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第二章 幼少期
第15話 ダンジョンへ
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そんな、モンスターにしてみれば、理不尽な攻撃を受ける。
その後、その子は男爵に伝える。
「ちょっと、わしは中へ入って止めてくる。此処で居ても、原因が落ち着かんと止まらんじゃろう」
「原因?」
「ああ。今回の氾濫の元。それが何か分からんが治めてくる、皆は上がってきた小物をたのむ」
そう言って、その子は歩き始める。
「おい、やばくないか?」
「だがあの強さ、俺達が行っても……」
「バカねえ。あんな小さな子が行くのよ」
「かといって、俺達じゃあ、あのミノタウルス相手に苦戦したぞ」
「それはそうだけど…… 私。付いて行く」
そう言って、マティルダが走って行ってしまう。
「仕方ない。行くぞ」
ホアキンがそう言うと、皆は腰を上げる。
探索者チーム『ドラゴンダンジョンの守人』は金級のチーム。
スラム出身ではなく、二十三歳のホアキンが一つ下のブレトンと共に農村からやって来て、チームを組んだ。
そこに、別の村から来たホルヘ。今十九歳が加わる。
そして、仲間が死んで困っていたマティルダとリーディエが加わった。マティルダは二十一歳で、リーディエは一つ下。
なんと、この二人はスキル持ち。
二人とも騎士爵家の、次女。
親が決めた、いやな結婚から逃げた……
表へ回り込むと、ダンジョンの入り口と、戦っている場には、二メートルくらいの隙間があった。
「中へは入らないのか。ふぬけた奴らじゃ」
そういって、シンはずんずんと中へ入っていく。
まだ本格的に追われていないのか、エンカウント率は十秒に一匹程度。
弱いゴブリン達は、ジャマだとばかりにオーク達に投げられている。
「こんな所で、オークが蓋をしておったのか。ではさっきの下からの奴らはどこから来た?」
そう言うとシンは、魔力の流れを見る。
記憶では、行き止まりだった通路。
「一階には、ゲートはなかったはずじゃが……」
そちらから、高濃度の魔素の気配。
「こっちか」
ずんずんとそちらへ進む。
「あそこ曲がったぞ」
「何ちゅう足だ。追いつけん」
ホアキン達がぼやきながら走る後を、張り切って付いてきたマティルダ。そしてリーディエはすでに息が上がってきている。
「あの子。本当に子どもなの?」
「やっぱり、デーモンなのよ」
デーモンとは伝承のモンスター。
他のモンスターとは違い、賢く。人を騙して悪の道へ誘うとか……
すると、ホアキン達が立っている先には、光の壁。
「どうしたの?」
「あのちびっ子は、入っちまった」
「じゃあ行かなきゃ」
「待てよ」
通せんぼをするために、ホアキンが背中を向けたまま、後ろを見ずに真横へと伸ばした左手。
むにゅっと、前進をして来たマティルダのどこかを握ってしまった。
「うん? 何だ?」
もう一度、確認するために、むぎゅっと……
それに答えるように、マティルダから無言の攻撃がやって来る。
おそらくは、拳術の一が躊躇なくやって来た。
ボデイに一発。そして顔面に一発。拳術の一かと思ったら二だったようだ。
崩れ落ちながら、ホアキンは考える。
的確に、急所をえぐったボディブロー。
うーん。やはり拳術の一で、もう一発は単なる体術かもしれない。
当たった瞬間に、そういえばスキルとは違う、拳のひねり込みがあった。
「あれは、マティルダの実家の技。流星拳ではないのか?」
あまりの威力に、殴られた者は、昼間に星を見るらしい。
「ほら気を失ってないで。行くわよ」
そう言って、リーディエに光の中に引っ張り込まれる。
すると、さっきとは違う、魔素の濃さ。
「これは階が変わったな」
ブレトンが景色を見ながらそう言うと、横から声が聞こえる。
「そんな事は、見た瞬間に判っているわよ。ほらあそこ。行くわよ」
そう言いながら、彼女達はすでに走り出していた。
氾濫の初期。徐々に各階層の魔素濃度が上がる。
そしてある点を超えると、モンスター達が大量に湧き始める。
シンが降りた所を覗き込むと崖。
「こんな所を降りていったの?」
