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第二章 幼少期
第13話 オイゲン=エルーガー侯爵
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オイゲン=エルーガー侯爵が、今回その異常を知ったのは本当の偶然だった。
息子のオラガが、学園都市アルフィオから、夏休みで帰ってきていた。
屋敷でゆっくりしていたが、後半になり彼は飽きたようだ。ダンジョンへ行きたいとごねて、探索者のチームを雇い、やって来ていた。
そして、当然だが調子に乗り、二階、三階へと降りていく。
安全のために、低級の者達に対して探索階の制限があるが、実際は五階までならたいした事は無い。
だが引率の銀級チーム、『愚者の集い』は、この階で聞いてはいけない足音を聞く。
「しっ。静かに……」
「こんな、浅い階層で何をやってんだよ」
当然、オラガ=エルーガーは、周囲の警戒も探索もしていない。
静かにと言われたのに、声を上げる。
そのため、ヴァイデンとフェラーに押さえ込まれる。
「もがぁうもう」
口を押さえられても、まだ呻く。
「あの足音」
「ああ、ウルフ系だな」
「そうなると、やばいわね」
チームリーダーのレスリーは、躾のなっていないガキを見つめる。
「撤退するぞ」
「もがあぁあ」
撤退と聞いて暴れ出すオラガ。
ペルラに首をきゅっと締められ、落とされる。
パティ達が周囲を警戒しつつ、地上へと帰還。
エルーガー侯爵が取っているホテルの一室に、息子のオラガを放りこみ、部屋に詰めているエルーガー侯爵家の兵士にざっと説明をする。
そして、ギルドへ報告するために、向かおうとするが、止められる。
「他言無用だ」
「しかし……」
チームリーダーのレスリーに、金貨の入った小袋が渡される。
後で確認すると、メンバーは五人なのに、金貨は四枚だけ……
兵まで、小物のようだ。
そうして、エルーガー侯爵家の人間は領地へと引き返し、ダンジョンの異常をオイゲンへと伝える。
それはすぐに、情報の報告と共に、派兵嘆願書が添えられて、宰相の元へと届くことになる。
ギルドが把握したのはわずか二日後だったが、そこから、オルガ=シュゴーデン侯爵へ連絡が渡り、そこから王とへ連絡。
二日の遅れは、影響として大きなものとなってしまった。
派兵された軍達。
その選定には、隊長の意見が通りやすい。
オイゲン=エルーガー侯爵はこれ幸いと、繋がりのある者達を集める。
少数で、数多く。
派兵には、普通、装備や兵糧等、色々と必要なものが必要。
だが、関係する家へと書状を送り、少人数で良いからと命令。
結果的に準備は早く、普通の軍よりも短時間でダンジョン周りへ集合をした。
これは、当然加点となる。
使い物になるかは別の話だ。
オイゲン=エルーガー侯爵はご機嫌だった。
ホテルの部屋から、ダンジョンを望む。
入り口から百メートルの距離を空けて、ダンジョン基本防御の壁がある。
高さは、三メートルで壁の上には、移動しながら兵が矢を放てるように通路となっている。壁の厚みは二メートル。
それが、二枚。
それが抜かれると、街があるが、今まで抜かれたことは無いと言われている。
ダンジョンでの氾濫は、不定期だが、二十年とか三十年の周期でやって来る。
外で起こる氾濫の方が、意外と状況が悪くなり易い。
あっちは発見が遅れる。
気が付けば、町の側までやって来ていて、後手に回ることになる。
さてそんな優雅な侯爵だったが、聞こえてきた声で、ワインのグラスを落としてしまう。
今回の派遣で、初めての氾濫。
警備している兵達が、一気に魔法を撃ち出す。
先ずは揃って、炎系魔法。
押し出されたゴブリン達は、一気に殲滅をされる。
コボルトや、ゴブリン上位種。
そしてオークなど。
どんどんと火力が足りなくなって……
いや、火力が、出ていない。
数発撃っただけで、魔力切れのようだ。
さすが、侯爵の部隊。
日々の訓練を、行っていないようだ。
「ええい。何をやっておる」
和やかに見ていたのは、一分足らず。
その後は取り囲み、剣技に移行するが、補正があると言っても限度がある。
一は二になっても、十にはならない。
ゴブリン達は相手に出来ても、コボルトの素早さ、オークの頑丈さに歯が立たなくなってくる。
その脇を固める兵達も、攻撃をしようとしているが、連携など取れていない。
中でうろうろする、侯爵の部隊がじゃまで攻撃が出来ない。
「ええい、もう。早く逃げるか死ぬかしてくれ」
そんな声が、聞こえ始める。
我慢が出来なかったのか、ヴェンデル=リーマン伯爵の軍。二百人が雪崩れ込んでくる。
そう。不真面目な彼らに戦闘時における、他人の行動予測などは立たない。
背後からの、味方への着弾。
どうせ混乱時だ。判りやしない。
倒した、モンスターの数だけ覚えて報告だ。
そんなモノである。
後で倒されたモンスターの数を計算すると、圧倒的に倒したはずの数が大きくなることであろう。
まあそんな事を、誰かが思っていたが、奴らが来た。
もっと下層階から、かつかつかつと爪音が石畳の広場に響き始める。
人間側と違い、統率された彼らは、的確に目標を決め倒していく。
ウルフ系モンスター。マウンテングレーウルフ。
彼らは、六階以降の岩場を縄張りにして、優れた跳躍力とバランス能力を持つ。
そして、鹿系と戦うため魔法に耐性を持つ。
