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第一話 地雷を踏むなと軍人に言う地雷のことをご配慮くださいってことですかとボクは叫んだ
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「綺麗な髪だな……シャンルによく似ているよ。髪型も真似ているのか? ……まあ、きみはあいつよりずっと綺麗だけど……」
彼がボクの肩を大きな手でトンと叩く。
「怖かったよな? すまない、ここは治安がよくないんでな……きみのような恰好はあまりお勧めできない。シャンルが好きって言うのは素敵だとは思うが……、まあ、でもきみのその姿はよく目立ったようですぐ通報してもらえたが……ん? おい、大丈夫か? そんなにまじまじと見て……俺の顔がなんか気になるか?」
彼がボクの肩を大きな手でトンと叩く。ボクは肩に乗せられた手をじっと見る。それから、もう一度仮面に覆われたその顔を見た。
「が、が、がじ、がじ、がじだ……?」
「うん?」
「ほんものの、がじ……?」
彼はボクの隣に座ると「変なことを聞く」と呟く。
「ああ、……しかし、そうか。きみらの世代だと俺にはそう会えないからな……」
「……あ、ああ……がじ……せいふく、きんばっち……たいちょう、きんばっち……」
「たしかにこれは隊長の金バッチだ。……しかし若いのによく知ってるな、きみぐらいの年でこの軍服見る機会そうないだろうに……」
ボクは夢見心地のまま口を開く。
「同人誌で知りまし……、ゴフッ、しまった、ナマモノ! ジャンルを本人になど! ああっ! 地雷!」
「地雷⁉ きみ、地雷があるようなところから来たのか⁉」
「ちがっああっ、ガジのおててがボクに触れている⁉ ひえっ解釈違いです!」
「は? 急にどうしたんだ? パニックか?」
彼はボクの背中を掴むと、ぐっと抱き寄せた。
「落ち着きなさい」
「いい匂いがする!」
「……落ち着けと言っている」
ぺち、と頬を叩かれた。痛みはないけどさすがに少し言葉が止まる。
「何歳だ、きみ、……まったく、元気な子だな」
くすっと彼は笑った。
「……わ、笑っている……」
「……え?」
「ガジ、今、幸せですか……?」
「……」
彼はふと、黙った。
彼の左手がボクの肩から背に回り、背から腰に回る。彼はじっとボクの瞳を見ながらコツン、とボクの額に仮面をぶつけてきた。いい匂いがする。いい匂い過ぎてクラクラしてきた。顔が真っ赤になっている気がする。
「ボ、ボク、あの、ガジ、幸せでいて、ほしくて……あの、大好きだから、その……笑っていてくれると、嬉しくて……」
ずっと言いたかったことをなんとか伝えようとするけれど、たじたじになってしまう。ボクは『I ♡ Sanl』Tシャツの裾を握りしめ、「あの、……」と言うと、彼が息を吐き出した。その吐息がぶつかって、彼が今まで息を止めていたことがわかった。
「『お前』か、……」
「……え?」
「……、やっと……『見つけた』」
彼の右手がボクの頬に触れ、耳をかさめて、うなじに伸びる。少し引き寄せられたと思ったら、ちゅ、と音がした。
――は? 『ちゅ』?
目の前にいるガジはにこりと笑っていた。
「『会いたかった』」
――ボクのファーストキスをかっさらっていった男が同人誌の見開きで言いそうなセリフで微笑んでいる。ボクは口を押さえ、わなわなとうち震えた。だってボクのファーストキスだ、それを推しが奪っていったってどういう……。
「……解釈違い!!!!!」
「うわ」
咄嗟にボクは彼を突き飛ばして走り出した。
だってガジがボク相手に微笑む時点で解釈違いだし、誰相手でも『会いたかった』なんて甘い言葉を吐くこと自体解釈違いだし、というかボクの推しが未成年に手を出すような犯罪行為を行うのは解釈違い……とグルグル考えていたら背中をトン、とつつかれた。
「お前、足遅くなったな?」
「うわあああああああああ!?!?!?」
並走されていた。全力疾走しているのに普通に話しかけてきているこの軍人!