「おい。そんなに長いロープは持っていないぞ」
ホルヘがザックを下ろしながら答える。
杭を打って、ロープを結び降りてみる。
「おおっ。此処オーバーハングになっているが、洞穴がある」
ブレトンが降りて確認をすると、穴の上部が屋根のように少し張り出して、上からは穴が見えないようになっていた。
「どうしてこんな通路を知っているの? やっぱり彼……」
リーディエが勘ぐる。
「まあ良い。行くぞ」
そうして走り出すと、洞は二十メートルも行けば行き止まりで、やはり壁が光っている。
「いくぞ」
飛び込めば目の前には、鬱蒼としたジャングル。
どこからともなく、モンスターの叫び声。
体を襲う湿気と、ムンとする気温。
「ここは、いつもそうだな……」
記憶のある階層。
「あっち」
マティルダは木が折り重なる洞を指さす。
もう完全に息が上がってきて、やばそうだが……
頑張る。
いつもに比べて、かなり周囲の魔素濃度が高い。
木が折り重なる洞の奥には、空間がありそこに光る壁。
もう気力だけで付いて行く。
光に飛び込むと、いきなり涼しくなり、打ち寄せる波と水辺。
風の感じで、湖だと分かる。海じゃない。
「何処へ行ったの?」
キョロキョロするが、見失ってしまった。
木の洞を降りる際、ムカデが居て。
リーディエが騒ぎ、降りるのに時間がかかった。わずかな時間だったが……
「周囲にきっと、同じ様な穴があるはずだ。探すぞ」
彼らが探す水際。走り回る彼らの足下にそれはあった。
ちょっとした崖になっていて、二メートルほどの高さ。水面から横に伸びる洞も一見すると、深そうな水だが、洞の中は三センチほどの深さで歩けるようになっていた。彼らはまだ、気が付いていないが……
ためらわず歩いて行くシン。
彼は過去の記憶で歩いていた。
千年もの昔。仲間達と共に攻略をした記憶。
ダンジョン内部は、変わっていないようだ。
「ぎゅわぁ。おおぉん」
どこかで、海龍だか水竜が鳴いている。
ここは、ブレトン達。彼らにとって未踏の十六階。
大抵の者達は、十一から十五階の森林地帯で苦戦をする。
それに素材を考えると、十階までで事が足りてしまう。
スキル至上主義になった為か、探索者達。いや、人類の力は千年前に比べて落ちたようだ。
その後、その子は男爵に伝える。
「ちょっと、わしは中へ入って止めてくる。此処で居ても、原因が落ち着かんと止まらんじゃろう」
「原因?」
「ああ。今回の氾濫の元。それが何か分からんが治めてくる、皆は上がってきた小物をたのむ」
そう言って、その子は歩き始める。
「おい、やばくないか?」
「だがあの強さ、俺達が行っても……」
「バカねえ。あんな小さな子が行くのよ」
「かといって、俺達じゃあ、あのミノタウルス相手に苦戦したぞ」
「それはそうだけど…… 私。付いて行く」
そう言って、マティルダが走って行ってしまう。
「仕方ない。行くぞ」
ホアキンがそう言うと、皆は腰を上げる。
探索者チーム『ドラゴンダンジョンの守人』は金級のチーム。
スラム出身ではなく、二十三歳のホアキンが一つ下のブレトンと共に農村からやって来て、チームを組んだ。
そこに、別の村から来たホルヘ。今十九歳が加わる。
そして、仲間が死んで困っていたマティルダとリーディエが加わった。マティルダは二十一歳で、リーディエは一つ下。
なんと、この二人はスキル持ち。
二人とも騎士爵家の、次女。
親が決めた、いやな結婚から逃げた……
表へ回り込むと、ダンジョンの入り口と、戦っている場には、二メートルくらいの隙間があった。
「中へは入らないのか。ふぬけた奴らじゃ」
そういって、シンはずんずんと中へ入っていく。
まだ本格的に追われていないのか、エンカウント率は十秒に一匹程度。
弱いゴブリン達は、ジャマだとばかりにオーク達に投げられている。
「こんな所で、オークが蓋をしておったのか。ではさっきの下からの奴らはどこから来た?」
そう言うとシンは、魔力の流れを見る。
記憶では、行き止まりだった通路。
「一階には、ゲートはなかったはずじゃが……」
そちらから、高濃度の魔素の気配。
「こっちか」
ずんずんとそちらへ進む。
「あそこ曲がったぞ」
「何ちゅう足だ。追いつけん」
