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第二章 アリア
第五話 鬼来たりて
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温かく良い匂いのする泥に包まれている。とても気持ちが良くて、幸せだ。けれど遠くで小さな波紋が生まれる。それは穏やかに私の元まで届き、私を包む柔らかな拘束を剥がしていく。
ふと、その波紋は誰かの手だと分かる。
優しくて冷たい手が頬に触れていると分かったとき、とても清々しい気持ちで私は目を覚ました。
「みどり、起きられる? 朝ごはん届いたよ」
柔らかな朝の日差しの中、すでに起きていた紫貴がベッドに腰掛けて「おはよ」と微笑む。「おはよう」と返してから、自分がまだ裸であることに気がつく。
(昨日、そのまま寝ちゃったんだ……)
毛布を肩までかけて、紫貴を見上げる。すでに一人だけきっちりよそ行きの服を身に着けていた彼はニマニマと意地悪く笑った。
「なぁに、お姫様?」
「服を、ですね……貸していただければと……あと出来たらシャワーもですね……」
「なんで敬語なんだよ。照れてるの?」
私が顔をしかめると彼はより一層嬉しそうに顔をほころばせ、毛布ごと私を抱き締めた。
「もう。苦しいよ」
簀巻きにされた私は怒った顔をしてみるが、もちろんふざけているのが伝わってしまった。右手だけ毛布から出して、まだセットされていない彼の髪に触れる。彼は私の手に頭をこすりつけて、ふにゃりと気の抜けた笑顔を浮かべた。私もきっと似たような顔をしているだろう。
「紫貴の顔、好き」
「そう? 般若いらない?」
「いらない、やだ」
私が笑うと、彼が鼻先にキスをしてきた。
「みどりの顔、すっごい俺の好み」
「エッ? 私、普通なのに?」
「普通じゃないよ。すごく可愛い。こんな美人が何回もため息ついて人殺しみたいな目をしてんだもん、そりゃ気になるよ」
そういえば初対面はそんなだったろう。でもあのときは、と言い訳する前に紫貴は真面目な顔で口を開いた。
「あのおっさん、自転車に轢かれてほしいよね」
それは実に適切な罰則だ。つい笑ってしまった。
「アハッそうね、捻挫してほしいね」
「みどりを傷つけるやつみんな、嫌いだよ」
「私も嫌いよ。紫貴を傷つける人みんな、嫌い」
「フフ、ありがと。シャワー浴びて朝ごはんにする? アメリカっぽいけど俺は嫌いなメニューをデリバリーしてもらったの」
「何それ。気になる」
そうやってふざけながらベッドの上で朝食を楽しんだ後、私は彼の用意してくれたエッチな下着とロングパーカーをワンピース代わりに身につけた。それから私達はこの空っぽの家を埋めるための一連の作業(ホテルから私の荷物を運んでくる。家中の長さを測る。家具屋でソファーやスタンドライトやラグやクッションやカーテンを選ぶ。電気屋で各種家電を買う。セッティングする)を行った。
言葉にすると大したことはなさそうだけど、一日でこなすにはとんでもない作業量で、終わる頃には日が暮れていたし、私は疲れ果てていた。
買ったばかりのソファーの背もたれに頭を預けて、目を閉じる。
「疲れた……」
「ウン、お疲れ様、みどり。マッサージしてあげる」
しかし紫貴はほんの少しの疲れを見せることなく、機嫌を悪くすることさえなかった。
買い物中だってあれこれと理由をつけて休憩させてくれたし、変な人が絡んできても『俺が話してくるからコーヒー飲んでて』なんてスマートに対応してくれた。そうして今は足湯をつくってくれた上に、私の肩を揉んで労ってくれる。それでも私は疲れてしまっていて愛想よく返せないでいると、彼が私の顔をのぞき込んできた。
「ごめん、もっと早く休ませてあげればよかったね」
「紫貴は悪くないのに謝らないで。あなたに優しくされても、私の体力不足は改善されないわ」
疲れからキツい言い方になってしまう私を彼は後ろから抱きしめる。
「もっと好きになってほしいから、俺は下心で頑張ってるの。ね、頑張った俺にキスしてよ、みどり」
彼が私の頬を撫でて、目線を要求してきた。渋々そちらを向くと、ちゅ、とキスされる。
「ね、みどりもして?」
こんなにも可愛い彼氏に、さすがに私の苛立ちもおさまってしまう。私からキスを返すと、彼はふにゃふにゃに笑った。世界で一番可愛い顔だ。
「俺、今までみどりがいなかったのに、どうして生きてこられたんだろう」
「……もう、何それ。べた惚れね?」
「わかってるくせに。もう死んだって、俺から逃げられないからね」
「ンフフ、はぁい」
逃げられないとは物騒な言い方だ。足湯から足を上げ、タオルで拭く。足があたたまるだけでかなり体が楽になった。
「ありがと、紫貴」
「……脅されたのに危機感ないな」
「脅し? 今のが? それにどんな危機があるの、ここに?」
「見たらわかるでしょ。これ、『危険物注意』って意味」
彼が自分のタトゥーを見せつけてきたので、首筋の鯨にキスをしてあげると、彼は息を吐き、私をジトッと睨んだ。
「ア、怖い顔。いじめる?」
「フフ、いじめてやる」
「ヤー! くすぐるのは反則!」
彼は買ったばかりの毛足の長いラグの上に私を転がすと、のしかかってきた。ふざけていると分かるのに、身体をなぞる彼の手と身体にかかる彼の重さに、まだ触れられてもいない体の内側が疼きだして、吐く息に熱が混じってしまう。
気が付いたら私は彼の首に腕を回し、彼は私の足の間に身体を収めていた。欲を孕んだ視線が絡み合えば、もう、欲しくてたまらない。
「みどり……もう少し、キスしていい?」
「ウン、……したい」
彼は優しく微笑んだ。
◆
彼の唇が唇に与えられるだけで、背筋に性感が走る。彼の平べったい舌が優しく私の唇をつつくから、早くしてほしくて口を開く。でも、彼は慰めるように舌先で私の唇をなぞるだけ。彼の頭を掴んで引き寄せても、彼はクスっと笑って触れるだけのキスを続けてしまう。
私だけ汗ばみ、目が潤み、中は濡れていく。
(お腹、熱い……)
彼のうなじを引き寄せ、彼の意地悪な唇を舐め、前歯で軽く下唇を食む。それでも彼は笑うだけ。ならばと彼の口に舌を挿し込み、拙いなりに彼の口内を探索するけれど、彼はまだ私を焦らしたいのか、意地悪に私の脇腹を撫でて邪魔をしてきた。そんな優しい意地悪にさえ、私は甘く震えてしまう。
(早く触って欲しい……)
下腹部がドキドキと震え、まだ触れられていない胸が張っていた。破裂寸前の水風船みたいに、ちょっとしたことですぐ溢れてしまいそう。私はそのぐらい飢えている。なのに彼のキスは優しい。
「紫貴ぃ……意地悪しないで……」
泣きそうだった。
半日前に抱き合っていたはずなのに、ずっと水を与えられなかったかのように、欲しい。
彼が私の顔を見て、ゴクリと唾を飲んだ。
「意地悪って……でも、そこまでしたら、俺、キスだけで収める自信ない。疲れてるでしょ、みどり?」
いいの、と彼が低く尋ねてくる。その声にさえ私は腰を揺らしてしまうのに、優しい彼はまだ私を気遣っている。
(ずるい……)
なんと返事をしたらいいのかわからなくて、代わりに彼の右手の手首を掴み、薬指の先を咥えた。塩辛いような気がした。彼のタトゥーを舌で味わい、骨を甘噛みし、指の付け根にキスをする。
視線を上げると彼の頬が赤くなっていた。
「私、……したいって言ったよ……?」
小声で強請ると彼も小声で、そうだね、と呟き、親指で私の唇をなぞった。
「俺も、……したい」
彼の親指が優しく私の顎を押し、私に口を開かせる。彼はようやく舌を挿し入れ、私の舌をとらえてくれた。
「ん、ん……」
先程までの触れるキスが夢だったみたいに、彼は舌の付け根までえぐってくる。彼に与えられるものを必死に飲み下し、まともに息もできないまま彼にしがみつく。
(気持ちいい……)
彼のしていることは蹂躙だ。なのに、私の感じるものは安心感と気持ち良さだけ。
彼の冷たい手が性急にパーカーを胸の上までたくし上げ、ブラも力任せに上にずらしてしまう。バチンと大きな音を立ててホックが外れ、晒された胸に彼の手が這う。形を潰すように揉まれ、彼も飢えているのだとわかる。そうわかってしまえば、愛撫の激しさは愛おしさにしかならない。
敏感な先端を指の腹で遊ばれても、彼に媚びた頭が快楽のみを拾い上げ、もっといじめてほしくなる。両足で彼の身体を引き寄せると、濡れた下着を彼に押し付けてしまった。彼がそんなはしたない私を咎めることなく、腰を揺らし、私の柔らかな肉をいじめてくれる。
舌を吸い上げられ、胸の先端を潰され、ゴツ、ゴツと腰を突き上げられ、頭の中で火花が散った。
(ァ、……もう……っ!)
