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第六話 甘やかして虐めて暴いて、その先を*
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お付き合いをしたことはある。
学生の時によく話していた男子と、社会人の時に合コンで知り合った男性と、それからもう一人思い出したくもない相手。この人数が二十八歳にして多いのか少ないのかはわからない。でも、それなりに経験はした。
好きだと言われて、好きだと返して、手を繋いで、デートして、キスをして、セックスする……『そういうもの』だから、『そういうこと』をする……そんな風に経験をした。
だけど私はいつだって、私だった。何にも影響を受けずに、可愛げもない私のままだった。
『いがっちはさ、俺のこと好きなの?』
最初の彼氏との別れ話は、セックスを断ったときのそんな文句から始まった。もちろん私は好きだった。でもセックスをするのは怖かったのだ。
だけど彼は、好きならできる、と言った。話し合うことも避けられて、気がついたら『別れている』ということになった。彼はまた仲の良い女子と付き合い始めた。そうしてすぐ、セックスしたんだ、と自慢までしてきた。高校生らしいな、と今なら思う。でも当時は気持ち悪くて仕方なかった。
私もすぐ他の仲の良い男子から告白をされたけど、付き合うのは辞めた。回転寿司で永遠と回る寿司になった気持ちになったからだ。
一回誰かと付き合ったなら次もすぐ付き合うでしょ、付き合ったならセックスでしょ、という、そういうベルトコンベア。ムカついて、そこから降りた。私は昔から反骨精神しかないのだ。
そうして社会人になって、上司を吹っ飛ばして、また学生になった。バーテンダーとしてバイトをしていたときは正直、誘いは多かった。でも、断った。勉強の方が大事だったから。
だからその反動か、社会人になったとき、最初に誘われた合コンには参加した。そこで、隣に座った人と付き合うことになった。
五歳年上で、しっかり働いていて、いい人そうだった。今思えば、働き始めたばかりの新入社員に五歳も年上のやつが手を出すのは、どう考えても、同年代に相手にされない駄目なやつだ。でも、私にとっては大人で、落ち着いていて、優しかった。だから彼に誘われたとき、ふわっと寝た。
でも、彼とのセックスは注射を耐える時間みたいだった。最低限で、短くて、痛い。ろくなものではないなと思いつつ、彼がしたい時は付き合った。耐えられないほどの苦痛ではなかったから。何事もなければ、彼とは長く付き合えたと思う。
でも母のことがあって、その時、彼は何一つ役に立たないどころか邪魔だった。それで、別れたのだ。
『お前みたいな可愛くない女、誰も好きにならねえよ』
それが彼からの別れの一言だ。もちろん跳び蹴りを返してやった。
もう一人については……もう言葉もない。黒歴史だ。
それからは一人で、この街で、頑張った。吐くまで仕事しても一円にもならなかったことが何回もある。悔しくて花に隠れて泣いた夜もある。それでも耐えて、頑張って、頑張って、ようやく生活が軌道に乗った。そうしたら、少しずつ、楽になった。少しずつ、周りを見る余裕ができた。
人生にほんの少し余裕ができた。その隙間を縫うように、ヤトと出会った。
今だからこそ、私にはヤトがいいとわかる。人ではないけど、万人に優しいわけでもないけど、金持ちってわけでもないけど、でも、ヤトじゃなきゃいやだ。
そう思えるのはこれまでの経験があったから。
(ヤトがいる。……この先もそうしたい。そのための努力を惜しめない。『ヤトは失えない』、そう思えるぐらい、……すごく大事だ)
きっと何も無駄なことはなかった。この先も、無駄なことは何もない。
私は私。そのままで、ちゃんとヤトを大事にしよう。
「好きだよ、ヤト」
私を押し倒したヤトの頬に触れ、そう言うと、彼は嬉しそうに微笑んだ。
□
「六花」
ヤトは私の横に寝そべって、くるくると甘える猫のように喉を鳴らす。
彼の大きな手が、まず私の指先に触れる。彼は私が言った通り、私を驚かせないように、少しずつ中心に指を滑らせてくれる。安心感しかないのに、彼は私の頬まで触れた後、不安そうに眉を下げた。
「……触れられるの、怖くないか?」
「何回も聞かなくていいよ。ヤトなら怖くない」
「そう。でも、……怖くなったらやめるからね」
「うん……信じてる」
私に再三触られたからか、彼の白い肌は赤みを帯びているし、汗ばんでいるし、鳥肌も立っている。目はギラギラと欲に染まり、息だって弾んでいる。
それでも、彼はそっと私の額に触れ、私を驚かせないように優しく髪を耳にかけた後、頭を撫で始めた。甘やかすように撫でられ、身体にわずかに残っていた緊張も消えていく。
「六花、……」
右手で私の頭を撫でながら、左手で彼は私の右手を握った。
「……キス、したい」
「私も、したい……」
顎を上げてキスを待ったけれど、彼は私の唇ではなく、瞼にキスを落とした。
キラ、彼の唇がまたたく。アイシャドウのラメがついたのだと気がついたけれど、私も彼もとっくに汗だくで、今更だった。
後で布団から何から洗わなきゃいけないし、土足で上がった部屋は掃除しなきゃいけない……そんな現実的なことを考えていたら、額、頬や、額にキスが降ってきた。きっと、私の顔中、ラメがキラキラと輝いている。彼の優しい唇は、子どもが遊びに誘うように軽やかに、私の顔を駆けていく。
「ふふ、くすぐったい……あっ……」
不意に口の端に落とされたキスに、唇が期待に震える。けれど、彼のキスは唇には落ち着かず、鼻や顎に降りてしまう。
優しく、焦らされて、くん、と鼻が鳴ってしまう。
「ヤト……キス、……そこじゃなくて……」
はしたなくて恥ずかしい願いを口にすると、また口の端にキスをされた。でも、すぐ離れてしまう。
「……もう少し、力が抜けたらね、六花」
私の身体はすでにすっかり力が抜けていて、ヤトがくれるもの全部、気持ちよく受け止められる。そのぐらい、ほどけてしまっている。
だというのに、彼は私の頭を撫でながら、どこよりも飢えている唇ではなく、肩にキスを落とした。
「そんなところ、……んんっ……」
そんなところにキスされたのは初めてで、戸惑ってしまう。そんな変なところ、と思うのに、甘く歯を立てられたとき、ぞわ、と下腹部が気持ちよくなってしまった。
「もっと気持ちよくなろう、六花……」
ヤトの飢えた赤い目が、大きな手のひらが、甘くて苦い香りが、低く這うその声が、私の体をおかしくしていく。
「あっ……」
肩を辿って、首筋にキスをされたとき、熱く息がこぼれる。
そんな小さな私の反応を拾って、ヤトが私の首を舐めた。急所に彼の歯がふれることが、ゾクゾクして、気持ちがいい。
「ん、んぁ……」
彼の前歯が私の首筋に触れると、びくりと膝が勝手にはねてしまう。じゅ、とまた濡れてしまうのがわかる。そんな、はしたない私の頭を優しく撫でて、彼は微笑んだ。
「ここに、痕を残したいな……」
「あと?」
「君が私の恋人という印」
「……キスマーク? やだ……」
「そう? ……なら、六花が私につけて」
いやよ、と笑うと、彼は私の首にチュと吸い付く。痕はつかないぐらいの優しいキスだ。どうしていやなの、と笑いながら、彼は私に触れる。手を優しく握られて、頭を優しく撫でられて、私は君のものなのに、と耳に甘く囁かれる。それだけで、ゾクゾクと内腿が震えてしまう。
(これがセックスなら、これまでしたことがない)
彼の手を握り返し、恥ずかしいよ、と言えば、恥ずかしいのか、と彼は私の頭を撫でていた腕で、私を抱きしめた。
(ヤトの身体……気持ちいい……)
とく、とく、と彼の鼓動に包まれると、わずかに体が緊張していたことに気がつく。でも、うまく力が抜けないでいると、右耳にキスをされた。
「なら……もっと気持ちよくなろうか」
「やぁっ……!」
甘く、低い声を直接注がれたとき、ゾクゾクゾクと背筋に気持ちよさが走る。抱きしめられているせいで、痙攣するぐらい気持ちよくなってしまってることは伝わったはずなのに、彼は意地悪に耳に舌を差し込んでくる。
「アッ……耳、溶けちゃう……ふぁっ、あ……んあっ……」
柔らかい彼の舌が起こす全てに、私の耳はとても耐えられない。鼻から媚びるような息が漏れ、ゾワゾワと体の奥が熱く燻り、つい膝を擦り合わせてしまう。でもベッドに押し付けられ、逃げ場もない。くちゅ、といういやらしい水音が頭の中を這いずり回り、脳の奥から犯されてしまう。
「ひ、あっ、へんになる、あたま、あ、う……」
「……食べてしまいたい」
「アッ」
何も食べなくても構わないはずの彼が、低く呟く。その怖い声にすら濡れてしまう。
ヤト、と彼を呼ぶ私の声は、すっかり溶けている。いじわる、と責めてみても、私の声はすっかり甘えている。
「……たまらない、私の六花……」
彼は私を抱きしめると、深く息を吐いた。
彼の熱くて、大きい体に包まれて、胸のあたりがあたたかくなる。彼の背中に手を回すと、どう、どう、と脈打つ鼓動がわかる。肌はぺたぺたと汗ばんで、決して闇に消えない肉がある。
ヤトはここにいる、命だ。
「……怖い?」
また、彼が聞いてくる。
「怖くないってば……」
「……嬉しい。……嬉しいな」
「……あっ、脚……んんっ……」
