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第三話 世界はお前を選ばなかった
01
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視点:ガジ
いきなり敵の星に放り出され、敵に囲まれ、銃弾は少なく、なのに『敵の母星を破壊してこい』と任務内容を伝えられて、通信機器は壊れた。要するに自爆してこいという命令だ。生き残る道は少しも見えなかった。俺をこんな任務に放り出すぐらい、俺は実家に嫌われていたし、実家に嫌われている俺は軍にも必要とされていなかったのだろう。まだ二十八だった。まだやりたいことはあった。あんな家に生まれてさえいなければ、エイリアンなんて来なければ、もっと平和な世界だったなら、こんなことにはならなかったのに、……でももうここで死ぬのだと、分かった。
「ねえ、この星ってどうやったら破壊できるのかなあ?」
「……知るか」
「じゃあそれから調べないとだねー、ねえ、僕はシャンルだよ。君はだあれ?」
それが初対面だ。地獄で俺はあいつと出会った。あいつは地獄なのに笑っていた。
……まあ、あとで思い返すとシャンルが笑っていない時などなかったのだけど、俺は驚いた。
『こんなときまで笑うやつ……これが俺の家が作った化物か』
シャンルは生まれたときから俺の家の裏家業のある施設で特殊訓練を受けた『成功例』だった。心から主に尽くすようにつくられた生きた兵器。痛みや苦しみも恐怖を感じることはなく、死ぬまで戦い続ける化物、それがシャンルで、彼の仕事はここで俺と死ぬことだった。でも、彼はそれをわかっていなかった。
彼は純粋に『この星を破壊したら帰れる』と思っていた。俺は、彼のその笑顔に少なからず救われて、しかし彼のその壊れた心にそれ以上に絶望した。
敵の母星についての情報は一切ない中で、俺は彼と地獄を歩いた。敵を見つけては殺し、敵に見つかっては殺されかけ、どこに進んでも敵しかいない。隣を歩く男は戦闘能力だけは信頼できるが、会話ができるほどの知能はない。眠る時すら恐怖があった。
そうして――ほんの一週間後。
「僕、君のこと好き!」
馬鹿な男はそんな馬鹿なことを言った。
「……そりゃ知らなかった」
「ガジは? ガジは僕の事好き?」
「知らないかもしれないが、俺はお前のことを愛しているよ」
どうでもよかった。
だから彼の告白に俺はそんなことを返した。
なのにシャンルは「嬉しい!」と笑った。
「俺たち両想いだね!」
シャンルはこの局面でもまだ『死ぬこと』が分かっていなかった。
彼はまだ生きて帰れると信じていて、当然のように「じゃあキスしよう」と笑った。
「キスって……ふざけているのか?」
「やだ?」
「……俺、なまぐさいぞ。エイリアンの死体味だ」
「僕もだよ! お揃いだ! 嬉しいね!」
頭の悪い彼の『好き』に意味がないことはわかっていた。でもそんなことはどうでもよかった。俺もこいつもこの知らない星で死ぬのだ。どこにも帰れず惨めに死ぬのだ。じゃあいいや、とキスをした。彼はエイリアンの死体味で、俺だってそんなもので、なのにエイリアンと違って彼は温かかった。人間のあたたかい肉を持っていた。
「嬉しい、ガジ」
彼は嬉しそうにニコニコしながら、血まみれの俺を抱きしめた。
「ガジ、地球に帰ったらセックスしようね、約束だよ。僕、すごく頑張るから、ガジは可愛い女の子を産んでね。名前はなににする?」
「……この馬鹿……まあいい、生きて帰ったら全部どうにかしてやるよ」
「約束だよ、ガジ、……絶対地球に帰ろう。絶対だよ、ガジ。僕たちで幸せになろう」
「……ああ、お前と幸せになりたいよ、シャンル。俺のことをどうでもいいと思っている世界のために死ぬんじゃなくて、……俺のことを好きだと言ってくれるお前と幸せになりたい……」
シャンルは心がないからどんなときも泣くことはない。そのことが哀れだった。
「でも俺は幸せなんかより、……お前が壊れることなく平和に生きられる世界にいたい……こんな世界、もういやだ……」