弾ける、と思ったら、達してしまっていた。
勝手に両足が伸び、腰が震え、力が抜ける。快楽の余波の大きさから、バチ、バチと自分から火花がでている気さえする。
ちゅ、と音を立てて、彼が私から舌を抜いた。
「……みどり?」
「ァ、……」
彼は体を起こし、ぐったりと力の抜けている私の膝を掴んだ。抵抗もできず、足が大きく開かされてしまう。
「や、ぁ……、見ない、で……」
私はもう、ぐちゃぐちゃだった。
たくしあげられたパーカーとブラジャーが首のあたりでだぼつき、ショーツは脱がされてもいないのにすでに意味をなしていない。ぜえ、ぜえ、と荒い呼吸繰り返しながら、恥ずかしさに目を伏せた。
彼は何も言わずに私の痴態を見ている。
(もしかして、ドン引きされてる……? だって気持ちよかったから……)
両手で顔を隠すと、彼の冷たい手が膝から離れ、代わりに私のお腹を優しく押した。
「……一人で気持ちよくなっちゃ駄目だよ。謝って」
「エ……?」
「ちゃんと俺の顔見て、謝って」
そっと指の間から彼を見上げると、彼は優しい顔で私をじっと見下ろしていた。愛おしくてたまらない、彼の目がそう語っている。だからほっとした。
顔を隠すのをやめて、彼の手に手を重ねた。
「……ごめんなさい?」
彼は優しく微笑んでくれた。
「許さない」
「エッ、許してくれないの?」
「ウン、そんな顔で謝られても、……もう、我慢の限界……」
彼はふざけた調子で話しながら、黒いズボンの前を緩め、下着をずらした。解放された彼の性器は彼の言葉の通り、我慢の限界に来ているようだ。それを見ているだけでこみ上げてきた唾を飲み下し、彼を見上げる。
彼の額に汗が見えた。
「みどりが明日ベッドから動かなくていいように、俺、全部ちゃんとするから……、いいよな?」
彼の手がグ、グ、と下腹部を押してくる。その奥にある子宮を意識されられて、口から甘く息を吐いてしまう。
(断らせる気なんかないんだ……)
彼の欲にお腹の奥が切なく疼いていた。
「……いいに決まってる。紫貴も気持ちよくなってくれなきゃ、やだ」
「ハ、……もう、とっくに気持ちいいよ。頭おかしくなる……みどり、可愛い、大好き……」
彼は甘くつぶやくと、ショーツのクロッチをずらすだけで、性急に私の中に薬指を沈めた。
私の身体は彼の指に必死に媚びて、あっという間に根本まで飲み込んでしまう。自分でも触れることができない場所に入り込んだ彼の指が、私の中を探り、押して、広げて、道をこじ開いていく。そのすべてが気持ちよくて、変な声をだしてしまいそうで前歯を噛みしめると、意地悪な彼がキスをした。彼の前歯が私の下唇を引っ張って、それからいやらしく舌で私を誘う。
「みどり……強情だな。素直に口開けて」
「だって……ァアッ! うぅーっ! やぁ、アンッ、……なんで今押したのぉ、意地悪!」
「ハハッごめん、ごめん。じゃあキスね」
気持ちよくてこぼしてしまう恥ずかしい喘ぎ声を、空気に溶ける前に彼が飲み込んでくれる。だから安心してもっと気持ちよくなってしまう。
(キス、気持ちいい……指も、すごい、……もっと、もっと……)
彼の胸に自分の胸を押し当てて、彼の背中に爪を立てる。触れあっている場所すべてが磁石のようにくっついているのに、もっと欲しい。
(足りない、こんなんじゃ足りない)
もっと傍に来てほしいと苦しむ私から、しかし彼は指が抜き、唇も離れてしまった。
「やっ、キスして」
「待って、みどり……」
「早くっ」
「わかったから……」
勝手なことを言う私に小鳥のようにキスをしながら、彼は避妊具の袋を切った。彼の銀髪から汗が落ち、彼の甘く苦く重たい香りが鼻腔を満たす。伏せていた彼の視線が持ち上がり、私を見る。
彼の顔は一目で見て分かるほど、私に飢えていた。
「紫貴、来て」
私が腕を広げると、彼は私を押しつぶしながら一気に押し込んでくれた。疼いていた奥にようやく与えられた熱に喜ぶ前にのけぞってしまう。感じたことがない気持ちよさに、腰がつい逃げようとする。けれど彼の手が腰を押さえつけて、逃がしてくれない。
(死んじゃう!)
待ちのぞんでいたはずなのに、感じたものは恐怖に近かった。彼の手が私の腹を押した途端、体中の骨がなくなってしまったかのような錯覚に襲われる。処理しきれない気持ちよさに視界が揺れた。そんな中、彼は容赦なく動き始めてしまう。息の仕方もわからなくなり、後頭部をラグに強く押し付ける。
(駄目、……これは駄目!)
咄嗟に、彼の肩を叩いていた。
「待ってっ」
彼は私が言う通りに、動きを止めた。
「ごめん、息が……」
上がる息を整えていると彼の模様だらけの手が私の前髪をかきあげ、目尻に優しいキスをくれた。もう一度謝ろうと彼を見上げる。
「……みどり、平気?」
彼は真っ赤な顔をしていた。額からボタボタと汗を流し、歯が震えている。可哀想なぐらい我慢してまで、彼は私を気遣いながら、待ってくれている。
(エ、大好き)
そう思った瞬間に、お腹の奥が勝手に動いてしまった。
「にゃう!?」
「グッ……ウ……」
彼の形がはっきりと分かるほど締め付けてしまい、私はのけぞり、彼は呻いた。彼がすがるように私の両手を掴む。
「ア、ちがうのっ、わざとじゃないっ……!」
「いいよ、もっとして。もっと……」
彼は私にキスをして「足りない」と砂漠で水を求めるように呻く。「こんなんじゃ足りない」と、痛いぐらい強く私の手を掴んで、彼は呻く。
「みどり、……欲しいんだ……もっと……」
尽きることがなく、満たされることがない。
買ったばかりのラグを汚しながら、彼を知らない頃には戻れないんだと確信させられてしまう、どうしようもない、この欲。
「全部あげるから、全部欲しがって」
彼は苛立ったように舌を打つと、噛み付くようにキスを始めた。唾液を奪われ、舌を吸い上げられ、息さえできない。全身を彼に押しつぶされ、重たくて、死んでしまいそう。苦しいのに、でも嬉しい。ゴツ、ゴツと彼が進んできてくれると、涙がこぼれるのに、もっと来て欲しい。ずっとイッてるのに、まだ欲しい。
(ァ、こぼれる――)
酸欠の頭がそう理解した瞬間に、彼が震えた。性急な動きが止まり、ようやく舌を抜かれる。深く息をするだけで全身が甘く痺れてしまう。
「ふぁ、あ、……」
「ハー……」
彼は荒く息を吐きながら、最後まで出し切るように私の奥に押し付ける。それさえ気持ちよくて私が喘ぐと、みどり、と彼がかすれた声で私を呼ぶ。そうして目が合うと、私達はまたキスを始めてしまっていた。
「みどり、ごめん……いい?」
「謝らないで。私ももっと欲しい……壊れてもいいから……」
「フハ、……最高だ。愛してるよ」
そんな風に互いに夢中になりながら、私たちの同棲は始まった。
□
「この一ヶ月さ、色々あったけど、どう?」
ラグで転がる紫貴に尋ねられ、同棲を始めてからのこの一ヶ月を思い返す。
約束通り、紫貴からたくさんのことを教えてもらった。彼の最初のタトゥーがPIANOであること、最新のタトゥーは左のくるぶしに彫られた羽であること、甘いものが苦手なこと、コーヒーが好きなこと、香水のブランド、卵焼きにはマヨネーズをかけること、これまで人と付き合ったことはないけど遊ぶだけ遊んできたこと、犬が好きなこと、寝るのが苦手なこと、黒が好きなこと、左目がよく見えないこと、イタリアで生まれ育ったこと、家族が嫌いなこと、全身脱毛していて髭も生えないこと、煙草と酒はやらないこと……私は少しずつ彼を知り、更に彼を好きになった。
そんな一カ月だ。
「俺、みどりが思ってたより、格好良くなかったよね……?」
わざとらしく彼が拗ねるから、ソファーの上から手を伸ばして彼の鼻先をつつく。
「そうね、女関係は特にね」
「それはみどりが今まで俺の隣にいなかったのが悪い」
「紫貴の女問題は私のせいなの?」
「そう、みどりのせい」
「フフ、可愛い人」
この一カ月で知ったのは教わった事だけじゃない。
「……みどりは俺のこと好き?」
彼は駆け引きが嫌いなのだ。
だから言葉でも態度でも好意を伝えてくれるし、同時に私にもそれを望んでいる。
「大好き。顔も好き。体も好き。優しいところは大好き。いくら言っても足りないぐらい、私の彼氏スーパーハンサム!」
「ふへへ」
私が素直に彼に好意を伝えると、彼は気の抜けた顔を見せてくれる。こんなに可愛い人は他に絶対いないだろう。
(……とはいえ不満がまったくないわけではないんだけど)
