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第三章 初等部

第28話 帝都の異変

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「もう夜なのに、空が明るいわね」
「おかげで、君の体がよく見える」
「もうっ。あなたったら。えっち」

 一応、住人には重要な実験を行うと通知はされていたが、内容は秘匿されていた。
 そのために、なんだか夜なのに明るいと、人々が気にする。

 ガラスなどを窓に使っているのは、金持ちだけなので、家の中には居れば一般の民には関係ない話。
 ろうそくを灯す必要が無くて、ありがたいくらい。
 
 だが、それでも一晩二晩と続くと、やはり不安になってくる。
 そして、発熱をしはじめる者達が出てきた。

「あんた、大丈夫かい?」
 人の良さそうなおばさんが、道に倒れている若い男の様子をうかがい、コイン入れを盗んで、そそくさと離れる。

「おっ。意外と持っているじゃないか」
 袋の口を開き、中を見てほくそ笑む。
「せっ…… かえせっ」
 振り向くと、さっきの若い奴が、起き上がっている。
「ちっ。何を返せって?」

 次の瞬間。
 彼は一瞬で目の前へ移動をしてきて、おばさんの腕ごと彼の爪により切り裂かれる。コイン入れが、ガシャッと音を立て地面へと落ちる。

 あまりに切れ味が鋭く、おばさんは、何かが腕に当たったくらいにしか、感じなかったようだ。
 やってくる痛みと、噴き出す血。
「ぎゃああぁ。何をすんだい」
 あわてて腕を拾い、土が付きジャリジャリだが、気にせずにくっ付けようとする。
 だが人間の体は、そんなに便利な作りになっていないようだ。
「これじゃあ、仕事が出来……」
「やかましい」
 そう言って、彼は手を振るったのだろう。

 それは、常人には見えなかった。
 自身の動きにより、彼自身の筋肉は、せん断や断裂を起こした。
 だが、あっという間に修復をされ。元よりも強化される。

「ああ、畜生。帝都も物騒だな。油断も隙もあったものじゃない」
 その若者は、ぶつぶつと言いながら、その場を離れていく。
「妹の結婚祝いを買わないといけないのに。しかし…… 何を買えば喜んでくれるだろう」
 そんな事を言いながら……

 そして、帝都近くの街道では、人々が溜り騒いでいる。
 道の真ん中。そこに見えない何かがある。
 夜ならば、光っているために分かるが、昼間だと気を付けないと見る事が出来ない。

「これで、三日目だ。一体どうなっているんだい?」
「おらの売り物が、もうだめだ」
 行商の人間達。
 生鮮物は、日持ちが厳しいのだろう。

 だが、彼らはその日。
 見えない壁がある事を喜んだ。

 近くの森から、デスベアー。そう、モンスターがやって来た。

 それは良い。よくある事だ。
 壁の外側では、壁がある事に安堵をする。
 だが向こう側では、人々が逃げ惑う。
 その中で、探索者達が動き始める。
 依頼を受けて、付いてきていた連中。

 身なりと装備を見ると、余りたいした連中ではないと、壁のこちら側では判断をした。
 これから起こるだろう、むごい有様を想像をして、つい目を伏せる。
 だが、そのボロい刀が、三メートルもあるモンスターを両断する。
 切った本人達は、体調でも悪いのかふらついている。

 近くで商人らしき男が、モンスターの返り血を浴びて、げはげはとえずいている。
 モンスターの突進に驚き、口を開けていて、血をかぶったために飲んだのだろう。

 商人は跪き、うつむいて何かをしている。
 だがその後、いきなり服がはじけて、角が生える。
「なんだありゃ?」
 どちらかと言うと小柄だった男。
 変化をしながら、モンスターにすがりつき、喰らい始めた。
 それと共に、体は大きくなり肌の色が黒くなってくる。

「ありゃあ、オーガじゃないか?」
 衝撃の事実。
 目の前で人がオーガへと変化をした。
 そいつは、凶悪で強かった。

 充満をしてきた魔素と、モンスターの体液。
 本当にたまたまの事故だが、それを摂取をして、急激な変化を起こしてしまった。
 人々の常識から外れた事実。
 そんな事が、人々の目の前で起こってしまった。
 それは情報として記録される事になる。

 だが大多数は、緩やかに魔人へと進化をした。

 そんな混乱の中、ダンジョンからモンスターが湧き始めた。

 施設自体が、ミスリル化されて偶然とはいえ、強化され耐えているが、とっくに設計性能は越えている。
 シールド内に、たまり続ける魔素。
 高濃度の魔素を変換して、シールドは強化され、聖魔法が降りそそぐ。
 魔人化した者達が居る一方、聖魔法に反応して変化をする者が現れた。

 あるものは翼を持ち、魔素を吸収をして、あふれ出した聖的な光が、体からにじみ出て光る。
 ただ、変化による影響か、体から色素が抜ける。
 だが、その目は赤ではなく、金色に輝く。

 同じく、魔素に特化した者にも、翼が生えた者達が現れる。
 なぜか目は赤く、体は強化されて黒くなっていく。

 後に分かるが、両者は数百年以上の時を生きる事になる。
 そして強かった。

 施設が、耐えきれず自壊をしたとき。
 シールド中に居た人は、白か黒。どちらかのタイプに変化をしていた。
 事故による、強制的な生物としての進化が発生。
 女神の望んだ、高位の魂を持った生物が発生をした。

 その者達は、お互いに手を組み、ダンジョンからあふれ出たモンスター達を倒していく。
 どうやら、変化の具合によって強さも違う様だ。

 どちらも、翼を持つ者が最上位。

 その日から、イングヴァル帝国内では動乱が始まった。
「低位の種族は、下がって貰おう」

 強制的な皇帝の退位。
 各地を治める、王達の追放。

 そして、白きものと黒きもの。
 互いの意見が割れ、国は二分されていく。


「そんな感じで、帝国はしばらく危険ですね」
「そうか。種族的変化のう。ありえる話ではある。遺伝子の変異か……」
「はい? 遺伝子?」
「ああ、体の中に設計図があるのじゃよ」

 そう語るシンの横で、渡されたメモを見ながら、マッテイスはぷるぷるしている。
「えーと、シン。ディビィデ山脈の廃坑に、倒せなかったモンスターを封じたって、なんですかこれ?」
「ああ、質が悪くてな。多分スライムの変種だと思うが、倒せなかったのだ。わしらも若かったしなぁ」
 スライムの亜種。
 そいつは、女性を襲う。
 だが、殺す事はしない。

 食事として、人間の出す体液をむさぼる。
 解放された女性は、再び捕まりに行く。
 捕まっているとき、それはもう、ものすごく気持ちが良いらしい。

 依頼を受けて、退治をしに行って、丁度その食事中を見てしまった。
 そう、じっくりと……
 彼らはどうしても、そのスライムを殺す事が出来なかったそうだ。
「流石に、もう死んだじゃろ」
「そうですかねぇ。それと、勝手に宝剣を持ち出して、壊したって……」
「時効じゃ……」
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