上 下
9 / 97
第二章 幼少期

第9話 アウロラ様のお願い

しおりを挟む
「そんなに身構えないで。いつもいきなり襲うわけじゃないから」
 そんな、アウロラをシンは睨む。

「そうなのか? なら、なぜ足音を忍ばせ、背後から来た?」
「あーははは。なんとなく、癖で」
「物騒な癖じゃな」
 そう言われると、多少赤くなり、胸の前で両の指を組み、よじよじし始めた。
 こうみえて、まだ二十五だったりする。
 武芸に打ち込みすぎて、多少行き遅れた。


「さてと、本題だけどね。娘がね、ヘルミーナといって五歳なんだけれど、娘と別にスキル持ちを一人、養子として入れたの。だけど…… 一応当家の長男となったヴィクトルというのだけれど。その…… 仲が悪いのよ。かれ、スキルを持っていることを鼻にかけて少しやんちゃで。だから……」
 そう言って、手を合わせてくる。

 身長の関係で、うつむき手を合わせると…… 目の前に立派なものがぶら下がっておるが…… ときめきもせんし、当然体も反応せぬな。
 体がガキなせいか……

「ふむ。それで?」
「娘の護衛をしてくれない?」
「護衛?」
 少し予想外な申し込みだった。

「そう、親や大人の護衛をつけると、少し機嫌が悪くなるのよ」
「そんなもの。どうして必要なのかを、びしっと説明をすれば良かろう。ガキじゃある…… 五歳か……」
「そう。あなたみたいに、変な子どもじゃなく、本当に五歳なの」
「存外失礼じゃな」

「そういう事でわしは、ヘルミーナお嬢様の護衛と相成った。うぬらは、道場で指導しろ」
 目の前で、ジェンカ十歳達が嫌がる。
 ドミニクやアーネ達、成人組は、屋敷での護衛兼侍女見習いとして勤め始めた。

 残りは、男のルーペルトが十二歳で、一応わし以外で取りまとめ役。
 他の男は、ヴィルが十歳。レノーイ八歳。ラルフが五歳。
 女が、ジェンカ十歳。レープ十歳。ヴァネッサ九歳。
 スラムでは、この年くらいが、女として危ない年頃なので、連れてきた。力が無く初心。物陰に連れ込まれてしまう事がある。

 ただまあ、連れてきてはいないが、スラムに二人ほど修行を付けた者が指導と監視をしている。男二人でエミディオ一四歳と、パークス一二歳だ。彼らは基本を教えて、かなり強くなっている。
 
「だめだ。このお屋敷で世話になる以上、一宿一飯の恩と言うものがある。役に立て。いやなら、スラムに帰れ」
「嫌」
 まあそうだろう。わしが何とかして食い物を確保したが、それでも分ければ少なかった。だがギルドには、年齢が足りず入れん以上、買い取りは安かった。
 かといって、ギルドに登録したものに換金をたのむのは、決まり的に良くない。
 彼らの持ち込む獲物で、ギルドは実力も測っている。
 それに齟齬が発生してしまう。

 鉄級の者が、入ってはいけない三階層や四階層のモンスターを持ち込めば、それこそ大騒ぎになってしまう。

 ギルドは、持ち込む獲物や、請け負った仕事の上がりで、探索者にランクをつける。クラス違いは意外と厳しいらしい。
 ギルドランクは鉄、黄銅、銅、銀、金、白金、金剛それと見習いを入れて8つだ。
 見習いと鉄は、二階層までしか入れない。
 両者の違いは、鉄なら戦闘が主。見習いは、ポーターだ。

 まあそんな感じで、意外と厳しい。

 さてそういう事で、道場では、基本の基本。いま魔力の練り方を教えている。
 すべての基本であり、奥義。
 当座任せっぱなしで十分だが、お嬢さんも道場に来てくれるなら楽で良いのだが、この屋敷に来てから一度も姿を見ていない。

 お嬢さんは、最初に接した男の子として、ヴィクトルが基準となってしまい。小さな男イコール嫌い。怖いという図式が出来てしまった。
 もっと小さいときには、伯爵と一緒に道場をのぞきに来ていたようだが、最近は部屋から出てこず、家庭教師から、法律や作法、ダンスなどを習っているようだ。
 ダンスでも上手くすれば、暗殺が出来るのだがな……

 あの奥方なら、やりそうだ。
 小柄なら、正面から襟元をきゅっと閉めれば、頸動脈を……

「へぇくちっ。ううっ。何今の…… そういう事で、護衛とお友達として、シン君にお願いしたから。いいわね」
 まさに説明中だった。

「やあっ。男の子嫌い。お兄様嫌い」
 そう言ってぐずるヘルミーナ。そっと近づき、アウロラは説明する。

「大丈夫。あれと全然違うから。少し変わっているけれど、中身は…… 誰にも言っちゃ駄目よ。じつは神様なのよ」
「かみしゃま?」
「そう。本当はお空から見ていたのだけれど、退屈なのか、降りて来ちゃったの。彼と今から仲良くなっていないと、きっと世の中で大変なことが起こるのよ。その時に守って貰わないと、あなたが困ることになるわ」
 ヘルミーナの目を見ながら、やさしく説明をするアウロラ。だがそれが、壮大なフラグだとは思っていなかった。事が起こるのは、十五年も先ではあるが……
「ううう。わかりました。おかあさま」
 

