36 / 44
最終話 かあさん、東京は楽しいところです。
04
しおりを挟む
今回の騒動の原因は、バズっていた動画によって父に私の存在がばれたことだった。だから私たちの動画は全て削除した。消してしまえばバズっていたのが嘘みたいに、誰の話題にも上がらなくなった。正直、私はほっとした。絶海さんもまた起きてくれるようになったから、やっぱり私たちはアイドルには向いていなかったのだろう。
とにかく事件は無事に解決した。
というのに、絶海さんは学校までも送り迎えしてくれるようになったし、学校側も校門のフェンスを厚くしてくれることになった。みんな過保護なのだ。
「ねえ、絶海さん。今回奇跡的に死人も重傷者もいなかったけど奇跡だったのかな?」
「……一応あいつは堅気には手を出さない。だからハサミしか持ってこなかっただろ?」
「あれ、すごく怖かったわ」
「まあ、堅気にはそうだよな……きみにも間宮くんにも怖い思いをさせた……」
優弥さんはあの人に頭を殴られて、一瞬気絶したらしい。今は傷もなく治ったから気にしないで、と言われても気になる。でも彼は私の謝罪を受け付けないし、怒ってもくれなかった。その代わり、なにかにつけて頬にキスしようとしてくるから、全然油断できない。
この問題はきっとしばらく解決しないだろう。
「……、また来るよね?」
絶海さんはため息をついた。
「ああ、また来るだろうな。私だけならまだしも、朱莉のことも気に入ったようだから」
「えっそうなの⁉」
「あいつが家に他人をいれることなど私ときみのお母さん以外なかったはずだ」
私が顔を歪めると絶海さんはもっと嫌そうに顔を歪めた。
「次も助けにきてくれる?」
「……次なんてないさ」
「本当?」
「ああ。でもなにがあっても私がきみを助けるよ」
「フフ、そうね。ならいいわ」
それでも彼は私の父で、絶海さんの弟なのだ。実に手間がかかる。私が苦笑すると絶海さんも肩を竦めた。
「……ねえ、絶海さん、どうしてあのとき、起きてくれたの?」
「……サァ、なんでだろうな。起きられるときは起きられる」
「ちゃんと病院通ってね、絶海さん」
絶海さんの眠りの原因はまだわかっていない。でもとにかく今は起きていてくれる。
「朱莉は今日も可愛いな」
「またそうやってごまかして……ちゃんと病院行くんだよ?」
こうしてなにもなかったみたいに眉を下げていつもみたいに優しく笑ってくれる。私が頭を差し出せば、くしゃくしゃと撫でてくれる。だから、……とりあえずはよしにしている。
絶海さんは私の髪を手で梳かしたあと、ふと思い出したように「ア」と言った。
「そういえば朱莉、喉仏ぐらいは墓に入れてやりたいか? きみが要らなければ生きたまま全身の骨を細かく分断してやろうと思っているんだが……」
「へ、なんの話?」
「あのクズの話だが? マア、忘れてるならいいな。こちらで処分しておく。ヒロ、出刃包丁研いでおけ。来週の頭に大阪を焼く」
「えっ、なに、どういうこと⁉ 待って待って待って‼」
――この絶海さんの身内殺害予告は、私が「私は大阪よりも千葉の夢の国に行きたい! 絶海さんと一緒に行きたいなあ!」と叫んだことで実行されずに済んだ。
けれど、その夢の国で絶海さんにお揃いの猫耳カチューシャをつけて回ってもらった後、絶海さんは三日間寝たきりになってしまった。しかも絶海さんが寝たきりになっているときに、絶海さんの子どもだって名乗る、私と同い年の男の子が来襲したりもしたのだけど、……マァ、それはまた別の手紙で書くね。
とにかく東京はそんなに怖い街じゃないわ。
だからお母さんも東京に来てね。絶海さんはきっとぶつくさ言うけど、ちゃんと歓迎してくれるはずだから。……ちょっとだけ怖いこともあるけど、ちょっとだけ。それよりもずっと楽しくしているの。
だから安心して。お母さん、私、この街が大好きよ!
とにかく事件は無事に解決した。
というのに、絶海さんは学校までも送り迎えしてくれるようになったし、学校側も校門のフェンスを厚くしてくれることになった。みんな過保護なのだ。
「ねえ、絶海さん。今回奇跡的に死人も重傷者もいなかったけど奇跡だったのかな?」
「……一応あいつは堅気には手を出さない。だからハサミしか持ってこなかっただろ?」
「あれ、すごく怖かったわ」
「まあ、堅気にはそうだよな……きみにも間宮くんにも怖い思いをさせた……」
優弥さんはあの人に頭を殴られて、一瞬気絶したらしい。今は傷もなく治ったから気にしないで、と言われても気になる。でも彼は私の謝罪を受け付けないし、怒ってもくれなかった。その代わり、なにかにつけて頬にキスしようとしてくるから、全然油断できない。
この問題はきっとしばらく解決しないだろう。
「……、また来るよね?」
絶海さんはため息をついた。
「ああ、また来るだろうな。私だけならまだしも、朱莉のことも気に入ったようだから」
「えっそうなの⁉」
「あいつが家に他人をいれることなど私ときみのお母さん以外なかったはずだ」
私が顔を歪めると絶海さんはもっと嫌そうに顔を歪めた。
「次も助けにきてくれる?」
「……次なんてないさ」
「本当?」
「ああ。でもなにがあっても私がきみを助けるよ」
「フフ、そうね。ならいいわ」
それでも彼は私の父で、絶海さんの弟なのだ。実に手間がかかる。私が苦笑すると絶海さんも肩を竦めた。
「……ねえ、絶海さん、どうしてあのとき、起きてくれたの?」
「……サァ、なんでだろうな。起きられるときは起きられる」
「ちゃんと病院通ってね、絶海さん」
絶海さんの眠りの原因はまだわかっていない。でもとにかく今は起きていてくれる。
「朱莉は今日も可愛いな」
「またそうやってごまかして……ちゃんと病院行くんだよ?」
こうしてなにもなかったみたいに眉を下げていつもみたいに優しく笑ってくれる。私が頭を差し出せば、くしゃくしゃと撫でてくれる。だから、……とりあえずはよしにしている。
絶海さんは私の髪を手で梳かしたあと、ふと思い出したように「ア」と言った。
「そういえば朱莉、喉仏ぐらいは墓に入れてやりたいか? きみが要らなければ生きたまま全身の骨を細かく分断してやろうと思っているんだが……」
「へ、なんの話?」
「あのクズの話だが? マア、忘れてるならいいな。こちらで処分しておく。ヒロ、出刃包丁研いでおけ。来週の頭に大阪を焼く」
「えっ、なに、どういうこと⁉ 待って待って待って‼」
――この絶海さんの身内殺害予告は、私が「私は大阪よりも千葉の夢の国に行きたい! 絶海さんと一緒に行きたいなあ!」と叫んだことで実行されずに済んだ。
けれど、その夢の国で絶海さんにお揃いの猫耳カチューシャをつけて回ってもらった後、絶海さんは三日間寝たきりになってしまった。しかも絶海さんが寝たきりになっているときに、絶海さんの子どもだって名乗る、私と同い年の男の子が来襲したりもしたのだけど、……マァ、それはまた別の手紙で書くね。
とにかく東京はそんなに怖い街じゃないわ。
だからお母さんも東京に来てね。絶海さんはきっとぶつくさ言うけど、ちゃんと歓迎してくれるはずだから。……ちょっとだけ怖いこともあるけど、ちょっとだけ。それよりもずっと楽しくしているの。
だから安心して。お母さん、私、この街が大好きよ!
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
よくできた"妻"でして
真鳥カノ
ライト文芸
ある日突然、妻が亡くなった。
単身赴任先で妻の訃報を聞いた主人公は、帰り着いた我が家で、妻の重大な秘密と遭遇する。
久しぶりに我が家に戻った主人公を待ち受けていたものとは……!?
※こちらの作品はエブリスタにも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
水曜日のパン屋さん
水瀬さら
ライト文芸
些細なことから不登校になってしまった中学三年生の芽衣。偶然立ち寄った店は水曜日だけ営業しているパン屋さんだった。一人でパンを焼くさくらという女性。その息子で高校生の音羽。それぞれの事情を抱えパンを買いにくるお客さんたち。あたたかな人たちと触れ合い、悩み、励まされ、芽衣は少しずつ前を向いていく。
第2回ほっこり・じんわり大賞 奨励賞
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる