4 / 13
第一話 地雷を踏むなと軍人に言う地雷のことをご配慮くださいってことですかとボクは叫んだ
03
しおりを挟む
「綺麗な髪だな……シャンルによく似ているよ。髪型も真似ているのか? ……まあ、きみはあいつよりずっと綺麗だけど……」
彼がボクの肩を大きな手でトンと叩く。
「怖かったよな? すまない、ここは治安がよくないんでな……きみのような恰好はあまりお勧めできない。シャンルが好きって言うのは素敵だとは思うが……、まあ、でもきみのその姿はよく目立ったようですぐ通報してもらえたが……ん? おい、大丈夫か? そんなにまじまじと見て……俺の顔がなんか気になるか?」
彼がボクの肩を大きな手でトンと叩く。ボクは肩に乗せられた手をじっと見る。それから、もう一度仮面に覆われたその顔を見た。
「が、が、がじ、がじ、がじだ……?」
「うん?」
「ほんものの、がじ……?」
彼はボクの隣に座ると「変なことを聞く」と呟く。
「ああ、……しかし、そうか。きみらの世代だと俺にはそう会えないからな……」
「……あ、ああ……がじ……せいふく、きんばっち……たいちょう、きんばっち……」
「たしかにこれは隊長の金バッチだ。……しかし若いのによく知ってるな、きみぐらいの年でこの軍服見る機会そうないだろうに……」
ボクは夢見心地のまま口を開く。
「同人誌で知りまし……、ゴフッ、しまった、ナマモノ! ジャンルを本人になど! ああっ! 地雷!」
「地雷⁉ きみ、地雷があるようなところから来たのか⁉」
「ちがっああっ、ガジのおててがボクに触れている⁉ ひえっ解釈違いです!」
「は? 急にどうしたんだ? パニックか?」
彼はボクの背中を掴むと、ぐっと抱き寄せた。
「落ち着きなさい」
「いい匂いがする!」
「……落ち着けと言っている」
ぺち、と頬を叩かれた。痛みはないけどさすがに少し言葉が止まる。
「何歳だ、きみ、……まったく、元気な子だな」
くすっと彼は笑った。
「……わ、笑っている……」
「……え?」
「ガジ、今、幸せですか……?」
「……」
彼はふと、黙った。
彼の左手がボクの肩から背に回り、背から腰に回る。彼はじっとボクの瞳を見ながらコツン、とボクの額に仮面をぶつけてきた。いい匂いがする。いい匂い過ぎてクラクラしてきた。顔が真っ赤になっている気がする。
「ボ、ボク、あの、ガジ、幸せでいて、ほしくて……あの、大好きだから、その……笑っていてくれると、嬉しくて……」
ずっと言いたかったことをなんとか伝えようとするけれど、たじたじになってしまう。ボクは『I ♡ Sanl』Tシャツの裾を握りしめ、「あの、……」と言うと、彼が息を吐き出した。その吐息がぶつかって、彼が今まで息を止めていたことがわかった。
「『お前』か、……」
「……え?」
「……、やっと……『見つけた』」
彼の右手がボクの頬に触れ、耳をかさめて、うなじに伸びる。少し引き寄せられたと思ったら、ちゅ、と音がした。
――は? 『ちゅ』?
目の前にいるガジはにこりと笑っていた。
「『会いたかった』」
――ボクのファーストキスをかっさらっていった男が同人誌の見開きで言いそうなセリフで微笑んでいる。ボクは口を押さえ、わなわなとうち震えた。だってボクのファーストキスだ、それを推しが奪っていったってどういう……。
「……解釈違い!!!!!」
「うわ」
咄嗟にボクは彼を突き飛ばして走り出した。
だってガジがボク相手に微笑む時点で解釈違いだし、誰相手でも『会いたかった』なんて甘い言葉を吐くこと自体解釈違いだし、というかボクの推しが未成年に手を出すような犯罪行為を行うのは解釈違い……とグルグル考えていたら背中をトン、とつつかれた。
「お前、足遅くなったな?」
「うわあああああああああ!?!?!?」
並走されていた。全力疾走しているのに普通に話しかけてきているこの軍人!
