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第3章 レジスタンス

第15話 お互いの思い

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 意外と、奇跡とか運命という言葉は、使われるし重要だ。
 自分以外の意思が働いていると思えば、許容してもらえる。
 絶対ではないけれど。

 何とか成功のようだ。
 テキスト、様々だ。

 完全に浮かれた彼女と、買い物を済ませ。
 彼女の、家へとお邪魔をする。
 最初は、手を繋ぐのにも躊躇をしていたのに、この時には、腕まで組んできていた。
 多分無意識だろうが。
 
「適当に座って」
 そう言いながら、奥へと向かう。

 少しして、出てきたときはホームウエアだろう。
 かなりカジュアルな格好になった。
「私だけごめんね。料理をすると匂いが着いちゃうから。ネクタイも緩めてね。これ飲んでいて」
 そう言って、グラスとアルコール入りの飲料が、目の前に置かれる。

「ありがとう」
 そう言って、ニコッと返す。
「うふっ」

 そう言って、台所へ向かう。


 ――誘っちゃった。――
 文子は、32歳だが、こうして男性を家に招待するのは初めての経験。
 それに、連日の残業で、かなり怪しいテンションになっていた。
 きっと頭の中では、ドーパミンやなら何やでまくって、異常事態となっていただろう。そのため、普段なら気がつく。多少のおかしさなど、意にも介さない。そんな状況となっている。着替えもそう。かなり薄手の服。かなり、体の線がめだつ。

 どう考えても、見ず知らずの男性の前でする格好ではない。

 何を作ろう。買い物をしながら一応メニューは決めた。
 一人暮らしも長く、レパートリーはそこそこ多い。
 だが、今日は失敗したくない。
 自分で食べるだけなら、あらしょっぱいとか言って、すますのだが。

 今日は駄目だ。

 簡単な突き出し。
 ほうれん草の、和えものとか、冷や奴など。
 無難な物から出し始める。
 完全に、居酒屋メニュー。
 山芋の、短冊まで出したところで、色んな方面でまずいと気がつく。

 他には、鰻の蒲焼き。これは惣菜だが、牡蠣。アクアパッツァでも作ろうかと思ったが、どう考えても、無意識に亜鉛を多く含むような。精の付く材料ばかり。
 まあ、ローストビーフの野菜巻きとかも作るし、お酒のあてには手早くできるし良いわよね。
 そう自身を、納得させる。

 そしていよいよ、飲み始め。
 愚痴を言い始めると、的確な分析と対象方に関するアイデアが、彼の口から出てき始める。
 驚きが隠せない。
 部下よりも、よっぽど優秀。

 対して、自称上島貢の中身。流生は焦っていた。
 基本知識は覚えていたが、困っときの対処方は、完全に地頭の領域。
 アルコールを飲んでも、どんどん目はさえてくる。

 食べているものの味も分からない。だが、そんなそぶりは見せず。微笑みを絶えず浮かべて、間で、料理に関する感想も含む。

 そして、穏やかな雰囲気だが、文子もテンパって落ち着くことはできない。
 会話し、時間が進むにつれ、貢への評価はどんどんあがり。
 彼は、まさに運命の相手。
 そんな気持ちが高ぶり、押さえが効かなくなってくる。
 そして、体がほてり、喉が渇く。一気に飲んでいく。アルコールなのに。

 台所に立ちぼーっとしながら、牡蠣のアクアパッツアを皿へ移すときに、自身の手にかけてしまう。
「熱っ」
 そして、器が落下。

 その物音に、すぐに反応し、台所へ貢がやってくる。
 すぐに状況を判断。文子の背中側から覆い被さるような体勢だが、右手を取り流水にあてる。
「大丈夫?」
 そんな優しい声が、自身の左耳。彼の呼吸も聞こえる。そんな、すぐそばで、ささやかれる。
「あっ。うん。大丈夫。大丈夫」
 彼に答えながら、何とか自身をおさえるために、大丈夫を繰り返す。

 背中に触れる、彼の体温。

 彼は、左手で器用に器を片付けている。
「あっ。あの。大丈夫なので」
 そう言って、しまう。

 あっ。彼の顔が離れてしまう。
 思わず、彼を捕まえ。キスをしてしまう。
 受け入れてくれたのだろう。彼の舌が自身の口腔を蹂躙する。
 文子の弱いところを探るような。
 何を期待させるような、情熱的なキス。

 そして、さっきまで水につけ濡れていた手を、彼の背中に回してしまったことに気がつく。
「あっ。ごめんなさい」
「ああ大丈夫。君の手は。どう? 大丈夫」
 そう言って、優しく手がなでられる。

「ちょっと、ピリピリするけれど」
「保冷剤はある? 少し巻いておこう」
「あっ。うん」
 小さめの保冷剤を巻き付け、治療? を済ませる。
「これは、残りは器に移し。2人で食べれば良いね」
 そう言って、牡蠣のアクアパッツアが運ばれる。

 そして、すぐに彼が気がつく。
「右手、それじゃあ食べ辛いね。そちらへ失礼するよ」
 そう言って、向かい側から隣へと移動してくる。
「あーん。言ってくれれば、欲しいものを運んであげよう」
 そう言って、意地悪な笑顔を浮かべる。子供っぽい表情を見せる彼。
「ダイニングじゃ、ちょっとあれなので、リビングのローテーブルの方に移動しましょう」

「分かった」
 彼女には座っていてもらい、俺が運ぶ。
 すると、彼女はさっき座り込んだソファーではなく。
 なぜか、床に座り込んでいた。
「どうしたの?」
「ソファーだと、テーブルまで距離があるし、こっちの方が良くない?」
「そうだね。確かに」

 そして、彼女が行動に出たのは、すぐ後だった。
 僕たちは、一線を越える。
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