7 / 14
第二話 名
03
しおりを挟む
先に口を開いたのはアランだ。
「六秒」
「……六秒?」
「六秒見つめあったら、それはもう恋だそうです」
これはハイスクール時代に彼をからかった女性が笑いながら告げたもので、よい意味はなかった(そのときアランは彼女に踏みつけられ、つぶれた虫と目を合わせされられていたのだから)。
しかしかといって、アランはこの言葉をからかいのつもりで言ったわけではなかった。アランも他者と長く目を合わせたのが初めてで、だからこそ、ふとそんなことを思い出しただけだ。そこに深い意図はなかった。
しかしクリーチャーはそうは思わなかった。
グチャグチャと触手を動かして、アランの体をクチャクチャと撫でる。アランは自分の柔いところにまで入ってきた触手に、さすがに「くすぐったいですよ」と微笑む。クリーチャーはそんなアランの態度にさらにグチャグチャと触手を蠢かせた。
その動作は人でいうところの『照れ』のようにアランには思えて、やはりかわいく見えた。
クリーチャーはアランが穏やかに微笑むものだから、さらに動揺した。クリーチャーは恐る恐る、といったように、その大きな口を開く。
「……お前、は、……怖がらない。何故? ……恋だから?」
その地を這うようなおぞましく忌まわしい声は、しかし、期待に満ちているようだった。ギョロギョロとその目がアランをとらえる。グチャグチャと触手がアランの体を絞めていく。その大きな口からのびた紫の舌がアランの足先をなめる。--まるで、味見をするように。
「恋なら、食べない。恋を食べる、と、……腹壊す、……らしい、から、……。でも、……そうじゃないなら、食べる。……だから、……お前、……食べる……」
「アランですよ」
アランはクリーチャーに舐められてもものともせず、クスクスと笑った。
「俺のことはアランと呼んで」
「…………お前、食べられる、だろ?」
「恋はお腹を壊すのに?」
「恋なのか!」
その恐ろしい声は部屋中のガラスを震わせ、そうして、アランを笑わせた。
「エラ」
今更になるがアランはこの日とても疲れていたし寝ていなかった。彼の体力も思考力も限界だったのだ。
アランはくったりと触手に体を預け、目の前の大量の複眼のついた化け物の頭部を見て、微笑んだ。
「俺を呼んで……他のからかいの言葉じゃなく、俺の名前で、……」
その呼び掛けにクリーチャーは身もだえした後、「アラン」と頷いた。
その反応を見て、アランはまた『かわいい』と思った。そうしてその思考を最後に彼は眠りについた。何故なら彼は疲れていて、触手はとてもあたたかく柔らかかったからだ。
「六秒」
「……六秒?」
「六秒見つめあったら、それはもう恋だそうです」
これはハイスクール時代に彼をからかった女性が笑いながら告げたもので、よい意味はなかった(そのときアランは彼女に踏みつけられ、つぶれた虫と目を合わせされられていたのだから)。
しかしかといって、アランはこの言葉をからかいのつもりで言ったわけではなかった。アランも他者と長く目を合わせたのが初めてで、だからこそ、ふとそんなことを思い出しただけだ。そこに深い意図はなかった。
しかしクリーチャーはそうは思わなかった。
グチャグチャと触手を動かして、アランの体をクチャクチャと撫でる。アランは自分の柔いところにまで入ってきた触手に、さすがに「くすぐったいですよ」と微笑む。クリーチャーはそんなアランの態度にさらにグチャグチャと触手を蠢かせた。
その動作は人でいうところの『照れ』のようにアランには思えて、やはりかわいく見えた。
クリーチャーはアランが穏やかに微笑むものだから、さらに動揺した。クリーチャーは恐る恐る、といったように、その大きな口を開く。
「……お前、は、……怖がらない。何故? ……恋だから?」
その地を這うようなおぞましく忌まわしい声は、しかし、期待に満ちているようだった。ギョロギョロとその目がアランをとらえる。グチャグチャと触手がアランの体を絞めていく。その大きな口からのびた紫の舌がアランの足先をなめる。--まるで、味見をするように。
「恋なら、食べない。恋を食べる、と、……腹壊す、……らしい、から、……。でも、……そうじゃないなら、食べる。……だから、……お前、……食べる……」
「アランですよ」
アランはクリーチャーに舐められてもものともせず、クスクスと笑った。
「俺のことはアランと呼んで」
「…………お前、食べられる、だろ?」
「恋はお腹を壊すのに?」
「恋なのか!」
その恐ろしい声は部屋中のガラスを震わせ、そうして、アランを笑わせた。
「エラ」
今更になるがアランはこの日とても疲れていたし寝ていなかった。彼の体力も思考力も限界だったのだ。
アランはくったりと触手に体を預け、目の前の大量の複眼のついた化け物の頭部を見て、微笑んだ。
「俺を呼んで……他のからかいの言葉じゃなく、俺の名前で、……」
その呼び掛けにクリーチャーは身もだえした後、「アラン」と頷いた。
その反応を見て、アランはまた『かわいい』と思った。そうしてその思考を最後に彼は眠りについた。何故なら彼は疲れていて、触手はとてもあたたかく柔らかかったからだ。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる