幼馴染みが、知り合いになった夜 短編集

久遠 れんり

文字の大きさ
上 下
151 / 252
すがった藁は、以外と良かった。

第1話 偶然の重なり

しおりを挟む
「あのー茉莉まつりちゃん。今日ご飯どうする?」
 幼馴染みであり、現恋人の後野 茉莉うしろの まつり

 彼女は、いきなり廊下の片隅を指さす。
「ゴミでも漁れば……」
 そう言って、友人達と一緒に、スタスタとどこかへ行ってしまった。
「茉莉いぃ」
 食べ盛りの俺は、出合 湊太であい そうた
 共に高校二年生。

 話は、昨日の昼食時。
 俺はいつも弁当を、茉莉に貢いで貰っている。

 俺は昨日。彼女の作った、鯖の味噌煮を食べた。
 おやっさんが釣り好きで、一昨日の日曜日、俺も一緒に行き、クーラー一杯。
 いや、合わせて二杯分の鯖を釣った。

 防波堤でのサビキ釣り。
 疑似餌の付いた針を、五本とか七本とか付けた仕掛けで、一番下にカゴ付きのアンドンと呼ばれる重りを付ける。

 潮の巡りが良かったのか、爆釣だった。

 でだ、俺達は喜んだが家族はうんざり。
 鯖祭りが始まった。

 ところが、釣るのは好きだが、食べるのは苦手な俺。
 そう魚は嫌い。
 味噌煮なら、きちっと、湯通しをして、酢や生姜で生臭みを抜けば食える。

 だが、茉莉のお手製鯖の味噌煮込みは、生臭くて食えなかった。
 そう、それで、かの女はお怒りモード。

「これ臭い」
 つい言ってしまった。

 彼女は魚が好きで、その匂いが気にならないようで、「美味しいじゃん」そう言って平らげた。

 俺にすれば、まだ塩焼きの方がましだった。

「仕方が無い」
 諦めてパンを買いに行く。そして、涙ぐみつつ教室で囓る。

 すると、目の前に集まっているグループから声がかかる。
 女の子三人グループ。
「どうしたの? 奥さんは?」
 クラスメートの遠野 紬とうの つむぎ

 奥さんて、あのなあ。まあ良いか。
「怒らせて、飯抜きになった」
 そう言うと、「なにそれ。受けるー」と笑い始める。そして一言。
「ナニをしたの?」
「鯖の味噌煮を、臭いって言ったら怒らせた」
 それを聞いて、あー、なるほどと、納得したようだ。

「そうそう。きっちり処理をしないと、匂いが残るけれど。好きな人には気にならないのよね。まあ、食いねえ」
 そう言って、ミートボールをくれた。
 と言うか、あーんと口を開け、入れて貰う。

「うまっ」
「照り焼きベースの甘酢。こっちのはトマトソース」
 そう言って、もう一つ貰う。
「こっちも、うまっ」
「でしょ。研究したの」

 茉莉はちょっときつめの美人系。
 だが、遠野は、少し垂れ目の、かわいい系。

 次はシメジの入った、バター炒め。
 コーンがコロッと落ちる。

 思わず手が出る。むろん意識はコーンのキャッチ。

 彼女は、前の席に座り。右利きなので、俺から見ると右向きに横座りしていた。
 右側は廊下のため、壁がある。

 そして、左手は弁当箱代わりのタッパーを持ち、かなり無理な体勢であーんと俺に、餌付けをしていた。

 落ちた瞬間、彼女はさらに体をひねり、左手のタッパーを前に出した。
 当然下半身側は、動きに制限があるから前屈みになる。
 俺はあーんをしていて、手を出したからなぁ。机の上で二人の軌道が重なる。
 そう、意図したものでは無く、軽くちゅっと。
 おまけに俺の右手の上に、なぜか胸が乗ってくるおまけ付き。

 タッパーを持った手が、ガツンと机の天板に当たり、彼女は机の下に潜っていった。ずるずるとゆっくり。

 箸でまだ持っていたシメジが、ゆっくりと落下して、コロコロと机の上を転がる。
 そうして、はまり込んだ彼女は、まだ手にタッパーと箸を持っており、立てないようだ。
 彼女の顔を覗き込み、タッパーと箸を、預かるよと言おうとした。
 だが、覗き込んだアングル。その直線は危険だった、彼女の手はまだ机の上。
 少し上を向いた彼女の顔と胸。その奥には、めくれたスカート。
 廊下との境。曇りガラスを通して、良い感じに光が当たっている。

「預かるよ」
 そう言って、箸とタッパーを預かる。
 そうしてやっと、彼女は這い上がってくる。
 だが、視線で流石に気が付いただろう。

 起き上がってすぐ、彼女は俺の耳に口を近づけ、ぼそっと言う。
「えっち」
 そう…… 一言。

 それから後も、なぜかいろんなものを口に放り込まれた。
 気が付けば、アルミカップまで…… 独特の味が口に広がる。
 そして満足したようで、彼女は前に向き直る。

 結局、おかずは俺にくれて、本人はおにぎりで昼を済ませたようだ。

 帰りになっても茉莉は機嫌が悪く、さっさと帰ってしまった。

 俺は「茉莉」と言いながら、彼女に向けて伸ばした右手をそのままに、左手を胸に。そしてゆっくりと膝をつく。
 そして、左手を右手の横まで伸ばす。
 天を仰ぐような姿で、締めくくる。

 友達からの、「馬鹿だろお前」という激励と、幾人かの女子から笑いを頂く。
 多少は満足。
「昼が足りなかったから、帰りにバーガー屋でも行かねぇ?」
 横で笑っていた悪友どもに聞くが。

「今のご時世にバーガーだと」
 そう言って驚愕された。

 そう、最近高いから。
 安かったのは遙か昔の話。
 中身変わらず、お値段三倍。

 コンビニ弁当など高級品だ。
 もう最近、何でも最低が千円なんだよ。

 そして友人達は、俺の知らない世界へ旅立っていく……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

最愛の彼

詩織
恋愛
部長の愛人がバレてた。 彼の言うとおりに従ってるうちに私の中で気持ちが揺れ動く

処理中です...