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秘密は、希望か絶望か

第3話 暴露

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 案内された部屋は、とても一人暮らし用じゃ無かった。

「2、いや3LDKか? 広いな」
「そうなのよ、近くに来たとき泊まるからって」
「半分出して貰え」
 そう言うと、困った顔をしながらグラスを持って来た。

「少しは、援助してくれてはいるんだけどね。お兄ちゃんが結婚するとかしないとかで少し物入りのようで。今そっちに一生懸命で忘れられてるの」
 お兄ちゃん? ああ、あの人か、普通の顔をして普通の人だった。

 家と、自転車の脇に立った誰かは記憶にあるが、イメージ内で顔がお兄ちゃんになった。
「覚えていないなあ」
「うーん。数回は会ったと思うよ。中学校後半で、あいつ最近見ないなって心配していたから」
「そうなのか? そりゃ失礼。中三の頃には、忙しくてな」
 そう軽く言うと、目の前で顔が一瞬、般若となった。

「そうよ、まあ…… お互いだけど、勝手に志望校変えるし、四月になってびっくりしたわよ」
「そこまで、気がつかないのも、どうだ?」
 そういうと、また、思いっきり不機嫌になる。

「あのね。夏休み前。三者面談があったでしょう。覚えている?」
「あるな。というか、あったなぁ。懐かしい」
「懐かしいのは良いんだけどさ。私ら特に、進学について話をしていなかったでしょ」
 かなり乱暴に注がれて、あふれそうなグラスにあわてて口を付ける。
 ライム系の味。
 あん? 九パー。
 ストロングじゃん。

 驚いていると、彼女もグビグビと飲んでいる。
「おっおい」
「何よ?」
 目付きが怖い。

「ああ、まあそれで……」
 つい、日和ってしまった。

「ああ。そうそうね。とにかく、何も相談せずに面談に行ったわけさ」
「そうだよな」
 また睨まれる。

「先生から、そうね、今のままなら成績的にも問題ないでしょう。まあそんな、和やかな返事が来てさ、親も安心。私も安心。と・こ・ろがだ。先生が聞く訳よ。あなた、淵戸君と仲良かったわねえ」
 ガツッと、グラスを握り一気飲み。さらに注ぐ。

「そう聞かれてさ。ええ、まあ。と、親の顔を見ながら答える訳よ。わかる? あの微妙な空気」
 ふんと、憤りを隠せない静海。

「まあ、そうかなあ? 家のときには、先生何も言わなかったぞ」
「私が、先だったからじゃないの?」
「ふか、と、ふちねえ。五十音ならそうだな」
 そうして、また一気飲み。
 やばそうなんだが。

「そしてよぉ。淵戸君て一高を希望してるでしょう。そっちへ変えるなら、もう少し頑張らないといけないのだけど、変更はないわよねえぇーって。そうよ、あの担任のみちるばばあ。嬉しそうに私に言うのよ」
 ガンと、カンが机に打ちつけられる。
 もう空いたらしい。

 ふらふらと行って、今度は缶を二つ抱えてくる。
 つい、唐揚げを、そっと渡す。供物だな。
 じっと見て、皿とフォークを取りに行った。

 落ち着いたところで、話を続ける。
「先生の名前って、みちるだっけ? よく覚えているなあ」
 差し障りのない話題だと思ったが、睨まれる。

「そこじゃない。そこじゃないのよ。重要なのは、あなたが勝手に一高を選択したこと。あそこは偏差値で十くらい高いの。分かる」
 と、言われても。

「そうだっけ?」
 そう答えるしかない。

「これだからこいつは……」
 そう言いながら、唐揚げに噛みつく。

「あげくだよ、私が決死の思いで一高にしたのに。誰かさんは中央の特別進学クラス。最初っからそっちなら諦めたわよ。おかげで二学期三学期と脇目も振らず勉強すりゃ、四月には驚かすつもりが、驚かされ、あげく付き合いもフェードアウト」
「家を知っているんだから、来りゃ良いのに。てっきり、いつも忙しいとか言って、会う気がなさそうだから、誰か男ができたんだとおもったよ」
 そう言うと、動きが止まる。

「ごめんなさい。悔しくて。見知らぬ人ばかりで辛くて、勉強でもついていくのが大変で、高校へ入って先輩と付き合いました。エッチもしました。裏切りました」
「そうなんだ。まあ俺も、フェードアウト的に、付き合いは終わったもんだと思ったし」
 そう言うと、ぽろぽろと涙をこぼす。

「高校で、誰かと付き合ったの?」
「いや、特進てさ、独特で学校では、ほとんど授業がなくて、必須の教科以外は自由なんだよ」
「いや、おかしいから。あの頃センター試験だったけれど、必須だけで毎日六時間はあったでしょ」
 そう言って目を丸くし、パクパクしてる。

「いやうちは、八時間授業。ああ、特進だけね。午前と午後四時間ずつ」
「はっ?」
「うん。八時間」
「いや、違うし。驚いただけ。自由っていうのは?」
「文字通り、自由。苦手な教科を詰めても良いし、何なら、先に認定試験を受ければ必須教科も出席扱いにもなるし。あっこれは内緒だっけ」
「世界が違う」
 そして、またグビグビ。いい加減強いな。

「それで、パソコンは?」
 そう聞くと、涙を拭きながら。アッという感じで思いだしたようだ。

 持って来て、テーブルに置く。
 よっこらせと、モニターを起こそうとすると、手がかぶってくる。
 俺の手の上に。

「あっごめん」
 そう言って手は退くのだが、目は本当に開くのと聞いてくる。
「開けるよ」
「ちょ、ちょっと待って」
「往生際が悪い」
 両手で押さえて、顔がみるみるうちに赤くなる。

「さあ、隠さずに見せろよ。パカッと一気に」
「えっでも……」

「開かないと、見られないし、直せない」
 そう言うと、手がやっと退く。
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