上 下
16 / 25

少女は包丁とカメラに刺され、

しおりを挟む
 呼吸が止まった。

(……何言ってんの?)
 七虹の理解が追いつかなかった。

 六人部が、椿のふわふわの髪を乱暴につかみ、仰向けにする。
 髪で目の辺りは隠れていたが、微かに開いた口が見えた。
 そして胸が上下していなかった。

「窓枠の角っこに頭ぶつけて、当たりどころが悪かったみたいですね」
「うっそ。そんな漫画みたいなことあるんだねー」

 六人部が椿の頭を、汚物でも放るように投げた。頭が壁にぶつかったが、彼女の身体はぴくりとも動かない。せいの反応が一切無い。

「どーすんだよ、四条ー。十七歳の女の子殺しちゃってよー」
「う、う、うるさい! ぶつかったくらいで死ぬ方が悪いんだ!」

 四条がカメラを抱えながら叫ぶ。データや、壊れた部分がないかを必死に確かめながら。
 七虹の腕をつかむ伍川は、ひぃひぃと苦しげに喘いでいた。

「どうすっかなー……この子、確か高校に行ってないって言ってたよね?」
「っスね。面接ん時に、身寄りもないって言ってたな」
「……じゃあ、この子にも出演してもらうかぁ。場所移動するぞ。伍川、七虹ちゃん連れてきて」

 仁藤が椿の足を束ねて持ち、ずるずる引きずる。廊下も階段もそのままで、雑な扱いを受けた椿の身体は――死体は、されるがままに跳ね上がった。
 伍川が七虹の腕を引っ張り、その後に続く。
 七虹は人形のように、否、木偶の坊そのものだった。
 リビングダイニングに着くと、仁藤と六人部が椿をダイニングテーブルの上に載せた。
 そして、右手にカメラ、左手に『何か』を構えた四条が、椿の真横に立った。

 鈍く光る銀色が目に映った。――包丁だった。

 空気を切り裂く音がして、四条が椿の薄い腹にそれを突き立てる。
 分厚いステーキにフォークを突き刺すのに似た音がした。
 一瞬で染まる彼女の白いTシャツ。
 昨日と同じ服だと、どうでもいいことに気づいた。

 その光景に、七虹の鈍い頭が反応した。

「何やってるんですか!!」

 止めようと手を伸ばすが、伍川に後ろが羽交い締めにされた。
 四条は包丁を抜いて刺す手を休めない。やめて、と七虹が叫ぶ。
 血しぶきが飛び散る。まっかな花吹雪のようだった。生臭いにおいが鼻をついた。

「も、もういいですか? 五回も刺したし、充分……」
 四条が包丁を持つ手を震わせて、仁藤に伺った。
「まぁいいんじゃない。あークソッ。この子、セーラー服でも着せときゃよかったな。中卒でも十七歳には変わらないんだし、その方がウケてたよ、たぶん」
「こんな映像がウケるなんて、ホント世の中狂ってますよねー」

 あはは、と仁藤と六人部が笑い合った。

 七虹は、言葉も色も失った。

 何なんだ、さっきから、この展開は。
 まるでホラー映画の世界だ。

 いつだったか、友達と一緒に見た、死ぬほどつまらないB級映画。
 登場人物がバンバン殺されて、血が飛び散り内臓が飛び出し、甲高い悲鳴が耳をつんざき、主人公の女の子がおどろおどろしい姿の殺人鬼に追い回される。
 結局は捕まって、拷問されて殺されるだけの、物語性なんてカケラもない、ひたすら不愉快な頭の悪い下卑た映画を思い出した。

 それと似た光景が、今、目の前で広がっている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

トゴウ様

真霜ナオ
ホラー
MyTube(マイチューブ)配信者として伸び悩んでいたユージは、配信仲間と共に都市伝説を試すこととなる。 「トゴウ様」と呼ばれるそれは、とある条件をクリアすれば、どんな願いも叶えてくれるというのだ。 「動画をバズらせたい」という願いを叶えるため、配信仲間と共に廃校を訪れた。 霊的なものは信じないユージだが、そこで仲間の一人が不審死を遂げてしまう。 トゴウ様の呪いを恐れて儀式を中断しようとするも、ルールを破れば全員が呪い殺されてしまうと知る。 誰も予想していなかった、逃れられない恐怖の始まりだった。 「第5回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました! 他サイト様にも投稿しています。

コ・ワ・レ・ル

本多 真弥子
ホラー
平穏な日常。 ある日の放課後、『時友晃』は幼馴染の『琴村香織』と談笑していた。 その時、屋上から人が落ちて来て…。 それは平和な日常が壊れる序章だった。 全7話 表紙イラスト irise様 PIXIV:https://www.pixiv.net/users/22685757  Twitter:https://twitter.com/irise310 挿絵イラスト チガサキ ユウ様 X(Twitter) https://twitter.com/cgsk_3 pixiv: https://www.pixiv.net/users/17981561

ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する

黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。 だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。 どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど?? ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に── 家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。 何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。 しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。 友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。 ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。 表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、 ©2020黄札

Catastrophe

アタラクシア
ホラー
ある日世界は終わった――。 「俺が桃を助けるんだ。桃が幸せな世界を作るんだ。その世界にゾンビはいない。その世界には化け物はいない。――その世界にお前はいない」 アーチェリー部に所属しているただの高校生の「如月 楓夜」は自分の彼女である「蒼木 桃」を見つけるために終末世界を奔走する。 陸上自衛隊の父を持つ「山ノ井 花音」は 親友の「坂見 彩」と共に謎の少女を追って終末世界を探索する。 ミリタリーマニアの「三谷 直久」は同じくミリタリーマニアの「齋藤 和真」と共にバイオハザードが起こるのを近くで目の当たりにすることになる。 家族関係が上手くいっていない「浅井 理沙」は攫われた弟を助けるために終末世界を生き抜くことになる。 4つの物語がクロスオーバーする時、全ての真実は語られる――。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

僕とジュバック

もちもち
ホラー
大きな通りから外れた小道に、少し寂れた喫茶店が、ぽつんとある。 それが、僕がバイトしている喫茶店の『ジュバック』。 これは、僕がジュバックで体験したほんの少しおかしな物語。 ※monogatary にて投稿した作品を編集したものになります。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

処理中です...