彼の長すぎる左脚が私の脚の間に入り込み、腰を引き寄せられる。
「ひぁんっ!」
じゅ、と彼の足の付根で下着のクロッチ部分をこすられ、声が漏れてしまった。余韻すら気持ちよく、息が上がる。彼は唾を飲むと、もう一度足を動かした。
「んんっ……ひっ、ん……」
ぐじゅ、と私の下着と愛液と彼の足が擦れて、やらしい音が鳴る。彼はため息をつくと、トン、と私を突き上げるように足を動かしだした。トン、トン、と突き上げられ、お腹の奥から期待に染まった息と、声が溢れてしまう。
「ヒァッ、アッ、こすれっる、ぅんっ」
「あぁ、……」
「アッ、あぅっ、んっ」
トン、トンと私を揺さぶりながら、もっと濡れないとね、と彼は呟く。大事なところだからね、とクスクス笑う。
「も、アッ、濡れてるっひんっや、とん、とん、されると、……んんっ」
「もっと、濡れて、六花……もっと」
背中に回った彼の手が、ゆっくりと動き出す。次にどこに触るか教えるように、私の肌の上を走っていく。
それだけなら、なんてことないはずなのにヤトは、骨をなぞったり、肉に指圧するように、丁寧に、私の形を確かめていく。人生で誰にも触れられたことがないぐらいまで奥に、彼の愛撫が響いてしまう。
「ヒッ、アッ……あんっ、んんっ……ヤト、……ヤトォ……あっ……」
気がついたら、私は彼にしがみついていた。首の骨を確かめるように触られたとき、足の指が伸びて、変な声が漏れてしまった。彼のくれる気持ちよさに揺れながら、彼を見上げる。ヤトが大きすぎるから、首を伸ばしても届かない。
「六花……?」
濡れたその唇。
「はやくっ……キス、してよっ……!」
「ハッ……たまらないな!」
「んんっ……」
彼が体を折って、私の唇にキスをしてくれた。
「ふぁ、……あっ、……」
噛み付くような勢いで、でも歯がぶつかることはなく、唇が触れて、甘く噛まれて、吸われてしまう。敏感な唇の神経から、甘くそばだつ全身の神経にまで、その優しさと、気持ちよさを運ばれていく。もっとしてほしいのに彼の唇はすぐ離れてしまう。
彼は私の脇に右手をいれると、もう少し上に来て、と私の体をずらしてくれた。ねと、と私の下着に触れていた彼の太ももが濡れているのが、離れてみてよくわかった。
「六花、足、かけて……」
「こう……?」
「そう、苦しくない?」
「大丈夫……」
彼の首に腕を回し、言われた通り、彼の腰のあたりに右足をかけて、ぴたりとくっつき合う。彼は相変わらず左手で頭を撫でてくれた。気持ちよくて、つい笑うと、彼も嬉しそうに笑う。
「口開けて、舌出してくれる?」
言われた通り、口を開け、舌を出す。
彼の赤い舌が私の舌を絡め取り、口を合わせることなく、舌を捕まえられてしまう。私の舌を彼の舌がすくって、柔らかく包んでしまう。舌を口の中に戻すこともできず、とろ、と口の端からよだれがこぼれていく。彼の舌が誘うように私の舌をつつく。だから返すように彼の舌を舌でつつく。するとまた、彼の舌が私の舌を包み込む。
いやらしく、私と彼の舌が絡み合う。対等のようなそのキスは、しかし、彼の舌が、ぬらり、と人ではありえないほど長く出てきた瞬間に終わりを迎えた。
「あ、……」
れ、と彼の舌が私の口に入り込む。口を閉じる隙なんてない。舌を引き出され、彼の口の中に捕らえられる。じゅ、と舌先を吸い付かれたとき、「あ」、今、こんな濡れてる時に、こんなキスされたら気持ち良すぎる、と冊子がついた。
「ふぁっあっ、ん、んんっ……!」
だけど、もう止める言葉はない。
歯の裏側、上顎の先、喉の近くまでも、彼の舌が入り込み、すべてを確かめられてしまう。腹筋に力が入り、ぞわぞわと仙骨に何かが走り抜けていく。必死に彼の舌に吸いつくと、彼はさらに私の奥まで入り込む。まともに息もできずに酸欠になっていく頭の中に、稲妻のようにかけていく気持ちよさ。
「あ、……んぁっ……ひっアッ!」
そんな極上の口づけの最中、彼の手が動き出してしまう。
彼の右手が脇から、私の胸を持ち上げる。ヤトが優しいから次に触られるところがどこか分かってしまい、触られる前から気持ちがいい。そのせいで、今触られたら弾けちゃうと理性は思うのに、私の乳房の先端ははしたなく、期待に勃ち上がってしまう。
(胸、弱いのに……あ、駄目、これ、気持ちいい)
見透かしたように、彼の指先が触れた。
「アッ! んっ……んん……はぅ……んんーっ」
舌を吸い取られ、乳首を人差し指と中指で弄ばれながら、彼は腰を、とん、とん、と動かし始めた。それはさっきまで、私の体を揺らしていたリズムで、私の身体は、その気持ちよさをもう、よく知っていた。
「んっ、んぁ、あ、ふ、あっ、ん、ん、ん」
