上 下
16 / 80
第二章 幼少期

第16話 ダンジョンの異常

しおりを挟む
 三十一から三十五階では、火山帯になっている。
 この階へ来て、シンは異常に気が付く。
 他の階に比べて、急激に濃くなった魔素。

「この階じゃな」
 そう言ったら、すぐに異変はやって来た。
 ボス部屋にいるはずの、炎龍フレイムドラゴンが暴れ回っている。

 直ぐ脇にある溶岩の滝。
 その裏に存在する。洞へ向かうのをやめる。

 本当なら、次の三十六階へ行き、氷原で魔素濃度を見た方が良いのだが、明らかな異常を見た以上、必要ないだろう。


 この階は、溶岩など赤熱した石に紛れて、フレイムバードやサラマンダー火トカゲが襲ってくる。体に張り付かれると、それだけで大やけどを負ってしまう。


 体の周りだけ、魔素を冷気に変換をする。
 これにより、周囲の温度を適温にする。

 アイスジャベリンを、暴れ回っている炎龍フレイムドラゴンへと撃ち込む。
 だが意外と丈夫。
 冷気の塊を造り、ぶつける。
 だが、炎龍フレイムドラゴンの方が強い。

「ええい面倒だ」
 今回は仲間が居ないため、波状攻撃で沈静化させることが出来ない。

「冷気で駄目なら。ほい」
 意外とシンは短気だったようだ。

 でかい水球を炎龍フレイムドラゴンにぶち当てる。
 そう、こんな事をすると、何が起こるのか。十分に知っている。
 知識的にも、経験的にも……

 経験は、昔の仲間。エルナ=ミカエラによって、強制的に積まされた。
 あの女だけは本当に…… 何度皆が死にかかったか。
 おかげで、通ってきた近道を知ったのだが。

 初めてこのダンジョンへ来て、六階へ来たとき。
「きっと、幻だよ」
 そう言って、あろうことかレジアスを、崖に向かって突き飛ばした。
 崖下へ落ちるときの、レジアスがした絶望的表情……
 悪いが笑っちまった……

 あの二人が結婚をした時は、何の冗談かと思ったよ。

 そんなことを思い出しながら、体を完全に包み込むシールドを張る。

 熱せられた水は急激に水蒸気となり、一気に膨張して体積が約一千七百倍にもなる。それはこの空間を、爆発的に広がる。
 気圧も上がり、強風が吹き渡る。

 炎龍フレイムドラゴンも驚き、溶岩内へ落下をする。
 粘性のある業火の川で泳いでいるが、溶岩中で生きられないのは知っている。

 耐熱性ならフレイムバードやサラマンダー火トカゲの方が強いのかもしれない。
 もう数発。体に当てるように水の塊を落とす。
 徐々に、沸騰の仕方が緩やかになり、色も黒く落ち着いてくる。
 冷めてきたようだ。

 周囲にいたフレイムバードや、サラマンダーもダメージを受けたようで、空間や壁から剥がれて落ちる。
 その後も、せっかく少し冷めた空間だし、気温を下げながら下っていく。

「妙に活性化をした火山は、何が原因だ?」
 気を付けながら歩いていると、目の前は燃えさかる池になり先に進めなくなってしまった。
 こんな事は、ダンジョンでは起こりにくい。

 すると、見たことないモンスターが湧いてきた。
 炎のヒュドラっぽい。
 多頭の蛇。
 それも、マグマの中で存在をしている……

「変異種か?」
 また仕方が無いので、全体を冷ましていく。
 そう。マグマの溜まりに対して、水球をぽんぽんと投げる。

 水を創っては投げ、創っては投げ。

 だが固まると、水位というのか、活性化して流れの多い溶岩が、その上に流れ込んできて、マグマの高さが積み上がっていく。そうここは、言わば河口部分。
 これはどう考えてもやばいし、蛇の頭も、壊れた端から復活をしてくる。

 倒すには、マグマ中の本体を攻撃?
 どうやって……
 一度、外に出ていた五本の頭。すべてを破壊をしたが、あっさりと復活された。

 思い出す。
 ここは、元々マグマ溜まりの池だったが、もっと規模は小さかったはず……
 下へ降りる道筋の脇。
 頭の中で記憶を呼び覚まして、位置を決める。

 詰まっているのが異変だとして、ダンジョンが流れを管理しているならどうする。
 マグマが循環をしていて、戻ってくる所に、流れ込んできている量が少ない。これはおかしいとなった場合。
 流れている量が少ないのなら…… だから、ダンジョンは素直に噴火量を増やした?

「うーん。安易だが。冷ましても駄目なら、熱してみよう。こいつがどのくらいまで、熱い風呂に耐えられるのか」

 マグマ溜まりの池。表面ではなく、溶岩内部くらいで、火球を創る。
 自身だけではなく、周囲の魔素を集めてつぎ込み、熱へと変えていく。
 エメリヤンだか、ノエルが言っていた。

 熱を加えるのは、物質が自由に動けるようにすること。
 ただ物によって、その限界はある。
 普段動ける生き物は温度が低く、動かないモノは高い温度で。

 そんな事を言っていた。
 今回、なんだか知らぬが頭の中に増えた知識。物質を構成しておる繋がりによって、それが決まっておるそうじゃ。
 固体、液体、気体。
 金剛石は、固体から気体へと変化するそうじゃ。

 火球へ周りの空気。
 その中でも、酸素と呼ばれる燃えるモノ。いや、燃えるという反応を補助するモノを、選択的に送る。
 とうとう、炎は普段見る赤ではなく青く輝き、周囲がドロドロに溶け始めてきた。
 流れの動きを見ても、普段よりもさらさらになってきた。

