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ラスボス教祖様に『教育』されてます
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――リン、と軽やかな鈴の音。
石造りのこの教会は天井がとても高く、その小さな鈴の音さえも遠くまで響かせてしまう。
「……おや、また音を鳴らしましたね」
ドーム状の天井はすべて青を基調としたステンドグラスで覆われ、夕焼けの日差しに青を溶かしこみ、すべての影を青で縁取る。壁を覆い尽くす石でできた天使像は、優しげに微笑みながら、青の影を帯びる。肌寒さすら覚えるほどの神聖な空気。そして、この厳かさが異様に似合う、目の前にいる『男』――この教会の主、教団の教祖であるドレイブン・ロック・ルーン。
白に近い金色の髪を長く伸ばし、金の髪飾りを身に着ける。どこか女性的な装いだが、彼の体躯や顎から首にかけてのラインは雄の圧を持ち、あくまでも男として着飾っているのだと知らしめる。白と金を基調とした禁欲的な司祭服を身に着けているのに、切れ長の紫の瞳を少し動かすだけで、妙な色気を醸し出す。彼のことを一言で説明するなら『カリスマ』、だろう。
一目でも見たら忘れられず、言葉を交わしたら夢を見る。
まさに教祖になるべくしてなった、そんな男。
「この神聖なる場所で音を奏でていいのは神……そして神の代理人たる教祖のみだというのに」
そんな男が、跪いて必死に祈りを捧げていた私の肩に触れる。リン、と、また、私の手首につけられた鈴が音を立てる。私の額からこぼれる汗が顎を伝って、床に落ちた。
「ジェニーズ」
彼が私の『首輪』に繋がれた鎖を持つ。
「あっ……」
鎖をひかれ、彼の足元に身を投げてしまった。鈴が盛大に音を立てる。
「ごめんなさいっ!」
恐ろしくて生唾がこみ上げる。それでも、このあとの展開をなんとかましにしたくて、彼の足にすがりついた。
「い、今のは汗が……汗が鈴にあたってしまっただけで、動いたわけでは……っ」
彼の手が私の頭に触れる。
「ここで話してよいのでしたか?」
「あっ……でも、だって、そんな……理不尽な……」
絶望の中、彼を見上げる。
「ジェニーズ、いけない子だ」
夢に見るほどの美丈夫である『ラスボス』が、私の顎を持ち上げて、うっそりと笑った。
◇
私の『この世界での名前』はジェニーズ。
と言っても『元の世界での名前』、は思い出せないのだけど……。つまり、察しのいい人は勘づいているかもしれないけど、私は『異世界転生者』、しかも『憑依』パターンだ。
元々の私はロマンスファンタジー小説を読み漁ることを趣味にしていた、ごく普通のOLだ。特技もなければ、特別な知識もない、ごくごく普通の一般人。そんな私がある日、目を覚ましたら異世界にいて、ジェニーズというこの二十二歳の女性の体の中に入っていたのだ。よりにもよってこの、『黒の約束と白の誓い』の世界のモブの中に!
(もし神が居るなら、『私のこと嫌いすぎません!?』と直訴したいレベルの理不尽!)
だって、この『黒の約束と白の誓い』は私の好きなロマンスファンタジーに属する小説ではあるが、その実態は重厚な戦争ものだ。ツンデレヒーローと男前ヒロインによるラブコメ要素もあるのだが、それ以前に世界観が目茶苦茶にハード。どこもかしこも魔獣による被害と貧困に苦しんでいて、それ故に治安が悪くて、ちょっとしたことをきっかけに内乱、紛争、戦争が起きてしまう。
私はヒーローのキャラとラスボスのキャラビジュが好きでなんとか最終巻まで読んだけど、正直、この話に出てくるいろんな組織のいろんな思惑は把握しきれてないし、重要人物が死ぬ事件が多すぎて何があったかなんて覚えきれてない。だから原作知識で無双なんて、絶対に無理!
(というか、この世界に転生してそんな事ができる人は、元の世界でも普通のOLなんかやってない! 多分、政治家とかやってる!)
普通の私にとって唯一わかってることは『どの国に居てもいずれ戦争に巻き込まれる』という、超怖いことだけだ。そして、戦争で生き残れる自信もないし、皆が皆戦争をする世界観で、戦争反対と一人で叫ぶ強さもない。
だから、『教団に行く』ことにしたのだ。
この『教団』という組織は、表向きはありとあらゆる人を受け入れ、この大変な世界で助け合っていく、という素晴らしいところだ。
まあ、実態は、ラスボスである『教祖』が持つユニークスキル『神聖力』、他者から祈られることでその人間の持つ寿命を吸い取り自身の魔力に変換する、というスキルを使うためにある組織。この教団にはかなりの信徒がいるのだけど、教祖は彼らから少しずつ寿命を集めて、膨大な魔力を得ると同時に、その魔力を使いあらゆる国で魔獣を発生させ、悲劇を起こす。そして悲劇が起きればまた新たな人が信仰に向かい……彼の力はどんどん増していく……。
(まさにラスボス仕様。……なんか他にも細かい説明もあったけど、とにかくやばやばスキルの人……)
彼のユニークスキルが判明し、主人公たちが彼を討伐、ようやく世界が明るくなりそうなところで原作は終わる。だから、私は教団に向かった。もちろん、彼を倒すため……『なんかではない』。
『原作で一度も教団は戦争に参加しなかった』からだ。
たしかにラスボス戦では教団は壊滅的に破壊はされるが、逆に言えば、それまでは何一つ破壊されない。だから、寿命を吸われるぐらいは許容して、ラスボス戦まではここに避難しているのが一番安全!
(普通の私が、この厳しい世界で生き残れる唯一の道だ! と思ったんだけど……)
だが――そんな他力本願な気持ちで逃げたのが悪かったのだろうか。
いや、でも、この教団にたどり着いたときは、心底ほっとした。教祖であるラスボスは美しいだけの微笑みで「歓迎いたします」と私を迎え入れてくれたし、私も(やはりキャラビジュはこの人が一番いいなあ)とのんきに思っていた。でも、――そうだ、あの答えがきっと悪かった。
「あなたがこの教団に求めることは何でしょうか、ジェニーズ」
「戦争がなくて、飢えが無くて、皆が皆、生きたいように生きられること」
でも、あれは私にとって当たり前の要求だった。そうでないと私は生きられないから。
でも、彼は目を丸くした後、何かを楽しむように目を細めた。
「あなたは、……『妙』だ」
そうして、すぐに彼の部屋に連れ込まれたのだ。
「そんなものを求めたのはあなたが初めてです」
「え、そうなんですか?」
「ええ、そうです。……戦争が『ある』ものだ。それを前提に『この世界』は全てが成り立っています。必要なものは奪い合うもの、力こそがすべて、中立とは名ばかり、……この教団も、力があるから、表立って戦争をしていないだけのこと」
「そ、そんな難しいこと言われても、……戦争なんてあっていいことないでしょ?」
彼はくすくす笑うと、私の手を取った。私はまだのんきに(綺麗な顔だなあ、体格もいいし、本当にハンサム)なんて思っていた。
そしたら次の瞬間には、私はベッドの上に転がされていたのだ。
「戦争がなく、飢えがなく、皆が皆、生きたいように生きられる世界、……あなたは知っているように話す。それが『普通』のことのように……」
気がついたときには彼が私にまたがり、私は彼の長い髪の中に閉じ込められていた。
「もっと教えてください、ジェニーズ。『普通の世界』を、信じさせてください」
「は……? え、ちょっと……何? どいてもらってもいいですか?」
「ああ、やっぱり、あなたは私のことを、人だと……男だと思っている。ふふ、そう、……これは面白い」
額を合わせられ、彼の香水の香りに包まれる。彼の紫の瞳が爛爛と輝き、獲物を見つけた肉食獣のようで、生唾がこみ上げた。それをごくり、と飲み込む音が、やたらと大きく響く。
「ふふ、あなたは、……そう? そういうことを考えているのか。なら、そうしよう……『教育』が必要だね、ジェニーズ。あなたがここにいるには『教育』が必要だ」
「は?」
「安心しなさい。私はすべての望みを叶える。あなたが『素直』に乞えば、……だけどね」
そうして、何も分からないままに暴かれた。ジェニーズの身体は何も受け入れたことのないものだったのに、彼は一切の容赦なく、奥の奥まで、開かせた。それが『最初の教育』。
「ジェニーズ、私を受け入れなさい。……私もあなたを受け入れる。さあ、素直になりなさい」
それからずっと、毎日、なにかしら難癖をつけられ、『彼の部屋』に連れ込まれ、そして――彼のいうところの『教育』をされるのだ。――そして、今日もまた――
◇
「あれは、動いたわけじゃなくて、汗が当たって鈴がなっただけで……だって、あんな姿勢ずっとなんて、無理っ……こんな首輪までつけられてっ……なんでっ私ばっかり……!」
「言い訳はいけませんよ、ジェニーズ」
「言い訳なんかじゃないっ……だって、本当に頑張ったのにっ! なんでっまたっ……あっ!?」
彼が、私の首輪についた鎖を引いた。ソファーに座っている彼の足元まで引き寄せられ、彼の長い足の間に入れられてしまう。
「動くことが問題なのではありません。音を立てることがいけないのです」
「だったらなんでこんな鈴なんかっ……!」
「それはあなたがいけない子だから、印をつけたんですよ。どこにいても、私がすぐ見つけられるように」
「意味わかんないっ……! なんで私ばっかりこんな目に遭うの……!」
彼の冷たい指が私の目尻をなで、なんとか留まっていた涙を拭ってしまう。
「どうして泣いているのです、ジェニーズ?」
「あんたが、こ、こわいからに決まってるでしょっ……!」
「……怖い? 私が?」
……するり、と彼の手が私の頭を撫でた。
「仕方ない子ですね」
「え、赦してくれるのっ……あっ」
救いを期待した。
でも、彼の目には光はなかった。
「この素直になれない喉から『教育』をほどこしましょう」
「そんなっ……やだっ!」
逃げようとした私だが、鎖を引かれ、彼の膝に戻される。彼が、丈の長い外衣を脱ぎ、白いズボンの前を緩めた。
「いやっいやっ……!」
「ジェニーズ」
