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幼馴染みは、癖が悪かった(令和六年六月六日なのでサイコ系?)

第3話 本物は笑わない

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 倒れている男達を後ろ手にして、親指を結束バンドでまとめ、速やかに口へガムテープを貼る。

 すでに、女の子達は荷造りされている。
 一度、滝川 遊姫たきがわ ゆきに角材で叩かれたが、背中だったので動けた。頭だったら、やばかったかもしれない。

「あー、ごめんなさいね。忘れていたわ。えっちなビデオを撮るんだったかしら? これじゃあ動けないわね」
 視線に気が付き、状態がやっと理解できたのか、矢島は首を振る。
 涙を流しながら。

「あら? だめよ、言ったことは実行しないと」
 スタンガンが押しつけられる。
 それは、彼女の心が折れるまで、幾度も繰り返された。

「いつもは、渡辺なのよね。よし、初挑戦。こっちで試そう。客観的に人のを見るのは始めてなの。楽しみ」
 連れて行かれたのは、吉井 悠斗よしいゆうとの横。
 好美は躊躇無く、ズボンと下着を脱がす。

「小さいわね。ほら早く。使えるようにしなさいよ」
 矢島をせかす。

 いま矢島は、手足は自由だが、首にロープが巻かれている。そう動物のように。
 脇では、好美がもて遊ぶスタンガンが、パチパチと火花を飛ばす。
 幾度も当てられ、痛みは十分覚えた。音を聞くだけで痛みが蘇る。

 ―― 矢島は、いま頃になり、反省をしていた。
 世の中には、手を出してはいけない奴が、本物がいることを理解して……

 そいつは普段、あからさまな姿や行動はせず、淡々と機会を待っている。

 だが、いざそうなると、なんの興味も無いような顔で、ただ作業のように人をもてあそぶ。
 怖い。根本的に、何かが違う……

 従えば、これ以上何もされない?
 今考えられるのは、それだけ…… 
 何とか逃げても、学校も家も知られている。
 逃げられない。

 普通、虐められる立場の人間が考える事を、彼女は、自身が虐められる立場になって初めて理解することができた。そう、今頃になってやっと……

 虐められるのはこんなに怖く、逃げ場がなく、絶望するものだと……

 そう、けして…… 軽い気持ちで、自己中な鬱憤を晴らすためになど、やってはいけない事だと…… そう…… 最後の最後。今になって、理解ができた。

 泣きながら、自ら吉井の上にまたがる。よく嫌なら逃げりゃあ良いじゃんと聞くが、後が怖く、抵抗や拒否など、できるわけがない。

「ああ、そうだ。スマホを出しなさい。記念のビデオを撮らないと。ほら嬉しそうに笑ってぇ」

 その後。

 現場では、ぐしゃっとか嫌な音が聞こえていた。

 矢島が言っていたように、少し土木工事のお手伝いをして、疲れた体で河川敷を歩く好美が居た。
 適当なところで、彼らのスマホを取りだし、電源を切る。
 むろん、ここには捨てない。
 持っていた道具などと一緒に、再びザックの中へ放り込む。

 歩きながら、思い出す。
 今日のことを。
 優越感と侮蔑ををさらけ出していた顔が、絶望へと変わり、懇願が始まる。
 その時の心理的変化は、かなり明確に判った。
 でも…… 基本的に、人はすぐには変わることは出来ない。

「きっと、彼女達は同じ事を繰り返したでしょうね……」
 今日は良いことをした。
 上機嫌で、彼女は少し離れた公園へ向かい、林の中へ入る。

 適当なところを掘り返し、彼女達のスマホを封印した。
 ちなみに、自分のスマホは家から出ていない。

 スマホは家で、おとなしく反省中である。

 慣れない肉体労働で、けだるい体。でも今日は、究に会いたい。
 人のを見たせいか、血のせいか? 体が疼く。

 究は、好美にとってすべて。
 優しくて、小さな頃からの自分の弱いところも、ドジなところもすべて受け入れてくれる。
 昆虫採集や、小さな頃に一緒にした実験。
 神社の床下に入り込み、蟻地獄にアリを捕まえて放り込む。
 砂が飛ばされ、逃げようとしたアリが、またすり鉢の下まで転がり落ちる。
 わくわくした。

 一緒に喜んでくれた究。
 やっていることを知られるたびに、他の友達は周りから消えた。
「気持ち悪い」
「怖い」
 そんな言葉を残して……

 アリの巣に、水を流し込んだときには一緒にしたのに……

 意外と幼い頃、子供は残酷な面を持つ。
 だがしかられ、理由を教えられ、皆やってはいけないと理解する。

 だが、好美は理解ができなかった。
 楽しいのに、なぜ。
 究ですら、「自分に置き換えてごらん。いきなり地球に巨人が来て、プチプチと人間を殺す。お父さんやお母さんが目の前で死んでいく。悲しいだろう?」そう言う。

「ご飯が食べられなくなるね」
「そうだろ」
 その時同じく子供の究は気にしなかったが、好美にとって親の命は重要ではなかった事を。

 だが同じ時に、僕が殺されたらどう思う? そう聞いていたら、少し違った意見が聞けただろう。
「何処までも追いかけて、なんとしてでも相手を殺す」
 きっとそんな言葉を、ゾクッとするような笑顔と共に、きっと彼女は言っただろう。



 彼らが消えて、学校は大騒ぎを…… しなかった。
 父兄は騒いだが、休日のこと。

 なんの注意かは知らないが、先生から登下校についてのことについて。
「物騒なようだから、登下校には注意をするように。変な人が居たら、周りに聞こえるように大声を出し、助けて貰え」
 とまあ、小学校の低学年用パンフレットを読み上げる。

 あったよな。防犯ブザーとか。
 せっかく買ったのに、遊びで慣らす奴がいて、通学路沿いの家から苦情が来て、持つのが禁止された。
 うちの親が呆れていたよ。


 そしてある日。つい、なんとなく聞いてみた。
「おまえ、矢島達のこと知らないよな?」
「うん? 流石に知っているよ。虐めだったのよねあれ。先生は認めなかったけど」
 単純な、知っている知らないの回答。
 コイツ関わりが無いと、クラスの連中でも名前をしらないからな。
 まあ、俺も人のことは言えないが……

「ああ、そういう意味じゃない。奴らが今どうしているかということだ?」
「うーん? 反省をして、神様になってる?」
 そう言ったと思ったら、寝転がっている、俺の胸の上に這い上がり、嬉しそうに語り始める。

「昔ってさあ、橋とか池とか、大事な工事の時って、見守らせるために人を埋めたんだよ。人柱って言って。すごいよね。きちんと効くのかな」
「さあっ?」
 その時の顔は、本当に嬉しそうだった。
 そう、本当に……
 なぜか、人柱と聞くと、アリスという名が浮かんだ。
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