「なんでそんな速い!? 杖の意味はなに⁉」
「杖は武器だぞ」
「うわあああああああこわいいいいいいいい!!!!!!」
「怖い? ……へえ、怖がっているのか?」
「ぎゃああああああ!!!!!!」
ボクは叫びながら走った。
ちなみにこの様子も後々バズったらしいがもちろんそんなのを気にしている余裕はボクにはなかった。
「どこに行くんだ?」
「ぎゃああああああああ!!!! ついてこないで!!!!!!」
「何故? まさか俺から逃げられると思っているのか? だったら見つかったのが間違いだったな……見つけた以上お前は俺のものだ……」
「やだやだやだやだやだガジはそんな病んでいること言わないもん!!!! ボクのガジはシャンル以外に笑わない仏頂面で、遠い昔のことを思いながら心穏やかに隠居しているイケオジだもん!!!! こんなところで十四歳追いかけている犯罪者じゃないもん!!!!!!」
走りながら、しかし彼に腰を撫でられる。ヒエっと思いながら横を見ると、彼はにんまりと笑っていた。
「『ボクのガジ』か……いい響きだな」
「ぎゃあああああああああああ!!!!!! 解釈違いだあああああ!!!!!!」
「ところでどこまで走るつもりだ?」
「ついてこないでください!!!!!!」
だがボクの叫びに彼は微笑むだけ。そしてボクは世界最強から逃げる術などなく、泣きわめきながら走るしかなかったのだ。
彼がボクの肩を大きな手でトンと叩く。
「怖かったよな? すまない、ここは治安がよくないんでな……きみのような恰好はあまりお勧めできない。シャンルが好きって言うのは素敵だとは思うが……、まあ、でもきみのその姿はよく目立ったようですぐ通報してもらえたが……ん? おい、大丈夫か? そんなにまじまじと見て……俺の顔がなんか気になるか?」
彼がボクの肩を大きな手でトンと叩く。ボクは肩に乗せられた手をじっと見る。それから、もう一度仮面に覆われたその顔を見た。
「が、が、がじ、がじ、がじだ……?」
「うん?」
「ほんものの、がじ……?」
彼はボクの隣に座ると「変なことを聞く」と呟く。
「ああ、……しかし、そうか。きみらの世代だと俺にはそう会えないからな……」
「……あ、ああ……がじ……せいふく、きんばっち……たいちょう、きんばっち……」
「たしかにこれは隊長の金バッチだ。……しかし若いのによく知ってるな、きみぐらいの年でこの軍服見る機会そうないだろうに……」
ボクは夢見心地のまま口を開く。
「同人誌で知りまし……、ゴフッ、しまった、ナマモノ! ジャンルを本人になど! ああっ! 地雷!」
「地雷⁉ きみ、地雷があるようなところから来たのか⁉」
「ちがっああっ、ガジのおててがボクに触れている⁉ ひえっ解釈違いです!」
「は? 急にどうしたんだ? パニックか?」
彼はボクの背中を掴むと、ぐっと抱き寄せた。
「落ち着きなさい」
「いい匂いがする!」
「……落ち着けと言っている」
ぺち、と頬を叩かれた。痛みはないけどさすがに少し言葉が止まる。
「何歳だ、きみ、……まったく、元気な子だな」
くすっと彼は笑った。
「……わ、笑っている……」
「……え?」
「ガジ、今、幸せですか……?」
「……」
彼はふと、黙った。
彼の左手がボクの肩から背に回り、背から腰に回る。彼はじっとボクの瞳を見ながらコツン、とボクの額に仮面をぶつけてきた。いい匂いがする。いい匂い過ぎてクラクラしてきた。顔が真っ赤になっている気がする。
「ボ、ボク、あの、ガジ、幸せでいて、ほしくて……あの、大好きだから、その……笑っていてくれると、嬉しくて……」
ずっと言いたかったことをなんとか伝えようとするけれど、たじたじになってしまう。ボクは『I ♡ Sanl』Tシャツの裾を握りしめ、「あの、……」と言うと、彼が息を吐き出した。その吐息がぶつかって、彼が今まで息を止めていたことがわかった。
「『お前』か、……」
「……え?」
「……、やっと……『見つけた』」
彼の右手がボクの頬に触れ、耳をかさめて、うなじに伸びる。少し引き寄せられたと思ったら、ちゅ、と音がした。
――は? 『ちゅ』?
目の前にいるガジはにこりと笑っていた。
「『会いたかった』」
――ボクのファーストキスをかっさらっていった男が同人誌の見開きで言いそうなセリフで微笑んでいる。ボクは口を押さえ、わなわなとうち震えた。だってボクのファーストキスだ、それを推しが奪っていったってどういう……。
「……解釈違い!!!!!」
「うわ」
咄嗟にボクは彼を突き飛ばして走り出した。
だってガジがボク相手に微笑む時点で解釈違いだし、誰相手でも『会いたかった』なんて甘い言葉を吐くこと自体解釈違いだし、というかボクの推しが未成年に手を出すような犯罪行為を行うのは解釈違い……とグルグル考えていたら背中をトン、とつつかれた。
「お前、足遅くなったな?」
「うわあああああああああ!?!?!?」
並走されていた。全力疾走しているのに普通に話しかけてきているこの軍人!
「なんでそんな速い!? 杖の意味はなに⁉」
「杖は武器だぞ」
「うわあああああああこわいいいいいいいい!!!!!!」
「怖い? ……へえ、怖がっているのか?」
「ぎゃああああああ!!!!!!」
ボクは叫びながら走った。
ちなみにこの様子も後々バズったらしいがもちろんそんなのを気にしている余裕はボクにはなかった。
「どこに行くんだ?」
「ぎゃああああああああ!!!! ついてこないで!!!!!!」
「何故? まさか俺から逃げられると思っているのか? だったら見つかったのが間違いだったな……見つけた以上お前は俺のものだ……」
「やだやだやだやだやだガジはそんな病んでいること言わないもん!!!! ボクのガジはシャンル以外に笑わない仏頂面で、遠い昔のことを思いながら心穏やかに隠居しているイケオジだもん!!!! こんなところで十四歳追いかけている犯罪者じゃないもん!!!!!!」
走りながら、しかし彼に腰を撫でられる。ヒエっと思いながら横を見ると、彼はにんまりと笑っていた。
「『ボクのガジ』か……いい響きだな」
「ぎゃあああああああああああ!!!!!! 解釈違いだあああああ!!!!!!」
「ところでどこまで走るつもりだ?」
「ついてこないでください!!!!!!」
だがボクの叫びに彼は微笑むだけ。そしてボクは世界最強から逃げる術などなく、泣きわめきながら走るしかなかったのだ。
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