かあさん、東京は怖いところです。

木村

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第十話 東京はノリが悪いって本当ですか?

03

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 放課後の空き教室で一人文化祭に向けて練習していると、コンコン、と扉がノックされた。振りむけば優弥ゆうやさんだった。

「なにか手伝おうか?」
「ウウン、私一人で出来る」

 文化祭で私は思い切り歌えばいいだけだ。大したことじゃない。だから一人でも、大丈夫だ。

「俺のせいでしょ?」
「選んだのは私」
「……手伝わせてくんないの?」
「優弥さんは、……どうしてあんないじわるしたの?」

 優弥さんは少し黙ってから「あなたが俺から逃げるから。そうでもしないと話せないじゃないか」と言った。それはたしかにそうだと思い「ごめんなさい」と謝った。優弥さんは気まずそうに頭を掻いた。

「……浜町のステージ見てたよ。すごく格好よかった」
「そう? ……ありがとう」
「あんなのバズるに決まってる。叔父と姪で、顔もよくて、声もよくて、あんな格好いいんだもん……ひでえの。そんなの俺じゃ勝てないよ」
「……他の人に色々言われるのが嫌だったから付き合ったんでしょ? 本気で好きになったりはしないんでしょう?」

 私がそう言えば彼は眉を下げて「違うよ。そんなの口実だ」と嘘をついた。それでも嬉しかった。そうして、絶海さんが大変なときにそんなことで喜んでしまう自分がイヤだった。
 だから私は彼から目をそらした。すると、彼は私の手首をつかんだ。私と同じぐらいの大きさで、私と同じぐらいの体温の掌だ。

「ねえ、朱莉さん」
「……なあに、優弥さん」
「文化祭終わったらちゃんと告白したい。聞いてくれる?」

 優弥さんは真っ赤な顔をしていて、それを見るとつられて自分の胸がドキドキと騒ぐ。

「……駄目よ」
「どうして?」
「高校の間は誰かと付き合ったりしない。恋なんかしたら私のことを心配してくれている人たちを裏切っちゃいそうだから……」

 優弥さんは眉を下げて笑う。

「なら、待たせて。俺はちゃんとするよ」

 そんなのもうちゃんとした告白じゃないか。ずるいなあと思いながら「ウン」と答えた。耳が赤くなっている自覚はあった。それでも、「でも駄目よ、出てって」と彼を追い出せたから、許してほしいと思った。
 だれに許されたいのかはわからなかったけれど。
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