彼は私に声をかけないで夜中に出かけることがある。一度や二度ではない。私が起きる頃には帰ってくるけれど、気にはなる。とはいえ、浮気を疑っているわけではない。この一カ月、この家で紫貴は画面が割れたスマホに全く触らないし、私も家族や友達への連絡を怠ってしまうぐらいなのだ。私たちは浮かれていて、そしてちっとも冷めそうにない。だから、彼の夜中の家出は可愛い猫ちゃんのすることとして目をつぶっている。
(だからつまり、……)
彼の隣に転がって、可愛い彼の顔を両手でつかんでキスをする。
「この一カ月は完璧な一カ月だったわ。紫貴のおかげ」
彼は私の腰を掴むと、コツン、と額を当ててきた。
「じゃあ、結婚する?」
驚く私に、彼は一呼吸おいてからまた口を開く。
「日本行って籍いれて、それからみどりのビザ申請して、……それで、ここでずっと暮らすの。ハッピーエバーアフター……どう?」
緊張した面持ちの彼が可愛すぎて、噛みつくようにキスをしてしまった。
「フフ、ンフフ、幸せ過ぎて怖くなってきた」
「……わかる、俺も」
何も怖いものがなかった。彼となら、この幸福を続けていける。いつまでも、いつまでも、本気でそう思った。
――しかし、この日の午後九時だった。
私が恋を理由に見ないようにしていた『現実』を引き連れて、『彼』がやってきた。
晩餐を終えた私たちはソファーで互いの手を触りながら『明日は何しようか』と話していた。後はセックスをして寝るだけのいつも通りの穏やかな夜。なのに、突然、家の鍵が開けられた。
「よう」
入ってきたのは『男性』だった。
前髪を後ろに流しサングラスをかけ、他人の家に入るというのにくわえ煙草。不遜極まりないスーツの男は開口一番「今度は家になってるな」と言った。私には全く覚えのない男だが、彼は明らかに紫貴に向かって話している。
「……紫貴、どなた? ピアニストのお知り合い?」
私の質問に紫貴は笑い、男は眉を寄せた。
紫貴はソファーから立ち上がると男の元に向かい、その肩を掴むと、彼を私の方を向かせた。
「紹介しておく。こちらは市村みどりさん、俺の妻になる人」
彼の紹介にときめきつつ、立ち上がって「市村みどりです」と挨拶すると、男はため息をついた。
「ついに殺しても死なない女に巡り合ったか?」
「みどりはそういうんじゃない」
彼は私のことを頭の先から足先まで、値踏みするように見てきた。
「『普通』の女ってことか?」
「さっきから『特別』って言ってるだろ。……用件は外で聞く。出ろ」
「女ねえ……」
男は私を一瞥し、「いや、ここで話す。特別だと言うなら聞くべきだ」と土足で家の中に上がってきた。
(な、な、何だ、この失礼な人!)
あんまりな態度に男を睨むが、彼の後ろで紫貴が『ごめんね』という顔をしていた。
(紫貴の親しい人なら……)
私は睨むのをやめて、改めて男を見上げた。
紫貴よりも背が高い大男で、プロレスラーのような体をしている。サングラスで目は見えないが、よほどのことがない限りは整った顔立ちをしているだろうと思わせる横顔。三十代後半ぐらいだろうか。煙草と軽薄な香水の香りがする。高そうなスーツは似合っているが、似合いすぎているとも言えた。
(この人と紫貴が並ぶと、この空間の裏社会感が……)
タトゥーこそないが彼の纏う雰囲気は殺伐としていて、身がすくむものがあった。
「……入るなら靴を脱げ」
「面倒くせえ」
男は乱暴な物言いだが、嬉しそうに笑った。彼は靴を脱ぐと玄関に向かって投げ捨てる。高そうな靴なのに頓着していない態度は、紫貴に似ていた。
「分かっているだろうが仕事の話だ」
「お前が代理できないのか」
紫貴は不審そうに眉をひそめる。
「総会は無理だ。ボスの代理はお前以外務まらない」
「総会? チッ、そんな時期か……」
「忘れんなよ。マァ、浮かれてんのは家見りゃわかるけど」
男は我が家の観葉植物コーナーを眺めながら、「で、これはお嬢ちゃんの趣味なわけ?」と急に私に聞いてきた。
(『お嬢ちゃん』? 舐めてんのか、このおっさん)
眉に力が入るが、おっさんの後ろで紫貴が『ごめんね』の顔をしていたので、なんとかおさえる。
「……私の趣味というか私たちの趣味です。アボカドは紫貴が頑張って発芽させたんですよ」
「これ、自分でやったのか! へえー、すごいな、日比谷!」
男は急に明るい声を出し、紫貴の頭を撫でた。紫貴は面倒くさそうな顔はしつつ、その手を避けない。私は私の恋人の指を掴んで、その目を見つめた。
「紫貴、紹介してくれる?」
紫貴は渋々といった様子で、口を開いた。
「百々目優。知人だ」
「何だ、その紹介。俺は……」
「黙ってろ、百々目」
百々目という男の言葉を遮った紫貴は「彼がみどりを傷つけることはない」と断言した。その断言に、百々目さんは面白がる顔で「Yes, Your Majesty.」と発音良く答える。
「マァ、……よろしくな、『お嬢ちゃん』」
「……よろしくお願いします、百々目さん」
嫌いな笑顔だった。
「他に用はないだろ、帰れ」
「いや、お前、ピアニストなんて……」
「出ていけ」
「日比谷、ちゃんと聞け。お前が説明してやらないと、総会の間、どうしようもないだろ? 連れていけない以上、護衛を置くしかない。適任は誰だかわかってるよな?」
紫貴は何も答えずに百々目さんの背中を蹴った。が、彼は怒ることもなく靴を履く。
「ちゃんとしておけよ、日比谷」
彼はそう言い残して、去っていった。紫貴は彼が出るとすぐに鍵をかけ、チェーンロックまでかける。それからゆっくりと振り向いた。
「びっくりしたね」
紫貴は私から目を逸らし、わざとらしく笑った。
(……怪しい)
百々目さんも怪しいが、紫貴の態度こそ怪しい。私からスーと目を逸らすときは何かしらやましいのだ。
「紫貴」
彼の腕を掴み、ソファーに座らせる。
「あなた、仕事って? 総会って何?」
「……話したくない」
彼の頬を両手で包み、目を合わせようとするが、彼は目を伏せて逃げた。
「あなたのピアノが好きよ、紫貴」
「……ウン」
「何を隠してるの。……まだ小出しにしてくれないの?」
彼はようやく私と目を合わせると、頬にキスをくれた。
「みどり、俺の話を聞いた後、逃げないでくれる?」
「ウン、もちろん」
「どうしてそう言い切れる?」
「紫貴がなんであっても、この一ヶ月があるもの。この一ヶ月、幸せで安心してたから。紫貴もそうでしょう?」
彼は返事はせずに私の腰を掴むと、私を自分の足の上に横向きで座らせた。彼の肩に頭を預けて、彼の手を握る。彼は短く息を吐いた。
「……ウン、怖いぐらい幸せだ。だから失いたくない」
「そんなに話したくないこと?」
「打ち明けてしまいたい気持ちはある。でも、打ち明けて失うぐらいなら墓場まで持っていく。みどりがいなくなったら、俺は息ができなくなる。……本気だ」
彼の右手が私の頬を包んだ。泣きそうな顔で、悲痛な声で、私の好きな人は私にすがっている。
「重いだろ、こんなの……」
確かに重い。でも、その重さは嬉しいことだ。
(だって私、この人が欲しい。この先の全部、欲しい)
彼の頬にキスをする。最初の歯を当ててしまったキスよりずっと自然に、ずっと愛を込めて彼に触れる。
「教えて、紫貴。『どうして私を好きになってくれたの』?」
彼は、ようやく口を開いた。
□
俺の生まれ育った街は、イタリアにしては平和なところだ。
俺は裕福な家の生まれで、幼い頃からダルメシアンを飼っていた。最初の犬の名前がピアノで、俺がピアノを弾いているときずっと俺の膝に頭を乗せていた。このニュージャージーに住んでると、よく大きな犬を散歩してる人を見るでしょう? 俺はあれを見るのが好きなんだ。大型犬を一度飼うとどうしても忘れられなくなるのかもしれないね。……もう俺は飼えないけど。どの時間でも幸せそうな大型犬の顔を見られるこの街は、俺にはニューヨークより楽しいんだ。ほら、ニューヨークは抱き犬が多いだろ……わかった、わかった、話を戻そう。
俺の家では社交が重要だった。幼い頃から大人の間で一人の人間として振る舞うことが求められた。
だから、まともに同年代と初めて関わったのは中学の時だ。……、どう対応したらいいのか分からなかった。みんな子どもだからさ、……世界の中心は自分だと信じていて……、理想が高く、知識が乏しく、幼く、愚かだ……子どもの中で俺は異物だった。
……いじめ?
