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夢の実現と破局
第2話 切っ掛け
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兼日 心晴は、中学二年のある日。
空を飛んだ……
そうは言っても、住宅地から駅に向かう階段。
下のフロアまで残り、五段くらい。
すぐ下には、学年のヒーロー天野 与次が歩いていた。
彼は、『天は二物を与えず』と言うが、与えられたずるい奴。
長男の彼は、与え繋ぐと言う意味でこの名を貰ったようだが、天から二物以上貰ったずるいやつとして、噂をされる。
勉強? 楽勝さぁ。運動? 誰でもできるだろこのくらい。とまあ、賛否の分かれるところ。
その彼が、声が聞こえて振り向くと、女の子が自分に向かって飛んできた。
彼は、衝撃を逃がすように、心晴を抱いたまま、残り二段くらいを後ろ向きに飛び降り、くるりとターンを決める。そして、朝陽の中。笑顔と共に、キラリと光る歯を見せる。
「大丈夫かい? 怪我は無い?」
「はい、ごめんなさい。あの、離して貰って大丈夫ですから」
朝の行き交う人達の中で、抱き合っている。
「ああ、ごめんね。君がかわいいからつい。何処のクラスだったかなと、今記憶の海を彷徨っていたんだ。悪いね」
彼は、流れるような動きで、鞄を拾い心晴に渡す。
電車の中でも、会話は続けられ、二人の距離は急速に近付いていく。
むろんそんな話は、緋倉 輝新は知る由もない。
宿題を写している間、心晴がスマホをいじっているくらいしか、思っていなかった。
そして、揺蕩う時の流れの中、心晴の心も呪縛から覚めていく。
『お前はドジだし、どうせ俺しか相手する奴はいない。黙って従っていれば良いんだ』
『呼んだらさっさと来い。生意気だぞ』
『どじ』
『ばか』
『どうせ、お前なんか……』
そんな罵倒が、小さな頃から繰り返されてきた。
人は、お前が悪いという言葉を繰り返されると、それを信じてしまう。
ゴーレム効果と呼ばれる現象で、駄目だと言われ続けた子供は、脳にまで影響が及ぶ事がある。
褒めまくるのは、ピグマリオン効果。
そう、心晴は少し壊れていた。
いや、壊されていた。
だが、与次は自身がされてきたように、人の良いところを見つけて、褒める。褒める。褒める。
それにより、心晴の心は劇的に改善する。
輝新の前、以外では……
子供の頃から植え付けられた記憶。その威力は強い。
だが、その事に気が付き、近寄らない。
泣き付かれたときには、顔は出すが、とことん無視をする。
与次との会話を思い出して、何とかそちらも改善をしていく。
「俺が学校休んだのに、なぜ来ない」
もう、午後五時過ぎ。
幾ら此処が遠いと言っても、駅から五キロも六キロも…… あるか……
普段、車でうろうろしているから、気にしていなかった。
ママがパートから正社員になって、帰りはバスで面倒だったが、いなくなると、朝もコミュニティバスの乗り場まで、行かないといけない。
以外と乗り場からここまでが遠い。
だー、めんどう。
心晴の家は、下の方なので歩いて駅に行ける。
そこから階段を上れば、この区画まで上がれるが、車道だと急傾斜を避けるため、ぐるりと回りこみ遠回り。その途中にある分譲地ですら不人気。
だから、合わせ技で、そこまでしかバスは来ない。
心晴は文句を言わないが、呼ばれたときは、暗い階段をうろうろしていた。
意外と子供の頃は、下りの手すりを滑るのが好きだった。
理由は言えない。乙女の秘密だ。
最近は人通りが少なく、手すりの汚れも気になるし、周りの植木がかぶり鬱蒼として怖い。
輝新達の家がある区画から、人々は下の区画へ移り住み、上は廃墟が立ち並んでいる。
人が居ないから、この階段に付いている外灯も、何時しか点かなくなった。
そうして、絶望の中。早く眠った輝新は、翌朝六時過ぎには目が覚めてしまった。
仕方なく学校に行く用意をして、パンをトーストして囓る。
ご飯は保温されていたが、表面が堅くなっていた。
冷蔵庫を開け、ロースハムを見つける。
それをパンに乗せる。
まだママがいなくなって二日。牛乳をグラスに注ぎ、飲む。
その時彼は、父親が帰ってきていないことに、気が付いていなかった。
そう父は、前に噂になった女の元に転がり込んだ。
不幸にも彼は、忘れられてしまった。
その事に気が付かず、また寝る訳にもいかず、変に早い時間に学校へと出てしまう。
小銭をケチり、階段を数年ぶりに降りていく。
「この荒れ具合。やべえなあ」
階段は、二十段くらい下れば少し平らな部分があり、また階段を繰り返す。その途中に公園に繋がる道があったような気がしたが、道は草が被さり埋まっていた。
階段は全部で五百段くらい。標高差は百メートルくらいと聞いたことがある。
「どんだけ山の中だよ。静かだけどな……」
そしてやっと駅に着き、彼は見てしまう。
嬉しそうに、男に寄り添う心晴。
誰だよそれ……
一応違う車両に乗り込み、ずっと見る。
見たことのない嬉しそうな顔。
頭をなでられ、でヘヘと喜ぶ、だらしのない顔。