 そうして、初顔合わせ。
「うぬが、娘子。ヘルミーナか。我はシンだ。よろしく頼む」
「かみしゃま。よろしくねがいしましゅ」
 そう言って、 カーテシーを行う。

 カーテシとは、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げた状態で、背筋を伸ばしたまま挨拶を行う。女性特有の挨拶だ。
 男は、ボウ・アンド・スクレープと言われる礼を取る。右手は肘を曲げ胸の前に沿わせる。左足は女性と同じく斜め後ろの内側に引きお辞儀を行う。その時左手は横方向へ水平に差し出すようにする。
 シンもあわてて儀礼を返す。本当なら、女性の手を取り甲にキスをするのだが、手が出てこなかったのでよしとした。

「神様?」
 聞き返すと、アウロラが割って入る。

「いいのよ。気にしないで。それより五歳の女の子なんだから、優しくね」
 そう言って目が見開かれる。妙に白目が多くて怖い。

「判っておるが、主の娘。いきなり切りかかったりはせぬだろうな」
 そう言って、にらみ返す。
「…… しないわよ。多分ね」
「そうか。気を付けよう」
 そう答えたシンだがいきなり、行動に出る。

「では、道場に行こうか」
 面倒事は、ひとまとめに済ませる。
「ちょっといきなり?」
「なんだ?」
「まあ良いわ。よろしくね」
 アウロラは、自分の娘時代を思い出して諦めた。
 木製の剣を持ち、兄弟子達を追い詰めた日々……
 楽しかった……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜

k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」 そう婚約者のグレイに言われたエミリア。 はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。 「恋より友情よね!」 そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。 本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。

婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

さあ、お嬢様。断罪の時間です ~ある婚約破棄事件のその後~

オレンジ方解石
ファンタジー
 サングィス王国の王太子エルドレッドは、ソールズベリー公爵令嬢ベアトリスとの婚約を破棄。タリス男爵令嬢を王妃に迎えようとして、愚行をサングィス国王に断罪される。  ベアトリスは新しい王太子ウィルフレッドの妃となり、世間からは「物語のような婚約破棄事件」と称賛された。  しかし現実は物語のようには終わらず、三年後…………。 ※グロなどはありませんが、一応、死体や死亡展開があるので、R15 設定にしています。 ※ファンタジー要素は薄めですが、婚約破棄や悪役令嬢要素があるので、カテゴリを『ファンタジー』にしています。

結婚式で王子を溺愛する幼馴染が泣き叫んで婚約破棄「妊娠した。慰謝料を払え!」花嫁は王子の返答に衝撃を受けた。

window
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の結婚式に幼馴染が泣き叫んでかけ寄って来た。 式の大事な場面で何が起こったのか? 二人を祝福していた参列者たちは突然の出来事に会場は大きくどよめいた。 王子は公爵令嬢と幼馴染と二股交際をしていた。 「あなたの子供を妊娠してる。私を捨てて自分だけ幸せになるなんて許せない。慰謝料を払え!」 幼馴染は王子に詰め寄って主張すると王子は信じられない事を言って花嫁と参列者全員を驚かせた。

駆け落ちから四年後、元婚約者が戻ってきたんですが

影茸
恋愛
 私、マルシアの婚約者である伯爵令息シャルルは、結婚を前にして駆け落ちした。  それも、見知らぬ平民の女性と。  その結果、伯爵家は大いに混乱し、私は婚約者を失ったことを悲しむまもなく、動き回ることになる。  そして四年後、ようやく伯爵家を前以上に栄えさせることに成功する。  ……駆け落ちしたシャルルが、女性と共に現れたのはその時だった。

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

聖女追放ラノベの馬鹿王子に転生しましたが…あれ、問題ないんじゃね?

越路遼介
ファンタジー
産婦人科医、後藤茂一(54)は“気功”を生来備えていた。その気功を活用し、彼は苦痛を少なくして出産を成功させる稀代の名医であったが心不全で死去、生まれ変わってみれば、そこは前世で読んだ『聖女追放』のラノベの世界!しかも、よりによって聖女にざまぁされる馬鹿王子に!せめて聖女断罪の前に転生しろよ!と叫びたい馬鹿王子レンドル。もう聖女を追放したあとの詰んだ状態からのスタートだった。 ・全8話で無事に完結しました!『小説家になろう』にも掲載しています。

処理中です...