ハハッ、いじめられることはないよ。俺は喧嘩が強いから。……いや、冗談じゃないよ。本当のこと。俺は話し合いも強いし、殴り合いも強いし、撃ち合いだって負けないよ。そういう風に育てられているし、……エ? 百々目のが強そう? なんで? あんな筋肉達磨、骨折ったら終わりだろ。……そうだね、みどりの前でそんなことはしたくない。
……資本主義、ってあるだろ? いや、話は変わってない。
人間は、なんで資本主義の社会を形成したと思う? ……みんなで仲良く? アハハッ! ……いや、ウン、そうならいいなって。……強いもののためにあるんだよ、人間の作ったものは全部。国も法律も貨幣制度も、上が下を支配し、搾取するためのものだ。
そして、俺は上に立つ家の生まれだ。それも、暴力も一つの手段にしている。
……ヤクザみたいなこと言わないで?
ヤクザは怖いけどね、日本だともう落ち目だろう? ヤクザは処罰され、ムショに送られたよ。マァ、……そうして今度は普通の人間が暴力を用いるようになった。金がないやつが金がないやつを殴って、わずかばかりの金を奪って結局何も変わらない。暴力はいつも貧しさに根付いている。
……イタリアの話をしようか。
イタリアでは日本と違って、マフィアは元気にしてるよ。みんな貧しいからね、マフィアの恩恵を受けている市民はたくさんいる。失業率が高くて、問題が多くて、陽気だけど陰気なところだ。だから『この国』ではマフィアは死なない。
……いや、話は何も変わってない。
俺の育った街は貧困の隣にある街……中学の時に初めてそれを現実として理解した。
この幼い子どもだちが、俺が将来、……骨の髄まで支配する小市民たちなんだと。それが、……とても恐ろしかった。それまでは何も疑問に思わなかった自分の生まれも、地位も、周りの大人たちの態度も、急に……納得を伴って吐き気がしてきた。自分の親の……善性に見せかけた暴力性も、理解すればするほど共感できてしまって、そんな俺の性根が……酷く、恐ろしかったんだ。
だって目の前にいる子どもたちは、まだ自分が世界の中心だと信じているのに、彼らが世界の中心に立つことなんかないんだよ。未来永劫ないんだ、俺がいる限りは……彼らは支配される側なんだよ。
……俺は、俺の家を抜けるなんて無理だ。すでに恩恵は受けていたし他の生活をしたいわけではない。だから俺に必要なのは覚悟だった……このグロテスクな社会構図を理解し、受け入れ、……覚悟をしたからこそ、跡継ぎとして認められた。十四のときだ。そのときから……百々目がお目付け役になった。
日本語を教えてくれたのは百々目だ。俺はイタリア語と英語で育ってたからね。
……そう? 丁寧だといいな。百々目は反面教師、……わかった、白状する。教えてくれたのは百々目の女たちだ。だから男が話すにしては俺の日本語は柔らかいかもしれないね。自分ではよくわからないけれど……。
当時の百々目は、……今の俺と同い年だ。厄介そうにしてたわけだ。俺も今、将来自分の上に立つ少年の世話をしろと言われたら面倒に思うだろう。百々目は、いいやつだよ。だから自分の半分しか生きていないガキを人間扱いできて……次のボスを育て上げた。……俺の仕事は、つまり、……マフィアの仕事だ。それもトップの仕事をしている。俺のファミリーの、この国の代表は俺。……百々目はその補佐だ。
「この世界で生きていくと決めた時、タトゥーを入れた。一つ入れたらもう止められなかった。俺の生き方に似合う姿になりたくて、ダウンタイムも取らずに次から次へとさ、……そしたら百々目が怒ったんだ。『俺たちのボスなんだから、ちゃんと好きなことをやれ』って……それでマフィアをやりながら、ピアニストとしてバーで働き始めた。それだけのことで、この悪癖はましになった。でも今更だ。俺は……ピアノを弾いたところで子どもには戻れない。俺は、誰よりも傲慢でなくてはいけない。すべて欲しがって、すべて支配して、すべてを搾取する。それが俺の仕事だ」
紫貴の額から冷や汗が地に向かって落ちていく。今にも崩れ落ちてしまいそうなのに、それでも彼は口を閉じずに話し続ける。
「みどりに声をかけたのは、俺が不愉快だったからだ。隣に馬鹿な男がいるなんて耐えられない。俺のためで、少しも君のためなんかじゃなかった……なのに……君は裏もなく、俺に礼なんて言う。こんな、どうしようもない俺に……手を伸ばしてくれる……」
彼がかすれた声で、みどり、と私の名前を呼ぶ。
「絶対に許されないと覚悟していたはずなのに、君から目が逸らせなくて、君を好きになってしまった。君に好かれたくなってしまった。君を前にすると俺は、君を好きなだけの小市民になってしまう……でも……、俺はマフィアだ。逃げようもなく、それこそが俺だ」
彼は目を閉じたまま、私の両手を掴む。まるで祈りを捧げているみたいだ。私は彼の鼓動を聞きながら、彼の膝の上で、しかし彼の告白を受け止めきれずにいた。そのぐらいあまりにも、目の前の彼と彼の語る内容に乖離があった。けれど彼は口を閉じてはくれない。そして耳に蓋はない。私は彼の言葉を聞くしかなかった。
「……これが、俺が隠していたこと、……許されない罪だ。……こんなことを言ってはいけないのは分かっている。でも、……どうか俺から逃げないで……」
彼の唇が私の手に触れる。彼の手に描かれた恐ろしい悪魔が私を笑っていた。
□
彼の告白に『気にしないわ』と言えばいいのか、『大丈夫』と受け止めていいものなのか、『ひどい!』と怒鳴ってみせたらいいのか。この告白にどう答えたらいいのか全く分からない。けれど、彼の眉間には皺が寄っていて、彼が泣くのをこらえていることはすぐに分かった。
(どうしたらいいの……?)
今までの比ではない、頭痛を伴うような音量で、頭の中に警報が鳴り響く。
(そんな人なんて知らなかった。そんな人と一緒にいる覚悟なんてしていない。そうでしょ、市村みどり?)
だけど目の前の彼の顔を見ると、そんな警報を無視して恋心が叫ぶ。
(可哀想。泣きそうな顔してる……私の大好きな人が、苦しんでる……)
私を膝に抱いているのに、私が何処かへいってしまうことに酷く怯えている、そんな彼を目の前にして、どうして警報なんて聞けるだろう。
彼の頬に手を当て、そっと彼の唇にキスをする。彼は小さく息を吐いて目を開けた。
「紫貴」
彼の名前を呼ぶ。いつものように、大切なんだという気持ちを込めて呼ぶ。彼は蛇のようにじっとしたまま、私を見ていた。
「イタリアで生まれ育って、アメリカで長く暮らしていて……」
「……ウン」
「なのに、どうして……シャワーの使い方もわからないの?」
彼は瞬きをした後、深く息をした。
「二年前までは、百々目と同じ家で住まなきゃいけなくて……百々目、帰れないくせに日本が好きで、日本語しか話さないし、日本製しか認めないから……だから、俺も日本のものに、慣れてて……」
彼の声に涙が混ざっていく。彼の手が私の背に回り、私を強く抱きしめた。
「じゃあ、冷蔵庫の中の幅とって仕方ないお酒は百々目さんのものってこと? 捨てていい?」
「そう……百々目が、引っ越しの、餞別でって渡してきて……、そうだね、捨てよう、ウン……」
「紫貴は百々目さんと仲良しなのね」
彼は鼻をすすってから、急に「見るな」と低い声で唸った。
「何を?」
「百々目。格好いいから、見ないで」
「ハァ? どこが?」
「エッ」
紫貴は本当に驚いたのか顔を上げてくれた。泣き顔さえ天使のようだ。人差し指で彼の涙を拭う。
「いきなり来るし、部屋で煙草吸うし、土足だし、人のこと『お嬢ちゃん』とか呼ぶし、家主に対して失礼すぎ。もう来ないでほしい」
「そ……っか、わかった。二度とやらせない。百々目は殴っておく」
「殴らなくてもいいけど……紫貴の大事な人なんでしょ」
「そんなことはない」
「えー、アハハ」
あんまりな断言に私が笑うと、紫貴は私をソファーに押し倒した。私の肩をおさえて、彼が私を見下ろす。
「……みどり、いいの?」
いいはずなんかない、という理性はある。そんな相手を選んで親に顔向けできるのか、なんて誰かに責められたら私はきっと泣くだろう。
だからこそ、私は頑張って笑った。この選択は間違ってるとわかった上で、それでも笑った。
「あなたが好きなの。人生後悔してもいいぐらい、あなたが恋なの……今更離れられないわ」
彼の顔を引き寄せてキスをする。彼のキスを真似て伺うように触れると、彼は私を真似るように主導権を渡してくれた。だから彼のために、慰めと決意を込めて、少しずつキスを深めていく。彼は私の肩を掴む力をゆるめ、すがるように落ちてくる。
キスを終えて彼の顔を見ると、彼は力が抜けたのか、ゆっくり私の上に寝そべる。汗ばんだ彼の体は重たく、押しつぶされそうだ。
「私のこれまでの人生と、これからの人生……全部大事にしてくれるんだよね?」
「ウン、……俺の全部で……必ず守るよ」
――マフィアなのにどうやって?