うなじをつかまれ、その場所に顔を押し付けさせられる。下着越しでも、もうそこが熱く、固くなり始めているのが分かった。一日仕事をしていただけのことはある雄臭い匂いに、目が眩む。咄嗟に顔を背けようとしても、彼の大きな手は力強く、私を逃してなんかくれない。
「ジェニーズ、ほら、息を吸って」
「……う、……」
「吐いて」
「あ、う……」
「……私を見なさい」
彼を睨むと、彼は片眉をあげた。
「反抗的な目だね?」
「離してよっ……!」
「これはあなたのためにしていることだ、ジェニーズ。まず、それがわからなくては、あなたの望みは何一つ現実にできない」
「意味不明、この変態ッ! はぷっ……!?」
必死に彼の膝を押して逃げようとしたら、もっと強い力で押し付けられてしまう。嫌なのに、嫌で仕方ないのに、彼の匂いをかがされる。
見た目はとても綺麗で、声だって美しいのに、彼の匂いは雄のものだ。生きている、欲のある、汗をかく、雄の匂い。……くらくらする。
(……酸欠のせいだ……)
こみ上げてきた唾を飲み込み、目を閉じる。
さらり……と彼が私のうなじから手を離し、私の髪をすく。
「ジェニーズ」
彼の声は優しい。眠っている子どもに話しかける母親の声のように、優しい。だから目を開けてしまいたくなって……そして目を開ける度に後悔する。
彼の光る紫の目に、優しさなんかない。
「頬が赤い、目もとろけて……匂いだけで気持ちよくなってしまったんですか?」
「ちがっ……いたっ!」
身を反らして否定しようとしても、髪をつかんでおさえこまれ、彼の下着の膨らみに顔を戻されてしまう。絶対にいやなはずなのに、どうしてか、すん、と鼻が鳴った。彼はくすくす笑いながら、私の鼻先をつつく。
「奉仕をしたいですか?」
「つっ……だれがっ……」
「素直になりなさい。わかっているでしょう、ジェニーズ……あなたの肉体が今、何を求めているのか……」
そんなはずない、と思うのだ。
でも、否定し切るには、彼の声はあまりにも蠱惑的すぎる。
「口を開けなさい」
『命じられたから』と言い訳をして、口を開く。
「舌を出しなさい」
『命じられたから』と言い訳をして、舌を出す。
「……」
『命じられたから』と言い訳をして、『いつものように』奉仕をしようとする。
なのに、彼はそこで黙った。
(なに……)
違和感を覚えて彼を見上げると、彼は優しく微笑んでいた。
「そのまま、……」
彼の指が優しく、私の髪を撫でる。
開けている口から唾がこぼれ、外に出した舌が乾き、しかし、こみ上げてくる唾にまた濡れる。とろとろ、とろとろ、私の中から溢れていく。
「……飢えた犬のようだ」
「つっ……! だれが!」
舌を引っ込めて口を閉じ、彼を睨む。本気で睨んでいるのに、本気で怒っているのに、彼は「いけない子だな」と笑うだけ。
「服をたくしあげなさい」
「なっ……」
「早く」
髪を軽く引かれる痛みに、『命令に従わなくてはいけない』と、教え込まれた体が震える。
(だから……やるだけ……やれば……終わるんだから……)
震える手で、ワンピースの形をしている信徒服を膝までたくしあげた。これでいいでしょう、と彼を見上げると、彼は眉をよせて微笑んだ。
「……私の言い方が悪かったですね、ジェニーズ。その豊満な尻をあげて、胸元まで服をたくし上げなさい」
「はっ!?」
「顔はここに、そのまま」
彼が微笑んだまま、私の頭に手をのせる。優しく撫でてくれているのは、『きっと』、命令に従っている間だけ。
(どうせ……逃げられない……そう、逃げられない……)
だから『私が望んでいることではない』。けれど、『彼の言う通り』にしなくてはいけない。
腰を上げ、お尻を後ろに突き出すような姿勢を取り、震える手で信徒服の裾を胸の上までたくし上げる。
「よくできましたね、ジェニーズ」
「あ……」
彼は美しく微笑んだ。褒められているような錯覚を起こしてしまう、優しい微笑だ。
「では次に自分の下着がどうなっているか、その手で確認してください」
言われた言葉の意味が分からない。下着がどうなってるかなんて触らなくてもわかる。ちゃんとブラもつけているしパンツも履いてる。何を確認しろというのかと思いながら、下着に触れる。
(ほら、ちゃんと着てるけど……?)
さらり、と彼が私の髪を撫で、苦笑していた。
「なかなか『教育』がうまくいっていないようです。困りましたね、ジェニーズ……私はこんなにあなたを受け入れているというのに、あなたは『素直にならない』……わかっているくせに、あぁ、困りました」
勝手に困られている。
(これ以上、私にどうしろと……)
「まあ、いい。……あなたの言葉に合わせましょう」
「なに……?」
「ペニスの匂いに興奮してビチャビチャに濡れている股ぐらを自分の手で確認しなさい」
リン、と鈴が鳴る。
彼の目は冷たく、内容にいやらしさと反比例して、どこまでも冷たい声色だ。
「犬よりも浅ましい、雌であることを自覚なさい。一人で勝手に発情し、すぐ抱かれる支度をする。今日だって、私に教育されたくて、わざと音を立てたでしょう?」
「そんなわけないっ……!」
「なら、自分の手で確認しなさい」
ほら、と促され、震える右手をパンツのクロッチ部分に、伸ばす。そっと触れただけなのに、くち……と音が鳴った。
(下着が、透けそうなぐらい、濡れて……クリトリスがどこにあるかも、わかるぐらい、勃起して……なんで? なんでこんな……)
彼が私の頭を撫で、指先で耳介をくすぐってくる。
「あなたの身体は私のことをどう思っているのでしょう。教えてください、ジェニーズ」
かあ、と頭の奥から熱くなる。
「違うっこんなの、ただの生理現象でっ……」
「そう。やはり素直さが足りないのはその喉だ」
彼が私の前髪を耳にかけ、下着をずらし、ずるっ……と性器を取り出す。
「あっ……」
清廉潔白な司祭服の下からでてきたとは思えない、グロテスクさすら感じるそのビジュアル。まだ勃起しきっていないのに、この大きさ。目を逸らしたいはずなのに、私の目は縫い付けられたかのように『それ』を注視してしまう。逃げたいはずなのに、私の息は荒くなり、心臓は壊れたみたいに脈打ってしまう。ごくり、と、唾を飲み込む音がやけに大きく響いた。
(なんで、私、こんな、発情して……!)
彼が私の鎖をつかんで、目線を上げさせられる。美しい紫の瞳が私を静かに見下ろしていた。
「さあ、……素直に」
自分の体に起きていることも、彼の命令もなにもかもが嫌で、必死に首を横に振る。
「ううっ……やだぁ……もうやだっ! 帰るっ……! 帰る!」
「あなたの家はここでしょう、ジェニーズ。それとも他に帰る場所があるとでも?」
「離してっ、離してよぉっ」
「落ち着きなさい。あなたの体はそうは思っていないのは、触れたから分かるでしょう。怖いと思いこんでいるのはあなたの頭だけ。怯えて真実から目を逸らさずに、素直になりなさい」
「や、いやだぁっ、ふあ!?」
なんとか逃げようとしたら、顎を押さえられ、口の中に指を入れられてしまった。
「あっ……んぐっ、う……っ」
「ねとねとと、まとわりつくじゃないですか。私の匂いだけで欲情する淫婦にもかかわらず、何故淑女ぶるのか。私はそのままのあなたを受け入れていますよ」
「にゃ、あ、ううっ……!」
長い指で上顎をくすぐられ、舌をしごかれ、苦しくて仕方ないのに、体は勝手に熱くなる。噛んでしまえ、と理性はいうけれど、力が入らない。その間に、こちょこちょ、くちゅくちゅ、と彼の指が私の口内を好き勝手にくすぐる。この二ヶ月、彼の手によってすべて敏感にさせられた口内が、そんな責め苦に耐えられるはずがない。
(ずるい……こんなの、されたら……っ)
口の中しか触られていないのに、腿がふるえ、頭の奥がしびれて、涙がこぼれる。
「あなたは実に手間がかかる……ふふ、そんなところも愛らしく思ってしまう。私も大概だな……」
「ふあっ……はっ……」
ズルリと指が抜かれる頃には、もう全身どこも力が入らず、彼の腿に頭を預けてしまっていた。
酸欠でぼんやりとした頭、涙で歪む視界、彼の濡れた指が私の前髪をかきあげ、耳にかけてくれる。ついでに耳をくすぐるその手つきはまるで愛撫のように優しい。
でも、そうして力の抜けた唇にぴたり、と彼の性器が押し付けられた。唾で濡れた唇に、快感にしびれている舌に、彼の味をつけられてしまう。バチンと腹の奥に殴られたみたいに強烈な感覚が走った。
(なんで、私っ……)
理解できない自分の反応に、恐怖がわく。
「や、やだ……」
なんとか首を振ると、彼が仕方なさそうに息を吐いて笑った。
「そんなに頑ななら、……あなたが素直になれるようにしましょう」
「えっ……うっ! やっ、んぁっ……ぐっ、……ん!」
性器が遠ざけられた、と思ったら、なにかの液体の入った小瓶が代わりに押し付けられた。拒否しようとしたけれど、髪を下に引っ張られ無理やり顎をあげさせられてしまい、無理やりその液体を飲まされる。
「ん、んっ……あっ、ぐ、ん、……んんーっ」
鼻と口までおさえられ、ごく、と嚥下するまで呼吸さえ許されない。飲んだ後も、口の中に指を入れられ、きっちり飲んだことを確認され、ついでのように喉まで犯される。バチ、バチ、と快感が走り、蜜口からトロリと愛液がこぼれるのが自分でわかってしまう。
ちゅぽ、と指を抜かれたときになって、やっと口の中に甘みが広がっているのがわかった。
「ごほっ……なに、のませたのっ……!」
「素直になれるお薬です」
「なにっ……」
「あなたのために調合した、あなたのための、……媚薬ですよ」
「は……? うぅっ……!」
鎖を引っ張られ、顔をあげさせられる。彼は紫の瞳で私の目を覗き込み、嬉しそうに笑った。
「さ……素直になりましょうね……?」
彼の優しい声を聞いた時、ぞくぞくぞくっと全身に寒気が走った。
□
「目をそらさないで、ジェニーズ……」
「ぐっ……うぅ……」
彼の長い脚の間にとらえられ、無理やり膝立ちをさせられた状態で、目の前で彼が自身の陰茎をしごく様を見せつけられる。目を逸らしたり、瞼を閉じようとすると、すぐ鎖を引っ張られ、彼の痴態を見るように促される。
(そう、痴態だ……これは……色気がすごすぎる……!)