とん、とん、と彼が揺れる度に私の腹の真ん中に気持ちよさが増えていく。とん、とん、と優しい振動なのに、体の奥にある子宮に響いているのがわかってしまう。苦しくて無意識の内にキスから逃げようとするけれど、彼の左手が私の頭をつかまえて、逃がしてくれない。きゅ、と乳首をいじめられて、気持ちよくて跳ね上がってしまう。力が抜ければ、キスがさらに深くなる。
「ひ、う、うっ、んっ」
こぼれた息ごと飲み込まれ、舌の奥まで愛される。
私の頭を支えていた手が、今度は首筋を通り、背筋をなぞり、腰に触れ、そのまま下着の中に手を差し込まれた。
「んあっ」
とん、とん、と私を揺らしながら、大きな彼の手が私の下着を脱がしながら、後ろから濡れそぼった恥肉の間をなぞる。
「んんっ……!」
じゅぷ、ぷ、と愛液と空気が混ざる音、膣口に与えられる跳ねるような快感、目眩がするほど恥ずかしくて、意識が飛びそうなほど気持ちがいい。
「アッ、ひあっアッ……」
じゅ、と舌を強く吸われたとき、背筋が勝手にのけぞって、多分甘く達していた。
でも長い彼の舌は逃げることを許してくれない。彼の大きな体は私を包みこんで、離してくれない。さらに口内を暴かれ、胸を遊ばれ、陰唇も膣口もまとめてこすられて、焦らされすぎた子宮が震えて、まだ触れられてもいない隘路がぎゅうぎゅうと飢えている。
身体が限界まで快楽を溜め込んだ、そのとき――私の愛液にまみれた彼の指先が、陰核をこすりあげた。
「ひっ……ぐぅ………!」
与えられた衝撃に――頭が真っ白になるような、経験したことない、イキ方をした。
□
れ、と口から舌が抜かれても、顎が気持ちよさにまだ痺れてしまっている。膝に引っかかていた下着を彼の足が器用に脱がしてくれても、まだ動けない。
「……気持ちよかった?」
「ん、きもち、いい……はう……う……」
ヤトの舌が下唇に触れる。長くて、赤い、舌。蛇みたいに長い舌が、私の前歯を撫でる。ゾワゾワと気持ちよくて、言葉にならない声が溢れてしまう。
「まだ気持ちよさそうだ……よかった……」
ヤトが自分のスラックスに手をかけると、一気に脱いだ。ばさ、と布が落ちる音がする。ボクサーパンツだけになると、彼のものがどれほど大きくなっているのか、よくわかる。先走りがこぼれて濡れてしまうぐらい、彼は我慢していた。
「これだけ濡れてるなら……」
彼が下着を脱ぐ。先が引っかかったのか、一瞬下を向いた彼の高鳴りは、勢いよく腹につきそうなほど反り返る。その動きが起き上がりこぼしみたいでなんだかおかしくて、場違いに笑えた。
彼は不審そうに私を見たが、つられたように微笑んだ。
「……笑ってる顔、好きだ」
「ごめん、笑うところじゃなかった……」
「どうして? いつも笑っていてほしいよ」
凶悪とも言える大きさ、太さ、形のものを持っているくせに、爽やかなアイドルみたいなことを言う。ふふふ、と笑う私に、好きだなあ、なんて返しながら、彼は私の脇腹にまた手を当てた。
「六花、……後ろから抱きしめても?」
「うん……ぎゅうってして……」
体の向きを変えると、重なり合うスプーンみたいに、彼が後ろからピタリと私に重なった。
「六花……」
横向きになって横たわる私の太ももの間に、彼の高なりが挿し込まれ、愛液と汗と、彼の先走りが混ざり合う。きゅうと太ももを締めてあげると、は、と熱く彼が息をこぼした。
「……入れないの?」
「入れる。でもその前に、もう少し、気持ちよくなろう」
「もう、こんなに気持ちいいのに……?」
「もっと、……もっとだよ」
「あっ、ひぅ、ん、ん、……」
彼は私にピッタリとくっついたまま、ず、ず、と私ごと揺れる。そのリズムに、身体がまた勝手に気持ちよくなってしまう。
「あ、あ、からだ、おかし、い……また、いきそ……」
「まだ懇親会は始まったばかりだろ、六花」
「ん、……え?」
「その後は夜だ……」
クスクス、彼は笑いながら、揺れる。
「明日は日曜日だし……」
「日曜……はっ、う……? なに……?」
「まだ、海のような君の身体の、波打ち際しか見てない……」
「あうっ……!」
きゅう、と後ろから胸を掴まれる。そのいきなりの刺激さえ、もう、ただ気持ちがいい。
「あ、……え、あ?」
ぷしゅ、と膣から何かこぼれた。漏らしたのかとさえ思うそれは、多分、人生初めての潮吹きだ。ず、ず、と彼が揺れる度に、とろ、とろ、と漏れていく。れ、と耳の後ろを舐められて、全身が震えて、また頭が白くなる。
「ふぁ、あ、……」
優しい愛撫に身体がおかしくなっている。なのに、終わらない。ただ焦らされて、ひたすらに甘く達し続ける。ぐつぐつと思考が煮えて、全部溶けてしまう。
だから、『怖くない』。
