近の掘っ立て小屋に住み、守衛みたいな事をしつつ探索者をしている様だ。
過去に村は、大規模盗賊により襲われたようで、遠征から帰ってくると、知っている者が居なくなっていたそうだ。
たった数ヶ月の事。
親の遺体もないまま、墓だけを造ったそうだ。
兄は、ダリル二十歳位。
妹は、イーダで、十七歳位。
小屋の中は、十畳ほど。
床もなく土間。
殺風景で、適当に造ったテーブルが一つ。
水瓶が座る台所。
床より少し高いベッドが一つと、その上に敷かれた藁。
二人で抱き合ってねてるのか?
一つしかないベッドに、余計なことを考える。
だがまあ、聞けば妹は怖がりで、一人だと泣くのだそうだ。
そんな物は、何時の話か知らないが、話の流れで子どもは作るなと言っておく。
そう、家に入ったが、食料もまともになく、この暮れに超貧乏で、遠征用の携帯食を囓っていた。
誘ってくれた気遣いは嬉しいが、この状態を見ると、こちらが気を使ってしまう。
そこでシンが、開き直る。
「まあ食え」
材料を出しつつ料理をふるまい、マッテイスがごねるため、酒を出す。
そして、泣きながら飲み食いする兄妹と、色々話をした。
なかなか、厳しい生活のようだ。
酒が進んでくると、お前も飲めとか言い出すオーク。流石のシンも体に悪そうだから、酒を我慢をした。
翌朝、二人が起きると、シン達の姿は無く、朝食と数枚の金貨が積んであった。
夜半になってからさらけ出した、シンの迫力と物言い。そして説教。
きっと子どもの姿を取った神様だと納得をして、その年は幸せな年越しをした様だ。
そして数年後、妹にそっと教えた魔力操作により、彼らは大成する事になる。
「うう寒い。もう掃除するところなどないだろ」
学園内は、シンの魔法により、ピカピカになっていた。
「一応明日は、年越しの式典をする様だ。その準備があると班長のアビントンが言っていただろうが」
「えー」
そういえばこいつ、わしが来るまで、仕事が出来ないろくでなしだったな。素だったのか。
そう学園でも、一応新年のイベントがある。
ささやかにふるまわれるごちそうは、平民の職員にとって嬉しい物らしい。
こうしてゆったりと新年を迎えた学園。
その頃、学園都市アルフィオから遠く離れた武の名門貴族シュワード伯爵家。
ここでも例年通り、当主ロナルド=シュワードは例年通り、代官などを招いて年越しの宴を執り行っていた。
例年と違うのは、七歳となった娘ヘルミーナが会場に現れ、社交界へとデビューをしたこと。
奥方のアウロラと共に会場に現れたが、薄青いドレスを纏い、にこりともせずただ周りに冷気を放っていた。
同世代の男の子が、親にせかされダンスに誘えと言われるが、皆尻込みをして、彼女に近付くことは出来なかった。
数年ぶりに、姿を現した養子のヴィクトルは、なぜか彼女と目を合わそうともせず。父親をせかし、挨拶参りを始めようとする。
「ここは我が家。伯爵家当主は、挨拶に出向くのではなく迎えるのだ」
そう言われて、彼は絶望的な顔をし、気が付けば体が細かに震えていた。
この一件から、ヘルミーナが浮かべた笑みは、氷の微笑と噂が立つ。
「お嬢様、わたくしと踊っていただけますか?」
無理矢理、誘いに来させられた子どもが一人。
表情を変えなかったヘルミーナはそちらを一瞥し、愛想笑いを浮かべる。
目は相手を射貫く様に冷たく、口元の口角だけが半月のようにつり上がる。
その表情は、普通の子弟では太刀打ちできず、心を折る。
折りまくる。
「御父様、駄目です。わたくしでは彼女をダンスには誘えません」
そう言って泣き出してしまう。
それは、シンには、絶対見せない姿。
シンの前では、朗らかな小春日和のような笑みを浮かべ、猫のようにまとわりつく姿を見せる彼女。
シンは、ヘルミーナの距離感とそんな姿に、悪い男に騙されたりいたずらをされることを、心配していた。
男は、絶対女の本性を見る事が出来ないことを、親しい者だけが理解をしていた。
探索者達や、駆けつけたのか兵達が掃討を行っていたため、大規模魔法では無く、普通に剣で倒していく。
それでも、小さな子どもが行うそれとは違い、十分に目立つことになる。
「おいあれ、何者だ?」
「さあ、探索者じゃ無いだろ。あの年じゃ見習いにもなれん」
こそこそと逃げていたが、もうモンスターよりも人の方が多い。
どうしたって、この地獄のような所で、子どもは目立つ。
一通り掃討して、剣を収納し、とぼとぼと歩く。
へたれなマッテイスが、追いついてこないからだ。
「おおい。チビ。どうしたこんな所で」
人の悪そうな探索者に見つかる。
「えっと、モンスターに追われて」
それだけ言うと勘違いをしてくれた。
どう見たって、普通の平民。
武装などしていない格好。
そして何より子どもだ。
「もう仕事は終わった。もうすぐ暗くなるから家へ来い」
「ええと。多分大丈夫だから」
「なんだよ。ガキが遠慮すんな」
そこへ女の人がやって来る。
「お兄ちゃん。その子どうしたの?」
お兄ちゃんだと。シンは衝撃を受ける。
「モンスターに追われて迷子のようだ」
「ふーん。平民ね。かわいい。家が近くなのおいで。暗くなるとモンスターも獣も出るわよ」
彼女はしゃがみ、目線を合わせて話しかけてくる。
しかし、お兄ちゃん?
