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第六章「そして山百合は咲きこぼれる」
第十七話「料理は笑顔で」
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「ま、ましろちゃんっ! どうしたの?」
「急にどうした?」
ほたかさんと美嶺が驚いたように声を上げる。
それはなぜか?
私が三人を抱きしめたからだ!
「テストがちゃんとできました……。みんなのおかげですよぉ~」
一度は絶望してしまったテストだったけど、みんなとの絆があったからこそ立ち直ることができた。その感謝はどんなに言葉で言い表しても足りないぐらい!
力いっぱいに三人を抱きしめ、体をこすりつける。
すると、ほたかさんと美嶺の間に挟まれて、千景さんがうめき声を上げ始めた。
「苦しい。苦しい……です」
「うわわ……っ。千景さんが私の胸の中に!」
千景さんは私の胸に顔をうずめ、もがいていた。
力を緩めると「ぷはっ」という呼吸と共に、胸元に千景さんが顔を出す。
そう言えば千景さん、一緒に並ぶと私の胸の高さに顔が来るんだった。
「……小さいと、大変です」
間近でつぶやく千景さんが大変かわいい。
かわいいので、またしてもギュッと抱きしめてしまった。
その後に聞いたみんなのテストの話も、反応は上々だった。
ほたかさんは『気象知識』、美嶺は『救急知識』。
それぞれに得意分野ということで、まったく心配がない。
そして千景さんが担当する『天気図』……。
これは日本近辺の天気図を手で書いて、気象予報までする試験らしい。
詳しく聞いたけど、全然理解できなかった。
とにかく千景さんはすごい。
それだけは確かな事だと思う。
テストの話をしているうちに、お腹のなる音が盛大に響いた。
美嶺が気恥ずかしそうにお腹をさする。
「いやぁ……腹減っちゃって……」
「あれだけ重い荷物を背負ったから、当然だよっ。じゃあ、夕ご飯をつくろっか!」
「でも、ご飯でも審査があるんですよね?」
登山大会はどんなことでも審査にからんでいるので、気が抜けない。
しかし、千景さんは優しく微笑んでくれた。
「衛生的かどうか、計画書どおりかが審査されるだけ。……普通にやれば、問題ない」
「千景ちゃんの言う通りだよ~」
そう言われると安心できる。
美嶺はというと、もう我慢できないといった感じでザックから食材を取り出していた。
「とにかく、早く作りましょ! 肉みそハンバーグっ! 肉っすよ!」
そう。今日の夜は美嶺のためのお肉料理。
献立は小桃ちゃんオススメの『肉みそハンバーグとご飯、コンソメスープ』だ!
△ ▲ △ ▲ △
時計を見ると、夕方の五時になっている。
まだまだ空は明るいので、料理もやりやすそうだ。
テントの前にシートを広げ、お鍋とシングルバーナー二台、風よけの板をセッティングする。
今日の料理の役割分担は、お米の炊飯が千景さん、スープづくりがほたかさん。
コンソメスープは日持ちする玉ねぎとにんじん、キャベツを使ってヘルシーに。スープの火加減はご飯ほど繊細ではないので、ほたかさんもすごくリラックスして料理を進めている。
そしてハンバーグは美嶺と私が担当することになった。
保存用に水分を飛ばした肉みそは、つなぎとしてマッシュポテト、水、全紛乳を混ぜる。
全粉乳と水とは、要するに牛乳の事なんだけど、なるべく荷物を軽くするための工夫として小桃ちゃんが提案してくれたものだ。
これらの材料をフライパンの中で混ぜ合わせると、イイ感じにお肉がまとまってきた。
「おおお……。まさにハンバーグって感じだな!」
美嶺はたくさん食べるので、量もみんなの二倍にしてある。ハンバーグの肉の塊を見て美嶺は色めき立った。
ここまでくれば、あとは焼くだけ。
ご飯が炊きあがるまで、しばらく待つことにする。
沈み始める夕日を眺めながら、私の頭の中は五竜さんのことでいっぱいになってきた。
テストが終わった後のやり取りがどうしても気になってしまう。
「ほたかさん。……そういえば五竜さんって、去年の大会ではどんな様子だったんでしょう?」
「去年の五竜さん?」
「どうした? ヤツになんか言われたか?」
「えっとね……。なんで大会中に私たちばかり見てるのかって聞いたら、『うらやましいから』って言われて……。五竜さんっていう人がどんな人なのか、気になったんだよ」
私はテストの後のやり取りをみんなに伝える。
すると、急に美嶺がドギマギしはじめた。
「ア……アタシらの何をうらやんでるんだよっ」
「五竜さんと言えば……百合でしょ?」
「ゆっ……百合っ? ……ア、アタシはたた、ただの友情だからな!」
美嶺は予想通りの反応を示してくれるので面白い。
そんな中で、ほたかさんは「う~ん」とうなりながら、去年のことを思い出しているようだった。
「五竜さんと言えば、疲れ知らずっていうのと、わたしと千景ちゃんをじぃっと見てたのが印象深いかなぁ……」
「五竜さんは……向こうのチームで……ほとんど、しゃべってなかった」
「そうだったの?」
「うん。ボクもしゃべらないので、同じと思ってた。……あまり同じじゃ、なかったけど」
確かに寡黙とは言っても、千景さんと五竜さんは大違いだと思う。千景さんは恥ずかしくてしゃべれないタイプだけど、五竜さんは必要になればしゃべるタイプだろう。
そう言えば去年のインターハイ予選では、松江国引高校は三年生三人と一年生の五竜さんという編成だったらしい。
彼女のことだから、心細かったからしゃべらなかった……とは考えにくい。
むしろ、しゃべる価値がないと思っていた、と考えるほうがイメージ的にしっくりくる。
(……今はどうなんだろう?)
ふと五竜さんのチームに目を向けると、楽しそうに料理をしている両神姉妹と、彼女たちを黙って見つめている五竜さんが見えた。
つくしさんは五竜さんを気にするようにチラチラと視線を送りながら、料理に励んでいる。
「そういえば五竜さん、今も笑ってないね……」
「元々笑わないヤツなんじゃないか?」
「そうかなぁ……」
五竜さんが笑う姿は何度か見たことがある。
大抵は私たちの百合っぽいシーンを見た時に、獲物を狙う捕食者のように目を細めていた。
あの笑みを思い出すと震えあがってしまいそうだけど、百合が好きだというなら、今だって五竜さんのチームは百合にあふれている。
二つのチームで何が違うのだろう。
楽しそうな女の子に囲まれているのに、笑みを浮かべない五竜さんが不思議だった。
△ ▲ △ ▲ △
「ましろ! 盛り付けが終わったぞ!」
私がぼんやりと考えていた時、美嶺が元気な声を上げた。
気が付けばすでにハンバーグは焼かれており、ご飯とスープも盛り付けられている。
ご飯もつやつやに炊きあがり、スープと一緒に美味しそうな湯気を立ち上らせていた。
「あぅ。……いつの間に」
料理の終盤は何もしなかったので申し訳なく思いながら、テキパキと配膳を行う美嶺を目で追う。
「な、なんだよ……」
「いや……。そういえば美嶺が盛り付けしてるの、初めて見るなって思って……」
「そりゃあ、念願の肉だからな!」
そうか、美嶺は早く食べたいんだな。
その楽しそうな笑みが、私にとっては一番のごちそうかもしれない。
大切な三人の笑顔を見て、私は嬉しくなった。
「急にどうした?」
ほたかさんと美嶺が驚いたように声を上げる。
それはなぜか?
私が三人を抱きしめたからだ!
「テストがちゃんとできました……。みんなのおかげですよぉ~」
一度は絶望してしまったテストだったけど、みんなとの絆があったからこそ立ち直ることができた。その感謝はどんなに言葉で言い表しても足りないぐらい!
力いっぱいに三人を抱きしめ、体をこすりつける。
すると、ほたかさんと美嶺の間に挟まれて、千景さんがうめき声を上げ始めた。
「苦しい。苦しい……です」
「うわわ……っ。千景さんが私の胸の中に!」
千景さんは私の胸に顔をうずめ、もがいていた。
力を緩めると「ぷはっ」という呼吸と共に、胸元に千景さんが顔を出す。
そう言えば千景さん、一緒に並ぶと私の胸の高さに顔が来るんだった。
「……小さいと、大変です」
間近でつぶやく千景さんが大変かわいい。
かわいいので、またしてもギュッと抱きしめてしまった。
その後に聞いたみんなのテストの話も、反応は上々だった。
ほたかさんは『気象知識』、美嶺は『救急知識』。
それぞれに得意分野ということで、まったく心配がない。
そして千景さんが担当する『天気図』……。
これは日本近辺の天気図を手で書いて、気象予報までする試験らしい。
詳しく聞いたけど、全然理解できなかった。
とにかく千景さんはすごい。
それだけは確かな事だと思う。
テストの話をしているうちに、お腹のなる音が盛大に響いた。
美嶺が気恥ずかしそうにお腹をさする。
「いやぁ……腹減っちゃって……」
「あれだけ重い荷物を背負ったから、当然だよっ。じゃあ、夕ご飯をつくろっか!」
「でも、ご飯でも審査があるんですよね?」
登山大会はどんなことでも審査にからんでいるので、気が抜けない。
しかし、千景さんは優しく微笑んでくれた。
「衛生的かどうか、計画書どおりかが審査されるだけ。……普通にやれば、問題ない」
「千景ちゃんの言う通りだよ~」
そう言われると安心できる。
美嶺はというと、もう我慢できないといった感じでザックから食材を取り出していた。
「とにかく、早く作りましょ! 肉みそハンバーグっ! 肉っすよ!」
そう。今日の夜は美嶺のためのお肉料理。
献立は小桃ちゃんオススメの『肉みそハンバーグとご飯、コンソメスープ』だ!
△ ▲ △ ▲ △
時計を見ると、夕方の五時になっている。
まだまだ空は明るいので、料理もやりやすそうだ。
テントの前にシートを広げ、お鍋とシングルバーナー二台、風よけの板をセッティングする。
今日の料理の役割分担は、お米の炊飯が千景さん、スープづくりがほたかさん。
コンソメスープは日持ちする玉ねぎとにんじん、キャベツを使ってヘルシーに。スープの火加減はご飯ほど繊細ではないので、ほたかさんもすごくリラックスして料理を進めている。
そしてハンバーグは美嶺と私が担当することになった。
保存用に水分を飛ばした肉みそは、つなぎとしてマッシュポテト、水、全紛乳を混ぜる。
全粉乳と水とは、要するに牛乳の事なんだけど、なるべく荷物を軽くするための工夫として小桃ちゃんが提案してくれたものだ。
これらの材料をフライパンの中で混ぜ合わせると、イイ感じにお肉がまとまってきた。
「おおお……。まさにハンバーグって感じだな!」
美嶺はたくさん食べるので、量もみんなの二倍にしてある。ハンバーグの肉の塊を見て美嶺は色めき立った。
ここまでくれば、あとは焼くだけ。
ご飯が炊きあがるまで、しばらく待つことにする。
沈み始める夕日を眺めながら、私の頭の中は五竜さんのことでいっぱいになってきた。
テストが終わった後のやり取りがどうしても気になってしまう。
「ほたかさん。……そういえば五竜さんって、去年の大会ではどんな様子だったんでしょう?」
「去年の五竜さん?」
「どうした? ヤツになんか言われたか?」
「えっとね……。なんで大会中に私たちばかり見てるのかって聞いたら、『うらやましいから』って言われて……。五竜さんっていう人がどんな人なのか、気になったんだよ」
私はテストの後のやり取りをみんなに伝える。
すると、急に美嶺がドギマギしはじめた。
「ア……アタシらの何をうらやんでるんだよっ」
「五竜さんと言えば……百合でしょ?」
「ゆっ……百合っ? ……ア、アタシはたた、ただの友情だからな!」
美嶺は予想通りの反応を示してくれるので面白い。
そんな中で、ほたかさんは「う~ん」とうなりながら、去年のことを思い出しているようだった。
「五竜さんと言えば、疲れ知らずっていうのと、わたしと千景ちゃんをじぃっと見てたのが印象深いかなぁ……」
「五竜さんは……向こうのチームで……ほとんど、しゃべってなかった」
「そうだったの?」
「うん。ボクもしゃべらないので、同じと思ってた。……あまり同じじゃ、なかったけど」
確かに寡黙とは言っても、千景さんと五竜さんは大違いだと思う。千景さんは恥ずかしくてしゃべれないタイプだけど、五竜さんは必要になればしゃべるタイプだろう。
そう言えば去年のインターハイ予選では、松江国引高校は三年生三人と一年生の五竜さんという編成だったらしい。
彼女のことだから、心細かったからしゃべらなかった……とは考えにくい。
むしろ、しゃべる価値がないと思っていた、と考えるほうがイメージ的にしっくりくる。
(……今はどうなんだろう?)
ふと五竜さんのチームに目を向けると、楽しそうに料理をしている両神姉妹と、彼女たちを黙って見つめている五竜さんが見えた。
つくしさんは五竜さんを気にするようにチラチラと視線を送りながら、料理に励んでいる。
「そういえば五竜さん、今も笑ってないね……」
「元々笑わないヤツなんじゃないか?」
「そうかなぁ……」
五竜さんが笑う姿は何度か見たことがある。
大抵は私たちの百合っぽいシーンを見た時に、獲物を狙う捕食者のように目を細めていた。
あの笑みを思い出すと震えあがってしまいそうだけど、百合が好きだというなら、今だって五竜さんのチームは百合にあふれている。
二つのチームで何が違うのだろう。
楽しそうな女の子に囲まれているのに、笑みを浮かべない五竜さんが不思議だった。
△ ▲ △ ▲ △
「ましろ! 盛り付けが終わったぞ!」
私がぼんやりと考えていた時、美嶺が元気な声を上げた。
気が付けばすでにハンバーグは焼かれており、ご飯とスープも盛り付けられている。
ご飯もつやつやに炊きあがり、スープと一緒に美味しそうな湯気を立ち上らせていた。
「あぅ。……いつの間に」
料理の終盤は何もしなかったので申し訳なく思いながら、テキパキと配膳を行う美嶺を目で追う。
「な、なんだよ……」
「いや……。そういえば美嶺が盛り付けしてるの、初めて見るなって思って……」
「そりゃあ、念願の肉だからな!」
そうか、美嶺は早く食べたいんだな。
その楽しそうな笑みが、私にとっては一番のごちそうかもしれない。
大切な三人の笑顔を見て、私は嬉しくなった。
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