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3. わかっていなかった

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 わたし、わかっていなかった。  

『夕方の四時四十四分、旧校舎の階段の踊り場にある大きな鏡を覗き込むと、鏡の世界に連れて行かれる』。 

 この怪談が本当だったなんて、わかっていなかった。



  “チキチキチキ……”



 どうせ単なる噂だろうと親友のユカと試してみたら、わたしだけ鏡に吸い込まれた。

 今いるここは、階段の手すりが右ではなく左にある。壁のポスターの文字もひどく読みにくくなっている。

 鏡の向こうにある反転された世界に、わたしは連れて行かれたのだ。

 右も左も文字も逆さまの異世界に。

 けれどわたし、わかっていなかった。



 “チキチキチキ……”



 すべてが鏡映しなら、わたし自身も例外ではないということを。 

 わたしはとてもおとなしい性格だ。人とケンカしたり、暴力を振るったりしたことなんか一度も無い。

  わたしと入れ違いになった鏡の世界の『わたし』は、正反対だった。
  さっき、ユカが『わたし』に殴られた。壁に叩きつけられ額を割って血を流し、虚ろな目で鏡越しにこっちを見ている。

  だけどわたし、本当にわかっていなかった。


 正反対の性格になっているのは、わたしだけじゃないって。


  後ろにずっと誰かいる。



  “チキチキチキ……” 



 これは何の音?



  “チキチキチキ……チキ” 



 わたしは振り返る。




 そこには、カッターの刃を出して笑っているユカがいた。
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