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15. ‪イケメンの友人が「ろくろ首になりたい」と言ってきた‬。

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 草木も起き出す朝の四時。 
 ソファで仮眠していたら、無粋なスマホの着信音に起こされた。

マサキ:
「コタロー、起きてる?」

コタロー:
「おまえのLINEで起きたわボケ」
「まあ、作業の合間の仮眠だから別にいいけど」 

マサキ:
「ああ、課題で出す短編映画作ってんだっけ」
「スゲーよな、専門学生って。ヌルい大学生やってる俺には真似できないわ」
「ジャンルはやっぱりホラー?」

コタロー:
「おうよ。それ以外の映画をおれが撮るわけないだろ」
「んで、何の用だよ」

マサキ:
「……ちょっと、さ」
「妙なもん見ちまって」

コタロー:
「妙なもの?」

マサキ:
「真っ当なやつに話したら、頭おかしくなったのかって疑われるやつ」
「でも、おまえなら信じてくれると思って」

コタロー:
「……はあ」
(えぇ……おれ何だと思われてんの……?)

マサキ:
「さっきまで、ツレと宅飲みしてたんだ」
「ユキオってやつと。サシで」
「前に話しただろ。学祭のイケメンコンテストで優勝した……」

コタロー:
「ああ、いっぺん写真見せてもらったあの塩顔イケメンか」
「そいつがどうしたんだ?」

マサキ:
「飲んでたら突然、『ろくろ首になりたい』って言ってきた」

コタロー:
「…………(たっぷり五秒)…………」
「……はあ?」

マサキ:
「意味分かんないよな。そーだよな」
「どこから話せばいいやら」
「あ、ユキオはさっき帰ったんだけど」

コタロー:
「まず、ユキオくんのことから説明してくれ」
「イケメン以外の情報がない」

マサキ:
「だよな」
「えーと、イケメンだけどいい奴」
「でも彼女はいない」
「前に、ゼミ一の美人の先輩とか、読モとかやってる女子に告白られたけどソッコー断った系の、プチムカつくやつ」

コタロー:
「いいやつだけどムカつくんかい。分かるけど」

マサキ:
「分かるんかい」
「ハイボールの缶五本開けて、でろでろになったユキオが言ったワケよ」
「『オレ、ろくろ首になりたい』って」

   ――意味が分からない。
  おれの率直な感想はそれだった。 

コタロー: 
「とりあえずどっちの?」
「ろくろ首、『首が伸びるやつ』と『首が抜けて頭部が自由に飛行するやつ』に大別されるけど」
「まあ後者は『飛頭蛮(ひとうばん)』って呼ばれるみたいだけど」 

マサキ:
「気にする所がシャープ過ぎんだろ……」
「たぶん……いや絶対、首が伸びる方だな」

 絶対?

コタロー:
「何で?」
「イケメンだから、遠くにいる人間にも自分の良すぎる顔を見せつけられるように?」
「なーんて、冗談……」

マサキ:
「キスしたいんだって」

コタロー:
「…………(たっぷり十秒)…………」
「……はあん???」

マサキ:
「キスしたいから、ユキオはろくろ首になりたいんだって」

コタロー:
「それは……誰と?」
「キリンと? あの首の長ーい……」

マサキ:
「『肘』と」

コタロー:
「…………(たっぷり十五秒)…………」
「……(?_?)」

   イカン、ワケ分からんすぎて言葉が顔文字になってしまった。 

マサキ: 
「この写真見てくれ」
「ユキオの、肘の写真だ」

   男の腕の写真が送られてきた。
  飲酒で真っ赤に染まったユキオくんの顔も映っている。久々に見たけどやっぱりイケメンだ。

  つるりとした色白の、程よく筋肉のついた腕。
  この腕に抱きしめられることを彼の周囲の女子は夢見るのだろう、と想像できるイケメン腕だった。

   いやイケメン腕って何だよ。
   寝不足と異次元の話すぎて脳みそバグってんな。

   写真の、肘部分を拡大してみる。

コタロー:
「……これって」

 ユキオくんの肘には、目と鼻と口――つまり、『顔』があった。

  『顔』にしか見えない腫瘍があった。
  すぐに『それ』の名前が思い当たる。

コタロー:
 「人面瘡……」 

マサキ:
「そうだよな? 俺も昔、漫画で読んだことある」 
「人間の身体に寄生する妖怪……」 

コタロー: 
「奇病とも言われてるな」

 じっくり見る。
 人面瘡は瞳を閉じていた。
 ひどく穏やかな表情だ。
 眠っている……いや、美しい夢を見ているような、幸せそうな、甘やかな微笑を浮かべている。 

マサキ:
 「好きなんだって」
 「こんな理想的な顔面に会えたたのは、初めてなんだって」 
「ユキオ、マジ泣きしながら言ってた」
「愛してるんだって」
「この人面瘡……いや、『顔』のことを」 

コタロー:
 「……じゃ、この人面瘡とキスしたいから……ろくろ首になりたいって?」 

マサキ: 
「コタロー、いっぺんやってみ」
「自分の肘に口をつけるの、意外とできないから」 

  やってみた。
  首が攣った。  

コタロー:
「痛ぇ……」 

マサキ:
「なあコタロー」
「ツレとして、俺はユキオになんて言ったらいいと思う?」

コタロー:
「……言えること、何もないと思う……」

 これはもう、おれの守備範囲外だ。
 いや、これが単なる異種間恋愛ならもっと話を聞きたかったけど。おれも『雪女』の話は好きだし。

 でも、これは……  

コタロー:
「マサキ、気づかない?」

マサキ:
「何を?」

 ユキオくんは彼女を作らない。
 どんな美女に言い寄られても、すげなく断る。 

 その理由は、きっと。

コタロー:
「この人面瘡、ユキオくんと同じ顔だよ」
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