学校へ着いても、二人はそのまま。
周りの奴らも当然のように接する。
「知らなかったのは、俺だけなのか? ……」
理解をして、愕然とする……
空を飛んだ……
そうは言っても、住宅地から駅に向かう階段。
下のフロアまで残り、五段くらい。
すぐ下には、学年のヒーロー天野 与次が歩いていた。
彼は、『天は二物を与えず』と言うが、与えられたずるい奴。
長男の彼は、与え繋ぐと言う意味でこの名を貰ったようだが、天から二物以上貰ったずるいやつとして、噂をされる。
勉強? 楽勝さぁ。運動? 誰でもできるだろこのくらい。とまあ、賛否の分かれるところ。
その彼が、声が聞こえて振り向くと、女の子が自分に向かって飛んできた。
彼は、衝撃を逃がすように、心晴を抱いたまま、残り二段くらいを後ろ向きに飛び降り、くるりとターンを決める。そして、朝陽の中。笑顔と共に、キラリと光る歯を見せる。
「大丈夫かい? 怪我は無い?」
「はい、ごめんなさい。あの、離して貰って大丈夫ですから」
朝の行き交う人達の中で、抱き合っている。
「ああ、ごめんね。君がかわいいからつい。何処のクラスだったかなと、今記憶の海を彷徨っていたんだ。悪いね」
彼は、流れるような動きで、鞄を拾い心晴に渡す。
電車の中でも、会話は続けられ、二人の距離は急速に近付いていく。
むろんそんな話は、緋倉 輝新は知る由もない。
宿題を写している間、心晴がスマホをいじっているくらいしか、思っていなかった。
そして、揺蕩う時の流れの中、心晴の心も呪縛から覚めていく。
『お前はドジだし、どうせ俺しか相手する奴はいない。黙って従っていれば良いんだ』
『呼んだらさっさと来い。生意気だぞ』
『どじ』
『ばか』
『どうせ、お前なんか……』
そんな罵倒が、小さな頃から繰り返されてきた。
人は、お前が悪いという言葉を繰り返されると、それを信じてしまう。
ゴーレム効果と呼ばれる現象で、駄目だと言われ続けた子供は、脳にまで影響が及ぶ事がある。
褒めまくるのは、ピグマリオン効果。
そう、心晴は少し壊れていた。
いや、壊されていた。
だが、与次は自身がされてきたように、人の良いところを見つけて、褒める。褒める。褒める。
それにより、心晴の心は劇的に改善する。
輝新の前、以外では……
子供の頃から植え付けられた記憶。その威力は強い。
だが、その事に気が付き、近寄らない。
泣き付かれたときには、顔は出すが、とことん無視をする。
与次との会話を思い出して、何とかそちらも改善をしていく。
「俺が学校休んだのに、なぜ来ない」
もう、午後五時過ぎ。
幾ら此処が遠いと言っても、駅から五キロも六キロも…… あるか……
普段、車でうろうろしているから、気にしていなかった。
ママがパートから正社員になって、帰りはバスで面倒だったが、いなくなると、朝もコミュニティバスの乗り場まで、行かないといけない。
以外と乗り場からここまでが遠い。
だー、めんどう。
心晴の家は、下の方なので歩いて駅に行ける。
そこから階段を上れば、この区画まで上がれるが、車道だと急傾斜を避けるため、ぐるりと回りこみ遠回り。その途中にある分譲地ですら不人気。
だから、合わせ技で、そこまでしかバスは来ない。
心晴は文句を言わないが、呼ばれたときは、暗い階段をうろうろしていた。
意外と子供の頃は、下りの手すりを滑るのが好きだった。
理由は言えない。乙女の秘密だ。
最近は人通りが少なく、手すりの汚れも気になるし、周りの植木がかぶり鬱蒼として怖い。
輝新達の家がある区画から、人々は下の区画へ移り住み、上は廃墟が立ち並んでいる。
人が居ないから、この階段に付いている外灯も、何時しか点かなくなった。
そうして、絶望の中。早く眠った輝新は、翌朝六時過ぎには目が覚めてしまった。
仕方なく学校に行く用意をして、パンをトーストして囓る。
ご飯は保温されていたが、表面が堅くなっていた。
冷蔵庫を開け、ロースハムを見つける。
それをパンに乗せる。
まだママがいなくなって二日。牛乳をグラスに注ぎ、飲む。
その時彼は、父親が帰ってきていないことに、気が付いていなかった。
そう父は、前に噂になった女の元に転がり込んだ。
不幸にも彼は、忘れられてしまった。
その事に気が付かず、また寝る訳にもいかず、変に早い時間に学校へと出てしまう。
小銭をケチり、階段を数年ぶりに降りていく。
「この荒れ具合。やべえなあ」
階段は、二十段くらい下れば少し平らな部分があり、また階段を繰り返す。その途中に公園に繋がる道があったような気がしたが、道は草が被さり埋まっていた。
階段は全部で五百段くらい。標高差は百メートルくらいと聞いたことがある。
「どんだけ山の中だよ。静かだけどな……」
そしてやっと駅に着き、彼は見てしまう。
嬉しそうに、男に寄り添う心晴。
誰だよそれ……
一応違う車両に乗り込み、ずっと見る。
見たことのない嬉しそうな顔。
頭をなでられ、でヘヘと喜ぶ、だらしのない顔。
学校へ着いても、二人はそのまま。
周りの奴らも当然のように接する。
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