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欲望に忠実だった柚葉

第2話 出会い

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 データは抜いたし、大学か警察に持ち込もうかと思ったが、足が動かない。
 頭にはきているし、はらわたも煮えくり返っている。

 でも。

 そう…… でもなのだ。
 奴は、もう家族に近い。

 だからこそ馬鹿なことをすれば、正さないといけない。
 それは分かる。だが……

 気持ちが、受ける不利益を考えてしまう。

 言ってしまえば、あいつと客はウィンウィンの関係。
 俺が当事者でなければ、あっそで終わる話。

 もう抱く気も無いし、将来結婚。そんな話もしていたが、今更そんな気は起きない。

 だが、十年以上、時間をともにしたんだ。
 俺は、踏み出すことも出来ず、ただ酒量だけが増える。

 柚葉が幾度か来たが、今ちょっと質の悪い下痢で、うつると困る。そう言って顔も見ずに追い返した。

 眠れず食えず。飲んでもなぜか酔えない。
 おかしな話だ。
 酒を飲んでると、歩くだけでもふらつくが、頭の芯が覚醒してくる。

 目にはクマができて、パンダ状態。
 頬がこけ、ゾンビか何かのようだ。
 大学にも行っていない。
 そんな二週間。

 外は、良い天気。薄黄色で、かすんだ空。
 ざらざらするベランダの手すり。
 春らしく、黄砂と花粉が降りそそぐ中。

 買ってみたたばこに、火を点ける。
 これは、むせ込むまでが、セットだな。

 ヘタレな俺は、三ミリという中途半端なものを買った。
 ふと体に悪いと思って、買う時に十二ミリから順に、手が横移動をしたんだよ。

 どうしてたばこか? あいつが嫌っていたからだよ。
「たばことか吸うやつ。マジやめてくんないかな」
 聞き流していた言葉。

 そういや、言い出したのは去年の秋じゃなかったか?
 お客さんにいたんだな。

 そんなくすんだ空でも、鳥たちが飛んで行く。
 そんなものを眺めながら、すぐ慣れてしまったたばこを吸い、酒を飲む。
 何だろう。少し心が落ち着く。
 久しぶりに、まともに見た空のせいだろうか。

 気が付けば、そのまま寝ていた。
 夜になり、冷え込んで目が覚めた。

 ベランダから部屋へ入ると、スマホにメッセージが来ていた。
 情報提供者であり、お客さんのA君こと香村 瑛太かむら えいたくんだ。
「おーい。最近見ないが生きてるか? 生きているなら顔を出せ。明日お食事会。場所は…… ドレスコードはないが、ジャケット着用。生きているなら来いよ。だが、すでに死んでいたら無理はしなくていい。戦友ともよ、黄泉帰らず。安らかに眠っていろ」

「あん? コイツ。俺らの関係に気が付いたな」
 まあ、大っぴらに声をかけまくったし、俺らのことを知っている奴らも幾人か居たし……

「ああ。面倒」

 だが、俺は男の子。
 行動をしなければいけない時がある。

 なんだか、久しぶりにシャワーを浴びると、自分の皮膚じゃないような感じがする。
 なんだか気になり、湯を張って浸かり、もう一度体を洗う。
 そこまでして、酔っていて、感覚が鈍っていたことに気が付く。

「食い物もないな」
 ふらふらと買い物に行く。

 適当に買ってきて、眺めていたが、キャベツを毟り、醤油と酢とごま油をぶっかけて食う。――何か足りない。めんつゆを少し足す。

「おお。いける。天才だ」
 多分ニンニクと味の素を足せばもっと美味い。中華スープでも良いらしい。

 ささやかな楽しみをして、気が付けば寝ていた。
 何が作用をしたのか、久しぶりにまともに寝た気がする。

 いや、分かっている。A君のメッセージに含まれた、おれは、心配をしているぞと言う気持ち。いやまあ、勘違いならあれだが、あれで気が楽になったのは本当だ。

 外へ出て、またたばこを吸う。
 見上げた空は、お食事会にふさわしく、驚異的暗さの曇天。

 まるで何かが、降臨でもしてきそうな雲だ。

 天気予報では、所により雷雨。

 悩んだ末に、かさも持たずに出かけていく。

 同情を引く気持ちが少しはあったが、髭も剃らずにそのまま。
 このままイメチェンも良いかとも思う。

 待ち合わせの店には、なぜか、十五分前に着いてしまった。

「すみません。予約してあるA君ですが」
「えーくん? ございませんね」
「すみません。香村では?」
「いえ。今日は次野様と青井様、胴元様のみでございます」
 まさか、俺の名前で取られているとは。

「すみません。次野です」
「承知しました。こちらへどうぞ」
 部屋へ行くと、女の子が一人座っていた。

「あっ。こんばんわ」
 そう言って適当に座る。

 だが、結構美人さんが俺を見て驚く。
「えっ。おかしいと思ったら、何があったんですか次野さん」
 女の子は実習の時に、一緒の班だった澤入 彩乃さわいり あやのちゃんだった。

 もっと、暗い感じで垢抜けない子だったのに、しばらく合わないうちにすっかり美人さんになっていた。
 こっちこそ、どうしたんですかと聞きたい。

「いや今日の案内だって、メッセージ転送の形ですが、見てください」
 そう言って、彼女が見せてくれた、今日のご案内メッセージ。

『はーい。僕は皆のアイドル。次野 幸雄さ。河合 柚葉と別れちゃって、今僕のハートはひび割れだらけ、とても痛いのさ。慰める気があるなら、今日来てくれる? 来てくれたら、朝まで寝かせないぜ。ベイビー』

「…………」
「あー。これって、香村の悪ふざけだから。俺が打った記憶は無い」
「そうですよね。でも…… この別れたのも、嘘なんですか?」
「いや。それは本当」
 あっ、伝えては無いな。

「なら良いんです」

 そんな話をしていると、香村が女の子を連れてやって来た。
「おおっ。生きていた。その髭は何だ。イメチェンか?」
 いきなりハグをされる。
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