上 下
204 / 221
諦めと、悲しみと

第4話 見せつけられた現実

しおりを挟む
「あんた、仕事はどう?」
 叶愛が、意地悪そうな顔で聞いてくる。

「あーうん。以外と話が通じない人が居て大変。下っ端だから決まったことしかできないのに、結構怒鳴られたりして」
「ああ年寄りとかなぁ、昔からこうだとか言うもんなぁ」
 翔太が話に乗ってくる。

 そうそう、翔太は昔からこう言う子。
 その割には、人の話を聞いていなくて暴走をする。
「多いわね」
 一応声を控える。
 地元だから、誰かに聞かれると、また告げ口が来る。

 姿は少しくらい変わっても、基本的なものはみんな変わって無くって安心をした。

「おし、飲み直すか」

「そうね、どこへ行く?」
「もう九時だ、どこも閉店だよ」
 そう田舎は、閉店が早い。

「あーそうだ……」
「買い物をして、宅飲みね。何かつまみでも作って飲みましょ」
「叶愛の料理??」
 みんなの驚き。
 家庭課実習で、炭か生かしか作れなかった子が……

「変われば変わるんだな」
「失礼な」
 軽口と笑顔。
 昔と一緒。
 陸の家が近いので、途中のコンビニで物を買い込み移動する。

 陸の部屋は、農器具が置かれている納屋の二階。
 いくつか部屋もあり、ふすまを取っ払うと宴会もできる。
 
 ところが、そこから見たくもない光景が、ちらほらと見え始める。
 叶愛が料理をしながら、湊大を呼ぶ。
 二人が並んで、ああだこうだと言い合う姿。
 味見のために、叶愛が湊大の口に料理を放り込み、その指を舐める。

 何これ?

 そして、叶愛は湊大の横へ、また当然のように座り込む。
 会話も、わいわいとはずむが、私がついて行けない学校の話し、単位がどうとか。
 
 そして、ひよりが寝始める。
 陸の膝で。

「もう寝るか」
 当然のように雑魚寝が始まる。
 座布団を布団代わりにして寝始める。

 私も、酔っていたためか、ふっと意識が落ちる。

 どの位経ったのか、水が欲しくて起き出し、水を飲んだ後トイレへと向かう。

 部屋に戻るとき、奥側の部屋から、常夜灯の淡い光が漏れていた。
 さっき、座布団を出したときに、消し忘れ?
 私は、ふすまに手伸ばし、それを止める。

 灯りの下、むつみ合う二人。
 自分で口を押さえていても、漏れる声。

「声を出すな」
「だって、ふすまの向こうに皆がいるんだもん。いつもより感じる」
「変態」
「そうね。うんっ。あんぅ」
 叶愛と湊大。

 二人が絡み合う姿は、うす灯りの中でハッキリと浮かび上がる。

 そんな中で、叶愛の目が幾度か私とあう。
 それは、私がここに居るのが判っていて、どう? と問いかけるように。
 見たくないのに、目が離せず。私はそれを見続ける。

 それは、高校時代から、私が欲した光景。
 そう、幾度か試そうとしたけれど、二人とも一歩が踏み出せなかった。

 彼に抱かれ、目を細め嬉しそうな笑顔がこぼれる。
 やがて、ゆっくりだった動きは激しくなり止まる。

 痙攣をしながら、彼にもたれかかり、首筋にキスをする叶愛。
 ソレは同性から見ても、色っぽく幸せそう。
 見せつけるように、彼が引き抜かれる。
「ああっ、垂れる」
「トイレに行けよ」
 その声で、はっと我に返る。

 だけど、間に合わず。
 叶愛は、廊下にいた私を見ても驚かずに、ぼそっと言う。
「どうだった? 毎日愛して貰っているの。私、幸せよ」
 そう言って、彼女はトイレへと入る。

 ふすまの向こうには、湊大が裸で寝転がっている。
 高校時代の光景と重なる。
 少し考え、一歩踏み出そうとする私。

「何をする気なの?」
 背後から、叶愛の声がする。
 その声で正気に戻る。

 そう高校時代、最後まではしていない。
 だけどその手前までは幾度もした。

 最後まですれば、どんなにステキで気持ちが良いんだろう。
 ずっと思い描いていた。
 高島さんとの行為は、思い描いていた感じとは違い、痛みの方が大きかった。

 さっき見た、叶愛の表情はきっとそれとは違う。そんな気がする。
 嬉しそうでとろけ、惚けきった淫らな顔。
 それを私も体験をしたい。

 だけどそれを許さない、冷たい声。

 彼女は中へ入り、私は留まる。
 そして彼女は、見せつけるように湊大を、口に含む。

 やがて、再び大きくなり、彼女はそれにまたがると……
 静かに腰を落とす。

 高島さんでは無理。
 彼はそんなにすぐ復活をしない、それに大きさも形もちがう。

 翌朝、皆と別れた後、泣きながら家へと帰る。
 最悪なことに、下着がなぜか濡れ、昨夜見た夢のような光景が頭の中で繰り返される。

 そう、すっかり忘れていた高校生の時の望み。
 湊大と繋がりたい。
 私はずっと思っていた。

 だけど、事情が……
 いえ、お父さんは大丈夫と言っていた。

 大学へ行く意味を見いだせず、拒否をした私。
 高校時代、しようと言った湊大。でも、妊娠をする恐怖から逃げたのは私。

 出ていく前に、お母さんが見せた女の顔が、ずっと頭から離れなかった。

 部屋に籠もり、狂ったように自身の体をもてあそぶ。
 あの記憶、二人の行為を思い出しながら……

 涙をこぼしながら……
 彼としたときに、与えられるだろう快感を、想像しながら……

 私の失った物を、確認するために……

「あんた、既読スルーしたでしょう。その後よ。あんたが高島と付き合ってることを教えたの。かれに言ってなかったんだね」
 数日後、叶愛に電話をして、いつからなのかを聞いた。

 そう、先に裏切ったのは私。自身の弱さ。

「かれ? 優しいわ。とっても。いま、私しあわせよ」
「そう…… 知っているわ」
 そうでしょうね。彼を独り占め。
 
 そして、また私は、泣き始める。
 我慢できなかった自分と、優柔不断な自分を呪いながら……

-------------------------------------------------------
 お読みくださり、ありがとうございます。
 遠恋で、よくある話の一幕でございます。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

【R18】お父さんは娘に夢中

ねんごろ
恋愛
 いけない関係のお話。

ご褒美

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
彼にいじわるして。 いつも口から出る言葉を待つ。 「お仕置きだね」 毎回、されるお仕置きにわくわくして。 悪戯をするのだけれど、今日は……。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

処理中です...