彼は美しい顔を苦しそうに歪め、小さく息をこぼしながら、陰茎をしごく。
「は、ジェニーズ……ん、……ちゃんと、見なさい……ふ、ぅ……」
目に毒だし、耳にも毒だし、鼻にも毒だし、全てに毒でしかない、溢れ出るその色気。白い司祭服から取り出された赤黒い陰茎が先走りをこぼしながら大きくなっていき、彼の白い頬がほんのりと赤に染まる。
「あなたの、ために、……はっ、ぁ、……しているんですからっ……ん……んん、……」
彼が自身の耳に髪をかける。その耳介さえ赤くなっていた。
「はっ……ほら、ちゃんと……私を見なさい、……」
彼のその顔、その声、その汗、そのすべてが私の体を熱くしてしまう。飲んでしまった薬と相まって、嫌なのに、腰が勝手に揺れる。太ももを擦り寄せながら、彼の痴態に、見入ってしまう。
(……かわいい)
目の前にある彼の陰茎に惹きつけられてしまう。
(だめ、こんなこと、だめ、だめ……)
理性が止めようとする。
(でも、だって、熱くて、体が、媚薬のせいで……)
本能がうるさく騒ぐ。
「ジェニーズ……いいんですよ」
彼が私の頬に触れた。
「私はあなたを受け入れます。どうぞ、素直に……怖かったら薬のせいにしたらいい。大丈夫です。素直に……あなたの欲しいものをねだりなさい」
とろ、と先走りがこぼれる陰茎の先を再び唇に押し付けられる。
「おいで、ジェニーズ」
毒のせいで、体が熱くなる。
(いや、ちがう……)
飲まされたものなんか、本当は問題じゃない。彼の存在そのものが毒なのだ。一度体の中に入ったら決して取り出せない、毒。
(でも、そう分かって、今更、どうしたらいいの?)
「あなたの奉仕を受け入れましょう」
彼に導かれ、理性が溶ける。
口を開け、彼の陰茎の先を咥える。わいてでてきてしまう唾を舌にため、ねっとりと口内で愛撫すると、彼が私の頭を撫でてくれる。ぼんやりと彼を見上げると、「いい子だね」と彼が今日、初めて私を肯定してくれた。それだけのことなのに、頭の先から下腹部までばちばちと火花のように快感が走ってしまう。
(おかしい、こんなの……でも、薬、そうだ、薬のせい……)
私は口を開けて彼をさらに奥まで受け入れる。頬の内側で彼の陰茎を刺激すると、少し勃ちあがり口の中を圧迫し始めた。歯を当てないように気を付けながら、舌で裏筋を舐め、喉を鳴らして先を吸い上げる。彼は、ふ、と気持ちよさそうに吐息を漏らした。
「そう、素直に……いい子だね。優しい子だ、ジェニーズ……」
彼の声に甘い色が滲み始めていた。ぞわぞわと耳の後ろがくすぐったくなる。
「ん、ぐぅ、んん……っ」
「はっ……そう……、もっと……」
気が付けば、両手で陰茎の根本をしごき、彼の気持ちよさを考えてしまう。彼の手は優しく私の頭を撫で、前髪が落ちる度に耳にかけてくれる。じゅ、じゅぽ、と空気と唾が混ざり合い、どんな場所でも鳴らしてはいけないようないやらしい音が響く。でも彼は私を叱ることなく「そうだ、もっと、素直に求めなさい」と微笑む。
(私、頭おかしくなったんだ)
彼に優しくされると、それだけで濡れるのがわかる。優しくなんかちっともないと理性ではわかっているのに、その気休めの言葉の優しさと微笑みだけで身体が屈服してしまうのだ。
「やっと『教育』の成果がでてきましたね」
そうだ。これが『彼の教育』の結果なら、きっともう『戻らない』。
(だから、全部、この人が悪い)
それは唯一絶対の免罪符のように私の頭の中に広がっていく。
(全部、この人が悪い)
そしてその途端に、理性が壊れた。体が求めるままに彼の陰茎を喉の奥まで受け入れる。彼の腿が震え、一瞬私の髪を掴んだが、すぐに彼は優しく私の頭を撫でてくれる。だから、思う存分、彼を『可愛がれる』。
「つっ……ふ、ジェニーズ、……」
見上げると、彼は頬を赤くし、苦しそうに眉間に皺をよせ、けれど、「いい子だ」と私を褒めてくれた。それが嬉しくて、右手を自分の股間に伸ばしてしまう。こんなはしたないこと、でも、悪いのは彼だ。だから、自分で自分を慰めながら、彼への愛撫を続ける。
「は、……くっ……」
「ぐ、う……ぷあ、……けほっ」
さすがに苦しくなって、口から抜くと勃起しきった彼の性器が目の前にそびえたつ。赤黒く、熱く、固く、本当に同じ生き物から生えているものか疑ってしまう。
「おっきい……」
暑くて、汗でぬれたワンピースを脱ぎ捨てる。ブラを外すと、胸の間に首輪の鎖がおちる。冷たい鎖は、しかし私の熱が伝わり、あっという間になまぬるくなっていく。
「綺麗ですよ、ジェニーズ。……どうぞ、したいように」
彼に促され、鎖ごと、彼の恐ろしい陰茎を胸の間にはさみ、優しく圧迫する。胸の先からのぞく、陰茎の先を舐めると苦くてしょっぱい味がした。美味しくないのに、何故かもっとほしくなる。
「つっ……ジェニーズ、あなたは、……」
胸でしごきながら先端の溝を舐めていると、彼が私の髪を少し引いて顎を上げさせた。何だろうと目線を上げると、彼と視線が合う。
「本当にいやらしいことを、よく、『知っている』」
教祖らしい優しい微笑みの消えた、雄の顔だ。ぞくぞくぞくと全身に寒気が走る。
「あ、わ、たし……」
「大丈夫だよ。私はあなたを受け入れている。……続けて……」
「……は、い……」
彼の声に導かれ、愛撫を再開する。胸で押しつぶすようにしごくと、彼が気持ちよさそうに小さく喘ぐ。その声がもっと聞きたくて、もっと大胆に動くと、彼が私の肩に手を置いて私の動きに合わせるように腰を動かし始めた。胸を使われ、唇に陰茎の先を押し付けられる。自分が気持ちよくなりたい動きだ。
(可愛い……)
舌を出して受け止めると、彼が熱い息を吐いた。
「美しいな、ジェニーズ、……ああ、気持ちいい……、……ジェニーズ」
彼の額から汗が落ちる。
「どうしたい? このまま出してほしい? それとも、……」
くちゅ、と愛液がこぼれるのが自分で分かった。彼は、もう一度息を吐くと、優しく微笑んだ。
「わかった。おいで、ジェニーズ。……乗りなさい」
こんなの絶対だめだ、そう思うのに、結局、私は彼の腿に乗っていた。
◇
――りん、りん、と鈴がうるさく鳴っている。
「気持ちいいね、ジェニーズ。ああ、……素直に自分の気持ちよさを求めるあなたは本当に可愛らしい……」
「ふ、う、あ、っああっんっ……んん!」
対面座位で彼を受け入れると、『素直に動きなさい』と主導権を無理やり押し付けられた。だから頑張って動いているのに、彼は私の胸を持ち上げて揉んだり、乳首を食んだりしながら、たまに思い出したように下から突き上げてくる。その不意打ちの気持ちよさに、涙がこぼれ、何も分からなくなる。
「あなたの望みを教えて、ジェニーズ」
「あ、あ、あっあぁ!」
「ほら、言って。素直に、心のままに、望みなさい」
「わ、わたし、……」
頭の奥が真っ白になる。
「ちゅう、したいぃっ」
は、と彼が笑う。ひどく雄らしい笑いだ。
「そういうことじゃないんだが、……可愛いことを言う」
「あっ!?」
いきなり身体を持ち上げられ、入れたまま、ソファーに押し倒された。その衝撃に震えている間に、頭を掴まれ舌をねじ込まれてしまう。じゅる、じゅる、と生き血を吸血鬼にすすられるみたいだ。大きな彼の身体の押しつぶされ、何一つ抵抗できず、捕食されるように、口内を乱暴に凌辱される。
「んんっんんーー!」
足がぴんと伸び、気が付いたら達してしまっていた。彼が、ぬと、と舌を抜き、にやりと笑う。
「あなたは本当に、ふふ……私を穢すのが好きですね、ジェニーズ」
私の潮を浴びて濡れた彼の服を指して、彼が笑う。
「そ、んなこと……」
「いいえ、あなたは『最初から』こうしたかったのでしょう? 私の白い衣を脱がせたいと考えていた……」
ねっとりとした声を耳に注ぎ込まれる。
「ち、ちがう、そんなこと、ない……あなたが、無理やり、私を……」
「私はあなたが欲しいことしかしていません」
「だって、薬っ……!」
「わかっているでしょう、あれは単なる砂糖水ですよ」
「そ、んな……」
彼が私に見せつけるように、ゆっくりと服を脱いだ。晒された肉体美に、生唾がこみあげる。
「私はあなたを受け入れ、あなたの望むことをしているだけです」
彼はいやらしい笑みを浮かべ、私の膝裏を掴んで、脚を肩にかけてしまう。両脚を抱えられ、腰が浮いた時、もう、どうやっても彼のすることから逃げられないのが本能で分かった。怖くて、嫌だと思って、彼を見上げるのに、彼はそんな私を見下ろして、微笑む。ちがうでしょう、とその目は笑う。
「……あなたが無理やり犯されたいと望むから、こうしているんじゃないですか」
さあ、と頭の血が下がる。
(そうだ)
そう、答える自分の声が聞こえた。自分の中にあったその恥ずかしい願望が、明確に、彼の口から出たことに、下がった血が、沸騰しながら上がってくる。彼はそんな私の顔を、優しく微笑んでみている。
「ち、ちがう、わ、わたしっ……あっ!? やっぁあああ!」
それでも、なんとか彼の言葉を否定しようとした瞬間、彼が動き出し、その陰茎が一気に奥まで入り込んでしまった。
「ジェニーズ、……恐れないで。私はあなたのすべてを受け入れる」
「ひ、あ、っだ、ああっーー!」
ごちゅ、ごちゅん、と奥を責められ、あっという間に絶頂まで追い詰められてしまう。達した直後の敏感になっている私に、彼は容赦なく、覆いかぶさる。彼の肩から落ちた脚が、無意識の内に彼の身体を抱えてしまった。
「あっあっあぁあ! お、奥、がぁっ、ぃあっ!」
「舌を出して」
「あ、ふぁ、ん、……んんー!」
彼は捕食するように私にキスをしながら、えぐるように腰を動かす。彼の背中に爪を立てて抵抗しても、『無理やり』、もっと気持ちよくさせられる。
(これ、私の望みなんだ)
明確に、そう分かった。咄嗟に彼を突き飛ばすと、彼はキスをやめてくれたが、その光り輝く紫の瞳で私の目をのぞき込む。
(見られている)
顔を隠そうとしたら、両手を恋人繋ぎで抑え込まれてしまった。
「や、や、っあっやめてっ! み、みないでっ……! あばかないでぇ!」
「ジェニーズ、可愛い人、あなたの望みを言って。全て叶えてみせるから」
彼が額を合わせながら、容赦なく奥をつく。わけがわからなくなる気持ちよさに気が狂いそうだ。
(いや、もう狂っている)
奥を責められ、ずっとイっているのに、彼はまだ達してくれないし、ずっと私を高みにとどめてしまう。
「言って、ジェニーズ。戦争がなく、飢えがなく、皆が皆、生きたいように生きられる世界が欲しいんでしょう?」
「ち、ちが、あっ、かえりたい、のっ」
「帰りたい? ……あなたがいた『世界』?」
ばちばちばちと頭の中で火花が散り、思考が飛ばされる。それでも彼はまだ私の額に額を押し付け、「元の世界に帰りたいの?」と蠱惑的な声で、私の脳髄の奥に問いかける。
「そ、そう。イっ! や、とまって、とまって、しんじゃう、しんじゃうぅ!」
「ジェニーズ、その世界に帰って、どうするの? ……そこに一人で帰っても、ねえ?」
「ど、どう、って……あっあっ、あっ……あああっ!」
彼が何か聞いてきているが、イッた直後にまた絶頂まで追い詰められ、私の思考能力はほとんどない。死を感じた身体が彼を突き飛ばそうとするが、彼の大きな体で押さえつけられて抵抗にもならない。絶頂につぐ絶頂、ばちばちと視界に星が散り、吐き気すらしてくる。気持ち良すぎて、死を覚える。
「どうしたいの、ジェニーズ、言いなさい」
「あ、あ、あっわ、かんない、わかんないっむずかしいこといわないでぇっ、ひぃっ……!」
「ククッ可愛いな……私が、欲しいと、……言いなさい」
それは駄目だと――頭の中で警報音が鳴る。
「このドレイブン・ロック・ルーンが欲しいと言いなさい」
ごちゅん、と奥の奥に彼の陰茎がはまってしまった。ごふ、と喉の奥から内臓が出てきそうな衝撃。
「『元の世界』に、……この『私が欲しい』、と……」
彼の紫の目、その美しい光に、何もかもが分からなくなる。
「言えるね、ジェニーズ?」
気が付いたら、私は『彼の望み通り』、『彼を受けいれて』、『彼の望み』を口にしていた。
「は、……よくできました、いい子だ。ご褒美に中に出してあげよう、ねっ!」
「ひ、あ、ああっああああ!」
ごちゅん、と奥の奥で彼が吐精した。その事実に頭の奥がしびれて、意識が遠のいていく。彼は眠りに落ちようとする私に慰めるように何度もキスをしながら、ごちゅ……ごちゅ……とゆるく腰を動かし、奥までしっかりと彼を馴染ませられていく。
「あっ、……あっ……ん、……」
「……気持ちいい?」
「ん、……ん……」
「ふふ、いい子だね、ジェニーズ。……本当にいい子だ。ありがとう」
彼の満足そうな声を聴きながら、私は目を閉じた。
◇
目を覚ますと、私はジェニーズではなかった。
というよりも、目を覚ますと私は『元の私』に戻っていた。自分の家で目を覚ました時の衝撃はすごかった。しかもカーテンを開けたら、懐かしい我が東京の景色! ドンパチも起きていないし、立ち並ぶビルディングたち! そしてスマホ! 正直スマホが一番うれしくて、手に持った時、感動してちょっと泣いた。
(夢落ちってこと……?)
