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第3章 レジスタンス

第20話 困難は続く

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 山本さんを背負う。
 今回は、完全なナチュラルプロテクション。赤外スコープでまず登り、途中音響に切り替えて場所を特定。
 また赤外で、這い上がっていく。

 距離だけを測っているのか、音も取っているのか危険性はあるため、無音をキープして上がっていく。

 赤外は単純で、遮断タイプ。

 問題は、温度センサー。
 この地下水路は温度が低い。36度の温度は目立つ。
 フルにシールドをしているが、どうしたって体温は上がっていく。


 その中で、中根は焦っていた。
 岩の表面は、長年地下で流水により洗われた、なめらかな表面。
 各センサーを埋め。配線を埋め込んだときに、作られた溝は。樹脂製の何かで埋められ、非常になめらか。
 つまり、手を掛けるところがほとんど無い。

 その岩肌を、滑落しないための確保も取れず昇って行かねばいけない。

 それをだ。あの小僧。
 軽いとは言え、1人人を背負って登る。
 自分がミスをすれば、2人とも怪我ですめば良い方だ。
 すぐに、敵もやってくるだろう。

 そして、驚きなのは、静流と出浦だ。
 見事に、小僧の後ろをトレースしながら昇って行く。

 俺もついていくが、指など掛けるクラックも出っ張りもほとんど無い。
 手に吸盤でもついていそうな勢いだ。

 中根の思う通り、3人はずるをしていた。
 筋力は当然。ナノマシンを利用した気により、活性化して強化中。
 そして、岩に対して分子レベルの干渉を起こし。手や足をくっ付けていた。

 その方法は、濡れた岩場を移動中に流生が発見して、静流と紡にやり方を伝えてあった。
 そして、ナノマシンのプラントを移植していない、中根と凪には教えていない。当然聞いても使えないが。

 そうして、驚異的な安定感で昇りやすさだけを見て昇って行く。


 気がつけばセンサーだらけの岩。およそ12~13mあった岩を完登した。

 少しへこみになった、岩が組み合わさった段差へ、背中の凪を下ろす。
 続いて昇ってきた、静流と紡を引き上げる。

 随分おくれた中根を、皆で待ちながら休憩し、気を巡らせ疲れを取っていく。
 静流はまだ不慣れなので、外から手を当て。気を使い調整していく。

 ここからは見た感じ、組み合った岩だ、昇っていけそうだが、質の悪いことに音響センサーの波が、岩の間から生えている。

 少し、昇ってのぞき込むと、何か板状の? 圧力センサーか? 駄目だこりゃ。昇りやすそうな所には、全部あるのだろう。
 
 そうしていると、中根が上がってきた。

 小声で、説明する。
「この先、スタンス(足がかりや手がかり)の所。圧力センサーが貼ってある」
「何だと、スメアリング(べったり乗せず、点で足等を置く)はできそうか?」
「なんとか?」

「キツいところを昇ってきて、楽ができると思ったら、そんなことを。まあ俺でもするがな」
「性格が悪いですよね」
「そうだな。おい」
「静かに」
「ちっ。おい。先に行け」

「ルートは?」
「そんなもの簡単だろ。センサーにかからず、楽で最短。だ」
 その言葉を聞いて、あきれる。

「先、行きます?」
「望月。俺は君を認めているんだ。頑張れ」
「それは失敬。でも目が笑っていますよ」
 そう言うと、あわてて目を隠す。手が触れ、中根は赤外用マスクを、かぶっていることを思い出す。
 
「けっ。さっさと行け」
 周りでは、皆が笑っている。

「じゃあ、またおんぶだな」
「すみません」
 暗くて見えないが、静流と紡が、うらやましそうに指をくわえていた。

 エッジに指が、掛かるか掛からないかで、慎重に昇って行く。

 つま先も、同じ。

 センサーと、センサーの間を縫うように移動していく。

 これは、目に意識を集中すると、意外と明るく見えたのを発見したからから。
 そして、5m位先に、赤外による動体センサーが、こちらを向いていることを発見する。

 あちゃー。どうする。右一杯にトラバースするか。

 寄ってみて、これでもかと、圧力センサーが貼ってるのを見つける。

 ちょと、下がり。直接静流に説明する。ついでに目のことも。
 下に追いついてきた、紡にも説明するが、中根はまだ来ない。
 エッジを使わず、さっきの一枚岩と同じように登り始める。

 その頃、中根は困惑していた。
 さっきの一枚岩よりはましだが、人を背負って何ちゅうスピードだ。
 全然追いつけない。
 あの小僧はまだ良い。
 静流と出浦。特に出浦は、研究者でひ弱なはず。
 一度抱いたことがあるが、すぐにヘロヘロになって、ひたすらやめてを繰り返していた。

 それが、すでに尻が見えない。
 なんだよ。
 殿の楽しみが、何もないじゃないか。
 後ろから、なでながら押してあげるはずが、俺が一番足手まといかよ。

 そんなことを考えていると、右足が滑る。
「うおっ」
 あわてて、右手の中指に加え、薬指も掛ける。
 そっと、体を持ち上げ。のぞき込む。

 センサーは、なかった。
 ほっと一安心。

 ふと、数m先に、お楽しみのお尻が、見えたような気がしたが、すぐに消えてしまった。
 何かあったのか?

 その後、慎重に昇り。
 理由を理解した。
 あいつら、どうやって昇ったんだ。
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