「なんでそんな速い!? 杖の意味はなに⁉」
「杖は武器だぞ」
「うわあああああああこわいいいいいいいい!!!!!!」
「怖い? ……へえ、怖がっているのか?」
「ぎゃああああああ!!!!!!」
ボクは叫びながら走った。
ちなみにこの様子も後々バズったらしいがもちろんそんなのを気にしている余裕はボクにはなかった。
「どこに行くんだ?」
「ぎゃああああああああ!!!! ついてこないで!!!!!!」
「何故? まさか俺から逃げられると思っているのか? だったら見つかったのが間違いだったな……見つけた以上お前は俺のものだ……」
「やだやだやだやだやだガジはそんな病んでいること言わないもん!!!! ボクのガジはシャンル以外に笑わない仏頂面で、遠い昔のことを思いながら心穏やかに隠居しているイケオジだもん!!!! こんなところで十四歳追いかけている犯罪者じゃないもん!!!!!!」
走りながら、しかし彼に腰を撫でられる。ヒエっと思いながら横を見ると、彼はにんまりと笑っていた。
「『ボクのガジ』か……いい響きだな」
「ぎゃあああああああああああ!!!!!! 解釈違いだあああああ!!!!!!」
「ところでどこまで走るつもりだ?」
「ついてこないでください!!!!!!」
だがボクの叫びに彼は微笑むだけ。そしてボクは世界最強から逃げる術などなく、泣きわめきながら走るしかなかったのだ。
彼がボクの肩を大きな手でトンと叩く。
「怖かったよな? すまない、ここは治安がよくないんでな……きみのような恰好はあまりお勧めできない。シャンルが好きって言うのは素敵だとは思うが……、まあ、でもきみのその姿はよく目立ったようですぐ通報してもらえたが……ん? おい、大丈夫か? そんなにまじまじと見て……俺の顔がなんか気になるか?」
彼がボクの肩を大きな手でトンと叩く。ボクは肩に乗せられた手をじっと見る。それから、もう一度仮面に覆われたその顔を見た。
「が、が、がじ、がじ、がじだ……?」
「うん?」
「ほんものの、がじ……?」
彼はボクの隣に座ると「変なことを聞く」と呟く。
「ああ、……しかし、そうか。きみらの世代だと俺にはそう会えないからな……」
「……あ、ああ……がじ……せいふく、きんばっち……たいちょう、きんばっち……」
「たしかにこれは隊長の金バッチだ。……しかし若いのによく知ってるな、きみぐらいの年でこの軍服見る機会そうないだろうに……」
ボクは夢見心地のまま口を開く。
「同人誌で知りまし……、ゴフッ、しまった、ナマモノ! ジャンルを本人になど! ああっ! 地雷!」
「地雷⁉ きみ、地雷があるようなところから来たのか⁉」
「ちがっああっ、ガジのおててがボクに触れている⁉ ひえっ解釈違いです!」
「は? 急にどうしたんだ? パニックか?」
彼はボクの背中を掴むと、ぐっと抱き寄せた。
「落ち着きなさい」
「いい匂いがする!」
「……落ち着けと言っている」
ぺち、と頬を叩かれた。痛みはないけどさすがに少し言葉が止まる。
「何歳だ、きみ、……まったく、元気な子だな」
くすっと彼は笑った。
「……わ、笑っている……」
「……え?」
「ガジ、今、幸せですか……?」
「……」
彼はふと、黙った。
彼の左手がボクの肩から背に回り、背から腰に回る。彼はじっとボクの瞳を見ながらコツン、とボクの額に仮面をぶつけてきた。いい匂いがする。いい匂い過ぎてクラクラしてきた。顔が真っ赤になっている気がする。
「ボ、ボク、あの、ガジ、幸せでいて、ほしくて……あの、大好きだから、その……笑っていてくれると、嬉しくて……」
ずっと言いたかったことをなんとか伝えようとするけれど、たじたじになってしまう。ボクは『I ♡ Sanl』Tシャツの裾を握りしめ、「あの、……」と言うと、彼が息を吐き出した。その吐息がぶつかって、彼が今まで息を止めていたことがわかった。
「『お前』か、……」
「……え?」
「……、やっと……『見つけた』」
彼の右手がボクの頬に触れ、耳をかさめて、うなじに伸びる。少し引き寄せられたと思ったら、ちゅ、と音がした。
――は? 『ちゅ』?