つい、そう、思ってしまった。それでも、その思いごと彼を胸に抱きしめた。彼は私に抱かれながら静かに息をする。蛇だと言われたら確かに似ている、今更そんなことを思った。
ふと、その波紋は誰かの手だと分かる。
優しくて冷たい手が頬に触れていると分かったとき、とても清々しい気持ちで私は目を覚ました。
「みどり、起きられる? 朝ごはん届いたよ」
柔らかな朝の日差しの中、すでに起きていた紫貴がベッドに腰掛けて「おはよ」と微笑む。「おはよう」と返してから、自分がまだ裸であることに気がつく。
(昨日、そのまま寝ちゃったんだ……)
毛布を肩までかけて、紫貴を見上げる。すでに一人だけきっちりよそ行きの服を身に着けていた彼はニマニマと意地悪く笑った。
「なぁに、お姫様?」
「服を、ですね……貸していただければと……あと出来たらシャワーもですね……」
「なんで敬語なんだよ。照れてるの?」
私が顔をしかめると彼はより一層嬉しそうに顔をほころばせ、毛布ごと私を抱き締めた。
「もう。苦しいよ」
簀巻きにされた私は怒った顔をしてみるが、もちろんふざけているのが伝わってしまった。右手だけ毛布から出して、まだセットされていない彼の髪に触れる。彼は私の手に頭をこすりつけて、ふにゃりと気の抜けた笑顔を浮かべた。私もきっと似たような顔をしているだろう。
「紫貴の顔、好き」
「そう? 般若いらない?」
「いらない、やだ」
私が笑うと、彼が鼻先にキスをしてきた。
「みどりの顔、すっごい俺の好み」
「エッ? 私、普通なのに?」
「普通じゃないよ。すごく可愛い。こんな美人が何回もため息ついて人殺しみたいな目をしてんだもん、そりゃ気になるよ」
そういえば初対面はそんなだったろう。でもあのときは、と言い訳する前に紫貴は真面目な顔で口を開いた。
「あのおっさん、自転車に轢かれてほしいよね」
それは実に適切な罰則だ。つい笑ってしまった。
「アハッそうね、捻挫してほしいね」
「みどりを傷つけるやつみんな、嫌いだよ」
「私も嫌いよ。紫貴を傷つける人みんな、嫌い」
「フフ、ありがと。シャワー浴びて朝ごはんにする? アメリカっぽいけど俺は嫌いなメニューをデリバリーしてもらったの」
「何それ。気になる」
そうやってふざけながらベッドの上で朝食を楽しんだ後、私は彼の用意してくれたエッチな下着とロングパーカーをワンピース代わりに身につけた。それから私達はこの空っぽの家を埋めるための一連の作業(ホテルから私の荷物を運んでくる。家中の長さを測る。家具屋でソファーやスタンドライトやラグやクッションやカーテンを選ぶ。電気屋で各種家電を買う。セッティングする)を行った。
言葉にすると大したことはなさそうだけど、一日でこなすにはとんでもない作業量で、終わる頃には日が暮れていたし、私は疲れ果てていた。
買ったばかりのソファーの背もたれに頭を預けて、目を閉じる。
「疲れた……」
「ウン、お疲れ様、みどり。マッサージしてあげる」
しかし紫貴はほんの少しの疲れを見せることなく、機嫌を悪くすることさえなかった。
買い物中だってあれこれと理由をつけて休憩させてくれたし、変な人が絡んできても『俺が話してくるからコーヒー飲んでて』なんてスマートに対応してくれた。そうして今は足湯をつくってくれた上に、私の肩を揉んで労ってくれる。それでも私は疲れてしまっていて愛想よく返せないでいると、彼が私の顔をのぞき込んできた。
「ごめん、もっと早く休ませてあげればよかったね」
「紫貴は悪くないのに謝らないで。あなたに優しくされても、私の体力不足は改善されないわ」
疲れからキツい言い方になってしまう私を彼は後ろから抱きしめる。
「もっと好きになってほしいから、俺は下心で頑張ってるの。ね、頑張った俺にキスしてよ、みどり」
彼が私の頬を撫でて、目線を要求してきた。渋々そちらを向くと、ちゅ、とキスされる。
「ね、みどりもして?」
こんなにも可愛い彼氏に、さすがに私の苛立ちもおさまってしまう。私からキスを返すと、彼はふにゃふにゃに笑った。世界で一番可愛い顔だ。
「俺、今までみどりがいなかったのに、どうして生きてこられたんだろう」
「……もう、何それ。べた惚れね?」
「わかってるくせに。もう死んだって、俺から逃げられないからね」
「ンフフ、はぁい」
逃げられないとは物騒な言い方だ。足湯から足を上げ、タオルで拭く。足があたたまるだけでかなり体が楽になった。
「ありがと、紫貴」
「……脅されたのに危機感ないな」
「脅し? 今のが? それにどんな危機があるの、ここに?」
「見たらわかるでしょ。これ、『危険物注意』って意味」
彼が自分のタトゥーを見せつけてきたので、首筋の鯨にキスをしてあげると、彼は息を吐き、私をジトッと睨んだ。
「ア、怖い顔。いじめる?」
「フフ、いじめてやる」
「ヤー! くすぐるのは反則!」
彼は買ったばかりの毛足の長いラグの上に私を転がすと、のしかかってきた。ふざけていると分かるのに、身体をなぞる彼の手と身体にかかる彼の重さに、まだ触れられてもいない体の内側が疼きだして、吐く息に熱が混じってしまう。
気が付いたら私は彼の首に腕を回し、彼は私の足の間に身体を収めていた。欲を孕んだ視線が絡み合えば、もう、欲しくてたまらない。
「みどり……もう少し、キスしていい?」
「ウン、……したい」
彼は優しく微笑んだ。
◆
彼の唇が唇に与えられるだけで、背筋に性感が走る。彼の平べったい舌が優しく私の唇をつつくから、早くしてほしくて口を開く。でも、彼は慰めるように舌先で私の唇をなぞるだけ。彼の頭を掴んで引き寄せても、彼はクスっと笑って触れるだけのキスを続けてしまう。
私だけ汗ばみ、目が潤み、中は濡れていく。
(お腹、熱い……)
彼のうなじを引き寄せ、彼の意地悪な唇を舐め、前歯で軽く下唇を食む。それでも彼は笑うだけ。ならばと彼の口に舌を挿し込み、拙いなりに彼の口内を探索するけれど、彼はまだ私を焦らしたいのか、意地悪に私の脇腹を撫でて邪魔をしてきた。そんな優しい意地悪にさえ、私は甘く震えてしまう。
(早く触って欲しい……)
下腹部がドキドキと震え、まだ触れられていない胸が張っていた。破裂寸前の水風船みたいに、ちょっとしたことですぐ溢れてしまいそう。私はそのぐらい飢えている。なのに彼のキスは優しい。
「紫貴ぃ……意地悪しないで……」
泣きそうだった。
半日前に抱き合っていたはずなのに、ずっと水を与えられなかったかのように、欲しい。
彼が私の顔を見て、ゴクリと唾を飲んだ。
「意地悪って……でも、そこまでしたら、俺、キスだけで収める自信ない。疲れてるでしょ、みどり?」
いいの、と彼が低く尋ねてくる。その声にさえ私は腰を揺らしてしまうのに、優しい彼はまだ私を気遣っている。
(ずるい……)
なんと返事をしたらいいのかわからなくて、代わりに彼の右手の手首を掴み、薬指の先を咥えた。塩辛いような気がした。彼のタトゥーを舌で味わい、骨を甘噛みし、指の付け根にキスをする。
視線を上げると彼の頬が赤くなっていた。
「私、……したいって言ったよ……?」
小声で強請ると彼も小声で、そうだね、と呟き、親指で私の唇をなぞった。
「俺も、……したい」
彼の親指が優しく私の顎を押し、私に口を開かせる。彼はようやく舌を挿し入れ、私の舌をとらえてくれた。
「ん、ん……」
先程までの触れるキスが夢だったみたいに、彼は舌の付け根までえぐってくる。彼に与えられるものを必死に飲み下し、まともに息もできないまま彼にしがみつく。
(気持ちいい……)
彼のしていることは蹂躙だ。なのに、私の感じるものは安心感と気持ち良さだけ。
彼の冷たい手が性急にパーカーを胸の上までたくし上げ、ブラも力任せに上にずらしてしまう。バチンと大きな音を立ててホックが外れ、晒された胸に彼の手が這う。形を潰すように揉まれ、彼も飢えているのだとわかる。そうわかってしまえば、愛撫の激しさは愛おしさにしかならない。
敏感な先端を指の腹で遊ばれても、彼に媚びた頭が快楽のみを拾い上げ、もっといじめてほしくなる。両足で彼の身体を引き寄せると、濡れた下着を彼に押し付けてしまった。彼がそんなはしたない私を咎めることなく、腰を揺らし、私の柔らかな肉をいじめてくれる。
舌を吸い上げられ、胸の先端を潰され、ゴツ、ゴツと腰を突き上げられ、頭の中で火花が散った。
(ァ、……もう……っ!)
弾ける、と思ったら、達してしまっていた。
勝手に両足が伸び、腰が震え、力が抜ける。快楽の余波の大きさから、バチ、バチと自分から火花がでている気さえする。
ちゅ、と音を立てて、彼が私から舌を抜いた。
「……みどり?」
「ァ、……」
彼は体を起こし、ぐったりと力の抜けている私の膝を掴んだ。抵抗もできず、足が大きく開かされてしまう。
「や、ぁ……、見ない、で……」
私はもう、ぐちゃぐちゃだった。
たくしあげられたパーカーとブラジャーが首のあたりでだぼつき、ショーツは脱がされてもいないのにすでに意味をなしていない。ぜえ、ぜえ、と荒い呼吸繰り返しながら、恥ずかしさに目を伏せた。
彼は何も言わずに私の痴態を見ている。
(もしかして、ドン引きされてる……? だって気持ちよかったから……)
両手で顔を隠すと、彼の冷たい手が膝から離れ、代わりに私のお腹を優しく押した。
「……一人で気持ちよくなっちゃ駄目だよ。謝って」
「エ……?」
「ちゃんと俺の顔見て、謝って」
そっと指の間から彼を見上げると、彼は優しい顔で私をじっと見下ろしていた。愛おしくてたまらない、彼の目がそう語っている。だからほっとした。
顔を隠すのをやめて、彼の手に手を重ねた。
「……ごめんなさい?」
彼は優しく微笑んでくれた。
「許さない」
「エッ、許してくれないの?」
「ウン、そんな顔で謝られても、……もう、我慢の限界……」
彼はふざけた調子で話しながら、黒いズボンの前を緩め、下着をずらした。解放された彼の性器は彼の言葉の通り、我慢の限界に来ているようだ。それを見ているだけでこみ上げてきた唾を飲み下し、彼を見上げる。
彼の額に汗が見えた。
「みどりが明日ベッドから動かなくていいように、俺、全部ちゃんとするから……、いいよな?」
彼の手がグ、グ、と下腹部を押してくる。その奥にある子宮を意識されられて、口から甘く息を吐いてしまう。
(断らせる気なんかないんだ……)
彼の欲にお腹の奥が切なく疼いていた。
「……いいに決まってる。紫貴も気持ちよくなってくれなきゃ、やだ」
「ハ、……もう、とっくに気持ちいいよ。頭おかしくなる……みどり、可愛い、大好き……」
彼は甘くつぶやくと、ショーツのクロッチをずらすだけで、性急に私の中に薬指を沈めた。
私の身体は彼の指に必死に媚びて、あっという間に根本まで飲み込んでしまう。自分でも触れることができない場所に入り込んだ彼の指が、私の中を探り、押して、広げて、道をこじ開いていく。そのすべてが気持ちよくて、変な声をだしてしまいそうで前歯を噛みしめると、意地悪な彼がキスをした。彼の前歯が私の下唇を引っ張って、それからいやらしく舌で私を誘う。
「みどり……強情だな。素直に口開けて」
「だって……ァアッ! うぅーっ! やぁ、アンッ、……なんで今押したのぉ、意地悪!」
「ハハッごめん、ごめん。じゃあキスね」
気持ちよくてこぼしてしまう恥ずかしい喘ぎ声を、空気に溶ける前に彼が飲み込んでくれる。だから安心してもっと気持ちよくなってしまう。
(キス、気持ちいい……指も、すごい、……もっと、もっと……)
彼の胸に自分の胸を押し当てて、彼の背中に爪を立てる。触れあっている場所すべてが磁石のようにくっついているのに、もっと欲しい。
(足りない、こんなんじゃ足りない)
もっと傍に来てほしいと苦しむ私から、しかし彼は指が抜き、唇も離れてしまった。
「やっ、キスして」
「待って、みどり……」
「早くっ」
「わかったから……」
勝手なことを言う私に小鳥のようにキスをしながら、彼は避妊具の袋を切った。彼の銀髪から汗が落ち、彼の甘く苦く重たい香りが鼻腔を満たす。伏せていた彼の視線が持ち上がり、私を見る。
彼の顔は一目で見て分かるほど、私に飢えていた。
「紫貴、来て」
私が腕を広げると、彼は私を押しつぶしながら一気に押し込んでくれた。疼いていた奥にようやく与えられた熱に喜ぶ前にのけぞってしまう。感じたことがない気持ちよさに、腰がつい逃げようとする。けれど彼の手が腰を押さえつけて、逃がしてくれない。
(死んじゃう!)
待ちのぞんでいたはずなのに、感じたものは恐怖に近かった。彼の手が私の腹を押した途端、体中の骨がなくなってしまったかのような錯覚に襲われる。処理しきれない気持ちよさに視界が揺れた。そんな中、彼は容赦なく動き始めてしまう。息の仕方もわからなくなり、後頭部をラグに強く押し付ける。
(駄目、……これは駄目!)
咄嗟に、彼の肩を叩いていた。
「待ってっ」
彼は私が言う通りに、動きを止めた。
「ごめん、息が……」
上がる息を整えていると彼の模様だらけの手が私の前髪をかきあげ、目尻に優しいキスをくれた。もう一度謝ろうと彼を見上げる。
「……みどり、平気?」
彼は真っ赤な顔をしていた。額からボタボタと汗を流し、歯が震えている。可哀想なぐらい我慢してまで、彼は私を気遣いながら、待ってくれている。
(エ、大好き)
そう思った瞬間に、お腹の奥が勝手に動いてしまった。
「にゃう!?」
「グッ……ウ……」
彼の形がはっきりと分かるほど締め付けてしまい、私はのけぞり、彼は呻いた。彼がすがるように私の両手を掴む。
「ア、ちがうのっ、わざとじゃないっ……!」
「いいよ、もっとして。もっと……」
彼は私にキスをして「足りない」と砂漠で水を求めるように呻く。「こんなんじゃ足りない」と、痛いぐらい強く私の手を掴んで、彼は呻く。
「みどり、……欲しいんだ……もっと……」
尽きることがなく、満たされることがない。
買ったばかりのラグを汚しながら、彼を知らない頃には戻れないんだと確信させられてしまう、どうしようもない、この欲。
「全部あげるから、全部欲しがって」
彼は苛立ったように舌を打つと、噛み付くようにキスを始めた。唾液を奪われ、舌を吸い上げられ、息さえできない。全身を彼に押しつぶされ、重たくて、死んでしまいそう。苦しいのに、でも嬉しい。ゴツ、ゴツと彼が進んできてくれると、涙がこぼれるのに、もっと来て欲しい。ずっとイッてるのに、まだ欲しい。
(ァ、こぼれる――)
酸欠の頭がそう理解した瞬間に、彼が震えた。性急な動きが止まり、ようやく舌を抜かれる。深く息をするだけで全身が甘く痺れてしまう。
「ふぁ、あ、……」
「ハー……」
彼は荒く息を吐きながら、最後まで出し切るように私の奥に押し付ける。それさえ気持ちよくて私が喘ぐと、みどり、と彼がかすれた声で私を呼ぶ。そうして目が合うと、私達はまたキスを始めてしまっていた。
「みどり、ごめん……いい?」
「謝らないで。私ももっと欲しい……壊れてもいいから……」
「フハ、……最高だ。愛してるよ」
そんな風に互いに夢中になりながら、私たちの同棲は始まった。
□
「この一ヶ月さ、色々あったけど、どう?」
ラグで転がる紫貴に尋ねられ、同棲を始めてからのこの一ヶ月を思い返す。
約束通り、紫貴からたくさんのことを教えてもらった。彼の最初のタトゥーがPIANOであること、最新のタトゥーは左のくるぶしに彫られた羽であること、甘いものが苦手なこと、コーヒーが好きなこと、香水のブランド、卵焼きにはマヨネーズをかけること、これまで人と付き合ったことはないけど遊ぶだけ遊んできたこと、犬が好きなこと、寝るのが苦手なこと、黒が好きなこと、左目がよく見えないこと、イタリアで生まれ育ったこと、家族が嫌いなこと、全身脱毛していて髭も生えないこと、煙草と酒はやらないこと……私は少しずつ彼を知り、更に彼を好きになった。
そんな一カ月だ。
「俺、みどりが思ってたより、格好良くなかったよね……?」
わざとらしく彼が拗ねるから、ソファーの上から手を伸ばして彼の鼻先をつつく。
「そうね、女関係は特にね」
「それはみどりが今まで俺の隣にいなかったのが悪い」
「紫貴の女問題は私のせいなの?」
「そう、みどりのせい」
「フフ、可愛い人」
この一カ月で知ったのは教わった事だけじゃない。
「……みどりは俺のこと好き?」
彼は駆け引きが嫌いなのだ。
だから言葉でも態度でも好意を伝えてくれるし、同時に私にもそれを望んでいる。
「大好き。顔も好き。体も好き。優しいところは大好き。いくら言っても足りないぐらい、私の彼氏スーパーハンサム!」
「ふへへ」
私が素直に彼に好意を伝えると、彼は気の抜けた顔を見せてくれる。こんなに可愛い人は他に絶対いないだろう。
(……とはいえ不満がまったくないわけではないんだけど)
彼は私に声をかけないで夜中に出かけることがある。一度や二度ではない。私が起きる頃には帰ってくるけれど、気にはなる。とはいえ、浮気を疑っているわけではない。この一カ月、この家で紫貴は画面が割れたスマホに全く触らないし、私も家族や友達への連絡を怠ってしまうぐらいなのだ。私たちは浮かれていて、そしてちっとも冷めそうにない。だから、彼の夜中の家出は可愛い猫ちゃんのすることとして目をつぶっている。
(だからつまり、……)
彼の隣に転がって、可愛い彼の顔を両手でつかんでキスをする。
「この一カ月は完璧な一カ月だったわ。紫貴のおかげ」
彼は私の腰を掴むと、コツン、と額を当ててきた。
「じゃあ、結婚する?」
驚く私に、彼は一呼吸おいてからまた口を開く。
「日本行って籍いれて、それからみどりのビザ申請して、……それで、ここでずっと暮らすの。ハッピーエバーアフター……どう?」
緊張した面持ちの彼が可愛すぎて、噛みつくようにキスをしてしまった。
「フフ、ンフフ、幸せ過ぎて怖くなってきた」
「……わかる、俺も」
何も怖いものがなかった。彼となら、この幸福を続けていける。いつまでも、いつまでも、本気でそう思った。
――しかし、この日の午後九時だった。
私が恋を理由に見ないようにしていた『現実』を引き連れて、『彼』がやってきた。
晩餐を終えた私たちはソファーで互いの手を触りながら『明日は何しようか』と話していた。後はセックスをして寝るだけのいつも通りの穏やかな夜。なのに、突然、家の鍵が開けられた。
「よう」
入ってきたのは『男性』だった。
前髪を後ろに流しサングラスをかけ、他人の家に入るというのにくわえ煙草。不遜極まりないスーツの男は開口一番「今度は家になってるな」と言った。私には全く覚えのない男だが、彼は明らかに紫貴に向かって話している。
「……紫貴、どなた? ピアニストのお知り合い?」
私の質問に紫貴は笑い、男は眉を寄せた。
紫貴はソファーから立ち上がると男の元に向かい、その肩を掴むと、彼を私の方を向かせた。
「紹介しておく。こちらは市村みどりさん、俺の妻になる人」
彼の紹介にときめきつつ、立ち上がって「市村みどりです」と挨拶すると、男はため息をついた。
「ついに殺しても死なない女に巡り合ったか?」
「みどりはそういうんじゃない」
彼は私のことを頭の先から足先まで、値踏みするように見てきた。
「『普通』の女ってことか?」
「さっきから『特別』って言ってるだろ。……用件は外で聞く。出ろ」
「女ねえ……」
男は私を一瞥し、「いや、ここで話す。特別だと言うなら聞くべきだ」と土足で家の中に上がってきた。
(な、な、何だ、この失礼な人!)