スキルのへなちょこ魔法は喰らっても平気だ。
「ウルフの足を止めろ」
部隊長ではなく、探索者の声が響く。
「けっ。無能者が何を言う……」
息子のオラガが、学園都市アルフィオから、夏休みで帰ってきていた。
屋敷でゆっくりしていたが、後半になり彼は飽きたようだ。ダンジョンへ行きたいとごねて、探索者のチームを雇い、やって来ていた。
そして、当然だが調子に乗り、二階、三階へと降りていく。
安全のために、低級の者達に対して探索階の制限があるが、実際は五階までならたいした事は無い。
だが引率の銀級チーム、『愚者の集い』は、この階で聞いてはいけない足音を聞く。
「しっ。静かに……」
「こんな、浅い階層で何をやってんだよ」
当然、オラガ=エルーガーは、周囲の警戒も探索もしていない。
静かにと言われたのに、声を上げる。
そのため、ヴァイデンとフェラーに押さえ込まれる。
「もがぁうもう」
口を押さえられても、まだ呻く。
「あの足音」
「ああ、ウルフ系だな」
「そうなると、やばいわね」
チームリーダーのレスリーは、躾のなっていないガキを見つめる。
「撤退するぞ」
「もがあぁあ」
撤退と聞いて暴れ出すオラガ。
ペルラに首をきゅっと締められ、落とされる。
パティ達が周囲を警戒しつつ、地上へと帰還。
エルーガー侯爵が取っているホテルの一室に、息子のオラガを放りこみ、部屋に詰めているエルーガー侯爵家の兵士にざっと説明をする。
そして、ギルドへ報告するために、向かおうとするが、止められる。
「他言無用だ」
「しかし……」
チームリーダーのレスリーに、金貨の入った小袋が渡される。
後で確認すると、メンバーは五人なのに、金貨は四枚だけ……
兵まで、小物のようだ。
そうして、エルーガー侯爵家の人間は領地へと引き返し、ダンジョンの異常をオイゲンへと伝える。
それはすぐに、情報の報告と共に、派兵嘆願書が添えられて、宰相の元へと届くことになる。
ギルドが把握したのはわずか二日後だったが、そこから、オルガ=シュゴーデン侯爵へ連絡が渡り、そこから王とへ連絡。
二日の遅れは、影響として大きなものとなってしまった。
派兵された軍達。
その選定には、隊長の意見が通りやすい。
オイゲン=エルーガー侯爵はこれ幸いと、繋がりのある者達を集める。
少数で、数多く。
派兵には、普通、装備や兵糧等、色々と必要なものが必要。
だが、関係する家へと書状を送り、少人数で良いからと命令。
結果的に準備は早く、普通の軍よりも短時間でダンジョン周りへ集合をした。
これは、当然加点となる。
使い物になるかは別の話だ。
オイゲン=エルーガー侯爵はご機嫌だった。
ホテルの部屋から、ダンジョンを望む。
入り口から百メートルの距離を空けて、ダンジョン基本防御の壁がある。
高さは、三メートルで壁の上には、移動しながら兵が矢を放てるように通路となっている。壁の厚みは二メートル。
それが、二枚。
それが抜かれると、街があるが、今まで抜かれたことは無いと言われている。
ダンジョンでの氾濫は、不定期だが、二十年とか三十年の周期でやって来る。
外で起こる氾濫の方が、意外と状況が悪くなり易い。
あっちは発見が遅れる。
気が付けば、町の側までやって来ていて、後手に回ることになる。
さてそんな優雅な侯爵だったが、聞こえてきた声で、ワインのグラスを落としてしまう。
今回の派遣で、初めての氾濫。
警備している兵達が、一気に魔法を撃ち出す。
先ずは揃って、炎系魔法。
押し出されたゴブリン達は、一気に殲滅をされる。
コボルトや、ゴブリン上位種。
そしてオークなど。
どんどんと火力が足りなくなって……
いや、火力が、出ていない。
数発撃っただけで、魔力切れのようだ。
さすが、侯爵の部隊。
日々の訓練を、行っていないようだ。
「ええい。何をやっておる」
和やかに見ていたのは、一分足らず。
その後は取り囲み、剣技に移行するが、補正があると言っても限度がある。
一は二になっても、十にはならない。
ゴブリン達は相手に出来ても、コボルトの素早さ、オークの頑丈さに歯が立たなくなってくる。
その脇を固める兵達も、攻撃をしようとしているが、連携など取れていない。
中でうろうろする、侯爵の部隊がじゃまで攻撃が出来ない。
「ええい、もう。早く逃げるか死ぬかしてくれ」
そんな声が、聞こえ始める。
我慢が出来なかったのか、ヴェンデル=リーマン伯爵の軍。二百人が雪崩れ込んでくる。
そう。不真面目な彼らに戦闘時における、他人の行動予測などは立たない。
背後からの、味方への着弾。
どうせ混乱時だ。判りやしない。
倒した、モンスターの数だけ覚えて報告だ。
そんなモノである。
後で倒されたモンスターの数を計算すると、圧倒的に倒したはずの数が大きくなることであろう。
まあそんな事を、誰かが思っていたが、奴らが来た。
もっと下層階から、かつかつかつと爪音が石畳の広場に響き始める。
人間側と違い、統率された彼らは、的確に目標を決め倒していく。
ウルフ系モンスター。マウンテングレーウルフ。
彼らは、六階以降の岩場を縄張りにして、優れた跳躍力とバランス能力を持つ。
そして、鹿系と戦うため魔法に耐性を持つ。
スキルのへなちょこ魔法は喰らっても平気だ。
「ウルフの足を止めろ」
部隊長ではなく、探索者の声が響く。
「けっ。無能者が何を言う……」
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