ジェニーズの名前は憶えていたけれど、私はこの世界の名前も思い出していた。日付を確認しても、それは記憶通りの日付、ただの日曜日の朝だった。
つまり、私は一晩で二か月教育され続ける悪夢を見ていた、ということだろう。
「想像力逞しすぎるだろ……そんなにマゾ願望があったのかな……、……ないとは言い切れない……」
熱くなった頬を押さえ、スマホでブクマに入れていた『白の約束と黒の誓い』のページを、ブクマから削除する。
(もし次に夢を見るなら、もっとわかりやすくて、もっとラブコメな世界がいいな、……)
ため息をつきながら、寝室を出て、リビングに向かった。
「おはよう、ジェニーズ」
そこに美しい男がいた。美しすぎる、現実味のない男が、そこにいた。
彼は私を見てうっそりと微笑み、そして『ジェニーズ』と呼んだ。がくん、と腰が抜け、私はその場に崩れ落ちてしまう。彼はゆっくりと立ち上がり、一歩、一歩、私に近づいてくる。
「ようやく、……あなたの願いと私の願いが叶いましたね」
「なに、なんで、……なんでここに、いるの! は!? なんで!?」
「あなたが望んだからですよ」
彼が私の目の前に居る。たしかに、存在している。
「私は『他者から信頼され、願われたことを現実にする』ことができるんです。ただ、あの世界では、戦争がないことを誰も知らないから、誰も望まなかった。だが……、ふふ、ようやく、私の願いを願ってくれる人が現れた。……ジェニーズ」
ドレイブン・ロック・ルーンが地面に崩れ落ちる私の頬を掴み、あでやかに微笑む。
「御礼に、この世界では、あなたの望みだけを叶えてさしあげましょう」
「な、な、……ど、どういう……」
「難しく考えることはありません。あの場所での『教育』と変わりませんよ。あなたは願えばいい。……そしてあなたの願いは、正しく私が導いてさしあげます」
りん、と近くで、鈴の音がする。
は、と気が付くと、もう私の首には鈴のついたチョーカーがつけられていた。
「ジェニーズ、……嬉しいでしょう?」
何も分からない。あの小説の世界観は私には難しすぎる。だから、何にもわからない。でも、それでも、馬鹿な私にもわかる、確かなことがあった。
(もう、私は、この人から逃げられない……。そう、『逃げられないんだ』……)
怖くて涙が出るのに、同時になぜか笑ってしまう。美しすぎるラスボスはそんな私の目を覗き込んで、「そう、素直でいい子ですね」と甘く笑った。
石造りのこの教会は天井がとても高く、その小さな鈴の音さえも遠くまで響かせてしまう。
「……おや、また音を鳴らしましたね」
ドーム状の天井はすべて青を基調としたステンドグラスで覆われ、夕焼けの日差しに青を溶かしこみ、すべての影を青で縁取る。壁を覆い尽くす石でできた天使像は、優しげに微笑みながら、青の影を帯びる。肌寒さすら覚えるほどの神聖な空気。そして、この厳かさが異様に似合う、目の前にいる『男』――この教会の主、教団の教祖であるドレイブン・ロック・ルーン。
白に近い金色の髪を長く伸ばし、金の髪飾りを身に着ける。どこか女性的な装いだが、彼の体躯や顎から首にかけてのラインは雄の圧を持ち、あくまでも男として着飾っているのだと知らしめる。白と金を基調とした禁欲的な司祭服を身に着けているのに、切れ長の紫の瞳を少し動かすだけで、妙な色気を醸し出す。彼のことを一言で説明するなら『カリスマ』、だろう。
一目でも見たら忘れられず、言葉を交わしたら夢を見る。
まさに教祖になるべくしてなった、そんな男。
「この神聖なる場所で音を奏でていいのは神……そして神の代理人たる教祖のみだというのに」
そんな男が、跪いて必死に祈りを捧げていた私の肩に触れる。リン、と、また、私の手首につけられた鈴が音を立てる。私の額からこぼれる汗が顎を伝って、床に落ちた。
「ジェニーズ」
彼が私の『首輪』に繋がれた鎖を持つ。
「あっ……」
鎖をひかれ、彼の足元に身を投げてしまった。鈴が盛大に音を立てる。
「ごめんなさいっ!」
恐ろしくて生唾がこみ上げる。それでも、このあとの展開をなんとかましにしたくて、彼の足にすがりついた。
「い、今のは汗が……汗が鈴にあたってしまっただけで、動いたわけでは……っ」
彼の手が私の頭に触れる。
「ここで話してよいのでしたか?」
「あっ……でも、だって、そんな……理不尽な……」
絶望の中、彼を見上げる。
「ジェニーズ、いけない子だ」
夢に見るほどの美丈夫である『ラスボス』が、私の顎を持ち上げて、うっそりと笑った。
◇
私の『この世界での名前』はジェニーズ。
と言っても『元の世界での名前』、は思い出せないのだけど……。つまり、察しのいい人は勘づいているかもしれないけど、私は『異世界転生者』、しかも『憑依』パターンだ。
元々の私はロマンスファンタジー小説を読み漁ることを趣味にしていた、ごく普通のOLだ。特技もなければ、特別な知識もない、ごくごく普通の一般人。そんな私がある日、目を覚ましたら異世界にいて、ジェニーズというこの二十二歳の女性の体の中に入っていたのだ。よりにもよってこの、『黒の約束と白の誓い』の世界のモブの中に!
(もし神が居るなら、『私のこと嫌いすぎません!?』と直訴したいレベルの理不尽!)
だって、この『黒の約束と白の誓い』は私の好きなロマンスファンタジーに属する小説ではあるが、その実態は重厚な戦争ものだ。ツンデレヒーローと男前ヒロインによるラブコメ要素もあるのだが、それ以前に世界観が目茶苦茶にハード。どこもかしこも魔獣による被害と貧困に苦しんでいて、それ故に治安が悪くて、ちょっとしたことをきっかけに内乱、紛争、戦争が起きてしまう。
私はヒーローのキャラとラスボスのキャラビジュが好きでなんとか最終巻まで読んだけど、正直、この話に出てくるいろんな組織のいろんな思惑は把握しきれてないし、重要人物が死ぬ事件が多すぎて何があったかなんて覚えきれてない。だから原作知識で無双なんて、絶対に無理!
(というか、この世界に転生してそんな事ができる人は、元の世界でも普通のOLなんかやってない! 多分、政治家とかやってる!)
普通の私にとって唯一わかってることは『どの国に居てもいずれ戦争に巻き込まれる』という、超怖いことだけだ。そして、戦争で生き残れる自信もないし、皆が皆戦争をする世界観で、戦争反対と一人で叫ぶ強さもない。
だから、『教団に行く』ことにしたのだ。
この『教団』という組織は、表向きはありとあらゆる人を受け入れ、この大変な世界で助け合っていく、という素晴らしいところだ。
まあ、実態は、ラスボスである『教祖』が持つユニークスキル『神聖力』、他者から祈られることでその人間の持つ寿命を吸い取り自身の魔力に変換する、というスキルを使うためにある組織。この教団にはかなりの信徒がいるのだけど、教祖は彼らから少しずつ寿命を集めて、膨大な魔力を得ると同時に、その魔力を使いあらゆる国で魔獣を発生させ、悲劇を起こす。そして悲劇が起きればまた新たな人が信仰に向かい……彼の力はどんどん増していく……。
(まさにラスボス仕様。……なんか他にも細かい説明もあったけど、とにかくやばやばスキルの人……)
彼のユニークスキルが判明し、主人公たちが彼を討伐、ようやく世界が明るくなりそうなところで原作は終わる。だから、私は教団に向かった。もちろん、彼を倒すため……『なんかではない』。
『原作で一度も教団は戦争に参加しなかった』からだ。
たしかにラスボス戦では教団は壊滅的に破壊はされるが、逆に言えば、それまでは何一つ破壊されない。だから、寿命を吸われるぐらいは許容して、ラスボス戦まではここに避難しているのが一番安全!
(普通の私が、この厳しい世界で生き残れる唯一の道だ! と思ったんだけど……)
だが――そんな他力本願な気持ちで逃げたのが悪かったのだろうか。
いや、でも、この教団にたどり着いたときは、心底ほっとした。教祖であるラスボスは美しいだけの微笑みで「歓迎いたします」と私を迎え入れてくれたし、私も(やはりキャラビジュはこの人が一番いいなあ)とのんきに思っていた。でも、――そうだ、あの答えがきっと悪かった。
「あなたがこの教団に求めることは何でしょうか、ジェニーズ」
「戦争がなくて、飢えが無くて、皆が皆、生きたいように生きられること」
でも、あれは私にとって当たり前の要求だった。そうでないと私は生きられないから。
でも、彼は目を丸くした後、何かを楽しむように目を細めた。
「あなたは、……『妙』だ」
そうして、すぐに彼の部屋に連れ込まれたのだ。
「そんなものを求めたのはあなたが初めてです」
「え、そうなんですか?」
「ええ、そうです。……戦争が『ある』ものだ。それを前提に『この世界』は全てが成り立っています。必要なものは奪い合うもの、力こそがすべて、中立とは名ばかり、……この教団も、力があるから、表立って戦争をしていないだけのこと」
「そ、そんな難しいこと言われても、……戦争なんてあっていいことないでしょ?」
彼はくすくす笑うと、私の手を取った。私はまだのんきに(綺麗な顔だなあ、体格もいいし、本当にハンサム)なんて思っていた。
そしたら次の瞬間には、私はベッドの上に転がされていたのだ。
「戦争がなく、飢えがなく、皆が皆、生きたいように生きられる世界、……あなたは知っているように話す。それが『普通』のことのように……」
気がついたときには彼が私にまたがり、私は彼の長い髪の中に閉じ込められていた。
「もっと教えてください、ジェニーズ。『普通の世界』を、信じさせてください」
「は……? え、ちょっと……何? どいてもらってもいいですか?」
「ああ、やっぱり、あなたは私のことを、人だと……男だと思っている。ふふ、そう、……これは面白い」
額を合わせられ、彼の香水の香りに包まれる。彼の紫の瞳が爛爛と輝き、獲物を見つけた肉食獣のようで、生唾がこみ上げた。それをごくり、と飲み込む音が、やたらと大きく響く。
「ふふ、あなたは、……そう? そういうことを考えているのか。なら、そうしよう……『教育』が必要だね、ジェニーズ。あなたがここにいるには『教育』が必要だ」
「は?」
「安心しなさい。私はすべての望みを叶える。あなたが『素直』に乞えば、……だけどね」
そうして、何も分からないままに暴かれた。ジェニーズの身体は何も受け入れたことのないものだったのに、彼は一切の容赦なく、奥の奥まで、開かせた。それが『最初の教育』。
「ジェニーズ、私を受け入れなさい。……私もあなたを受け入れる。さあ、素直になりなさい」
それからずっと、毎日、なにかしら難癖をつけられ、『彼の部屋』に連れ込まれ、そして――彼のいうところの『教育』をされるのだ。――そして、今日もまた――
◇
「あれは、動いたわけじゃなくて、汗が当たって鈴がなっただけで……だって、あんな姿勢ずっとなんて、無理っ……こんな首輪までつけられてっ……なんでっ私ばっかり……!」
「言い訳はいけませんよ、ジェニーズ」
「言い訳なんかじゃないっ……だって、本当に頑張ったのにっ! なんでっまたっ……あっ!?」
彼が、私の首輪についた鎖を引いた。ソファーに座っている彼の足元まで引き寄せられ、彼の長い足の間に入れられてしまう。
「動くことが問題なのではありません。音を立てることがいけないのです」
「だったらなんでこんな鈴なんかっ……!」
「それはあなたがいけない子だから、印をつけたんですよ。どこにいても、私がすぐ見つけられるように」
「意味わかんないっ……! なんで私ばっかりこんな目に遭うの……!」
彼の冷たい指が私の目尻をなで、なんとか留まっていた涙を拭ってしまう。
「どうして泣いているのです、ジェニーズ?」
「あんたが、こ、こわいからに決まってるでしょっ……!」
「……怖い? 私が?」
……するり、と彼の手が私の頭を撫でた。
「仕方ない子ですね」
「え、赦してくれるのっ……あっ」
救いを期待した。
でも、彼の目には光はなかった。
「この素直になれない喉から『教育』をほどこしましょう」
「そんなっ……やだっ!」
逃げようとした私だが、鎖を引かれ、彼の膝に戻される。彼が、丈の長い外衣を脱ぎ、白いズボンの前を緩めた。
「いやっいやっ……!」
「ジェニーズ」
うなじをつかまれ、その場所に顔を押し付けさせられる。下着越しでも、もうそこが熱く、固くなり始めているのが分かった。一日仕事をしていただけのことはある雄臭い匂いに、目が眩む。咄嗟に顔を背けようとしても、彼の大きな手は力強く、私を逃してなんかくれない。
「ジェニーズ、ほら、息を吸って」
「……う、……」
「吐いて」
「あ、う……」
「……私を見なさい」
彼を睨むと、彼は片眉をあげた。
「反抗的な目だね?」
「離してよっ……!」
「これはあなたのためにしていることだ、ジェニーズ。まず、それがわからなくては、あなたの望みは何一つ現実にできない」
「意味不明、この変態ッ! はぷっ……!?」
必死に彼の膝を押して逃げようとしたら、もっと強い力で押し付けられてしまう。嫌なのに、嫌で仕方ないのに、彼の匂いをかがされる。
見た目はとても綺麗で、声だって美しいのに、彼の匂いは雄のものだ。生きている、欲のある、汗をかく、雄の匂い。……くらくらする。
(……酸欠のせいだ……)
こみ上げてきた唾を飲み込み、目を閉じる。
さらり……と彼が私のうなじから手を離し、私の髪をすく。
「ジェニーズ」
彼の声は優しい。眠っている子どもに話しかける母親の声のように、優しい。だから目を開けてしまいたくなって……そして目を開ける度に後悔する。
彼の光る紫の目に、優しさなんかない。
「頬が赤い、目もとろけて……匂いだけで気持ちよくなってしまったんですか?」
「ちがっ……いたっ!」
身を反らして否定しようとしても、髪をつかんでおさえこまれ、彼の下着の膨らみに顔を戻されてしまう。絶対にいやなはずなのに、どうしてか、すん、と鼻が鳴った。彼はくすくす笑いながら、私の鼻先をつつく。
「奉仕をしたいですか?」
「つっ……だれがっ……」
「素直になりなさい。わかっているでしょう、ジェニーズ……あなたの肉体が今、何を求めているのか……」
そんなはずない、と思うのだ。
でも、否定し切るには、彼の声はあまりにも蠱惑的すぎる。
「口を開けなさい」
『命じられたから』と言い訳をして、口を開く。
「舌を出しなさい」
『命じられたから』と言い訳をして、舌を出す。
「……」
『命じられたから』と言い訳をして、『いつものように』奉仕をしようとする。
なのに、彼はそこで黙った。
(なに……)
違和感を覚えて彼を見上げると、彼は優しく微笑んでいた。
「そのまま、……」
彼の指が優しく、私の髪を撫でる。
開けている口から唾がこぼれ、外に出した舌が乾き、しかし、こみ上げてくる唾にまた濡れる。とろとろ、とろとろ、私の中から溢れていく。
「……飢えた犬のようだ」
「つっ……! だれが!」
舌を引っ込めて口を閉じ、彼を睨む。本気で睨んでいるのに、本気で怒っているのに、彼は「いけない子だな」と笑うだけ。
「服をたくしあげなさい」
「なっ……」
「早く」
髪を軽く引かれる痛みに、『命令に従わなくてはいけない』と、教え込まれた体が震える。
(だから……やるだけ……やれば……終わるんだから……)
震える手で、ワンピースの形をしている信徒服を膝までたくしあげた。これでいいでしょう、と彼を見上げると、彼は眉をよせて微笑んだ。
「……私の言い方が悪かったですね、ジェニーズ。その豊満な尻をあげて、胸元まで服をたくし上げなさい」
「はっ!?」
「顔はここに、そのまま」
彼が微笑んだまま、私の頭に手をのせる。優しく撫でてくれているのは、『きっと』、命令に従っている間だけ。
(どうせ……逃げられない……そう、逃げられない……)
だから『私が望んでいることではない』。けれど、『彼の言う通り』にしなくてはいけない。
腰を上げ、お尻を後ろに突き出すような姿勢を取り、震える手で信徒服の裾を胸の上までたくし上げる。
「よくできましたね、ジェニーズ」
「あ……」
彼は美しく微笑んだ。褒められているような錯覚を起こしてしまう、優しい微笑だ。
「では次に自分の下着がどうなっているか、その手で確認してください」
言われた言葉の意味が分からない。下着がどうなってるかなんて触らなくてもわかる。ちゃんとブラもつけているしパンツも履いてる。何を確認しろというのかと思いながら、下着に触れる。
(ほら、ちゃんと着てるけど……?)
さらり、と彼が私の髪を撫で、苦笑していた。
「なかなか『教育』がうまくいっていないようです。困りましたね、ジェニーズ……私はこんなにあなたを受け入れているというのに、あなたは『素直にならない』……わかっているくせに、あぁ、困りました」
勝手に困られている。
(これ以上、私にどうしろと……)
「まあ、いい。……あなたの言葉に合わせましょう」
「なに……?」
「ペニスの匂いに興奮してビチャビチャに濡れている股ぐらを自分の手で確認しなさい」
リン、と鈴が鳴る。
彼の目は冷たく、内容にいやらしさと反比例して、どこまでも冷たい声色だ。
「犬よりも浅ましい、雌であることを自覚なさい。一人で勝手に発情し、すぐ抱かれる支度をする。今日だって、私に教育されたくて、わざと音を立てたでしょう?」
「そんなわけないっ……!」
「なら、自分の手で確認しなさい」
ほら、と促され、震える右手をパンツのクロッチ部分に、伸ばす。そっと触れただけなのに、くち……と音が鳴った。
(下着が、透けそうなぐらい、濡れて……クリトリスがどこにあるかも、わかるぐらい、勃起して……なんで? なんでこんな……)
彼が私の頭を撫で、指先で耳介をくすぐってくる。
「あなたの身体は私のことをどう思っているのでしょう。教えてください、ジェニーズ」
かあ、と頭の奥から熱くなる。
「違うっこんなの、ただの生理現象でっ……」
「そう。やはり素直さが足りないのはその喉だ」
彼が私の前髪を耳にかけ、下着をずらし、ずるっ……と性器を取り出す。
「あっ……」
清廉潔白な司祭服の下からでてきたとは思えない、グロテスクさすら感じるそのビジュアル。まだ勃起しきっていないのに、この大きさ。目を逸らしたいはずなのに、私の目は縫い付けられたかのように『それ』を注視してしまう。逃げたいはずなのに、私の息は荒くなり、心臓は壊れたみたいに脈打ってしまう。ごくり、と、唾を飲み込む音がやけに大きく響いた。
(なんで、私、こんな、発情して……!)
彼が私の鎖をつかんで、目線を上げさせられる。美しい紫の瞳が私を静かに見下ろしていた。
「さあ、……素直に」
自分の体に起きていることも、彼の命令もなにもかもが嫌で、必死に首を横に振る。
「ううっ……やだぁ……もうやだっ! 帰るっ……! 帰る!」
「あなたの家はここでしょう、ジェニーズ。それとも他に帰る場所があるとでも?」
「離してっ、離してよぉっ」
「落ち着きなさい。あなたの体はそうは思っていないのは、触れたから分かるでしょう。怖いと思いこんでいるのはあなたの頭だけ。怯えて真実から目を逸らさずに、素直になりなさい」
「や、いやだぁっ、ふあ!?」
なんとか逃げようとしたら、顎を押さえられ、口の中に指を入れられてしまった。
「あっ……んぐっ、う……っ」
「ねとねとと、まとわりつくじゃないですか。私の匂いだけで欲情する淫婦にもかかわらず、何故淑女ぶるのか。私はそのままのあなたを受け入れていますよ」
「にゃ、あ、ううっ……!」
長い指で上顎をくすぐられ、舌をしごかれ、苦しくて仕方ないのに、体は勝手に熱くなる。噛んでしまえ、と理性はいうけれど、力が入らない。その間に、こちょこちょ、くちゅくちゅ、と彼の指が私の口内を好き勝手にくすぐる。この二ヶ月、彼の手によってすべて敏感にさせられた口内が、そんな責め苦に耐えられるはずがない。
(ずるい……こんなの、されたら……っ)
口の中しか触られていないのに、腿がふるえ、頭の奥がしびれて、涙がこぼれる。
「あなたは実に手間がかかる……ふふ、そんなところも愛らしく思ってしまう。私も大概だな……」
「ふあっ……はっ……」
ズルリと指が抜かれる頃には、もう全身どこも力が入らず、彼の腿に頭を預けてしまっていた。
酸欠でぼんやりとした頭、涙で歪む視界、彼の濡れた指が私の前髪をかきあげ、耳にかけてくれる。ついでに耳をくすぐるその手つきはまるで愛撫のように優しい。
でも、そうして力の抜けた唇にぴたり、と彼の性器が押し付けられた。唾で濡れた唇に、快感にしびれている舌に、彼の味をつけられてしまう。バチンと腹の奥に殴られたみたいに強烈な感覚が走った。
(なんで、私っ……)
理解できない自分の反応に、恐怖がわく。
「や、やだ……」
なんとか首を振ると、彼が仕方なさそうに息を吐いて笑った。
「そんなに頑ななら、……あなたが素直になれるようにしましょう」
「えっ……うっ! やっ、んぁっ……ぐっ、……ん!」
性器が遠ざけられた、と思ったら、なにかの液体の入った小瓶が代わりに押し付けられた。拒否しようとしたけれど、髪を下に引っ張られ無理やり顎をあげさせられてしまい、無理やりその液体を飲まされる。
「ん、んっ……あっ、ぐ、ん、……んんーっ」
鼻と口までおさえられ、ごく、と嚥下するまで呼吸さえ許されない。飲んだ後も、口の中に指を入れられ、きっちり飲んだことを確認され、ついでのように喉まで犯される。バチ、バチ、と快感が走り、蜜口からトロリと愛液がこぼれるのが自分でわかってしまう。
ちゅぽ、と指を抜かれたときになって、やっと口の中に甘みが広がっているのがわかった。
「ごほっ……なに、のませたのっ……!」
「素直になれるお薬です」
「なにっ……」
「あなたのために調合した、あなたのための、……媚薬ですよ」
「は……? うぅっ……!」
鎖を引っ張られ、顔をあげさせられる。彼は紫の瞳で私の目を覗き込み、嬉しそうに笑った。
「さ……素直になりましょうね……?」
彼の優しい声を聞いた時、ぞくぞくぞくっと全身に寒気が走った。
□
「目をそらさないで、ジェニーズ……」
「ぐっ……うぅ……」
彼の長い脚の間にとらえられ、無理やり膝立ちをさせられた状態で、目の前で彼が自身の陰茎をしごく様を見せつけられる。目を逸らしたり、瞼を閉じようとすると、すぐ鎖を引っ張られ、彼の痴態を見るように促される。
(そう、痴態だ……これは……色気がすごすぎる……!)