あんまりな態度に男を睨むが、彼の後ろで紫貴が『ごめんね』という顔をしていた。
(紫貴の親しい人なら……)
私は睨むのをやめて、改めて男を見上げた。
紫貴よりも背が高い大男で、プロレスラーのような体をしている。サングラスで目は見えないが、よほどのことがない限りは整った顔立ちをしているだろうと思わせる横顔。三十代後半ぐらいだろうか。煙草と軽薄な香水の香りがする。高そうなスーツは似合っているが、似合いすぎているとも言えた。
(この人と紫貴が並ぶと、この空間の裏社会感が……)
タトゥーこそないが彼の纏う雰囲気は殺伐としていて、身がすくむものがあった。
「……入るなら靴を脱げ」
「面倒くせえ」
男は乱暴な物言いだが、嬉しそうに笑った。彼は靴を脱ぐと玄関に向かって投げ捨てる。高そうな靴なのに頓着していない態度は、紫貴に似ていた。
「分かっているだろうが仕事の話だ」
「お前が代理できないのか」
紫貴は不審そうに眉をひそめる。
「総会は無理だ。ボスの代理はお前以外務まらない」
「総会? チッ、そんな時期か……」
「忘れんなよ。マァ、浮かれてんのは家見りゃわかるけど」
男は我が家の観葉植物コーナーを眺めながら、「で、これはお嬢ちゃんの趣味なわけ?」と急に私に聞いてきた。
(『お嬢ちゃん』? 舐めてんのか、このおっさん)
眉に力が入るが、おっさんの後ろで紫貴が『ごめんね』の顔をしていたので、なんとかおさえる。
「……私の趣味というか私たちの趣味です。アボカドは紫貴が頑張って発芽させたんですよ」
「これ、自分でやったのか! へえー、すごいな、日比谷!」
男は急に明るい声を出し、紫貴の頭を撫でた。紫貴は面倒くさそうな顔はしつつ、その手を避けない。私は私の恋人の指を掴んで、その目を見つめた。
「紫貴、紹介してくれる?」
紫貴は渋々といった様子で、口を開いた。
「百々目優。知人だ」
「何だ、その紹介。俺は……」
「黙ってろ、百々目」
百々目という男の言葉を遮った紫貴は「彼がみどりを傷つけることはない」と断言した。その断言に、百々目さんは面白がる顔で「Yes, Your Majesty.」と発音良く答える。
「マァ、……よろしくな、『お嬢ちゃん』」
「……よろしくお願いします、百々目さん」
嫌いな笑顔だった。
「他に用はないだろ、帰れ」
「いや、お前、ピアニストなんて……」
「出ていけ」
「日比谷、ちゃんと聞け。お前が説明してやらないと、総会の間、どうしようもないだろ? 連れていけない以上、護衛を置くしかない。適任は誰だかわかってるよな?」
紫貴は何も答えずに百々目さんの背中を蹴った。が、彼は怒ることもなく靴を履く。
「ちゃんとしておけよ、日比谷」
彼はそう言い残して、去っていった。紫貴は彼が出るとすぐに鍵をかけ、チェーンロックまでかける。それからゆっくりと振り向いた。
「びっくりしたね」
紫貴は私から目を逸らし、わざとらしく笑った。
(……怪しい)
百々目さんも怪しいが、紫貴の態度こそ怪しい。私からスーと目を逸らすときは何かしらやましいのだ。
「紫貴」
彼の腕を掴み、ソファーに座らせる。
「あなた、仕事って? 総会って何?」
「……話したくない」
彼の頬を両手で包み、目を合わせようとするが、彼は目を伏せて逃げた。
「あなたのピアノが好きよ、紫貴」
「……ウン」
「何を隠してるの。……まだ小出しにしてくれないの?」
彼はようやく私と目を合わせると、頬にキスをくれた。
「みどり、俺の話を聞いた後、逃げないでくれる?」
「ウン、もちろん」
「どうしてそう言い切れる?」
「紫貴がなんであっても、この一ヶ月があるもの。この一ヶ月、幸せで安心してたから。紫貴もそうでしょう?」
彼は返事はせずに私の腰を掴むと、私を自分の足の上に横向きで座らせた。彼の肩に頭を預けて、彼の手を握る。彼は短く息を吐いた。
「……ウン、怖いぐらい幸せだ。だから失いたくない」
「そんなに話したくないこと?」
「打ち明けてしまいたい気持ちはある。でも、打ち明けて失うぐらいなら墓場まで持っていく。みどりがいなくなったら、俺は息ができなくなる。……本気だ」
彼の右手が私の頬を包んだ。泣きそうな顔で、悲痛な声で、私の好きな人は私にすがっている。
「重いだろ、こんなの……」
確かに重い。でも、その重さは嬉しいことだ。
(だって私、この人が欲しい。この先の全部、欲しい)
彼の頬にキスをする。最初の歯を当ててしまったキスよりずっと自然に、ずっと愛を込めて彼に触れる。
「教えて、紫貴。『どうして私を好きになってくれたの』?」
彼は、ようやく口を開いた。
□
俺の生まれ育った街は、イタリアにしては平和なところだ。
俺は裕福な家の生まれで、幼い頃からダルメシアンを飼っていた。最初の犬の名前がピアノで、俺がピアノを弾いているときずっと俺の膝に頭を乗せていた。このニュージャージーに住んでると、よく大きな犬を散歩してる人を見るでしょう? 俺はあれを見るのが好きなんだ。大型犬を一度飼うとどうしても忘れられなくなるのかもしれないね。……もう俺は飼えないけど。どの時間でも幸せそうな大型犬の顔を見られるこの街は、俺にはニューヨークより楽しいんだ。ほら、ニューヨークは抱き犬が多いだろ……わかった、わかった、話を戻そう。
俺の家では社交が重要だった。幼い頃から大人の間で一人の人間として振る舞うことが求められた。
だから、まともに同年代と初めて関わったのは中学の時だ。……、どう対応したらいいのか分からなかった。みんな子どもだからさ、……世界の中心は自分だと信じていて……、理想が高く、知識が乏しく、幼く、愚かだ……子どもの中で俺は異物だった。
……いじめ?
