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第四話 推しが推しに狂っているのは割と好きではあるけど二次創作でやってくれとボクは泣いた
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しおりを挟む荒廃した大地の中で、ボロボロの軍服を羽織って世界最強のガジが微笑んでいる。彼は血の付いた頬をぬぐうと遠くに見える地球を指さした。
――シャンル、……お前が俺を幸せにしてくれるんだろ。だったら、絶対生きて帰ろうな。
背景まで綺麗に描かれている良質な同人誌だ。というかこの絵柄は神絵師マーガロンさんのものじゃないか。新作か。新作同人誌か。全年齢だといいなあ、成人向けは成人になるまで取っておいてもらえると良いなあ、マーガロンさんと相互フォロー関係になってからまだ日が浅いから取り置きは頼めないだろうか……。
――うん、ガジ、約束する。僕、なにがあっても君を幸せにするよ。
ていうか音声付きの同人誌とかやば……まさかこれは同人ボイスドラマ企画が進行しているということだろうか。だとしたらガジの声はいいけど、シャンルの声はもうちょっと雄感がある方がいい。こんなソプラノボイスじゃなくて、いや受けの声が可愛い方がいいっていう意見があるのはわかるけど、でもシャンルの声はもっとこう低くて格好いい感じの方が……いや、企画主さんの好みであればなにもいえない。いずれボクが企画主になるまで企画に文句を言う筋合いなど……。
と思ったところで気が付いた。これは夢だ。
そして夢だと気が付いてしまった瞬間に夢の輪郭が崩れ始める。ボクは夢だと気が付いた自分をフルボッコにしたいと思いながら、夢から目を覚ました。
「ン……朝かな……、……ゴフッ……」
目を開けたら目の前に世界最強の男の寝顔があったので、ボクは咽せて目を閉じた。
寝起きの頭で状況を振り返る。
昨日この家に連れ込まれてから、このキングサイズのベッドのヘッドボードに腕をつながれた。彼は全くボクの話しを聞かず「シャンル」とボクを呼び、しかもボクの服を無理矢理脱がせたのだ! 彼はボクを下着一枚にすると、「やっぱり怪我をしてるじゃないか」とカツアゲにあったときにできた腕の痣と腹部の傷と、膝の擦り傷を丁寧に処置してくれた。だからボクは「ああ、怪我を看たかった服を脱がせたのか、うん、じゃあもう着せて?」と頼んだのだけど、彼は「それもあるがそれ以外もある」とわけわからないことをぬかし、未成年のボク相手に「キスはしないのか?」だとか「ほら、今ならどう触ってもいいぞ。俺の身体は魅力的じゃないか?」だとか、甘くて低い声でとんでもないことを言いまくった。ボクは「成人向けコンテンツは十八歳以上!!」と泣き喚いた。そしたら彼はなんといったのだったか、たしか……「待つのには慣れている」だとか「お前がいるならいい」だとか言って……軍服を脱ぐとボクの隣で眠ってしまったのだ。その寝顔を見て、その顔色がとても悪くて、目の下にクマが出来ていることに今更気が付いて、ボクは……とてもそんな推しを起こすことはできず、隣で静かにしている内に、結局寝てしまって……今に至るのだろう。
つまりここはガジの家で、ボクは未だにシャンルと勘違いされているというわけわからない状況のままだ。
このままじゃまずいと僕は目を開けて、息を飲んだ。
キラキラと輝く金色の目がパカっと開いてボクを見つめていたからだ。
「おはよう、シャンル」
「起きていたなら言って‼ 怖い!!」
「おはようのキスするか?」
「しない!!!!!!」
ガジは起き上がり「つれないな」と目を伏せて、人差し指でボクの鎖骨をなぞる。
「昨日もあんなに誘ったというのに……寝ている相手にも手を出してくれないとはな」
「ガジ様はそんなこと言わない!!!!」
「たしかに子どもに手を出すのは問題だと思うが、お前が俺に手を出す分には問題ないだろ?」
「ガジ様はそんなこと言わないもん!!!!」
「フフ、朝から元気で何よりだ」
彼はボクの鎖骨にキスをすると「朝食をつくってくる」とベッドから降りて退室した。
ボクはそれを見送ってから、自分の格好と、自分の手を見た。
やはりボクは下着姿で手錠でつなぎ留められ、ベッドからおりられない状態だった。
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