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第三章
求愛行動
しおりを挟む「ほら、口を開けてみろ」
その言葉に反射的に口を開けば、彼の手によって砂糖菓子が押し込まれる。
「どうだ?」
頬杖をつくようにこちらを眺める彼は、嬉しそうにその目を細めた。
「……美味しいです」
「はは、それはなにより」
楽しそうな笑い声を上げた彼はまた新しく一つ白い金平糖を手に取ると、私の口元に運ぶ。
何も言わないままにっこりと微笑みかけられれば、口を開けろという無言の圧力が伝わってきた。
「あの、自分で食べられますので」
やんわりと断りを口にしたものの、その瞬間に新たな粒を押し込まれてしまう。
こちらの発言を一切聞き入れない様子に、つい眉根を寄せれば、向かいの彼はにんまりと満足げな笑みを浮かべた。
「そなたは私の花嫁なのだから、求愛行動は受け入れるべきだろう」
「求愛行動?」
寝耳に水の単語を繰り返せば、陛下はふっと笑い交じりの吐息を漏らす。
「雄から雌への給餌は、龍族における求愛行動の一つよ」
「へっ⁉︎」
驚きに声をあげれば、陛下は堪えきれない様子で肩を震わせながら笑い始めた。
「ふっ、そなたは愛らしいな」
まるで口説き文句のようなその言葉に、思わず顔が熱を持つ。
一体どういうつもりでこんな行動をとっているのかと思いながらも、気を取り直すように咳払いをすると姿勢を正した。
「……好かれる努力しなければならないのは私のはずですので、求愛行動をしていただく理由がよくわかりません」
私の言葉に、陛下はきょとんと目を丸くする。
「口に合わなかったか?」
「……いえ、とても美味しかったですが」
「はは、それはよかった。そなたのために用意したのだから、もっと食べるがよい」
「そういうことではなく……」
そう言いながら、またお菓子を摘み上げる相手の様子に、思わず脱力してしまう。
私が彼の花嫁となっているのは、ヨナ姫達を見逃してもらい、私を元の世界に帰してもらうためだ。
交換条件のように断れない取引を提案をしてきた相手が、翌日贈り物を手に求愛行動を取っているという状態に理解が追いつかない。
混乱に頭を抱えていれば、ふっと笑い混じりの吐息が聞こえた。
「警戒心の強い猫を愛でたくば、餌を用意するだろう?」
「警戒心の強い猫……?」
「はは、物の例えよ。私も花嫁と過ごす時間を楽しく過ごしたいのでな」
からからと笑う相手を見ると、どうも揶揄われているとしか思えない。
じとりと恨みがましい視線を向ければ、彼はおかしそうにその目を細めた。
「龍族の番は、雄の給餌を雌が受け入れることで成立する。我々が共に龍族だったなら、今この場で番となれたであろうな」
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