怖いと思うべきなのに、私は少しも『怖く感じない』。
「もっと気持ちよくなろうね、六花」
蛇のように私に絡んだ男は、甘く、そう笑った。
学生の時によく話していた男子と、社会人の時に合コンで知り合った男性と、それからもう一人思い出したくもない相手。この人数が二十八歳にして多いのか少ないのかはわからない。でも、それなりに経験はした。
好きだと言われて、好きだと返して、手を繋いで、デートして、キスをして、セックスする……『そういうもの』だから、『そういうこと』をする……そんな風に経験をした。
だけど私はいつだって、私だった。何にも影響を受けずに、可愛げもない私のままだった。
『いがっちはさ、俺のこと好きなの?』
最初の彼氏との別れ話は、セックスを断ったときのそんな文句から始まった。もちろん私は好きだった。でもセックスをするのは怖かったのだ。
だけど彼は、好きならできる、と言った。話し合うことも避けられて、気がついたら『別れている』ということになった。彼はまた仲の良い女子と付き合い始めた。そうしてすぐ、セックスしたんだ、と自慢までしてきた。高校生らしいな、と今なら思う。でも当時は気持ち悪くて仕方なかった。
私もすぐ他の仲の良い男子から告白をされたけど、付き合うのは辞めた。回転寿司で永遠と回る寿司になった気持ちになったからだ。
一回誰かと付き合ったなら次もすぐ付き合うでしょ、付き合ったならセックスでしょ、という、そういうベルトコンベア。ムカついて、そこから降りた。私は昔から反骨精神しかないのだ。
そうして社会人になって、上司を吹っ飛ばして、また学生になった。バーテンダーとしてバイトをしていたときは正直、誘いは多かった。でも、断った。勉強の方が大事だったから。
だからその反動か、社会人になったとき、最初に誘われた合コンには参加した。そこで、隣に座った人と付き合うことになった。
五歳年上で、しっかり働いていて、いい人そうだった。今思えば、働き始めたばかりの新入社員に五歳も年上のやつが手を出すのは、どう考えても、同年代に相手にされない駄目なやつだ。でも、私にとっては大人で、落ち着いていて、優しかった。だから彼に誘われたとき、ふわっと寝た。
でも、彼とのセックスは注射を耐える時間みたいだった。最低限で、短くて、痛い。ろくなものではないなと思いつつ、彼がしたい時は付き合った。耐えられないほどの苦痛ではなかったから。何事もなければ、彼とは長く付き合えたと思う。
でも母のことがあって、その時、彼は何一つ役に立たないどころか邪魔だった。それで、別れたのだ。
『お前みたいな可愛くない女、誰も好きにならねえよ』
それが彼からの別れの一言だ。もちろん跳び蹴りを返してやった。
もう一人については……もう言葉もない。黒歴史だ。
それからは一人で、この街で、頑張った。吐くまで仕事しても一円にもならなかったことが何回もある。悔しくて花に隠れて泣いた夜もある。それでも耐えて、頑張って、頑張って、ようやく生活が軌道に乗った。そうしたら、少しずつ、楽になった。少しずつ、周りを見る余裕ができた。
人生にほんの少し余裕ができた。その隙間を縫うように、ヤトと出会った。
今だからこそ、私にはヤトがいいとわかる。人ではないけど、万人に優しいわけでもないけど、金持ちってわけでもないけど、でも、ヤトじゃなきゃいやだ。
そう思えるのはこれまでの経験があったから。
(ヤトがいる。……この先もそうしたい。そのための努力を惜しめない。『ヤトは失えない』、そう思えるぐらい、……すごく大事だ)
きっと何も無駄なことはなかった。この先も、無駄なことは何もない。
私は私。そのままで、ちゃんとヤトを大事にしよう。
「好きだよ、ヤト」
私を押し倒したヤトの頬に触れ、そう言うと、彼は嬉しそうに微笑んだ。
□
「六花」
ヤトは私の横に寝そべって、くるくると甘える猫のように喉を鳴らす。
彼の大きな手が、まず私の指先に触れる。彼は私が言った通り、私を驚かせないように、少しずつ中心に指を滑らせてくれる。安心感しかないのに、彼は私の頬まで触れた後、不安そうに眉を下げた。
「……触れられるの、怖くないか?」
「何回も聞かなくていいよ。ヤトなら怖くない」
「そう。でも、……怖くなったらやめるからね」
「うん……信じてる」
私に再三触られたからか、彼の白い肌は赤みを帯びているし、汗ばんでいるし、鳥肌も立っている。目はギラギラと欲に染まり、息だって弾んでいる。
それでも、彼はそっと私の額に触れ、私を驚かせないように優しく髪を耳にかけた後、頭を撫で始めた。甘やかすように撫でられ、身体にわずかに残っていた緊張も消えていく。
「六花、……」