彼は美しい顔を苦しそうに歪め、小さく息をこぼしながら、陰茎をしごく。
「は、ジェニーズ……ん、……ちゃんと、見なさい……ふ、ぅ……」
目に毒だし、耳にも毒だし、鼻にも毒だし、全てに毒でしかない、溢れ出るその色気。白い司祭服から取り出された赤黒い陰茎が先走りをこぼしながら大きくなっていき、彼の白い頬がほんのりと赤に染まる。
「あなたの、ために、……はっ、ぁ、……しているんですからっ……ん……んん、……」
彼が自身の耳に髪をかける。その耳介さえ赤くなっていた。
「はっ……ほら、ちゃんと……私を見なさい、……」
彼のその顔、その声、その汗、そのすべてが私の体を熱くしてしまう。飲んでしまった薬と相まって、嫌なのに、腰が勝手に揺れる。太ももを擦り寄せながら、彼の痴態に、見入ってしまう。
(……かわいい)
目の前にある彼の陰茎に惹きつけられてしまう。
(だめ、こんなこと、だめ、だめ……)
理性が止めようとする。
(でも、だって、熱くて、体が、媚薬のせいで……)
本能がうるさく騒ぐ。
「ジェニーズ……いいんですよ」
彼が私の頬に触れた。
「私はあなたを受け入れます。どうぞ、素直に……怖かったら薬のせいにしたらいい。大丈夫です。素直に……あなたの欲しいものをねだりなさい」
とろ、と先走りがこぼれる陰茎の先を再び唇に押し付けられる。
「おいで、ジェニーズ」
毒のせいで、体が熱くなる。
(いや、ちがう……)
飲まされたものなんか、本当は問題じゃない。彼の存在そのものが毒なのだ。一度体の中に入ったら決して取り出せない、毒。
(でも、そう分かって、今更、どうしたらいいの?)
「あなたの奉仕を受け入れましょう」
彼に導かれ、理性が溶ける。
口を開け、彼の陰茎の先を咥える。わいてでてきてしまう唾を舌にため、ねっとりと口内で愛撫すると、彼が私の頭を撫でてくれる。ぼんやりと彼を見上げると、「いい子だね」と彼が今日、初めて私を肯定してくれた。それだけのことなのに、頭の先から下腹部までばちばちと火花のように快感が走ってしまう。
(おかしい、こんなの……でも、薬、そうだ、薬のせい……)
私は口を開けて彼をさらに奥まで受け入れる。頬の内側で彼の陰茎を刺激すると、少し勃ちあがり口の中を圧迫し始めた。歯を当てないように気を付けながら、舌で裏筋を舐め、喉を鳴らして先を吸い上げる。彼は、ふ、と気持ちよさそうに吐息を漏らした。
「そう、素直に……いい子だね。優しい子だ、ジェニーズ……」
彼の声に甘い色が滲み始めていた。ぞわぞわと耳の後ろがくすぐったくなる。
「ん、ぐぅ、んん……っ」
「はっ……そう……、もっと……」
気が付けば、両手で陰茎の根本をしごき、彼の気持ちよさを考えてしまう。彼の手は優しく私の頭を撫で、前髪が落ちる度に耳にかけてくれる。じゅ、じゅぽ、と空気と唾が混ざり合い、どんな場所でも鳴らしてはいけないようないやらしい音が響く。でも彼は私を叱ることなく「そうだ、もっと、素直に求めなさい」と微笑む。
(私、頭おかしくなったんだ)
彼に優しくされると、それだけで濡れるのがわかる。優しくなんかちっともないと理性ではわかっているのに、その気休めの言葉の優しさと微笑みだけで身体が屈服してしまうのだ。
「やっと『教育』の成果がでてきましたね」
そうだ。これが『彼の教育』の結果なら、きっともう『戻らない』。
(だから、全部、この人が悪い)
それは唯一絶対の免罪符のように私の頭の中に広がっていく。
(全部、この人が悪い)
そしてその途端に、理性が壊れた。体が求めるままに彼の陰茎を喉の奥まで受け入れる。彼の腿が震え、一瞬私の髪を掴んだが、すぐに彼は優しく私の頭を撫でてくれる。だから、思う存分、彼を『可愛がれる』。
「つっ……ふ、ジェニーズ、……」
見上げると、彼は頬を赤くし、苦しそうに眉間に皺をよせ、けれど、「いい子だ」と私を褒めてくれた。それが嬉しくて、右手を自分の股間に伸ばしてしまう。こんなはしたないこと、でも、悪いのは彼だ。だから、自分で自分を慰めながら、彼への愛撫を続ける。
「は、……くっ……」
「ぐ、う……ぷあ、……けほっ」
さすがに苦しくなって、口から抜くと勃起しきった彼の性器が目の前にそびえたつ。赤黒く、熱く、固く、本当に同じ生き物から生えているものか疑ってしまう。
「おっきい……」
暑くて、汗でぬれたワンピースを脱ぎ捨てる。ブラを外すと、胸の間に首輪の鎖がおちる。冷たい鎖は、しかし私の熱が伝わり、あっという間になまぬるくなっていく。
「綺麗ですよ、ジェニーズ。……どうぞ、したいように」
彼に促され、鎖ごと、彼の恐ろしい陰茎を胸の間にはさみ、優しく圧迫する。胸の先からのぞく、陰茎の先を舐めると苦くてしょっぱい味がした。美味しくないのに、何故かもっとほしくなる。
「つっ……ジェニーズ、あなたは、……」
胸でしごきながら先端の溝を舐めていると、彼が私の髪を少し引いて顎を上げさせた。何だろうと目線を上げると、彼と視線が合う。
「本当にいやらしいことを、よく、『知っている』」
教祖らしい優しい微笑みの消えた、雄の顔だ。ぞくぞくぞくと全身に寒気が走る。
「あ、わ、たし……」
「大丈夫だよ。私はあなたを受け入れている。……続けて……」
「……は、い……」
彼の声に導かれ、愛撫を再開する。胸で押しつぶすようにしごくと、彼が気持ちよさそうに小さく喘ぐ。その声がもっと聞きたくて、もっと大胆に動くと、彼が私の肩に手を置いて私の動きに合わせるように腰を動かし始めた。胸を使われ、唇に陰茎の先を押し付けられる。自分が気持ちよくなりたい動きだ。
(可愛い……)
舌を出して受け止めると、彼が熱い息を吐いた。
「美しいな、ジェニーズ、……ああ、気持ちいい……、……ジェニーズ」
彼の額から汗が落ちる。
「どうしたい? このまま出してほしい? それとも、……」
くちゅ、と愛液がこぼれるのが自分で分かった。彼は、もう一度息を吐くと、優しく微笑んだ。
「わかった。おいで、ジェニーズ。……乗りなさい」
こんなの絶対だめだ、そう思うのに、結局、私は彼の腿に乗っていた。
◇
――りん、りん、と鈴がうるさく鳴っている。
「気持ちいいね、ジェニーズ。ああ、……素直に自分の気持ちよさを求めるあなたは本当に可愛らしい……」
「ふ、う、あ、っああっんっ……んん!」
対面座位で彼を受け入れると、『素直に動きなさい』と主導権を無理やり押し付けられた。だから頑張って動いているのに、彼は私の胸を持ち上げて揉んだり、乳首を食んだりしながら、たまに思い出したように下から突き上げてくる。その不意打ちの気持ちよさに、涙がこぼれ、何も分からなくなる。
「あなたの望みを教えて、ジェニーズ」
「あ、あ、あっあぁ!」
「ほら、言って。素直に、心のままに、望みなさい」
「わ、わたし、……」
頭の奥が真っ白になる。
「ちゅう、したいぃっ」
は、と彼が笑う。ひどく雄らしい笑いだ。
「そういうことじゃないんだが、……可愛いことを言う」
「あっ!?」
いきなり身体を持ち上げられ、入れたまま、ソファーに押し倒された。その衝撃に震えている間に、頭を掴まれ舌をねじ込まれてしまう。じゅる、じゅる、と生き血を吸血鬼にすすられるみたいだ。大きな彼の身体の押しつぶされ、何一つ抵抗できず、捕食されるように、口内を乱暴に凌辱される。
「んんっんんーー!」
足がぴんと伸び、気が付いたら達してしまっていた。彼が、ぬと、と舌を抜き、にやりと笑う。
「あなたは本当に、ふふ……私を穢すのが好きですね、ジェニーズ」
私の潮を浴びて濡れた彼の服を指して、彼が笑う。
「そ、んなこと……」
「いいえ、あなたは『最初から』こうしたかったのでしょう? 私の白い衣を脱がせたいと考えていた……」
ねっとりとした声を耳に注ぎ込まれる。
「ち、ちがう、そんなこと、ない……あなたが、無理やり、私を……」
