幼馴染みが、知り合いになった夜 短編集

久遠 れんり

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謀略による誘導と自爆(優斗と愛結)

第2話 策謀と距離

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 高校入学後、ゴールデンウィーク。
 その頃から、愛結は一緒に写真を撮るのをいやがりだした。
 ああ。中学校の時に、二人でおもしろがって撮っていた変な写真じゃなく、普通のデート先でのスナップ。

  噂によると、野球部の先輩から告られ、本人は断ったと言っていたが、毎日のように来ていた俺の部屋からも、足が遠ざかっている。

 やがて、なぜか野球部のマネージャを引き受ける事になったと言ってきて、帰宅も別々になっていく。当然朝も朝練の準備が有ると言ってきて別々となる。


 そして今。
 2年の夏休み直前の教室。

「ねえ優斗(ゆうと)くん」
 俺はむくっと起き上がりながら、答える。
「ああ゛っ? なんだ」

 同級生の呼びかけに、最近の俺はずっとそんな感じだ。

 だが、声をかけてきたのは、学年1の美人と噂される夏目結月(なつめゆづき)さん。身長160cm位? 胸も大きくはなく普通。勉強もできる。真っ直ぐすれば肩に届くだろうミディアムな長さの黒髪を、毛先を軽くして外はねさせたワンカールボブ?かな。黒髪だが、もったりしたイメージはない。

「ひっ。ごっごめんなさい」
「ああ悪い。夏目さん何でしょう?」
「今日当番だから、日誌の提出と、掃除をしないと」
「掃除は班単位じゃないか?」
 教室内を見回すが、周りに人影は無い。

「ごめんなさい。私ちょっと部活に用事があって。それで戻ってきたら優斗くんが寝ていたから、きっと当番だから私を待っていたのかと思って……」
 黒板を見ると、しっかり日直として名前が書かれている。

 俺は立ち上がり、
「別に待っていたわけじゃない。そうだな日誌は出してきてくれ。俺は掃除をしておく。ばっくれてもいいが、チェックが厳しいから、ばれるだろうしな。明日の朝、誰だ昨日の当番は!! 掃除が甘い。とか言って、先生の昔話が、俺が若い頃はとか言い出して話が始まる。まあ、それだけなら良いが、その後、監視の中で掃除が始まるからな。誰もいないということはだ、他の奴らは誰かがやるだろうって言う奴ばかりだし。ご要望にお応えして、暇つぶしにもなるしやるよ」

 俺がそう言うと、彼女は遠慮無く聞いてくる。
「……それでいつも、残ってやっているの?」
「いや、暇つぶし。最近、さっさと帰ってもつまらんしな。単なる時間つぶしさ」
 あん? 毎日掃除をしていることを何で知っている?

「そうなんだ。日誌は出してくるから一緒に掃除しよ。私もさっさと帰ってもつまらないし」
 そう言って、かわいいと噂される彼女は、日誌を持って教室から出て行った。
 あいつとは、匂いが違うな。

「あー。かわいくて、性格も良いか。参ったね」
 声に出して、独白する。
 少し前までは、そんなことを考えることもなかった。
 俺の横には、ずっとあいつがいたし、帰らなきゃと急いでいたしな。

 教室に誰もいないのは、俺をみんなが、見習ったのか?
 1年の頃はそれでも早く帰っていた。当然掃除当番などほったらかして。だとすれば、種をまいたのは俺か。

 そんなことを考えながら、一気に机を後ろへ寄せる。
 力が付いて、都合7つの机など一気に寄せることができる。

 寄せた後、前半分をざっと箒で掃いて、机を今度は前へ寄せる。そして掃く。
 机を並べ直して終わると、黒板消しを、ウイーンとして、ついでに指示棒ではたく。

 何も考えず、ぱしぱしとはたくと、すじが残り白い煙が立つ。
 いつかの、揺れるお尻を思い出す。

 窓の外では、部活動の声が響いている。
「まだしばらくは、終わらないんだろうな」
 そんなことを、考えながらぱしぱしとはたく。

「それ面白いの?」
 やっと帰ってきた、可愛い子ちゃん。
 おそすぎだろ。

 振り返り、彼女をじっと見る。
 最初はビクッとしていたが、こっちを見て
「ごめんなさい。後輩に捕まっちゃって。もう終わったのね」
 彼女は言い訳をする。

 視線を、指示棒と黒板消しに移動をして、
「ああ。つい、夏目さんをしばいている、妄想をしていた」
 そう言うと、当然ながらビクッとして、一歩下がる。

「冗談だよ」
 そう言って向き直り、窓を閉め鍵を下ろす。

「ごめんなさい」
 また謝る。
「何に対してかは知らんが、掃除は終わった。帰るぞ」
「優斗くんて、いつもそんな感じなの?」
「そんなとは?」

「なんだか、お兄さんと話をしているみたい」
「そうか?」
「他の子って、クラスメートでも、もっとおどおどしているというか、男子ってそう言う感じが多いから」

「ああ。それは、お前が可愛いから、きょどっているんだろう。仕方ないよ。慣れれば、まともになるんじゃないか?」
 そういった瞬間、赤くなる。
 彼女にとって、聞き慣れた言葉と思ったが、以外とみんな言わないのか。

「かわっ。ストレートにそんな事。兄弟居るの?」
「いや、居ない」
「女の子に慣れているのは、どうして?」
「そりゃ……。 まあ、色々とあるからな。人生経験の差だな」

「ダブってないよね」
「なんだ、おまえ? いじめて欲しいのか? 誰がダブっているって?」
 彼女のほっぺたを握り、横に広げる。

「つまらないことを言う口は、これか」
 みよみよと広げる。
「いひゃい。ごへんにゃひゃい」
 手を離し、睨む。

 ああなんだろう、こういうやり取りがうれしい。この所全然だからな。
「まあ帰ろ」
 鞄を持って、教室を出る。

「ちょっと待って、一緒に帰る」
 彼女は自分の机から鞄を取り、慌てて駆け寄り、横に並んでくる。

「帰り。方向一緒だったか?」
「一緒。私の方が電車の駅が遠いけど」
 少し怒ったように、俺に言ってくる。
「そうなんだ。知らなかったよ」
 やっぱり。そうだよね。
 あなたは私のことなんか、知らないじゃなく、無関心だもの。

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