右手で私の頭を撫でながら、左手で彼は私の右手を握った。
「……キス、したい」
「私も、したい……」
顎を上げてキスを待ったけれど、彼は私の唇ではなく、瞼にキスを落とした。
キラ、彼の唇がまたたく。アイシャドウのラメがついたのだと気がついたけれど、私も彼もとっくに汗だくで、今更だった。
後で布団から何から洗わなきゃいけないし、土足で上がった部屋は掃除しなきゃいけない……そんな現実的なことを考えていたら、額、頬や、額にキスが降ってきた。きっと、私の顔中、ラメがキラキラと輝いている。彼の優しい唇は、子どもが遊びに誘うように軽やかに、私の顔を駆けていく。
「ふふ、くすぐったい……あっ……」
不意に口の端に落とされたキスに、唇が期待に震える。けれど、彼のキスは唇には落ち着かず、鼻や顎に降りてしまう。
優しく、焦らされて、くん、と鼻が鳴ってしまう。
「ヤト……キス、……そこじゃなくて……」
はしたなくて恥ずかしい願いを口にすると、また口の端にキスをされた。でも、すぐ離れてしまう。
「……もう少し、力が抜けたらね、六花」
私の身体はすでにすっかり力が抜けていて、ヤトがくれるもの全部、気持ちよく受け止められる。そのぐらい、ほどけてしまっている。
だというのに、彼は私の頭を撫でながら、どこよりも飢えている唇ではなく、肩にキスを落とした。
「そんなところ、……んんっ……」
そんなところにキスされたのは初めてで、戸惑ってしまう。そんな変なところ、と思うのに、甘く歯を立てられたとき、ぞわ、と下腹部が気持ちよくなってしまった。
「もっと気持ちよくなろう、六花……」
ヤトの飢えた赤い目が、大きな手のひらが、甘くて苦い香りが、低く這うその声が、私の体をおかしくしていく。
「あっ……」
肩を辿って、首筋にキスをされたとき、熱く息がこぼれる。
そんな小さな私の反応を拾って、ヤトが私の首を舐めた。急所に彼の歯がふれることが、ゾクゾクして、気持ちがいい。
「ん、んぁ……」
彼の前歯が私の首筋に触れると、びくりと膝が勝手にはねてしまう。じゅ、とまた濡れてしまうのがわかる。そんな、はしたない私の頭を優しく撫でて、彼は微笑んだ。
「ここに、痕を残したいな……」
「あと?」
「君が私の恋人という印」
「……キスマーク? やだ……」
「そう? ……なら、六花が私につけて」
いやよ、と笑うと、彼は私の首にチュと吸い付く。痕はつかないぐらいの優しいキスだ。どうしていやなの、と笑いながら、彼は私に触れる。手を優しく握られて、頭を優しく撫でられて、私は君のものなのに、と耳に甘く囁かれる。それだけで、ゾクゾクと内腿が震えてしまう。
(これがセックスなら、これまでしたことがない)
彼の手を握り返し、恥ずかしいよ、と言えば、恥ずかしいのか、と彼は私の頭を撫でていた腕で、私を抱きしめた。
(ヤトの身体……気持ちいい……)
とく、とく、と彼の鼓動に包まれると、わずかに体が緊張していたことに気がつく。でも、うまく力が抜けないでいると、右耳にキスをされた。
「なら……もっと気持ちよくなろうか」
「やぁっ……!」
甘く、低い声を直接注がれたとき、ゾクゾクゾクと背筋に気持ちよさが走る。抱きしめられているせいで、痙攣するぐらい気持ちよくなってしまってることは伝わったはずなのに、彼は意地悪に耳に舌を差し込んでくる。
「アッ……耳、溶けちゃう……ふぁっ、あ……んあっ……」
柔らかい彼の舌が起こす全てに、私の耳はとても耐えられない。鼻から媚びるような息が漏れ、ゾワゾワと体の奥が熱く燻り、つい膝を擦り合わせてしまう。でもベッドに押し付けられ、逃げ場もない。くちゅ、といういやらしい水音が頭の中を這いずり回り、脳の奥から犯されてしまう。
「ひ、あっ、へんになる、あたま、あ、う……」
「……食べてしまいたい」
「アッ」
何も食べなくても構わないはずの彼が、低く呟く。その怖い声にすら濡れてしまう。
ヤト、と彼を呼ぶ私の声は、すっかり溶けている。いじわる、と責めてみても、私の声はすっかり甘えている。
「……たまらない、私の六花……」
彼は私を抱きしめると、深く息を吐いた。
彼の熱くて、大きい体に包まれて、胸のあたりがあたたかくなる。彼の背中に手を回すと、どう、どう、と脈打つ鼓動がわかる。肌はぺたぺたと汗ばんで、決して闇に消えない肉がある。
ヤトはここにいる、命だ。
「……怖い?」
また、彼が聞いてくる。
「怖くないってば……」
「……嬉しい。……嬉しいな」
「……あっ、脚……んんっ……」
彼の長すぎる左脚が私の脚の間に入り込み、腰を引き寄せられる。
「ひぁんっ!」
じゅ、と彼の足の付根で下着のクロッチ部分をこすられ、声が漏れてしまった。余韻すら気持ちよく、息が上がる。彼は唾を飲むと、もう一度足を動かした。
「んんっ……ひっ、ん……」
ぐじゅ、と私の下着と愛液と彼の足が擦れて、やらしい音が鳴る。彼はため息をつくと、トン、と私を突き上げるように足を動かしだした。トン、トン、と突き上げられ、お腹の奥から期待に染まった息と、声が溢れてしまう。
「ヒァッ、アッ、こすれっる、ぅんっ」
「あぁ、……」
「アッ、あぅっ、んっ」
トン、トンと私を揺さぶりながら、もっと濡れないとね、と彼は呟く。大事なところだからね、とクスクス笑う。
「も、アッ、濡れてるっひんっや、とん、とん、されると、……んんっ」
「もっと、濡れて、六花……もっと」
背中に回った彼の手が、ゆっくりと動き出す。次にどこに触るか教えるように、私の肌の上を走っていく。
それだけなら、なんてことないはずなのにヤトは、骨をなぞったり、肉に指圧するように、丁寧に、私の形を確かめていく。人生で誰にも触れられたことがないぐらいまで奥に、彼の愛撫が響いてしまう。
「ヒッ、アッ……あんっ、んんっ……ヤト、……ヤトォ……あっ……」
気がついたら、私は彼にしがみついていた。首の骨を確かめるように触られたとき、足の指が伸びて、変な声が漏れてしまった。彼のくれる気持ちよさに揺れながら、彼を見上げる。ヤトが大きすぎるから、首を伸ばしても届かない。
「六花……?」
濡れたその唇。
「はやくっ……キス、してよっ……!」
「ハッ……たまらないな!」
「んんっ……」
彼が体を折って、私の唇にキスをしてくれた。
「ふぁ、……あっ、……」
噛み付くような勢いで、でも歯がぶつかることはなく、唇が触れて、甘く噛まれて、吸われてしまう。敏感な唇の神経から、甘くそばだつ全身の神経にまで、その優しさと、気持ちよさを運ばれていく。もっとしてほしいのに彼の唇はすぐ離れてしまう。
彼は私の脇に右手をいれると、もう少し上に来て、と私の体をずらしてくれた。ねと、と私の下着に触れていた彼の太ももが濡れているのが、離れてみてよくわかった。
「六花、足、かけて……」
「こう……?」
「そう、苦しくない?」
「大丈夫……」
彼の首に腕を回し、言われた通り、彼の腰のあたりに右足をかけて、ぴたりとくっつき合う。彼は相変わらず左手で頭を撫でてくれた。気持ちよくて、つい笑うと、彼も嬉しそうに笑う。
「口開けて、舌出してくれる?」
言われた通り、口を開け、舌を出す。
彼の赤い舌が私の舌を絡め取り、口を合わせることなく、舌を捕まえられてしまう。私の舌を彼の舌がすくって、柔らかく包んでしまう。舌を口の中に戻すこともできず、とろ、と口の端からよだれがこぼれていく。彼の舌が誘うように私の舌をつつく。だから返すように彼の舌を舌でつつく。するとまた、彼の舌が私の舌を包み込む。
いやらしく、私と彼の舌が絡み合う。対等のようなそのキスは、しかし、彼の舌が、ぬらり、と人ではありえないほど長く出てきた瞬間に終わりを迎えた。
「あ、……」
れ、と彼の舌が私の口に入り込む。口を閉じる隙なんてない。舌を引き出され、彼の口の中に捕らえられる。じゅ、と舌先を吸い付かれたとき、「あ」、今、こんな濡れてる時に、こんなキスされたら気持ち良すぎる、と冊子がついた。
「ふぁっあっ、ん、んんっ……!」
だけど、もう止める言葉はない。
歯の裏側、上顎の先、喉の近くまでも、彼の舌が入り込み、すべてを確かめられてしまう。腹筋に力が入り、ぞわぞわと仙骨に何かが走り抜けていく。必死に彼の舌に吸いつくと、彼はさらに私の奥まで入り込む。まともに息もできずに酸欠になっていく頭の中に、稲妻のようにかけていく気持ちよさ。
「あ、……んぁっ……ひっアッ!」
そんな極上の口づけの最中、彼の手が動き出してしまう。
彼の右手が脇から、私の胸を持ち上げる。ヤトが優しいから次に触られるところがどこか分かってしまい、触られる前から気持ちがいい。そのせいで、今触られたら弾けちゃうと理性は思うのに、私の乳房の先端ははしたなく、期待に勃ち上がってしまう。
(胸、弱いのに……あ、駄目、これ、気持ちいい)
見透かしたように、彼の指先が触れた。
「アッ! んっ……んん……はぅ……んんーっ」
舌を吸い取られ、乳首を人差し指と中指で弄ばれながら、彼は腰を、とん、とん、と動かし始めた。それはさっきまで、私の体を揺らしていたリズムで、私の身体は、その気持ちよさをもう、よく知っていた。
「んっ、んぁ、あ、ふ、あっ、ん、ん、ん」
とん、とん、と彼が揺れる度に私の腹の真ん中に気持ちよさが増えていく。とん、とん、と優しい振動なのに、体の奥にある子宮に響いているのがわかってしまう。苦しくて無意識の内にキスから逃げようとするけれど、彼の左手が私の頭をつかまえて、逃がしてくれない。きゅ、と乳首をいじめられて、気持ちよくて跳ね上がってしまう。力が抜ければ、キスがさらに深くなる。
