幼馴染みが、知り合いになった夜 短編集

久遠 れんり

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愚か者の彼女は、教室で愛を叫ぶ。そして…

第1話 ゲームを始めよう

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 俺は一度死んだ。

 武田 克和たけだ かつよりと古くさい名前。勝つよりも和を重んじろという事で付けられた名だそうだ。

 死んだ原因は、幼馴染みの裏切りからの自殺。

 俺と、小山田 信美おやまだ ことみは保育園のときから知り合いだった。 
 家は近所だし、保育園で意気投合した母さん達が、お留守番当番と称して留守番グループを作った。
 入れ替わりはあるが、大体五人から六人。
 パートの時間や休みを、譲り合って誰かが見る事にしていたようだ。
 その中に居た一人。

 だが、小学校も四年生くらいになると、グループは解散し各家庭で見ようとなったが、信美や武田 信堯たけだ のぶたかなどが残っていた。
 信堯は中学校で別の校区へ行ったが、仲良しで連絡を取っている。
 別に同じ苗字でも、親族ではないようだが、意気投合した奴だ。

 それで、信美はいまいち勉強嫌いで、毎日来るので教えていたら、なぜか俺の点数が上がっていった。

 特に問題なく、中学校を過ごすが、この頃から恋愛が話題になってくる。
 でまあ、手近な俺に興味を示し、キスしたりとか……
 だが、他の奴らのように付き合うまではなぜか行かない。
 そのなぜかは、高三のときに理解をすることになるが、コイツのことを根っこで信じ切れないからだと分かったよ。

 お願いをされて、信美と同じ高校へ進学。
 先生に泣かれたよ。
 成績が、とかボーナスがとか。
 それで理解をしたが、俺の成績じゃなく、先生の評価に影響がある様だったが、仕方が無い。


 まあそれで、高校。
 信美と付き合っている訳ではないので、ちょろちょろと告白をされて付き合うが、なぜか数週間で、「私たち別れましょ」そう宣言されて別れることになる。

 その頃だったな、信美とエッチをしたのは。
 あいつに誘われて、そう数回。

 それ以降も……
「今日○○君に付き合わないかって、告白さえれたの。どうすれば良いと思う?」
「そんな事を聞かれてもな。信美の好きにすれば」
 なんてことも、幾度かあった。

 むろん俺のために振ったわ、などと言う事は無く。付き合ったりしたようだが、こちらも長続きをしなかったようだ。

「付き合ってみたら、汗臭いの」
 とか、
「キスをしたら、下手だったの」
 そう言った後、キスをしようとしたのでつい押しのける。

 ひどいとは思ったが、何かそう言う嫌悪感があったんだ。仕方ないじゃないかぁと自分自身に言い訳をする。

 結局、修学旅行でも、遠足でも俺と同じ班に入ってくるし、信美とは中途半端な関係を続ける。
 そして、あれは、高校三年のこと……
 しばらくあいつは来なくなっていたが、テスト前になり。また、来始める。

 そして、テストも終わった夏休み前。不意に持ち上がった長坂 光莉ながさか ひかりに対するレイプ騒動。
 誰だよそれと思ったら、同じクラスの女の子だった。
 関わりがないと、覚えてなんて居ないし。

 事実じゃないし、どうせ噂と思ったが、それは噂だけで終わらず、わずか数日で学校を巻き込み、責められることになる。
 彼女が言った日時には、信美と一緒に居た。そう、部屋で勉強を教えていた。

 でだ、彼女が証言しないと、他には誰も居ない部屋の中。
 そして当日、目撃者は他に、誰も居ない。

 教師どころか、親まで信用してくれない始末。
「おい、なんで言ってくれないんだ。勉強を教えていただろう」
 むろん、あいつにはそう言ったさ。

 だが、信美は……
「触らないでレイプ魔。一緒に勉強? 知らないわよ」
 その言葉に愕然とする。俺はその言葉で、全身から力が抜けた。

 親ですら信じてくれないんだ。
 絶望したよ。

 意外と俺は打たれ弱かったようで、山側の少し有名な崖。確か天目の屏風岩?
 地元でそう呼ばれている場所。器の天目と、同じような模様に見える岩らしい。
 フリークライミングとかで有名らしく、一週間に何人かは人が来るから未発見にはならないだろう。

 礼節に乗っ取り、作法通り、靴をそろえて遺書を添える。
 靴の方向で悩んだが、踏み出す方向へ向けてそろえてみた。

 遺書の内容は、色々書こうと思ったが、あの冷たい態度を見て両親への礼など書けず、『俺はやっていない。あの日小山田 信美と部屋にいた。あいつは嘘をついている』それだけだ。信美が嘘をついているのなら、長坂 光莉も嘘をついているが、そっちはどうでも良い。

 そして飛び降りた。
 だが、ヘタレの俺は遠くへ飛べず、膝から崩れるように落ちた。そのため、到る所で岩にぶつかる。
 骨が砕け、引っかかった所がちぎれるような感触。そして痛み。

 ―― 最悪だった。

 まともに飛んでいれば、即死できたのに、到る所にぶつかり、勢いが緩んだのか、五〇メートル下に落ちても、意識があった。
 痛い。動けない。息が苦しい。

 それなのに、まだ生きている。

 すると、傍らに浮かび上がる怪しい影。
 俺は、最後だから、死神が来たのかと納得する。
 このつらさから逃げたい。殺してくれ。
 心の底から、そう懇願をする。

 だが……
「いいのかい? 本当にそれで。ここで君が死ねば、絵図を書いたものが喜ぶだけだろうし、やっぱりそうだったのかと、ご両親も悲しむだろうねぇ」

 そんな事を言い始める。

 だが…… 確かに。
 俺をはめた奴らが、喜ぶのは気に食わない。
「そうだな。許せないな」
 おっ。声が出た。

「良いだろう。力をあげよう。報酬は馬鹿な奴らの魂で良いよ。君が手を掛けないと、僕への褒美にならないからね。注意をしておくれ。駄目なときには、やり直しは無かったことになるからね」

 彼がそう言った後、崖上から腕やら足やら肉片やらが降ってくる。

 なぜか服まで修復されたが、靴と遺書を拾うため、登山をする羽目になった。
 そう、力を得て、アメリカンヒーローのように崖を一気に掛け上がる。

「操ったり追い込んだり、君が追い込めば大丈夫だから。殴らなくても大丈夫。それじゃ。楽しんで」
 追伸が来た。

「そうか、追い込んだ結果、相手が死ねば良いんだ。ラッキー」
 流石に殴ったり刺したり。そんなスプラッターな事は、勇気が出せない…… いや、どうかな。とりあえず。今の自分の状態にもっていけば良いらしい。

 本当に、痛かったし、苦しかった。
 俺はもう、二度目はごめんだ。

 さあ、犯人を追い込もう。先ずは信美だな。
「ゲームを始めようか」


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つづく。
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