ホアキン達がぼやきながら走る後を、張り切って付いてきたマティルダ。そしてリーディエはすでに息が上がってきている。
「あの子。本当に子どもなの?」
「やっぱり、デーモンなのよ」
デーモンとは伝承のモンスター。
他のモンスターとは違い、賢く。人を騙して悪の道へ誘うとか……
すると、ホアキン達が立っている先には、光の壁。
「どうしたの?」
「あのちびっ子は、入っちまった」
「じゃあ行かなきゃ」
「待てよ」
通せんぼをするために、ホアキンが背中を向けたまま、後ろを見ずに真横へと伸ばした左手。
むにゅっと、前進をして来たマティルダのどこかを握ってしまった。
「うん? 何だ?」
もう一度、確認するために、むぎゅっと……
それに答えるように、マティルダから無言の攻撃がやって来る。
おそらくは、拳術の一が躊躇なくやって来た。
ボデイに一発。そして顔面に一発。拳術の一かと思ったら二だったようだ。
崩れ落ちながら、ホアキンは考える。
的確に、急所をえぐったボディブロー。
うーん。やはり拳術の一で、もう一発は単なる体術かもしれない。
当たった瞬間に、そういえばスキルとは違う、拳のひねり込みがあった。
「あれは、マティルダの実家の技。流星拳ではないのか?」
あまりの威力に、殴られた者は、昼間に星を見るらしい。
「ほら気を失ってないで。行くわよ」
そう言って、リーディエに光の中に引っ張り込まれる。
すると、さっきとは違う、魔素の濃さ。
「これは階が変わったな」
ブレトンが景色を見ながらそう言うと、横から声が聞こえる。
「そんな事は、見た瞬間に判っているわよ。ほらあそこ。行くわよ」
そう言いながら、彼女達はすでに走り出していた。
氾濫の初期。徐々に各階層の魔素濃度が上がる。
そしてある点を超えると、モンスター達が大量に湧き始める。
シンが降りた所を覗き込むと崖。
「こんな所を降りていったの?」
「おい。そんなに長いロープは持っていないぞ」
ホルヘがザックを下ろしながら答える。
杭を打って、ロープを結び降りてみる。
「おおっ。此処オーバーハングになっているが、洞穴がある」
ブレトンが降りて確認をすると、穴の上部が屋根のように少し張り出して、上からは穴が見えないようになっていた。
「どうしてこんな通路を知っているの? やっぱり彼……」
リーディエが勘ぐる。
「まあ良い。行くぞ」
そうして走り出すと、洞は二十メートルも行けば行き止まりで、やはり壁が光っている。
「いくぞ」
飛び込めば目の前には、鬱蒼としたジャングル。
どこからともなく、モンスターの叫び声。
体を襲う湿気と、ムンとする気温。
「ここは、いつもそうだな……」
記憶のある階層。
「あっち」
マティルダは木が折り重なる洞を指さす。
もう完全に息が上がってきて、やばそうだが……
頑張る。
いつもに比べて、かなり周囲の魔素濃度が高い。
木が折り重なる洞の奥には、空間がありそこに光る壁。
もう気力だけで付いて行く。
光に飛び込むと、いきなり涼しくなり、打ち寄せる波と水辺。
風の感じで、湖だと分かる。海じゃない。
「何処へ行ったの?」
キョロキョロするが、見失ってしまった。
木の洞を降りる際、ムカデが居て。
リーディエが騒ぎ、降りるのに時間がかかった。わずかな時間だったが……
「周囲にきっと、同じ様な穴があるはずだ。探すぞ」
彼らが探す水際。走り回る彼らの足下にそれはあった。
ちょっとした崖になっていて、二メートルほどの高さ。水面から横に伸びる洞も一見すると、深そうな水だが、洞の中は三センチほどの深さで歩けるようになっていた。彼らはまだ、気が付いていないが……
ためらわず歩いて行くシン。
彼は過去の記憶で歩いていた。
千年もの昔。仲間達と共に攻略をした記憶。
ダンジョン内部は、変わっていないようだ。
「ぎゅわぁ。おおぉん」
どこかで、海龍だか水竜が鳴いている。
ここは、ブレトン達。彼らにとって未踏の十六階。
大抵の者達は、十一から十五階の森林地帯で苦戦をする。
それに素材を考えると、十階までで事が足りてしまう。
スキル至上主義になった為か、探索者達。いや、人類の力は千年前に比べて落ちたようだ。
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