目の前にいるガジはにこりと笑っていた。
「『会いたかった』」
――ボクのファーストキスをかっさらっていった男が同人誌の見開きで言いそうなセリフで微笑んでいる。ボクは口を押さえ、わなわなとうち震えた。だってボクのファーストキスだ、それを推しが奪っていったってどういう……。
「……解釈違い!!!!!」
「うわ」
咄嗟にボクは彼を突き飛ばして走り出した。
だってガジがボク相手に微笑む時点で解釈違いだし、誰相手でも『会いたかった』なんて甘い言葉を吐くこと自体解釈違いだし、というかボクの推しが未成年に手を出すような犯罪行為を行うのは解釈違い……とグルグル考えていたら背中をトン、とつつかれた。
「お前、足遅くなったな?」
「うわあああああああああ!?!?!?」
並走されていた。全力疾走しているのに普通に話しかけてきているこの軍人!
「なんでそんな速い!? 杖の意味はなに⁉」
「杖は武器だぞ」
「うわあああああああこわいいいいいいいい!!!!!!」
「怖い? ……へえ、怖がっているのか?」
「ぎゃああああああ!!!!!!」
ボクは叫びながら走った。
ちなみにこの様子も後々バズったらしいがもちろんそんなのを気にしている余裕はボクにはなかった。
「どこに行くんだ?」
「ぎゃああああああああ!!!! ついてこないで!!!!!!」
「何故? まさか俺から逃げられると思っているのか? だったら見つかったのが間違いだったな……見つけた以上お前は俺のものだ……」
「やだやだやだやだやだガジはそんな病んでいること言わないもん!!!! ボクのガジはシャンル以外に笑わない仏頂面で、遠い昔のことを思いながら心穏やかに隠居しているイケオジだもん!!!! こんなところで十四歳追いかけている犯罪者じゃないもん!!!!!!」
走りながら、しかし彼に腰を撫でられる。ヒエっと思いながら横を見ると、彼はにんまりと笑っていた。
「『ボクのガジ』か……いい響きだな」
「ぎゃあああああああああああ!!!!!! 解釈違いだあああああ!!!!!!」
「ところでどこまで走るつもりだ?」
「ついてこないでください!!!!!!」
だがボクの叫びに彼は微笑むだけ。そしてボクは世界最強から逃げる術などなく、泣きわめきながら走るしかなかったのだ。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
片桐くんはただの幼馴染
ベポ田
BL
俺とアイツは同小同中ってだけなので、そのチョコは直接片桐くんに渡してあげてください。
藤白侑希
バレー部。眠そうな地味顔。知らないうちに部屋に置かれていた水槽にいつの間にか住み着いていた亀が、気付いたらいなくなっていた。
右成夕陽
バレー部。精悍な顔つきの黒髪美形。特に親しくない人の水筒から無断で茶を飲む。
片桐秀司
バスケ部。爽やかな風が吹く黒髪美形。部活生の9割は黒髪か坊主。
佐伯浩平
こーくん。キリッとした塩顔。藤白のジュニアからの先輩。藤白を先輩離れさせようと努力していたが、ちゃんと高校まで追ってきて涙ぐんだ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
台風の目はどこだ
あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。
政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。
そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。
✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台
✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました)
✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様
✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様
✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様
✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様
✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。
✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる