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Theme:紛い物にご注意ください
プロローグ:花屋葦船町へのご来店をお待ちしております
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「そういえば、懇親会の後に趣味の悪いものを見たぞ。『花屋』なら取り扱えるんじゃないか?」
タマキさんが契約印を押しながら、妙なことを言ってきた。
「タマキさん、花屋は妙なものを取り扱う店じゃないんですけど」
「中途半端な敬語なら使うな。普通に話せ。さんもいらん」
「……タマキ、うちの花屋で妙なもんはヤトだけで手一杯なんだけど」
『タマキ』はニンマリと笑った。そうやって笑うと年下のようにさえ見えるから不思議だ。おそらくは私よりもずっと長生きで、しかもずっと多くの人を従えている、社会人としても大先輩の彼女は「その男を妙で済ますとはなぁ……」などと笑って、隣人よりも気安い感じだ。
(正直、私よりも彼女の方がヤトに似合っているような……)
客観的に見てそうではないかと考えたところで、背後から契約書の上に大きな手が乗せられた。振り返るまでもなく、甘苦いこの香り、話題になっていたヤトである。
「六花、君、今、妙なこと考えなかったか?」
「え、心読めたりするの?」
「私の五感は人とは比べ物にならない。察せることは君より多いだろう。で、妙なこと考えたか?」
「タマキ、その妙なものって具体的にどんなもの?」
圧がすごいので一旦無視して、タマキに話題をふると彼女は私の背後のヤトにニマニマ笑いを見せながら、「トウゲン」と副官の(そして懇親会前に盛大に私と揉めた)トウゲンさんを呼んだ。
「説明してやれ」
「わかりました」
タマキに指示されると素直なイケメンである。
「ありがとう、よろしくお願いします、トウゲンさん」
「……タマキ様に対して呼び捨てで私に対してその呼び方は問題がある」
「よろしくね、トウゲン」
「……、……まあ、よかろう」
フン、と鼻を鳴らすと、トウゲンが懐から手鏡を取り出した。ゴテゴテしたデザインの手鏡(真鍮か何かでできているようだ。パッと見た感じで、持ち手に髑髏とか蜘蛛とか見える、なんというか『厨二デザイン』。しかし持ってきたのが異世界の人となると嫌な予感がする、まがまがしい鏡)を、彼は契約書の上に置いた(ヤトもだけど、この世界の人、契約書を軽視しすぎな気がする)。
その手鏡にタマキが手をかざすと、3Dホログラムみたいに映像が浮かんだ。
「懇親会の後、タマキ様はミハシ、カラハルトとバー『ブルームーン』にて会談を行われた。そしてカタスに戻られるために彌視磨神社に向かわれた」
映像が彌視磨神社に向かう道中の坂道を写している。どうやら、映像の視点はタマキのようだ。ちら、とヤトを見ると「記憶を写す鏡だよ」と端的に説明してくれた(助かる、チートモンスター)。
「そこでこの――、『紛い物』と遭遇された」
映像には闇が見える。が、ヤトが「ほう!」と楽しそうな声を上げた。
「珍しいな。誰が作ったんだ、これ」
「こんなものを楽しむXXXXはお前ぐらいだ。趣味が悪い。こんな……」
「ちょっと待って、ネタバレしないで。映像続けてよ、トウゲン」
ヤトとタマキというチートモンスターたちがネタバレをしそうだったのでやめてもらい(私は映画のネタバレを絶対に許さない。絶対だ。あと新刊のネタバレもだ。絶対だ)、トウゲンに先を促す。映像の中で、タマキが「トウゲン」と闇に呼びかけた瞬間、――闇の中から『トウゲン』が現れた。
《タマキ様、ここにおられましたか》
目の前のトウゲンと同じ姿、同じ声、同じ口調で話す。私から見れば本人そのものだ。
しかし映像が乱れる。多分これは、映像の元、タマキの記憶に基づいた乱れだ。
《もちろんお迎えに上がりました》
つまり――タマキはこの時、ものすごく怒っていたのだ。
《嘘でハありません。お迎えニきたのは本当デす。遊びノ、お迎えニ》
この、――トウゲンの偽物に。
「これ、ちゃんと捕獲したか?」
何故かウキウキしているヤトに対し、タマキはものすごく嫌そうに顔をしかめた。
「焼いたに決まっておろう」
「もったいない! ……遊んでやればよかったものを……」
「儂の副官を、こんな半端な変化で、儂相手にぶつけてくるのだぞ。侮辱他ならない。お前、自分がやられたことを考えろ。番に化けられたらどうするんだ?」
「遊ぶさ、もちろん。……番にはできない『おれ』の遊びに付き合ってもらうまでよ」
なんとなく嫌な予感がしたので振り返ると、ヤトはしれっとしていた。
「今、悪い顔してたでしょ」
「してない」
「ああ、そう……タマキに聞いてもいい?」
ヤトは片眉を上げた。
「してないと答えろ、タマキ」
「してたぞ」
「よし殺す」
「やめなさい、チートモンスター同士で喧嘩したら街への被害が出るでしょ……チート同士で戯れないで……えーっと、トウゲン、要約すると……『人間に擬態できる植物』ってこと?」
トウゲンは鏡を懐に仕舞うと、頷いてくれた。
「現状カタスの者で遭遇されたのはタマキ様だけだ。だから詳しいことは分からない。戦闘能力は低いと考えられるが、お前だけで遭遇した場合は面倒だろう。しばらくは、……『花屋』と行動するといい」
彼らはヤトのことを『ショバツ』ではなく『花屋』と呼ぶことにしたらしい。背後からヤトが私の肩に手を置いたので、その手を取る。
「わかった。気を付ける。ありがとうね、トウゲン」
「……」
何故かトウゲンがものすごく嫌そうな顔だ。
「え、何? あ。わかった。よいしょっと」
立ち上がり、深々と頭を下げる。
「どうもありがとう。丁寧に説明してくれて助かった。映像も分かりやすくて……」
「違う!」
ちゃんと御礼してないから怒られたのかと思ったが違ったようだ。どういうことだと思いつつ、顔を上げると、彼はバリバリバリと自分の首の後ろを搔いた。
「そう、……気安く礼などするな。私はタマキ様に指示されたから仕事をしただけだ! 気色悪い!」
「えっ! でも、ありがたかったから……」
「お前のためにしたことではない! 黙れ!」
「超弩級のツンデレなの……?」
扱いがセンシティブすぎると思いながら、ヤトを見上げると、何故かヤトは額に青筋を立てていた。何故だと思って、タマキを見ると、タマキもヤトを見ながら『何故切れているんだ、このジジイは』という顔をしていた。と、ヤトが私の後ろから離れ、未だに首の後ろを掻いているトウゲンの前に立った。
「お前……六花に好意を寄せたらその時点で焼いて食うからな……私はこの世界の住人となりつつある。肉も食えるんだぞ、忘れるなよ……」
「こんな下等生物に好意など寄せるか! そんなことをするのはお前だけだわ、XXXX!」
「よし殺す」
「やめなさいって。そんな顔をしても駄目。無駄な喧嘩しないの。やめなさいって、ヤト、おいで、ハウス」
瞬時にトウゲンの頭を掴んで持ち上げたヤトを一旦『ハウス』させ、机の上に放置されていた契約書を膝に乗せる。
「まあ、なんか妙な植物がいるってことは分かった。……で、これを花屋として扱えるかどうかだけど……調査しないとなんとも言えないね」
「調査してなんとかなるなら扱う気なのか!?」
自分から提案してきたくせにタマキが目を剝いて驚くから、こっちも驚いてしまう。
「え、だって需要はあるでしょ。え、需要むしろ高そうじゃない、ヤト?」
「ふむ……仮に植物であれば増やすことは容易い。その上で、『おれ』が調整してやれば、擬態の精度も上げられるのではないか? 作成者の意図がどこにあるか分からないが、……ククッ、面白い……使い道はいくらでもある……未知はいい。遊びの宝庫だ」
ものすごい悪い顔だった。
「ほら、悪い闇の組織に売れそう。具体的に言うとM機関とかに売れそう。タマキのところの世界の植物もなんとか売りたいと思っているのよね」
「はぁ? ……頭が痛くなる……お前がこのクソジジイの番ということはよくわかった……」
「え、どこに頭が痛くなる要素が……」
タマキとトウゲンが同じ顔をしている。なんというか『こいつら、XXXX』の顔である。彼らから目を逸らした。
「すぐ遭遇できるかなぁ? 私も遊びたいけど、こういう妙なものって遊びたい人のところには来なくない?」
「ならば町内会の奴らに頼んでみるか? M機関に対しての不信感が拭えてないやつは六花を頼るだろう」
「ああ、なるほど……何人か声かけてみるか。すぐ広まるでしょ、田舎だし」
「そしてハナフサかミハシが来て説教しようとしてくるだろうから、それは私が言いくるめて誤魔化そう」
「よし、それで。絶対に説教はされたくないから」
方針は固まった。契約書を鞄に仕舞い、立ち上がる。
「では契約も完了したので、我々は失礼いたします」
「ああ、……今後とも花屋葦船町をごひいきに」
「ああ、二度と来るな」
ヤトと揃ってお辞儀をすると、タマキは片手で我々をあしらった。犬の追い払い方と一緒だ。
「え、来るよ。花届けに、なんなら明日も来る予定だけど」
「儂のところまで来なくていい。トウゲンに相手させる」
「……タマキ様の命に従います」
トウゲンを見ると、苦虫五億匹ぐらい噛んだ顔をしていた。
「え、やっぱりムカつくわ。妙な植物を上手いこと育ててタマキの偽物百匹ぐらいに囲ませてやりたくなってきた」
「いい案だな、六花。隠語ばかり話すタマキの偽物に囲ませてやろう。クソ真面目なだけの男が取り乱す様を動画サイトに投稿してやる」
「やめろやめろやめろ! 不敬どころの騒ぎではない! どうしてそんな恐ろしいことを思いついた挙句に行動に移せる!? 何なのだ、お前ら!?」
「塩撒け、トウゲン!」
――そんなこんなで、私たち花屋葦船町の初めての異世界人相手の契約が締結した。
塩まみれにはなったが、大きな契約だったし、次にもつながる契約だ。しかもカタスの代表と言うタマキとも仲良くなれたような気がするし……。
「よし、じゃあ捕まえようね、ヤト」
「ああ。楽しみだ」
この先が楽しみになる、そんな日々がまた始まったのだ。
タマキさんが契約印を押しながら、妙なことを言ってきた。
「タマキさん、花屋は妙なものを取り扱う店じゃないんですけど」
「中途半端な敬語なら使うな。普通に話せ。さんもいらん」
「……タマキ、うちの花屋で妙なもんはヤトだけで手一杯なんだけど」
『タマキ』はニンマリと笑った。そうやって笑うと年下のようにさえ見えるから不思議だ。おそらくは私よりもずっと長生きで、しかもずっと多くの人を従えている、社会人としても大先輩の彼女は「その男を妙で済ますとはなぁ……」などと笑って、隣人よりも気安い感じだ。
(正直、私よりも彼女の方がヤトに似合っているような……)
客観的に見てそうではないかと考えたところで、背後から契約書の上に大きな手が乗せられた。振り返るまでもなく、甘苦いこの香り、話題になっていたヤトである。
「六花、君、今、妙なこと考えなかったか?」
「え、心読めたりするの?」
「私の五感は人とは比べ物にならない。察せることは君より多いだろう。で、妙なこと考えたか?」
「タマキ、その妙なものって具体的にどんなもの?」
圧がすごいので一旦無視して、タマキに話題をふると彼女は私の背後のヤトにニマニマ笑いを見せながら、「トウゲン」と副官の(そして懇親会前に盛大に私と揉めた)トウゲンさんを呼んだ。
「説明してやれ」
「わかりました」
タマキに指示されると素直なイケメンである。
「ありがとう、よろしくお願いします、トウゲンさん」
「……タマキ様に対して呼び捨てで私に対してその呼び方は問題がある」
「よろしくね、トウゲン」
「……、……まあ、よかろう」
フン、と鼻を鳴らすと、トウゲンが懐から手鏡を取り出した。ゴテゴテしたデザインの手鏡(真鍮か何かでできているようだ。パッと見た感じで、持ち手に髑髏とか蜘蛛とか見える、なんというか『厨二デザイン』。しかし持ってきたのが異世界の人となると嫌な予感がする、まがまがしい鏡)を、彼は契約書の上に置いた(ヤトもだけど、この世界の人、契約書を軽視しすぎな気がする)。
その手鏡にタマキが手をかざすと、3Dホログラムみたいに映像が浮かんだ。
「懇親会の後、タマキ様はミハシ、カラハルトとバー『ブルームーン』にて会談を行われた。そしてカタスに戻られるために彌視磨神社に向かわれた」
映像が彌視磨神社に向かう道中の坂道を写している。どうやら、映像の視点はタマキのようだ。ちら、とヤトを見ると「記憶を写す鏡だよ」と端的に説明してくれた(助かる、チートモンスター)。
「そこでこの――、『紛い物』と遭遇された」
映像には闇が見える。が、ヤトが「ほう!」と楽しそうな声を上げた。
「珍しいな。誰が作ったんだ、これ」
「こんなものを楽しむXXXXはお前ぐらいだ。趣味が悪い。こんな……」
「ちょっと待って、ネタバレしないで。映像続けてよ、トウゲン」
ヤトとタマキというチートモンスターたちがネタバレをしそうだったのでやめてもらい(私は映画のネタバレを絶対に許さない。絶対だ。あと新刊のネタバレもだ。絶対だ)、トウゲンに先を促す。映像の中で、タマキが「トウゲン」と闇に呼びかけた瞬間、――闇の中から『トウゲン』が現れた。
《タマキ様、ここにおられましたか》
目の前のトウゲンと同じ姿、同じ声、同じ口調で話す。私から見れば本人そのものだ。
しかし映像が乱れる。多分これは、映像の元、タマキの記憶に基づいた乱れだ。
《もちろんお迎えに上がりました》
つまり――タマキはこの時、ものすごく怒っていたのだ。
《嘘でハありません。お迎えニきたのは本当デす。遊びノ、お迎えニ》
この、――トウゲンの偽物に。
「これ、ちゃんと捕獲したか?」
何故かウキウキしているヤトに対し、タマキはものすごく嫌そうに顔をしかめた。
「焼いたに決まっておろう」
「もったいない! ……遊んでやればよかったものを……」
「儂の副官を、こんな半端な変化で、儂相手にぶつけてくるのだぞ。侮辱他ならない。お前、自分がやられたことを考えろ。番に化けられたらどうするんだ?」
「遊ぶさ、もちろん。……番にはできない『おれ』の遊びに付き合ってもらうまでよ」
なんとなく嫌な予感がしたので振り返ると、ヤトはしれっとしていた。
「今、悪い顔してたでしょ」
「してない」
「ああ、そう……タマキに聞いてもいい?」
ヤトは片眉を上げた。
「してないと答えろ、タマキ」
「してたぞ」
「よし殺す」
「やめなさい、チートモンスター同士で喧嘩したら街への被害が出るでしょ……チート同士で戯れないで……えーっと、トウゲン、要約すると……『人間に擬態できる植物』ってこと?」
トウゲンは鏡を懐に仕舞うと、頷いてくれた。
「現状カタスの者で遭遇されたのはタマキ様だけだ。だから詳しいことは分からない。戦闘能力は低いと考えられるが、お前だけで遭遇した場合は面倒だろう。しばらくは、……『花屋』と行動するといい」
彼らはヤトのことを『ショバツ』ではなく『花屋』と呼ぶことにしたらしい。背後からヤトが私の肩に手を置いたので、その手を取る。
「わかった。気を付ける。ありがとうね、トウゲン」
「……」
何故かトウゲンがものすごく嫌そうな顔だ。
「え、何? あ。わかった。よいしょっと」
立ち上がり、深々と頭を下げる。
「どうもありがとう。丁寧に説明してくれて助かった。映像も分かりやすくて……」
「違う!」
ちゃんと御礼してないから怒られたのかと思ったが違ったようだ。どういうことだと思いつつ、顔を上げると、彼はバリバリバリと自分の首の後ろを搔いた。
「そう、……気安く礼などするな。私はタマキ様に指示されたから仕事をしただけだ! 気色悪い!」
「えっ! でも、ありがたかったから……」
「お前のためにしたことではない! 黙れ!」
「超弩級のツンデレなの……?」