 もっと高い温度。もっと、もっと……

 中にいた、ヒュドラもどきが、暴れ始めた。
 シールドは、破れた瞬間に死ぬな。
 そちらにも気を付けながら、魔素を魔力としてコントロールする。
 気に入ってくれたなら、湯加減をもっと上げてやろう。

 火球だった物は、いつの間にか棒状の渦になってくる。
 わしから伸びる、竜巻。
 溜まった池に突き刺しながら、燃える元。
 酸素を、その筒の中を通して送る。

 先端では、青い炎が周囲を融かし、奥へ奥へと進んでいく。

 気のせいか頭痛がして、渦に向けている手の先から、指とかがなくなり、自分の体が崩れ始めたんじゃが…… これは、幼い体の限界かのう……
 そう、魔素の強引な流れ。魔力へと変換して、やったことが無いほどの、超高温の魔法。

 それは、頭の中に知識としてはあるが、きっと人間の扱える限界を超えていた。
 ダンジョン制御のために、高濃度になっていた魔素。
 それをほぼ使い切りながらの魔法。
 それも、連続使用。

 タングステンの融点である三千四百二十二度を超え、ダイヤモンドの融点三千五百四十八度に迫っていた。
 四千八百度を超えれば、ダイヤモンドは昇華してしまうといわれている。

 そこに至るまでに、彼の幼い体は分解を続けていく。
 そして、シールドが限界近くなり、輻射熱が体を襲い始める。

 シールドの強化に、体の再構築。
 そして、此処で熱するのをやめれば、元の木阿弥。

 その炎は、やっとヒュドラもどきの体ごと、溜まりの底を撃ち抜いた。
 その瞬間に、粘性の低くなっていた溶岩は、地中へと一気に流れ込んでいく。

「どわー…… 死ぬかと思った」
 そう言った彼は、顔まで焼けただれて、まるでリッチのようだった。

 問題は、服が焼けてしまったこと。
 亜空間庫に替えの服は持っているが、今回の遠征用は兵装としておそろい。燃えた一着しか持っていない。
「あーこれは…… 叱られるかなぁ」
 今回の遠征には参加していないが、頬を膨らませるヘルミーナの顔が脳裏に浮かぶ……

「おにいちゃま。メッです……」
 そして背後から聞こえる、「娘に心配をさせたわね」とまあ、怖そうな声が……
 そんな想像をしながら、頭を掻く。
 すると、炭となった髪の毛が、周囲に散らばる。

 彼は頭をかきながら、周囲の温度が安定し始めたダンジョンを、上階へ向けて歩き始める。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

剣しか取り柄がないという事で追放された元冒険者、辺境の村で魔物を討伐すると弟子志願者が続々訪れ剣技道場を開く

burazu
ファンタジー
剣の得意冒険者リッキーはある日剣技だけが取り柄しかないという理由でパーティーから追放される。その後誰も自分を知らない村へと移住し、気ままな生活をするつもりが村を襲う魔物を倒した事で弓の得意エルフ、槍の得意元傭兵、魔法の得意踊り子、投擲の得意演奏者と様々な者たちが押しかけ弟子入りを志願する。 そんな彼らに剣技の修行をつけながらも冒険者時代にはない充実感を得ていくリッキーだったのだ。

【R18】15分でNTR完了

あおみなみ
大衆娯楽
乗り込みますか? かわいいカノジョと半同棲中の大学生の「僕」 買い物をして部屋に戻ってきたとき、キッチンの小窓から聞こえた声とは…

お願い縛っていじめて!

鬼龍院美沙子
恋愛
未亡人になって還暦も過ぎた私に再び女の幸せを愛情を嫉妬を目覚めさせてくれる独身男性がいる。

スキルが生えてくる世界に転生したっぽい話

明和里苳
ファンタジー
物心ついた時から、自分だけが見えたウインドウ。 どうやらスキルが生える世界に生まれてきたようです。 生えるなら、生やすしかないじゃない。 クラウス、行きます。 ◆ 他サイトにも掲載しています。

女性のオナニー!

rtokpr
青春
女子のえっち

白い結婚を夢見る伯爵令息の、眠れない初夜

西沢きさと
BL
天使と謳われるほど美しく可憐な伯爵令息モーリスは、見た目の印象を裏切らないよう中身のがさつさを隠して生きていた。 だが、その美貌のせいで身の安全が脅かされることも多く、いつしか自分に執着や欲を持たない相手との政略結婚を望むようになっていく。 そんなとき、騎士の仕事一筋と名高い王弟殿下から求婚され──。 ◆ 白い結婚を手に入れたと喜んでいた伯爵令息が、初夜、結婚相手にぺろりと食べられてしまう話です。 氷の騎士と呼ばれている王弟×可憐な容姿に反した性格の伯爵令息。 サブCPの軽い匂わせがあります。 ゆるゆるなーろっぱ設定ですので、細かいところにはあまりつっこまず、気軽に読んでもらえると助かります。 ◆ 勢いで書き始めたら予想より長くなってきたため連載形式にしました。見切り発車ゆえ不定期更新です。

私を狙う男

鬼龍院美沙子
恋愛
私はもうすぐ65になる老人だ。この私を欲しがる男が告白してきた。

【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。

紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。 アルファポリスのインセンティブの仕組み。 ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。 どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。 実際に新人賞に応募していくまでの過程。 春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)

処理中です...