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第三章 初等部

第23話 実力考査

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 学園で、新学期早々開催されるモノ。
 それは、実力考査。

 貴族としての常識。
 挨拶などの振る舞いと、マナー。
 振る舞いの中には、ダンスなども入る。
 そして、計算や王国法。
 
 本来、伯爵家のヘルミーナならば、家庭教師でもよかったのだが、やはり学友が大事だと、両親は考えた。
 それも大きくなって、損得が入ってくる関係ではなく友人。そう幼馴染みを作りなさいと、送り出された。

 そのためには、スキルを持ったばかりのにわか貴族の居る、下級クラスでは駄目。論外。
 理想は、上級クラス。

 まあ、幼い時から、家庭教師により、ある程度は教育を受けている。
 問題は無いだろう。

 だが、それとは対照的な者が居る。
 貴族の姉弟にしてはおもしろい事だが、表情が無くなっている同居人。
 寝言の一件で、すっかり仲良くなったが、彼女は自由奔放な生活を行っていて、真面目には習っていなかったようだ。

 そう、彼女にも幼い頃から、家庭教師は付いていた。
 だが彼女にとって、それよりも、遊びが勝った。
 それだけの事。
「上級の三クラスに入れなかったら、どうしよう……」
「そうですわね。中級と下級は落とした科目によって、一日中みっちりとお勉強が必要なようですわ」
 上級は三クラス。
 中級が四クラス。
 下級七クラス。

 そう、合格した科目は、授業を受けなくて良い。
 そのため、上級などの生徒は、常時お茶会などが執り行われ、それに参加して幅広い人脈を作ることができる。最も侯爵家などは中等部から入学を始めるので、伯爵家のヘルミーナやモニカは同等か下位の貴族との人脈作りとなる。

 つまり、中級クラスに居る者は、多くは準男爵や騎士爵家の人間。
 そして、その中にスキルを得た平民だった者達。その中でも一部の優秀な者達が入ってくる。
 平民だった者達の多くは、下級クラスでみっちりと授業を受ける者達となる。

 魂が抜けたような姿で、試験会場に入り、和やかに出てくるもの、入るときと同じく魂が抜けた顔で出てくるもの。
 泣いている者。
 様々である。

 七歳と言えば、地球で言う新入学の小学生と同レベル。
 仕方が無いだろう。

 平民組など、春の選定から、わずか三ヶ月程度しか経っていない。
 法律? 何それ? ダンス? 何それ?
 そう、聞いたことも、見た事もないことだらけ。
 目標、そして念願だったスキル。それを得れば、終わりではない。
 そこからが始まりだと、やっとここで理解をする。
 当然多くの者は、白紙回答。
 そして、実技では不可が飛び交う。
 無論、貴族達は優か可が多い。
 戦闘実技では、つなぎが重要なのだ。

 こうして彼らは、自分が何も出来ないのだと、実感をさせられて、心を折られる……

「うううっ。ヘルミーナぁ。私駄目かもしれない……」
 ここにも泣いている者が一人。

「全然書けなかった訳ではないでしょ」
「それはそうだけど」
「なら、絶対下級はないわ。あそこの人達、文字も書けない様だし。計算も駄目とか。それにね、法律そのものを知らない様だし。ほら大丈夫」
 フォローをしてみるが、底辺貴族と同じ、中級の可能性は残っている。
 結果は、学園から両親宛に通知が行くはず……

 モニカは絶望に沈んでいく。
「クラス対抗の、サバイバル戦なら無敵なのに……」
 川や野原で走り回り、罠掛けなどは遊びの中で覚えた。

「じゃあ頑張って、お勉強をしましょ」
 にっこりと微笑み、勉強の準備をするヘルミーナ。
「うん……」

 王国法。
『自領が苦しいとき、税収分の何割かを勝手に使用しても、次年度補填ほてんすればよい』
「まる」
 モニカはその瞬間、張り倒される。

 そう、ヘルミーナはうふふな感じでかわいくても、アウロラの娘。
 勉強は体に刻みつける。
 ダンスなどは、武術と同じ。手続き記憶化されるまで、繰り返し覚えるもの。
 手続き記憶とは、自転車の運転とかと同じ物。
 一度覚えれば、ずっと記憶をしている。

「モニカ。今、あなたのせいで、一族が縛り首になったわ。一度献上をして、陳情して再分配を受けるの」
「あううっ。頭が痛い」
「きっと今まで、勉強をしてこなかったせいね。がんばりましょう」
 にっこりと微笑む、ヘルミーナ。

「ちがう。今、分厚い本で、あなた私の……」
 言いかけたモニカを、極寒の荒野に佇んでいるのかと錯覚するような寒さが襲う。

 それは、向けられた冷酷で冷めた視線のせいか、それとも、ヘルミーナから漏れ出した魔力が冷却系の魔法として発動をしたのか……
 まっ、まあ。それは不明だが、モニカの奥歯が、今確かにカタカタと音を立てる。

「次はね。『領内で金が採掘をされました。造ってみたら綺麗に出来たので金貨を造り、自領を発展させた。これは王国の発展のためにも良いことだ』これも簡単よね」
 微笑む、ヘルミーナ。

「まっ。うー。まる」
「死刑」
 また分厚い本がやって来る。
 スキルを発動して、とっさに防御をしようとするが、なぜか防御が出来ずに叩かれる。

「なんでよぉ」
 モニカは、防御が出来ない理由を聞いたが、完全無視で答えを言われる。
「貨幣の作製は、許可を受けた領でしか駄目。それにより発展をしたとしても王国としては貨幣価値が下がったりするし駄目。そもそも金の産出は、報告が必要なの」

 などとまあ、叩かれながら勉強をした。

 だが、初級教育のテストで、そんな問題が出るわけがない。
『王国、貴族憲章第一条を書きなさい』
 あー。貴族は王と王国のために尽力し、清廉潔白であること。
 これだけは、子どもの頃から絶対に教えられる。
 そう貴族ならね。

『他国が攻めてきたとき、自国を守る戦いに、絶対駆けつけるべきか否か』
「守る?」
「辺境伯は別として、王命で動くの……」

 まあ、一般的問題。
 どこかの国が行っている、自動車運転免許のような『青色灯火は絶対に進まねばならない』ハイ、バツの様な、ひねくれた問題など出ない。
 つまり、字を読む事が出来れば、常識の範囲で普通に答えられる問題だった。

 だが今回、モニカは理解をした。
『ヘルミーナは恐ろしい子……』
 きっとこの子は、笑いながら、人を焼くだろう。
 敵になってはいけない。

 あどけない笑顔が、ものすごく恐ろしく感じる……
「うん? どうしたのモニカ?」
 勝手に体が震え始める……

「ありがとう。おかげで、お互いに上級クラスね」
「これから楽しみね」
「ええ……」
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