「私はあなたが欲しいことしかしていません」
「だって、薬っ……!」
「わかっているでしょう、あれは単なる砂糖水ですよ」
「そ、んな……」
彼が私に見せつけるように、ゆっくりと服を脱いだ。晒された肉体美に、生唾がこみあげる。
「私はあなたを受け入れ、あなたの望むことをしているだけです」
彼はいやらしい笑みを浮かべ、私の膝裏を掴んで、脚を肩にかけてしまう。両脚を抱えられ、腰が浮いた時、もう、どうやっても彼のすることから逃げられないのが本能で分かった。怖くて、嫌だと思って、彼を見上げるのに、彼はそんな私を見下ろして、微笑む。ちがうでしょう、とその目は笑う。
「……あなたが無理やり犯されたいと望むから、こうしているんじゃないですか」
さあ、と頭の血が下がる。
(そうだ)
そう、答える自分の声が聞こえた。自分の中にあったその恥ずかしい願望が、明確に、彼の口から出たことに、下がった血が、沸騰しながら上がってくる。彼はそんな私の顔を、優しく微笑んでみている。
「ち、ちがう、わ、わたしっ……あっ!? やっぁあああ!」
それでも、なんとか彼の言葉を否定しようとした瞬間、彼が動き出し、その陰茎が一気に奥まで入り込んでしまった。
「ジェニーズ、……恐れないで。私はあなたのすべてを受け入れる」
「ひ、あ、っだ、ああっーー!」
ごちゅ、ごちゅん、と奥を責められ、あっという間に絶頂まで追い詰められてしまう。達した直後の敏感になっている私に、彼は容赦なく、覆いかぶさる。彼の肩から落ちた脚が、無意識の内に彼の身体を抱えてしまった。
「あっあっあぁあ! お、奥、がぁっ、ぃあっ!」
「舌を出して」
「あ、ふぁ、ん、……んんー!」
彼は捕食するように私にキスをしながら、えぐるように腰を動かす。彼の背中に爪を立てて抵抗しても、『無理やり』、もっと気持ちよくさせられる。
(これ、私の望みなんだ)
明確に、そう分かった。咄嗟に彼を突き飛ばすと、彼はキスをやめてくれたが、その光り輝く紫の瞳で私の目をのぞき込む。
(見られている)
顔を隠そうとしたら、両手を恋人繋ぎで抑え込まれてしまった。
「や、や、っあっやめてっ! み、みないでっ……! あばかないでぇ!」
「ジェニーズ、可愛い人、あなたの望みを言って。全て叶えてみせるから」
彼が額を合わせながら、容赦なく奥をつく。わけがわからなくなる気持ちよさに気が狂いそうだ。
(いや、もう狂っている)
奥を責められ、ずっとイっているのに、彼はまだ達してくれないし、ずっと私を高みにとどめてしまう。
「言って、ジェニーズ。戦争がなく、飢えがなく、皆が皆、生きたいように生きられる世界が欲しいんでしょう?」
「ち、ちが、あっ、かえりたい、のっ」
「帰りたい? ……あなたがいた『世界』?」
ばちばちばちと頭の中で火花が散り、思考が飛ばされる。それでも彼はまだ私の額に額を押し付け、「元の世界に帰りたいの?」と蠱惑的な声で、私の脳髄の奥に問いかける。
「そ、そう。イっ! や、とまって、とまって、しんじゃう、しんじゃうぅ!」
「ジェニーズ、その世界に帰って、どうするの? ……そこに一人で帰っても、ねえ?」
「ど、どう、って……あっあっ、あっ……あああっ!」
彼が何か聞いてきているが、イッた直後にまた絶頂まで追い詰められ、私の思考能力はほとんどない。死を感じた身体が彼を突き飛ばそうとするが、彼の大きな体で押さえつけられて抵抗にもならない。絶頂につぐ絶頂、ばちばちと視界に星が散り、吐き気すらしてくる。気持ち良すぎて、死を覚える。
「どうしたいの、ジェニーズ、言いなさい」
「あ、あ、あっわ、かんない、わかんないっむずかしいこといわないでぇっ、ひぃっ……!」
「ククッ可愛いな……私が、欲しいと、……言いなさい」
それは駄目だと――頭の中で警報音が鳴る。
「このドレイブン・ロック・ルーンが欲しいと言いなさい」
ごちゅん、と奥の奥に彼の陰茎がはまってしまった。ごふ、と喉の奥から内臓が出てきそうな衝撃。
「『元の世界』に、……この『私が欲しい』、と……」
彼の紫の目、その美しい光に、何もかもが分からなくなる。
「言えるね、ジェニーズ?」
気が付いたら、私は『彼の望み通り』、『彼を受けいれて』、『彼の望み』を口にしていた。
「は、……よくできました、いい子だ。ご褒美に中に出してあげよう、ねっ!」
「ひ、あ、ああっああああ!」
ごちゅん、と奥の奥で彼が吐精した。その事実に頭の奥がしびれて、意識が遠のいていく。彼は眠りに落ちようとする私に慰めるように何度もキスをしながら、ごちゅ……ごちゅ……とゆるく腰を動かし、奥までしっかりと彼を馴染ませられていく。
「あっ、……あっ……ん、……」
「……気持ちいい?」
「ん、……ん……」
「ふふ、いい子だね、ジェニーズ。……本当にいい子だ。ありがとう」
彼の満足そうな声を聴きながら、私は目を閉じた。
◇
目を覚ますと、私はジェニーズではなかった。
というよりも、目を覚ますと私は『元の私』に戻っていた。自分の家で目を覚ました時の衝撃はすごかった。しかもカーテンを開けたら、懐かしい我が東京の景色! ドンパチも起きていないし、立ち並ぶビルディングたち! そしてスマホ! 正直スマホが一番うれしくて、手に持った時、感動してちょっと泣いた。
(夢落ちってこと……?)
ジェニーズの名前は憶えていたけれど、私はこの世界の名前も思い出していた。日付を確認しても、それは記憶通りの日付、ただの日曜日の朝だった。
つまり、私は一晩で二か月教育され続ける悪夢を見ていた、ということだろう。
「想像力逞しすぎるだろ……そんなにマゾ願望があったのかな……、……ないとは言い切れない……」
熱くなった頬を押さえ、スマホでブクマに入れていた『白の約束と黒の誓い』のページを、ブクマから削除する。
(もし次に夢を見るなら、もっとわかりやすくて、もっとラブコメな世界がいいな、……)
ため息をつきながら、寝室を出て、リビングに向かった。
「おはよう、ジェニーズ」
そこに美しい男がいた。美しすぎる、現実味のない男が、そこにいた。
彼は私を見てうっそりと微笑み、そして『ジェニーズ』と呼んだ。がくん、と腰が抜け、私はその場に崩れ落ちてしまう。彼はゆっくりと立ち上がり、一歩、一歩、私に近づいてくる。
「ようやく、……あなたの願いと私の願いが叶いましたね」
「なに、なんで、……なんでここに、いるの! は!? なんで!?」
「あなたが望んだからですよ」
彼が私の目の前に居る。たしかに、存在している。
「私は『他者から信頼され、願われたことを現実にする』ことができるんです。ただ、あの世界では、戦争がないことを誰も知らないから、誰も望まなかった。だが……、ふふ、ようやく、私の願いを願ってくれる人が現れた。……ジェニーズ」
ドレイブン・ロック・ルーンが地面に崩れ落ちる私の頬を掴み、あでやかに微笑む。
「御礼に、この世界では、あなたの望みだけを叶えてさしあげましょう」
「な、な、……ど、どういう……」
「難しく考えることはありません。あの場所での『教育』と変わりませんよ。あなたは願えばいい。……そしてあなたの願いは、正しく私が導いてさしあげます」
りん、と近くで、鈴の音がする。
は、と気が付くと、もう私の首には鈴のついたチョーカーがつけられていた。
「ジェニーズ、……嬉しいでしょう?」
何も分からない。あの小説の世界観は私には難しすぎる。だから、何にもわからない。でも、それでも、馬鹿な私にもわかる、確かなことがあった。
(もう、私は、この人から逃げられない……。そう、『逃げられないんだ』……)
怖くて涙が出るのに、同時になぜか笑ってしまう。美しすぎるラスボスはそんな私の目を覗き込んで、「そう、素直でいい子ですね」と甘く笑った。
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