こいつと、兄妹?
ああ、父親でも違うのか?
ひょっとすると母親も?
そんな失礼なことを考える。
兄の方は、どう見たってオークだ。
妹は、美人ではないが、かわいい感じで悪くない。
「おおい、シン。まってくれ」
ヘタレが来た。
「なんだあんた。この子の保護者か。もう暗くなる。あんたも来い」
疲れていたマッテイスは、あっさりと受け入れてしまう。
兄妹は近くの村。
入り口付近の掘っ立て小屋に住み、守衛みたいな事をしつつ探索者をしている様だ。
過去に村は、大規模盗賊により襲われたようで、遠征から帰ってくると、知っている者が居なくなっていたそうだ。
たった数ヶ月の事。
親の遺体もないまま、墓だけを造ったそうだ。
兄は、ダリル二十歳位。
妹は、イーダで、十七歳位。
小屋の中は、十畳ほど。
床もなく土間。
殺風景で、適当に造ったテーブルが一つ。
水瓶が座る台所。
床より少し高いベッドが一つと、その上に敷かれた藁。
二人で抱き合ってねてるのか?
一つしかないベッドに、余計なことを考える。
だがまあ、聞けば妹は怖がりで、一人だと泣くのだそうだ。
そんな物は、何時の話か知らないが、話の流れで子どもは作るなと言っておく。
そう、家に入ったが、食料もまともになく、この暮れに超貧乏で、遠征用の携帯食を囓っていた。
誘ってくれた気遣いは嬉しいが、この状態を見ると、こちらが気を使ってしまう。
そこでシンが、開き直る。
「まあ食え」
材料を出しつつ料理をふるまい、マッテイスがごねるため、酒を出す。
そして、泣きながら飲み食いする兄妹と、色々話をした。
なかなか、厳しい生活のようだ。
酒が進んでくると、お前も飲めとか言い出すオーク。流石のシンも体に悪そうだから、酒を我慢をした。
翌朝、二人が起きると、シン達の姿は無く、朝食と数枚の金貨が積んであった。
夜半になってからさらけ出した、シンの迫力と物言い。そして説教。
きっと子どもの姿を取った神様だと納得をして、その年は幸せな年越しをした様だ。
そして数年後、妹にそっと教えた魔力操作により、彼らは大成する事になる。
「うう寒い。もう掃除するところなどないだろ」
学園内は、シンの魔法により、ピカピカになっていた。
「一応明日は、年越しの式典をする様だ。その準備があると班長のアビントンが言っていただろうが」
「えー」
そういえばこいつ、わしが来るまで、仕事が出来ないろくでなしだったな。素だったのか。
そう学園でも、一応新年のイベントがある。
ささやかにふるまわれるごちそうは、平民の職員にとって嬉しい物らしい。
こうしてゆったりと新年を迎えた学園。
その頃、学園都市アルフィオから遠く離れた武の名門貴族シュワード伯爵家。
ここでも例年通り、当主ロナルド=シュワードは例年通り、代官などを招いて年越しの宴を執り行っていた。
例年と違うのは、七歳となった娘ヘルミーナが会場に現れ、社交界へとデビューをしたこと。
奥方のアウロラと共に会場に現れたが、薄青いドレスを纏い、にこりともせずただ周りに冷気を放っていた。
同世代の男の子が、親にせかされダンスに誘えと言われるが、皆尻込みをして、彼女に近付くことは出来なかった。
数年ぶりに、姿を現した養子のヴィクトルは、なぜか彼女と目を合わそうともせず。父親をせかし、挨拶参りを始めようとする。
「ここは我が家。伯爵家当主は、挨拶に出向くのではなく迎えるのだ」
そう言われて、彼は絶望的な顔をし、気が付けば体が細かに震えていた。
この一件から、ヘルミーナが浮かべた笑みは、氷の微笑と噂が立つ。
「お嬢様、わたくしと踊っていただけますか?」
無理矢理、誘いに来させられた子どもが一人。
表情を変えなかったヘルミーナはそちらを一瞥し、愛想笑いを浮かべる。
目は相手を射貫く様に冷たく、口元の口角だけが半月のようにつり上がる。
その表情は、普通の子弟では太刀打ちできず、心を折る。
折りまくる。
「御父様、駄目です。わたくしでは彼女をダンスには誘えません」
そう言って泣き出してしまう。
それは、シンには、絶対見せない姿。
シンの前では、朗らかな小春日和のような笑みを浮かべ、猫のようにまとわりつく姿を見せる彼女。
シンは、ヘルミーナの距離感とそんな姿に、悪い男に騙されたりいたずらをされることを、心配していた。
男は、絶対女の本性を見る事が出来ないことを、親しい者だけが理解をしていた。
3
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜
k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」
そう婚約者のグレイに言われたエミリア。
はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。
「恋より友情よね!」
そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。
本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
異世界転生したら何でも出来る天才だった。
桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。
だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。
そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。
===========================
始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる