上 下
32 / 35
第4章 政府崩壊へ

第31話 情報と、ちょっとした絶望

しおりを挟む
 現場に到着、例の公園。
 認識阻害シートを全員がかぶり、京都行政中央管理センターを囲むように配置についていく。

 連絡通路へたどり着く。
 他の部隊は、他方面の連絡通路と地下道へ潜る。
 この周辺は、地下道にもセンサーやカメラがあり。潜るなら、現場で再び降りるしか出来ない。まあどこに行っても警戒網からは逃げられないけれど。

 連絡通路脇で、拠点を設置。
 拠点に控え。部隊に指示を出していると、ふと彼女のことを思い出す。
 だがあの時。俺の顔は、別人だったはず。今、会ってもきっと気がつかないだろう。

 そんな勘は当たる。
「連絡通路警戒中、女を一人捕縛したそうです。職員だと思われます。どういたしますか」
「連れてきてくれ。部署によっては、案内をしてもらおう」
「はっ」

 噂というか、フラグというか、まあこういうこともある。
 こんな時間まで、仕事する人間は少ないからな。
「あや」
 と言いかけて、口を 噤(つぐ)む。
 
 その違和感に、静流が反応する。
 上から下まで彼女を眺めると、ボディチェックを始める。
 妙に念入りに。
「ふーん。まあ良いわ」
 満足したのか、静流が離れる。
 心持ち、文子。彼女の顔が赤い。

 周りを囲まれ、身体検査を受けているけれど、この女の人。女が好きなのかしら、妙なところに微妙に触れる。彼との一件があってから、私の体は若返ったように敏感になっている。反応しちゃう。文子は必死で、明日の予定を頭の中で反芻する。

 やっと、離してもらえた。

「失礼。職員の方?」
 側に居た、随分若い男が聞いてくる。
 本当に若い。レジスタンスも人手不足なのかしら? どう見ても未成年?
 でも、この空気感。
 戦場に、身を置くせいか、纏う雰囲気が似ている。
 じゃあ、あの人も、近くに居るのかしら?

「失礼。質問をしているのだが。素直に答えてくれれば、ありがたい」
 だが、文子は自分の思考の中に沈んでいる。反応が無く、何かを考えているのが分かる。
 流生は仕方ないと、軽く頭を振る。

 文子の頬に両手を添え、彼女に問いかける。
「文子。君が何に思いを馳せているかは分からないが、こっちを見て、質問に答えてくれないか」
 この時、気を巡らせ記憶を呼び覚ませる。

 文子の中に、彼とのたった一度の、夢のような体験がよみがえる。
 ふと、気がつくと、自身の頬に手を当て、真っ直ぐに見てくる男の子。
 その子の瞳を見る。
 纏う空気、手から伝わる暖かさ。
 これは知っている?

 距離感と、温度。
「あなた……」
「失礼。質問に答えていただきたい」
 目が離せない、彼とは全然違う。でも、私の体が喜んでいる。探し求めた物を見つけたように。あなたなの? 彼は。

「いいかな?」
 質問しようとした、彼の言葉を遮る。

「すみません。一つだけ良いでしょうか?」
 そう聞かれて、流生は彼女のIDカードを手慰みながら答える。
「なんだ?」
「あなたは、彼なの?」
 そう聞かれても、流生は否定をしなかった。

「どう思う? こっちとしては、君の協力が欲しい。それ次第かな?」
 あなたは彼で、話が通った?? じゃあ。やっぱり。

 今度会ったら、騙したことを責めて、一発ぐらい、頬に張り手をして。
 最初はそう思った。

 でも次第に、今度会ったら嫌というほど、抱いて貰おう。
 そう思うようになり、ずっと彼のことを思い続けていた。

 でも急激に、記憶は薄れ、体の記憶ばかりが残るのみ。
 自身で、慰め。大きさを。深さを。思い出そうとしたが、それも薄れていく。努力をしても駄目だった。
 それがさっき。急に。霧が晴れたように、思い出された。

 彼が触れた瞬間。

 体がきっと、彼を覚えていたとしか思えない。
 文子は、当然。彼の申し出を受け入れる。

 そのすぐ脇で、静流達が、ニヤニヤ顔で見ていたことに文子は気がつかなかった。
 その顔に、彼女が望んだ答えが書いてあったのに。

 彼女が見つめるのは、ただ、流生の横顔。

 でも本当に彼なら、子どもみたいな彼が、あんな。
 きっと童顔なだけで、年はきっと近いはず。
 じゃないと、色々私の心が。お父さんの方が年が近ければどうしよう。

 作戦を進める流生達の脇で、ぽつんと座り。放置されているうちに、どんどん考えは絶望? へと進んでいく。

 ――えっ。私ってば、ひょっとして、淫行したの?――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~

すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》 猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。 不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。 何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。 ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。 人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。 そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。 男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。 そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。 (

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。 転生はデフォです。 でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。 リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。 しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。 この話は第一部ということでそこまでは完結しています。 第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。 そして… リウ君のかっこいい活躍を見てください。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

異世界で俺はチーター

田中 歩
ファンタジー
とある高校に通う普通の高校生だが、クラスメイトからはバイトなどもせずゲームやアニメばかり見て学校以外ではあまり家から出ないため「ヒキニート」呼ばわりされている。 そんな彼が子供のころ入ったことがあるはずなのに思い出せない祖父の家の蔵に友達に話したのを機にもう一度入ってみることを決意する。 蔵に入って気がつくとそこは異世界だった?! しかも、おじさんや爺ちゃんも異世界に行ったことがあるらしい?

処理中です...