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第1章 いくつかの起点

第1話 退屈な日々

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 俺は、望月流生。
 今、名乗っている名前は、なんだっけ?
 どこか行政系の、役人だったはず。
 無論、偽造。すべてフェイク。
 当然、顔も身長も光学的に変化させてある。

 いま、居る部屋は、行政府の一つ。
 京都シティ。
 その中央。行政中央管理センター近く。マンションの一室。

 俺の横で、一糸まとわず。気持ちよさそうに寝ているのは、戦略企画室の、室長クラスだったはず。会ったのは、3回目だったかな。
 今やっている、仕事。

 メインは、女たらし。


 そんな俺だが、一年前は、言わば囚人。
 さらに、その数ヶ月前は、何も知らない。おバカな学生だった。

 囚人時代。
 僕は、今日も自室で、モニターの前に座る。
 起きた後の日課。

 3交代勤務。
 週1回の休み。

 それが、今のスケジュール。

 目の前のモニターは、管理端末で、体調が悪かったりした時に、予定変更を入力できる。
 だが休めば。月単位の勤務時間は規定により決まっている。

 その時間数は、確実にノルマとして、こなさなければいけない。
 各月の日数引く4。それに掛ける8時間のため。
 休めば、どこかで無理をする必要がある。
 単位が足りなければ落第。8時間で3日飯抜きだ。

 逆に誰かが不調で、割り込み勤務が来る事もある。
 勤務以外の16時間は、待機時間。
 本当の自由はない。

 僕が今いるところは、どこか知らない。

 逃亡防止の為か、また規定により知らされる事はない。
 だが、外は寒いため。
 我が秋津国。
 樺太辺りだろう。

 無論。 緯度の高い。ユーラシアのどこかかも。しれないが。
 確実なのは。
 居るところが、国境紛争地であることは、間違いない。

 『ラグナロク』と呼ばれる、最終戦争から40年と少し。
 紛争は、今なお各地で続いている。

 北欧神話が引用され、「スルト(巨人)の放った炎が、世界を焼き尽くし」の文言から『ラグナロク』と呼ばれることになった戦争だが、元は50年ほど前。

 ユーラシアの大国が、領有権を訴え。次々と周りの国に対し攻撃を始めた。
 世界は、それでも傍観し。支援と経済制裁をと言っていたが、言っている間に戦火は拡大。

 要するに、領有権などは言い訳。
 大国は、世界に覇権を求めていた。
 統治と呼ばれる、属国化。自国発展のための植民地を求めたに過ぎない。

 無論小国の中には、争う力も無く、無条件で手を上げ。白旗を振る者たちもいた。
 だがその末路は、世に言う従属国とか属国化。国民は奴隷。
 個人の権利はなく、医療、教育も放棄させられる。
 ただの部品。

 当然だが、やがて、戦火は連鎖的に広がり、世界を包み込む。

 最初は小規模だった諍いは、どこかの国がシステムエラーにより、ミサイルの管理制御を失った。
 そして、無秩序に至る所から発射されたミサイル。
 あるものは撃墜され、あるものは狙い通り、標的となった国の首都を破壊した。

 そこからは、連鎖的に各国の自動反撃システムが、動作を開始。
 わずか数時間で、世界中の首都は消滅した。

 情報が無いため、どこから来たミサイルかは不明だが、かつて日本と名乗っていた頃。首都だった東京は、核ではなく。地殻破壊弾と言われる特殊弾で攻撃され、大部分は東京湾へと還った。

 4つのプレートが、複雑に絡まる日本。
 爆弾の影響は大きく。主な活断層で、その時。連鎖的に地震が発生する。
 そのおかげで、各地は壊滅的打撃を受けた。そのため、東京への攻撃情報が消えたと言われている。
 これも実際は、同盟国からの誤爆で、情報が秘匿されたとも言われているが。真実は不明。

 その後。政府は、速やかに政府組織を、関東から紀伊へと委譲? 歴史的には返還かな。
 京都。奈良。大阪に、行政府を分けて設立。
 初期は、大和の国を名乗ったが、一部から奈良のイメージが強すぎると苦情が入り。あまり変わらないが、秋津国となった。

 これも一説によると、大和という名は、戦艦だったり、宇宙船だったり潜水艦だったり。
 戦争へのイメージが、強すぎたせいで。他国への配慮ではないかと言われた。

 
 そんなこんなで、西暦20XX年。世界は核の炎に包まれ、半数の国々はなくなり、放射能により住めないところも多数。
 これは、ミサイルもあるが、原発の暴走もある。

 自国に、核ミサイルがなければ、原発へ撃ち込めば一緒じゃないか。
 一発の威力より、永続的な影響。そんな理由で、標的にされた。
 風の流れ、放射能による危険など、目先の欲。敵を滅ぼすそんな目的の為。自国への影響は少ないと発表され実行された。

 そんなこんなで、10年近く。
 十分世界は荒れ果て、寒冷化した頃。
 世界的食糧難と物資不足が進み、戦争は終わった。
 いや停戦した。
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