「ひ、う、うっ、んっ」
こぼれた息ごと飲み込まれ、舌の奥まで愛される。
私の頭を支えていた手が、今度は首筋を通り、背筋をなぞり、腰に触れ、そのまま下着の中に手を差し込まれた。
「んあっ」
とん、とん、と私を揺らしながら、大きな彼の手が私の下着を脱がしながら、後ろから濡れそぼった恥肉の間をなぞる。
「んんっ……!」
じゅぷ、ぷ、と愛液と空気が混ざる音、膣口に与えられる跳ねるような快感、目眩がするほど恥ずかしくて、意識が飛びそうなほど気持ちがいい。
「アッ、ひあっアッ……」
じゅ、と舌を強く吸われたとき、背筋が勝手にのけぞって、多分甘く達していた。
でも長い彼の舌は逃げることを許してくれない。彼の大きな体は私を包みこんで、離してくれない。さらに口内を暴かれ、胸を遊ばれ、陰唇も膣口もまとめてこすられて、焦らされすぎた子宮が震えて、まだ触れられてもいない隘路がぎゅうぎゅうと飢えている。
身体が限界まで快楽を溜め込んだ、そのとき――私の愛液にまみれた彼の指先が、陰核をこすりあげた。
「ひっ……ぐぅ………!」
与えられた衝撃に――頭が真っ白になるような、経験したことない、イキ方をした。
□
れ、と口から舌が抜かれても、顎が気持ちよさにまだ痺れてしまっている。膝に引っかかていた下着を彼の足が器用に脱がしてくれても、まだ動けない。
「……気持ちよかった?」
「ん、きもち、いい……はう……う……」
ヤトの舌が下唇に触れる。長くて、赤い、舌。蛇みたいに長い舌が、私の前歯を撫でる。ゾワゾワと気持ちよくて、言葉にならない声が溢れてしまう。
「まだ気持ちよさそうだ……よかった……」
ヤトが自分のスラックスに手をかけると、一気に脱いだ。ばさ、と布が落ちる音がする。ボクサーパンツだけになると、彼のものがどれほど大きくなっているのか、よくわかる。先走りがこぼれて濡れてしまうぐらい、彼は我慢していた。
「これだけ濡れてるなら……」
彼が下着を脱ぐ。先が引っかかったのか、一瞬下を向いた彼の高鳴りは、勢いよく腹につきそうなほど反り返る。その動きが起き上がりこぼしみたいでなんだかおかしくて、場違いに笑えた。
彼は不審そうに私を見たが、つられたように微笑んだ。
「……笑ってる顔、好きだ」
「ごめん、笑うところじゃなかった……」
「どうして? いつも笑っていてほしいよ」
凶悪とも言える大きさ、太さ、形のものを持っているくせに、爽やかなアイドルみたいなことを言う。ふふふ、と笑う私に、好きだなあ、なんて返しながら、彼は私の脇腹にまた手を当てた。
「六花、……後ろから抱きしめても?」
「うん……ぎゅうってして……」
体の向きを変えると、重なり合うスプーンみたいに、彼が後ろからピタリと私に重なった。
「六花……」
横向きになって横たわる私の太ももの間に、彼の高なりが挿し込まれ、愛液と汗と、彼の先走りが混ざり合う。きゅうと太ももを締めてあげると、は、と熱く彼が息をこぼした。
「……入れないの?」
「入れる。でもその前に、もう少し、気持ちよくなろう」
「もう、こんなに気持ちいいのに……?」
「もっと、……もっとだよ」
「あっ、ひぅ、ん、ん、……」
彼は私にピッタリとくっついたまま、ず、ず、と私ごと揺れる。そのリズムに、身体がまた勝手に気持ちよくなってしまう。
「あ、あ、からだ、おかし、い……また、いきそ……」
「まだ懇親会は始まったばかりだろ、六花」
「ん、……え?」
「その後は夜だ……」
クスクス、彼は笑いながら、揺れる。
「明日は日曜日だし……」
「日曜……はっ、う……? なに……?」
「まだ、海のような君の身体の、波打ち際しか見てない……」
「あうっ……!」
きゅう、と後ろから胸を掴まれる。そのいきなりの刺激さえ、もう、ただ気持ちがいい。
「あ、……え、あ?」
ぷしゅ、と膣から何かこぼれた。漏らしたのかとさえ思うそれは、多分、人生初めての潮吹きだ。ず、ず、と彼が揺れる度に、とろ、とろ、と漏れていく。れ、と耳の後ろを舐められて、全身が震えて、また頭が白くなる。
「ふぁ、あ、……」
優しい愛撫に身体がおかしくなっている。なのに、終わらない。ただ焦らされて、ひたすらに甘く達し続ける。ぐつぐつと思考が煮えて、全部溶けてしまう。
だから、『怖くない』。
怖いと思うべきなのに、私は少しも『怖く感じない』。
「もっと気持ちよくなろうね、六花」
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