ハハッ、いじめられることはないよ。俺は喧嘩が強いから。……いや、冗談じゃないよ。本当のこと。俺は話し合いも強いし、殴り合いも強いし、撃ち合いだって負けないよ。そういう風に育てられているし、……エ? 百々目のが強そう? なんで? あんな筋肉達磨、骨折ったら終わりだろ。……そうだね、みどりの前でそんなことはしたくない。
……資本主義、ってあるだろ? いや、話は変わってない。
人間は、なんで資本主義の社会を形成したと思う? ……みんなで仲良く? アハハッ! ……いや、ウン、そうならいいなって。……強いもののためにあるんだよ、人間の作ったものは全部。国も法律も貨幣制度も、上が下を支配し、搾取するためのものだ。
そして、俺は上に立つ家の生まれだ。それも、暴力も一つの手段にしている。
……ヤクザみたいなこと言わないで?
ヤクザは怖いけどね、日本だともう落ち目だろう? ヤクザは処罰され、ムショに送られたよ。マァ、……そうして今度は普通の人間が暴力を用いるようになった。金がないやつが金がないやつを殴って、わずかばかりの金を奪って結局何も変わらない。暴力はいつも貧しさに根付いている。
……イタリアの話をしようか。
イタリアでは日本と違って、マフィアは元気にしてるよ。みんな貧しいからね、マフィアの恩恵を受けている市民はたくさんいる。失業率が高くて、問題が多くて、陽気だけど陰気なところだ。だから『この国』ではマフィアは死なない。
……いや、話は何も変わってない。
俺の育った街は貧困の隣にある街……中学の時に初めてそれを現実として理解した。
この幼い子どもだちが、俺が将来、……骨の髄まで支配する小市民たちなんだと。それが、……とても恐ろしかった。それまでは何も疑問に思わなかった自分の生まれも、地位も、周りの大人たちの態度も、急に……納得を伴って吐き気がしてきた。自分の親の……善性に見せかけた暴力性も、理解すればするほど共感できてしまって、そんな俺の性根が……酷く、恐ろしかったんだ。
だって目の前にいる子どもたちは、まだ自分が世界の中心だと信じているのに、彼らが世界の中心に立つことなんかないんだよ。未来永劫ないんだ、俺がいる限りは……彼らは支配される側なんだよ。
……俺は、俺の家を抜けるなんて無理だ。すでに恩恵は受けていたし他の生活をしたいわけではない。だから俺に必要なのは覚悟だった……このグロテスクな社会構図を理解し、受け入れ、……覚悟をしたからこそ、跡継ぎとして認められた。十四のときだ。そのときから……百々目がお目付け役になった。
日本語を教えてくれたのは百々目だ。俺はイタリア語と英語で育ってたからね。
……そう? 丁寧だといいな。百々目は反面教師、……わかった、白状する。教えてくれたのは百々目の女たちだ。だから男が話すにしては俺の日本語は柔らかいかもしれないね。自分ではよくわからないけれど……。
当時の百々目は、……今の俺と同い年だ。厄介そうにしてたわけだ。俺も今、将来自分の上に立つ少年の世話をしろと言われたら面倒に思うだろう。百々目は、いいやつだよ。だから自分の半分しか生きていないガキを人間扱いできて……次のボスを育て上げた。……俺の仕事は、つまり、……マフィアの仕事だ。それもトップの仕事をしている。俺のファミリーの、この国の代表は俺。……百々目はその補佐だ。
「この世界で生きていくと決めた時、タトゥーを入れた。一つ入れたらもう止められなかった。俺の生き方に似合う姿になりたくて、ダウンタイムも取らずに次から次へとさ、……そしたら百々目が怒ったんだ。『俺たちのボスなんだから、ちゃんと好きなことをやれ』って……それでマフィアをやりながら、ピアニストとしてバーで働き始めた。それだけのことで、この悪癖はましになった。でも今更だ。俺は……ピアノを弾いたところで子どもには戻れない。俺は、誰よりも傲慢でなくてはいけない。すべて欲しがって、すべて支配して、すべてを搾取する。それが俺の仕事だ」
紫貴の額から冷や汗が地に向かって落ちていく。今にも崩れ落ちてしまいそうなのに、それでも彼は口を閉じずに話し続ける。
「みどりに声をかけたのは、俺が不愉快だったからだ。隣に馬鹿な男がいるなんて耐えられない。俺のためで、少しも君のためなんかじゃなかった……なのに……君は裏もなく、俺に礼なんて言う。こんな、どうしようもない俺に……手を伸ばしてくれる……」
彼がかすれた声で、みどり、と私の名前を呼ぶ。
「絶対に許されないと覚悟していたはずなのに、君から目が逸らせなくて、君を好きになってしまった。君に好かれたくなってしまった。君を前にすると俺は、君を好きなだけの小市民になってしまう……でも……、俺はマフィアだ。逃げようもなく、それこそが俺だ」
彼は目を閉じたまま、私の両手を掴む。まるで祈りを捧げているみたいだ。私は彼の鼓動を聞きながら、彼の膝の上で、しかし彼の告白を受け止めきれずにいた。そのぐらいあまりにも、目の前の彼と彼の語る内容に乖離があった。けれど彼は口を閉じてはくれない。そして耳に蓋はない。私は彼の言葉を聞くしかなかった。
「……これが、俺が隠していたこと、……許されない罪だ。……こんなことを言ってはいけないのは分かっている。でも、……どうか俺から逃げないで……」
彼の唇が私の手に触れる。彼の手に描かれた恐ろしい悪魔が私を笑っていた。
□
彼の告白に『気にしないわ』と言えばいいのか、『大丈夫』と受け止めていいものなのか、『ひどい!』と怒鳴ってみせたらいいのか。この告白にどう答えたらいいのか全く分からない。けれど、彼の眉間には皺が寄っていて、彼が泣くのをこらえていることはすぐに分かった。
(どうしたらいいの……?)
今までの比ではない、頭痛を伴うような音量で、頭の中に警報が鳴り響く。
(そんな人なんて知らなかった。そんな人と一緒にいる覚悟なんてしていない。そうでしょ、市村みどり?)
だけど目の前の彼の顔を見ると、そんな警報を無視して恋心が叫ぶ。
(可哀想。泣きそうな顔してる……私の大好きな人が、苦しんでる……)
私を膝に抱いているのに、私が何処かへいってしまうことに酷く怯えている、そんな彼を目の前にして、どうして警報なんて聞けるだろう。
彼の頬に手を当て、そっと彼の唇にキスをする。彼は小さく息を吐いて目を開けた。
「紫貴」
彼の名前を呼ぶ。いつものように、大切なんだという気持ちを込めて呼ぶ。彼は蛇のようにじっとしたまま、私を見ていた。
「イタリアで生まれ育って、アメリカで長く暮らしていて……」
「……ウン」
「なのに、どうして……シャワーの使い方もわからないの?」
彼は瞬きをした後、深く息をした。
「二年前までは、百々目と同じ家で住まなきゃいけなくて……百々目、帰れないくせに日本が好きで、日本語しか話さないし、日本製しか認めないから……だから、俺も日本のものに、慣れてて……」
彼の声に涙が混ざっていく。彼の手が私の背に回り、私を強く抱きしめた。
「じゃあ、冷蔵庫の中の幅とって仕方ないお酒は百々目さんのものってこと? 捨てていい?」
「そう……百々目が、引っ越しの、餞別でって渡してきて……、そうだね、捨てよう、ウン……」
「紫貴は百々目さんと仲良しなのね」
彼は鼻をすすってから、急に「見るな」と低い声で唸った。
「何を?」
「百々目。格好いいから、見ないで」
「ハァ? どこが?」
「エッ」
紫貴は本当に驚いたのか顔を上げてくれた。泣き顔さえ天使のようだ。人差し指で彼の涙を拭う。
「いきなり来るし、部屋で煙草吸うし、土足だし、人のこと『お嬢ちゃん』とか呼ぶし、家主に対して失礼すぎ。もう来ないでほしい」
「そ……っか、わかった。二度とやらせない。百々目は殴っておく」
「殴らなくてもいいけど……紫貴の大事な人なんでしょ」
「そんなことはない」
「えー、アハハ」
あんまりな断言に私が笑うと、紫貴は私をソファーに押し倒した。私の肩をおさえて、彼が私を見下ろす。
「……みどり、いいの?」
いいはずなんかない、という理性はある。そんな相手を選んで親に顔向けできるのか、なんて誰かに責められたら私はきっと泣くだろう。
だからこそ、私は頑張って笑った。この選択は間違ってるとわかった上で、それでも笑った。
「あなたが好きなの。人生後悔してもいいぐらい、あなたが恋なの……今更離れられないわ」
彼の顔を引き寄せてキスをする。彼のキスを真似て伺うように触れると、彼は私を真似るように主導権を渡してくれた。だから彼のために、慰めと決意を込めて、少しずつキスを深めていく。彼は私の肩を掴む力をゆるめ、すがるように落ちてくる。
キスを終えて彼の顔を見ると、彼は力が抜けたのか、ゆっくり私の上に寝そべる。汗ばんだ彼の体は重たく、押しつぶされそうだ。
「私のこれまでの人生と、これからの人生……全部大事にしてくれるんだよね?」
「ウン、……俺の全部で……必ず守るよ」
――マフィアなのにどうやって?
つい、そう、思ってしまった。それでも、その思いごと彼を胸に抱きしめた。彼は私に抱かれながら静かに息をする。蛇だと言われたら確かに似ている、今更そんなことを思った。
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