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幻想という呪縛
第2話 幼馴染みは空回り
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紫苑は、その晩。
書くと言ったものの困っていた。
物語なら、もう幾らでも書ける。
なのに、和也のことが書けない。
良いところ、好きなところ幾らでもある。
でも。
そう、でも……なのだ。
日々ちょっとしたことで、あっと思い。
感動して、感謝をする。
それは、書き出せば、本当にわずかな、日常の姿。
あの時の経験があれば、それは感動だったり感謝という思いになる。
でも…… なのだ。
思い出して書く。
出来上がるのは、単なる日常の描写。
一瞬の出来事を、写真のように切り取り、ただ状況を説明する。
それは止まったもので、動きも心も何もない。
「どうしてだろう? 心が伝わらない。――どうして」
紫苑は、その日を境にスランプにはまる。
心理描写の沼。
とりあえず、前後の話と、心の流れを書いてみる。
今日、学校からの帰りみち。坂の途中。
五時間目にあった、体育のマラソンのせいで、私の帰りは地獄だった。
だけど、家に帰るために、必死でペダルをこぐ。
上りの坂道は、容赦なく体力と、気力を私から削っていく。
そんな時、突然負担が減る。
「はえっ?」
疲れている私を見付けた和也が、追いつくと、なにも言わずに、サドルをそっと押してくれた。
そして、気がつけば、和也は車道側。
いつもそう。彼は、何も言わず私を守ってくれる。そして ――助けてくれる。
それは、いつも自然で、普通の姿。
でも、小さなものは積み重なり、私の心の中を埋めていく。 ――あなたのことが好き。
「あああああっ。――こんなもの、見せられるわけない」
紫苑は真っ赤になって、机に突っ伏し。
ジタバタと足をばたつかせる。
「紫苑。夜中に何騒いでいる。歯あ磨いて寝ろ」
お父さんの怒りの声が響く。
「はーい」
流石に叱られた。
「あれ、続きは?」
「今日は、無し。作者不調により休載です」
「不調?」
そう言って、おでこに手が当てられる。
「べっ、べちゅに、熱とかじゃないから。ちょっと書けなかっただけで。うー」
「唸るなよ。珍しいな…… あっそうか、女の子の。がはっ」
「――違うから」
「おまえ、肘」
そう言うと、じっとり見られる。
「変なこと言うからよ。それに、そんなに重くなから大丈夫」
「あっそう。よくわかんないけど」
じろっとこっちを見ると、ため息をつく。
「良いわね。私も数年前に戻りたいわよ」
お腹を抱えたまま、仰向けに寝転がる和也。
横にストンと座る。
五年生の時に抜いてしまった身長。
最近は少し追いついてきた。
口の周りが、少し黒くなって。
その内、大人みたいにひげが生えるのだろう。
確かに、気持ちはあるのに、伝えられない。
書けない。
口で好きと言うのは、多分言おうと思えば言える。でも、何かが違う。
「ばーか」
つい口に出てしまった。
ばっと、横を見ると、早くも眠っていた。
そっと近づき、噂のキスというものをしてみる。
唇が触れる。
でも、よく分からない。
ただ、何かのスイッチでも入った様に、心臓の鼓動は、激しくなっていく。
それは理解できる。
きっとこの時、私は耳まで真っ赤になっていただろう。
その晩は、流石に書きかけの話を進める。
勇者が不在の時に、姫を攫いにきた魔王の部下。四天王、無双のコクシ。
だが姫は、そいつの弱点である、チュンチャンパイ光線を使う。
究極の魔導具である、連理の杖。
そこから、放出された光は、十三もの属性を跳ね返す、コクシのシールドを抜ける。
そして、無双であったシールドは、役に立たず、コクシは倒れる。
呪いの言葉を吐きながら、息絶える。貴様の…… それ以上育たない。後悔するがいい。
「なっ。何ですってぇ……」
「うーん。こんなものかなあ、やっぱり攫われた方が良いかなぁ。だけど、毎回攫われるのも駄目だよね。姫が倒したのが、魔王だったて言うのも斬新かも。対象がいない旅に出る勇者。それを知ったとき勇者は……」
そんな馬鹿なことを考えながら、椅子の背もたれに体重を預ける。
「よし、鈍感和也に教育用、恋愛物語を書こう。読んでいるうちに気分が盛り上がるような、ちょっとエッチも入れて。良しそうなったら、さっきのコクシは魔王だったことにして話を終わらせよう」
そうして、王国は困り、勇者を異世界から召喚。
勇者が修行に出発した晩に、姫に倒され、勇者達は長い旅の末。魔王が死んでいた情報を掴む。救われない冒険譚が一つ出来上がった。
その内容に、呆れる和也を余所に、新作、『紫苑。その青春日々』が渡された。
その作品は、日々の生活の中で、紫苑が幼馴染みと、成長していく話。
いくら何でも、気がつくでしょ。
そう思いながら、進展がないまま、三年が経つ。
「どうしてなの? あんなに好きだと告白して、恥ずかしいのにハプニングまで書いたのに」
そう、紫苑がお風呂から出たタイミングで、トイレと間違えて、和也が脱衣所のドアを開けたハプニング。
モデルは、小学校三年生だが、物語では、現在となっているだけ。
まさか覚えていないの?
