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最終話 かあさん、東京は楽しいところです。
04
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今回の騒動の原因は、バズっていた動画によって父に私の存在がばれたことだった。だから私たちの動画は全て削除した。消してしまえばバズっていたのが嘘みたいに、誰の話題にも上がらなくなった。正直、私はほっとした。絶海さんもまた起きてくれるようになったから、やっぱり私たちはアイドルには向いていなかったのだろう。
とにかく事件は無事に解決した。
というのに、絶海さんは学校までも送り迎えしてくれるようになったし、学校側も校門のフェンスを厚くしてくれることになった。みんな過保護なのだ。
「ねえ、絶海さん。今回奇跡的に死人も重傷者もいなかったけど奇跡だったのかな?」
「……一応あいつは堅気には手を出さない。だからハサミしか持ってこなかっただろ?」
「あれ、すごく怖かったわ」
「まあ、堅気にはそうだよな……きみにも間宮くんにも怖い思いをさせた……」
優弥さんはあの人に頭を殴られて、一瞬気絶したらしい。今は傷もなく治ったから気にしないで、と言われても気になる。でも彼は私の謝罪を受け付けないし、怒ってもくれなかった。その代わり、なにかにつけて頬にキスしようとしてくるから、全然油断できない。
この問題はきっとしばらく解決しないだろう。
「……、また来るよね?」
絶海さんはため息をついた。
「ああ、また来るだろうな。私だけならまだしも、朱莉のことも気に入ったようだから」
「えっそうなの⁉」
「あいつが家に他人をいれることなど私ときみのお母さん以外なかったはずだ」
私が顔を歪めると絶海さんはもっと嫌そうに顔を歪めた。
「次も助けにきてくれる?」
「……次なんてないさ」
「本当?」
「ああ。でもなにがあっても私がきみを助けるよ」
「フフ、そうね。ならいいわ」
それでも彼は私の父で、絶海さんの弟なのだ。実に手間がかかる。私が苦笑すると絶海さんも肩を竦めた。
「……ねえ、絶海さん、どうしてあのとき、起きてくれたの?」
「……サァ、なんでだろうな。起きられるときは起きられる」
「ちゃんと病院通ってね、絶海さん」
絶海さんの眠りの原因はまだわかっていない。でもとにかく今は起きていてくれる。
「朱莉は今日も可愛いな」
「またそうやってごまかして……ちゃんと病院行くんだよ?」
こうしてなにもなかったみたいに眉を下げていつもみたいに優しく笑ってくれる。私が頭を差し出せば、くしゃくしゃと撫でてくれる。だから、……とりあえずはよしにしている。
絶海さんは私の髪を手で梳かしたあと、ふと思い出したように「ア」と言った。
「そういえば朱莉、喉仏ぐらいは墓に入れてやりたいか? きみが要らなければ生きたまま全身の骨を細かく分断してやろうと思っているんだが……」
「へ、なんの話?」
「あのクズの話だが? マア、忘れてるならいいな。こちらで処分しておく。ヒロ、出刃包丁研いでおけ。来週の頭に大阪を焼く」
「えっ、なに、どういうこと⁉ 待って待って待って‼」
――この絶海さんの身内殺害予告は、私が「私は大阪よりも千葉の夢の国に行きたい! 絶海さんと一緒に行きたいなあ!」と叫んだことで実行されずに済んだ。
けれど、その夢の国で絶海さんにお揃いの猫耳カチューシャをつけて回ってもらった後、絶海さんは三日間寝たきりになってしまった。しかも絶海さんが寝たきりになっているときに、絶海さんの子どもだって名乗る、私と同い年の男の子が来襲したりもしたのだけど、……マァ、それはまた別の手紙で書くね。
とにかく東京はそんなに怖い街じゃないわ。
だからお母さんも東京に来てね。絶海さんはきっとぶつくさ言うけど、ちゃんと歓迎してくれるはずだから。……ちょっとだけ怖いこともあるけど、ちょっとだけ。それよりもずっと楽しくしているの。
だから安心して。お母さん、私、この街が大好きよ!
とにかく事件は無事に解決した。
というのに、絶海さんは学校までも送り迎えしてくれるようになったし、学校側も校門のフェンスを厚くしてくれることになった。みんな過保護なのだ。
「ねえ、絶海さん。今回奇跡的に死人も重傷者もいなかったけど奇跡だったのかな?」
「……一応あいつは堅気には手を出さない。だからハサミしか持ってこなかっただろ?」
「あれ、すごく怖かったわ」
「まあ、堅気にはそうだよな……きみにも間宮くんにも怖い思いをさせた……」
優弥さんはあの人に頭を殴られて、一瞬気絶したらしい。今は傷もなく治ったから気にしないで、と言われても気になる。でも彼は私の謝罪を受け付けないし、怒ってもくれなかった。その代わり、なにかにつけて頬にキスしようとしてくるから、全然油断できない。
この問題はきっとしばらく解決しないだろう。
「……、また来るよね?」
絶海さんはため息をついた。
「ああ、また来るだろうな。私だけならまだしも、朱莉のことも気に入ったようだから」
「えっそうなの⁉」
「あいつが家に他人をいれることなど私ときみのお母さん以外なかったはずだ」
私が顔を歪めると絶海さんはもっと嫌そうに顔を歪めた。
「次も助けにきてくれる?」
「……次なんてないさ」
「本当?」
「ああ。でもなにがあっても私がきみを助けるよ」
「フフ、そうね。ならいいわ」
それでも彼は私の父で、絶海さんの弟なのだ。実に手間がかかる。私が苦笑すると絶海さんも肩を竦めた。
「……ねえ、絶海さん、どうしてあのとき、起きてくれたの?」
「……サァ、なんでだろうな。起きられるときは起きられる」
「ちゃんと病院通ってね、絶海さん」
絶海さんの眠りの原因はまだわかっていない。でもとにかく今は起きていてくれる。
「朱莉は今日も可愛いな」
「またそうやってごまかして……ちゃんと病院行くんだよ?」
こうしてなにもなかったみたいに眉を下げていつもみたいに優しく笑ってくれる。私が頭を差し出せば、くしゃくしゃと撫でてくれる。だから、……とりあえずはよしにしている。
絶海さんは私の髪を手で梳かしたあと、ふと思い出したように「ア」と言った。
「そういえば朱莉、喉仏ぐらいは墓に入れてやりたいか? きみが要らなければ生きたまま全身の骨を細かく分断してやろうと思っているんだが……」
「へ、なんの話?」
「あのクズの話だが? マア、忘れてるならいいな。こちらで処分しておく。ヒロ、出刃包丁研いでおけ。来週の頭に大阪を焼く」
「えっ、なに、どういうこと⁉ 待って待って待って‼」
――この絶海さんの身内殺害予告は、私が「私は大阪よりも千葉の夢の国に行きたい! 絶海さんと一緒に行きたいなあ!」と叫んだことで実行されずに済んだ。
けれど、その夢の国で絶海さんにお揃いの猫耳カチューシャをつけて回ってもらった後、絶海さんは三日間寝たきりになってしまった。しかも絶海さんが寝たきりになっているときに、絶海さんの子どもだって名乗る、私と同い年の男の子が来襲したりもしたのだけど、……マァ、それはまた別の手紙で書くね。
とにかく東京はそんなに怖い街じゃないわ。
だからお母さんも東京に来てね。絶海さんはきっとぶつくさ言うけど、ちゃんと歓迎してくれるはずだから。……ちょっとだけ怖いこともあるけど、ちょっとだけ。それよりもずっと楽しくしているの。
だから安心して。お母さん、私、この街が大好きよ!
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