扱いがセンシティブすぎると思いながら、ヤトを見上げると、何故かヤトは額に青筋を立てていた。何故だと思って、タマキを見ると、タマキもヤトを見ながら『何故切れているんだ、このジジイは』という顔をしていた。と、ヤトが私の後ろから離れ、未だに首の後ろを掻いているトウゲンの前に立った。
「お前……六花に好意を寄せたらその時点で焼いて食うからな……私はこの世界の住人となりつつある。肉も食えるんだぞ、忘れるなよ……」
「こんな下等生物に好意など寄せるか! そんなことをするのはお前だけだわ、XXXX!」
「よし殺す」
「やめなさいって。そんな顔をしても駄目。無駄な喧嘩しないの。やめなさいって、ヤト、おいで、ハウス」
瞬時にトウゲンの頭を掴んで持ち上げたヤトを一旦『ハウス』させ、机の上に放置されていた契約書を膝に乗せる。
「まあ、なんか妙な植物がいるってことは分かった。……で、これを花屋として扱えるかどうかだけど……調査しないとなんとも言えないね」
「調査してなんとかなるなら扱う気なのか!?」
自分から提案してきたくせにタマキが目を剝いて驚くから、こっちも驚いてしまう。
「え、だって需要はあるでしょ。え、需要むしろ高そうじゃない、ヤト?」
「ふむ……仮に植物であれば増やすことは容易い。その上で、『おれ』が調整してやれば、擬態の精度も上げられるのではないか? 作成者の意図がどこにあるか分からないが、……ククッ、面白い……使い道はいくらでもある……未知はいい。遊びの宝庫だ」
ものすごい悪い顔だった。
「ほら、悪い闇の組織に売れそう。具体的に言うとM機関とかに売れそう。タマキのところの世界の植物もなんとか売りたいと思っているのよね」
「はぁ? ……頭が痛くなる……お前がこのクソジジイの番ということはよくわかった……」
「え、どこに頭が痛くなる要素が……」
タマキとトウゲンが同じ顔をしている。なんというか『こいつら、XXXX』の顔である。彼らから目を逸らした。
「すぐ遭遇できるかなぁ? 私も遊びたいけど、こういう妙なものって遊びたい人のところには来なくない?」
「ならば町内会の奴らに頼んでみるか? M機関に対しての不信感が拭えてないやつは六花を頼るだろう」
「ああ、なるほど……何人か声かけてみるか。すぐ広まるでしょ、田舎だし」
「そしてハナフサかミハシが来て説教しようとしてくるだろうから、それは私が言いくるめて誤魔化そう」
「よし、それで。絶対に説教はされたくないから」
方針は固まった。契約書を鞄に仕舞い、立ち上がる。
「では契約も完了したので、我々は失礼いたします」
「ああ、……今後とも花屋葦船町をごひいきに」
「ああ、二度と来るな」
ヤトと揃ってお辞儀をすると、タマキは片手で我々をあしらった。犬の追い払い方と一緒だ。
「え、来るよ。花届けに、なんなら明日も来る予定だけど」
「儂のところまで来なくていい。トウゲンに相手させる」
「……タマキ様の命に従います」
トウゲンを見ると、苦虫五億匹ぐらい噛んだ顔をしていた。
「え、やっぱりムカつくわ。妙な植物を上手いこと育ててタマキの偽物百匹ぐらいに囲ませてやりたくなってきた」
「いい案だな、六花。隠語ばかり話すタマキの偽物に囲ませてやろう。クソ真面目なだけの男が取り乱す様を動画サイトに投稿してやる」
「やめろやめろやめろ! 不敬どころの騒ぎではない! どうしてそんな恐ろしいことを思いついた挙句に行動に移せる!? 何なのだ、お前ら!?」
「塩撒け、トウゲン!」
――そんなこんなで、私たち花屋葦船町の初めての異世界人相手の契約が締結した。
塩まみれにはなったが、大きな契約だったし、次にもつながる契約だ。しかもカタスの代表と言うタマキとも仲良くなれたような気がするし……。
「よし、じゃあ捕まえようね、ヤト」
「ああ。楽しみだ」
この先が楽しみになる、そんな日々がまた始まったのだ。
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