シャンルは俺の涙をぬぐって「どうして泣くの、ガジ」「大丈夫だよ」「幸せにするよ」「僕たち両思いだね」と笑った。
いきなり敵の星に放り出され、敵に囲まれ、銃弾は少なく、なのに『敵の母星を破壊してこい』と任務内容を伝えられて、通信機器は壊れた。要するに自爆してこいという命令だ。生き残る道は少しも見えなかった。俺をこんな任務に放り出すぐらい、俺は実家に嫌われていたし、実家に嫌われている俺は軍にも必要とされていなかったのだろう。まだ二十八だった。まだやりたいことはあった。あんな家に生まれてさえいなければ、エイリアンなんて来なければ、もっと平和な世界だったなら、こんなことにはならなかったのに、……でももうここで死ぬのだと、分かった。
「ねえ、この星ってどうやったら破壊できるのかなあ?」
「……知るか」
「じゃあそれから調べないとだねー、ねえ、僕はシャンルだよ。君はだあれ?」
それが初対面だ。地獄で俺はあいつと出会った。あいつは地獄なのに笑っていた。
……まあ、あとで思い返すとシャンルが笑っていない時などなかったのだけど、俺は驚いた。
『こんなときまで笑うやつ……これが俺の家が作った化物か』
シャンルは生まれたときから俺の家の裏家業のある施設で特殊訓練を受けた『成功例』だった。心から主に尽くすようにつくられた生きた兵器。痛みや苦しみも恐怖を感じることはなく、死ぬまで戦い続ける化物、それがシャンルで、彼の仕事はここで俺と死ぬことだった。でも、彼はそれをわかっていなかった。
彼は純粋に『この星を破壊したら帰れる』と思っていた。俺は、彼のその笑顔に少なからず救われて、しかし彼のその壊れた心にそれ以上に絶望した。
敵の母星についての情報は一切ない中で、俺は彼と地獄を歩いた。敵を見つけては殺し、敵に見つかっては殺されかけ、どこに進んでも敵しかいない。隣を歩く男は戦闘能力だけは信頼できるが、会話ができるほどの知能はない。眠る時すら恐怖があった。
そうして――ほんの一週間後。
「僕、君のこと好き!」
馬鹿な男はそんな馬鹿なことを言った。
「……そりゃ知らなかった」
「ガジは? ガジは僕の事好き?」
「知らないかもしれないが、俺はお前のことを愛しているよ」
どうでもよかった。
だから彼の告白に俺はそんなことを返した。
なのにシャンルは「嬉しい!」と笑った。
「俺たち両想いだね!」
シャンルはこの局面でもまだ『死ぬこと』が分かっていなかった。
彼はまだ生きて帰れると信じていて、当然のように「じゃあキスしよう」と笑った。
「キスって……ふざけているのか?」
「やだ?」
「……俺、なまぐさいぞ。エイリアンの死体味だ」
「僕もだよ! お揃いだ! 嬉しいね!」
頭の悪い彼の『好き』に意味がないことはわかっていた。でもそんなことはどうでもよかった。俺もこいつもこの知らない星で死ぬのだ。どこにも帰れず惨めに死ぬのだ。じゃあいいや、とキスをした。彼はエイリアンの死体味で、俺だってそんなもので、なのにエイリアンと違って彼は温かかった。人間のあたたかい肉を持っていた。
「嬉しい、ガジ」
彼は嬉しそうにニコニコしながら、血まみれの俺を抱きしめた。
「ガジ、地球に帰ったらセックスしようね、約束だよ。僕、すごく頑張るから、ガジは可愛い女の子を産んでね。名前はなににする?」
「……この馬鹿……まあいい、生きて帰ったら全部どうにかしてやるよ」
「約束だよ、ガジ、……絶対地球に帰ろう。絶対だよ、ガジ。僕たちで幸せになろう」
「……ああ、お前と幸せになりたいよ、シャンル。俺のことをどうでもいいと思っている世界のために死ぬんじゃなくて、……俺のことを好きだと言ってくれるお前と幸せになりたい……」
シャンルは心がないからどんなときも泣くことはない。そのことが哀れだった。
「でも俺は幸せなんかより、……お前が壊れることなく平和に生きられる世界にいたい……こんな世界、もういやだ……」
シャンルは俺の涙をぬぐって「どうして泣くの、ガジ」「大丈夫だよ」「幸せにするよ」「僕たち両思いだね」と笑った。
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