いやまさか、あの時のことを、書かれたってという和也だろう。
書くと言ったものの困っていた。
物語なら、もう幾らでも書ける。
なのに、和也のことが書けない。
良いところ、好きなところ幾らでもある。
でも。
そう、でも……なのだ。
日々ちょっとしたことで、あっと思い。
感動して、感謝をする。
それは、書き出せば、本当にわずかな、日常の姿。
あの時の経験があれば、それは感動だったり感謝という思いになる。
でも…… なのだ。
思い出して書く。
出来上がるのは、単なる日常の描写。
一瞬の出来事を、写真のように切り取り、ただ状況を説明する。
それは止まったもので、動きも心も何もない。
「どうしてだろう? 心が伝わらない。――どうして」
紫苑は、その日を境にスランプにはまる。
心理描写の沼。
とりあえず、前後の話と、心の流れを書いてみる。
今日、学校からの帰りみち。坂の途中。
五時間目にあった、体育のマラソンのせいで、私の帰りは地獄だった。
だけど、家に帰るために、必死でペダルをこぐ。
上りの坂道は、容赦なく体力と、気力を私から削っていく。
そんな時、突然負担が減る。
「はえっ?」
疲れている私を見付けた和也が、追いつくと、なにも言わずに、サドルをそっと押してくれた。
そして、気がつけば、和也は車道側。
いつもそう。彼は、何も言わず私を守ってくれる。そして ――助けてくれる。
それは、いつも自然で、普通の姿。
でも、小さなものは積み重なり、私の心の中を埋めていく。 ――あなたのことが好き。
「あああああっ。――こんなもの、見せられるわけない」
紫苑は真っ赤になって、机に突っ伏し。
ジタバタと足をばたつかせる。
「紫苑。夜中に何騒いでいる。歯あ磨いて寝ろ」
お父さんの怒りの声が響く。
「はーい」
流石に叱られた。
「あれ、続きは?」
「今日は、無し。作者不調により休載です」
「不調?」
そう言って、おでこに手が当てられる。
「べっ、べちゅに、熱とかじゃないから。ちょっと書けなかっただけで。うー」
「唸るなよ。珍しいな…… あっそうか、女の子の。がはっ」
「――違うから」
「おまえ、肘」
そう言うと、じっとり見られる。
「変なこと言うからよ。それに、そんなに重くなから大丈夫」
「あっそう。よくわかんないけど」
じろっとこっちを見ると、ため息をつく。
「良いわね。私も数年前に戻りたいわよ」
お腹を抱えたまま、仰向けに寝転がる和也。
横にストンと座る。
五年生の時に抜いてしまった身長。
最近は少し追いついてきた。
口の周りが、少し黒くなって。
その内、大人みたいにひげが生えるのだろう。
確かに、気持ちはあるのに、伝えられない。
書けない。
口で好きと言うのは、多分言おうと思えば言える。でも、何かが違う。
「ばーか」
つい口に出てしまった。
ばっと、横を見ると、早くも眠っていた。
そっと近づき、噂のキスというものをしてみる。
唇が触れる。
でも、よく分からない。
ただ、何かのスイッチでも入った様に、心臓の鼓動は、激しくなっていく。
それは理解できる。
きっとこの時、私は耳まで真っ赤になっていただろう。
その晩は、流石に書きかけの話を進める。
勇者が不在の時に、姫を攫いにきた魔王の部下。四天王、無双のコクシ。
だが姫は、そいつの弱点である、チュンチャンパイ光線を使う。
究極の魔導具である、連理の杖。
そこから、放出された光は、十三もの属性を跳ね返す、コクシのシールドを抜ける。
そして、無双であったシールドは、役に立たず、コクシは倒れる。
呪いの言葉を吐きながら、息絶える。貴様の…… それ以上育たない。後悔するがいい。
「なっ。何ですってぇ……」
「うーん。こんなものかなあ、やっぱり攫われた方が良いかなぁ。だけど、毎回攫われるのも駄目だよね。姫が倒したのが、魔王だったて言うのも斬新かも。対象がいない旅に出る勇者。それを知ったとき勇者は……」
そんな馬鹿なことを考えながら、椅子の背もたれに体重を預ける。
「よし、鈍感和也に教育用、恋愛物語を書こう。読んでいるうちに気分が盛り上がるような、ちょっとエッチも入れて。良しそうなったら、さっきのコクシは魔王だったことにして話を終わらせよう」
そうして、王国は困り、勇者を異世界から召喚。
勇者が修行に出発した晩に、姫に倒され、勇者達は長い旅の末。魔王が死んでいた情報を掴む。救われない冒険譚が一つ出来上がった。
その内容に、呆れる和也を余所に、新作、『紫苑。その青春日々』が渡された。
その作品は、日々の生活の中で、紫苑が幼馴染みと、成長していく話。
いくら何でも、気がつくでしょ。
そう思いながら、進展がないまま、三年が経つ。
「どうしてなの? あんなに好きだと告白して、恥ずかしいのにハプニングまで書いたのに」
そう、紫苑がお風呂から出たタイミングで、トイレと間違えて、和也が脱衣所のドアを開けたハプニング。
モデルは、小学校三年生だが、物語では、現在となっているだけ。
まさか覚えていないの?
いやまさか、あの時のことを、書かれたってという和也だろう。
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