58 / 66
58.【十秒怪談】糸くず
しおりを挟む
今日はタカシとの最後のデート。
今日が終われば、彼は別の女の所へ行ってしまう。
思い出深い場所を回るつもりだったけど、タカシはスマホをチラ見しながら生返事ばかり。
結局、カフェやブティックが並ぶ街を会話もなくウロウロしていた。
「タカシ、肩に糸くず出てるわよ」
そう言うや否や、ワタシは小さなハサミを取り出す。
ああ、我ながらなんて気の利く女だろう。
なのにこの男は、若い女の方がいいってさ。
世話を焼いてもタカシは礼すら言わない。
新しい女との旅行計画に夢中だ。
なんて虚しいんだろう。周囲のカップルや家族づれはあんなに幸せそうなのに。
どうしてワタシだけ……
普通に真面目に一生懸命生きてきたのに、どうしてこんな目に遭わなきゃいけないの。
苛立ちまぎれに、糸くずを切った。
ブ ツ ッ
糸くずのくせに妙に固くて手ごたえがあるなと思った次の瞬間、
グ シ ャ ッ
目と耳を疑うような光景と轟音がワタシを襲った。
タカシが、ワタシの足元で脳漿を撒き散らして倒れている。
頭上からビルの看板が落下したのだ。
『急な事故に安心の生命保険』と書かれた看板は割れた。タカシの頭よりは原型をとどめているけれど。
悲鳴を上げる前に、指先の糸くずがボッと燃え上がった。ガスコンロめいた青い炎はちっとも熱くない。
むしろ冷たかった。
直感した。
あの糸くずを切ったから、タカシは死んだのだ。
それ以来、ワタシは誰かの肩に糸くずを見つけるたび、積極的に切るようにしている。
今日が終われば、彼は別の女の所へ行ってしまう。
思い出深い場所を回るつもりだったけど、タカシはスマホをチラ見しながら生返事ばかり。
結局、カフェやブティックが並ぶ街を会話もなくウロウロしていた。
「タカシ、肩に糸くず出てるわよ」
そう言うや否や、ワタシは小さなハサミを取り出す。
ああ、我ながらなんて気の利く女だろう。
なのにこの男は、若い女の方がいいってさ。
世話を焼いてもタカシは礼すら言わない。
新しい女との旅行計画に夢中だ。
なんて虚しいんだろう。周囲のカップルや家族づれはあんなに幸せそうなのに。
どうしてワタシだけ……
普通に真面目に一生懸命生きてきたのに、どうしてこんな目に遭わなきゃいけないの。
苛立ちまぎれに、糸くずを切った。
ブ ツ ッ
糸くずのくせに妙に固くて手ごたえがあるなと思った次の瞬間、
グ シ ャ ッ
目と耳を疑うような光景と轟音がワタシを襲った。
タカシが、ワタシの足元で脳漿を撒き散らして倒れている。
頭上からビルの看板が落下したのだ。
『急な事故に安心の生命保険』と書かれた看板は割れた。タカシの頭よりは原型をとどめているけれど。
悲鳴を上げる前に、指先の糸くずがボッと燃え上がった。ガスコンロめいた青い炎はちっとも熱くない。
むしろ冷たかった。
直感した。
あの糸くずを切ったから、タカシは死んだのだ。
それ以来、ワタシは誰かの肩に糸くずを見つけるたび、積極的に切るようにしている。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる